・第二百七話 『炎嵐(ファイアストーム)』
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異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、この世界の逸話って奴は、やっぱり冗談じゃあ無いんだな。
兄貴も実際目にするまでは、「大げさじゃね?」なんて思ってたんだが・・・。
ウソ偽りが無かったことに逆にげんなり。
と言うかむしろ・・・ドン引きである。
まじで視界が赤一色なんだが・・・これ、年齢認証大丈夫ですか?
え?R-15?いやいや・・・R-18じゃないですかね。
この世界は、決してカードゲームなんかじゃあない。
なればこそ、とても自分の意志で行っているとは思えなかった。
お前とお前が元凶か?
ちょっとそこに整列しやがれっ!
■
何事も無かったように復活した(アフロ含む)フォルテを含めて夕食後、交代で休みを取り翌朝。
全員で一人の小柄な天使を見送る。
「気を付けてね、キアラ。」
すっかりとお姉さん然、柔らかい笑顔で微笑むシルキー。
中空に浮かぶキアラは、「はいっ!」と元気に返事を返し、自身が肩掛けにする小さなポシェットをぽすんと叩く。
「なんか・・・心配だなぁ。」
その姿を見てアフィナが呟けば、ロカさんに「娘!お主がそれを言うなである!」と即座に突っ込まれている。
ポーラの視線もすこぶる冷たい・・・あれが絶対零度ってやつか。
いいぞ、もっとやれ!
キアラのポシェット、その中にはおれが書いた手紙が入っている。
もちろん、ウララと竜兵に宛てたものだ。
本当は直接話せるはずだったんだが・・・まぁ誤算だったよ。
せっかく竜兵が寄越してくれた強化型「ドラゴンホットライン」、まさか核となるドラゴンカードが闇属性のままだったとは・・・。
バイアも色々思い出したなら・・・噂の古代兵器とやらが、火と光属性以外のアイテムを正常作動させないもの。って把握しといて欲しかった。
現場に居ない者に言っても仕方ないし、むしろ幼馴染たちと別行動になった初日に、トラブルインしたおれには言う資格も無さそうだ。
断固としておれのせいじゃないけども!(キリッ
ともあれこうなってしまった以上、あとは一刻も早くキアラに手紙を運んでもらうしかない。
不幸中の幸いは、ウララの下に戻る前にポーラの里に寄ってもらえること。
どうもキアラ、おれたちに合流する前に里の所在を確認していたらしい。
感じたことのない強大な魔力・・・(おそらくは撫子姉さん)にビビッてすぐ逃げたそうだが。
手紙にも一応書いてはいるが、本人からもウララや竜兵に何かしらアクションするだろう。
キアラ伝てで、撫子姉さんのアレコレを気にかけてもらえたら、おれの心労も多少は軽減されるというものだ。
「ちょ!ロカさん、僕は関係ないじゃないですか!?」
「ぬぅ!反省が足りないようである!」
どこで巻き込まれたのか、おれが目を離している隙に、どうやらフォルテにも飛び火しているらしい。
十中八九フォルテが悪いから、特に止める必要も感じられ無い。
響き渡るアフィナの悲鳴。
「セイー!ロカさんがフォルテ様を噛んだー!」
ロカさんがフォルテを噛んだって?
いいぞ、もっとやれ!
未だ騒ぎ続ける賑やかなギャラリーを放置、おれはキアラと目線を合わせて頷き合う。
「じゃあ頼んだぞ。」
「セイ様、任せてください!必ずお届けしますよ!」
気合は十分、「むんっ!」とばかりに胸の前、握った拳でアピールアピール。
彼女は最後にピシッと敬礼を決め、一気に空高く上昇。
おれたちに向かって手を振ると、ポーラの里へ向けて飛行姿勢を整える。
そしてその後は一切振り返ることもなく、あっという間に北の空、見る間小さくなっていく。
世界最速の異名は伊達じゃない。
あのペースなら・・・数時間でポーラの里に着くんじゃないか?
「行っちゃったね・・・。」
見送ったままの姿勢で呟くアフィナに、「おれたちも行くぞ。」と声をかけ、リライの下へ移動。
おれたちは、ミステリーサークルさながらの『遷都』跡地を尻目に出発する。
リライも走りやすそうで何よりだ。
まぁ・・・効果範囲の外は雪山に戻るけどな。
柔らかで暖かな長毛に包まれシルキー、何事か問いたそうな視線。
「なんだ?」
彼女は一瞬逡巡を見せるも、疑問を解決することに決めたらしい。
「セイさん、間に合うと思う?」
「うーん・・・どうだろうな。」
それは再会の約束と、おれたちの置かれた状況、双方を指しての問いだろう。
明確な答えはおれにも無かった。
キアラ本人は、また戻ってくるようなことを言ってたが・・・ルートの予測こそ容易になっても、この先は正直どうなんだろうな。
おれたちは間違いなく厄介そうな場所へ向かっているし、ノモウルザが暴れだすタイムリミットも正確にわかっている訳じゃない。
ただ何となく・・・いつものことながら、余裕は余り無さそうだ。
もし彼女との合流叶うなら・・・願わくば闇属性でない「ドラゴンホットライン」を・・・切に思う。
■
「むぅ・・・!」
リライの頭の上に陣取っていたロカさんが、ピクピクと犬耳をそばだてた。
いつもの口調、「むぅ」の中に感じたのは隠し切れない不愉快さのような物だろうか。
たっし、たっし、リライの頭をロカさんが優しく叩く。
「リライ、ここからは慎重に進むのである!」
ロカさんの言葉にリライ、こくりと頷いて「ヴォフ!」。
どうやら彼にも状況が理解できているらしい。
「何かあったのか?」
ロカさんやリライのように、鋭敏な感覚を持っていないおれにはわからない。
問いに答えたのはポーラだった。
「セイ、いよいよだべ。『紅雪の谷』はすぐそこ・・・それにしても・・・こんな・・・じっさまの言ってた通りなんだべな・・・。」
だが要領を得ない、わかるのはひどく衝撃を受けていること。
雪山も、はや天辺。
相も変わらず慎重に歩を進めるリライや、ロカさんポーラの警戒の訳がおれにも理解できた。
剣戟の音、錆びた鉄の匂い・・・それは戦場が近いことを理解させるもの。
滞りなく雪山の尾根を越えた先、そこは・・・。
ポーラがポーレ長老に聞いたと言う逸話、「永劫に戦い続ける氷人族と雪人族の返り血によって、舞い落ちる新雪が紅く色づく谷」その言葉通り。
確かに赤色の世界が広がっていた。
「これが・・・『紅雪の谷』・・・。」
自分の声が硬いのがわかる。
仲間たちの表情も決して平常の物では無い。
雪山を切り裂くような断崖絶壁の間、深い谷間に蠢くのは無数の人影。
総じて青っぽい装備に身を包み、氷刃や氷柱を振るう氷人族と思わしき集団。
逆に白っぽい装備に身を包み、雪玉や吹雪を繰っているのが雪人族なのだろう。
二つの陣営に分かれた人々が、傷つき舞い上がる血飛沫を顧みることも無く、延々と殺し合いを続けている。
明らかにどちらが強いと言う訳でも無い。
鋭い氷刃が雪人族の身体を難なく切り飛ばし、巨大な雪玉が氷人族を数人纏めて押しつぶす。
赤い地面から生えた氷柱の絨毯が雪人族を串刺しに、真っ赤な吹雪に覆われた氷人族が粉々に粉砕される。
「なんだ・・・これ・・・。」
知識として、前情報としては知っていた。
しかしおれは、それを甘く見ていたのかもしれない。
何よりも異質なのは彼らの表情。
それが定められた絶対の運命だとでも言うように、迷いも戸惑いも一切なく淡々と目の前の敵を屠り、そしてまた自分も排除されていく。
どんなに傷つき、同胞が血海に沈もうと彼らの進軍は止まらない。
一進一退、片方が押し込めばもう片方が盛り返す。
まるで最初から決められていたシナリオ、それでも目の前で確かに人は死んでいく。
どこかルーチンワーク染みていて、ただひたすらに気持ちが悪かった。
「セイ・・・彼らは何のために・・・。」
アフィナの呟き、「何の為に戦っているのか?」そう聞きたかっただろう言葉は、最後まで発することはできなかった。
おれもその問いに答えられる気がしない。
無理にでも理由を付けるなら、これこそがノモウルザの呪いとでも言えばいいのか?
それから一つ、目に入ってきた情報が、殊更おれの神経を逆なでた。
各陣営の一番後ろ、輿のような物の上に立つ一際華美、強い魔力感じる存在。
まるで対称のように似通った風貌、青と白・・・色違いの美青年が二人。
彼らはお互いをしっかりと見据えながら、薄笑いを浮かべていた。
ラインのように繋がった、「氷人族と雪人族の王」と言うフレーズ。
おれの想像が正しければ・・・。
(あいつらだけは・・・この戦争を自分の意志で行っている!)
こういう時の予感って、嫌になるほど当たるもんなんだよ。
「魔導書」
気が付けば、すでに動き出していた。
「「セイ(さん)!」」
咄嗟展開した『魔導書』に、アフィナとシルキーが驚愕の声を上げる。
おれの目の前浮かび上がるのは、A4のコピー用紙サイズ、三枚のカード。
まだ三枚しか回復していない。
ジェスキスに禁呪を頼んだ反動が、完全に影響していた。
(それでも!)
身を焦がすのは理不尽に対する怒り、とにかく何かをしなければと思ってしまった。
手札から一枚のカードを選択。
『朧』
カードから生まれた闇色のマントを羽織い、ロカさんを抱え上げてリライから飛び降りる。
すぐさま魔力譲渡、2mの戦闘モードになったロカさんに跨った。
「主!まさか!」
「そのまさかだ、ロカさん。突っ込む!」
思わずロカさんも口をあんぐり、おれだって馬鹿な事だとわかっている。
だが・・・見てしまえばもう止まれない。
「セイ!ボクも!」
「セイさん、だめ!」
追従しようとするアフィナとシルキーに、「お前らは来るな!」と叫んで制止。
ポーラも「セイ、やめるべぇ!」と興奮するが、自分たちの身を守ることを厳命。
リライを徐々に引き離し、駆けるロカさんがもう一度問いかける。
「主!本気であるか!?」
「当たり前だ!とりあえず、あの無意味な行動を止める!」
そう、永劫続く戦争とやら・・・おれには完全に無意味な行動にしか見えなかった。
それも・・・ノモウルザを含め、一部の何者かだけがほくそ笑むような類の。
「ぬぅ!」と言いながらも、断崖から飛び出すロカさん。
空中で体勢を整え、更に一枚カードを選択。
カードに魔力を注ぎながら念じる。
威力は要らない、殺傷能力を極限まで殺し、逆に範囲と見た目はド派手に。
空中でロカさんと別れ、戦場のまさにど真ん中に着地。
ざわり・・・。
突如紛れ込んだ異物に、自然戦場の動きが一瞬止まる。
好都合、直前まで魔力練りこんだカードを、魔法名と共に解き放つ。
『炎嵐』
紅の雪が舞う戦場に、紅の炎が逆巻いた。
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