・第二百六話 『強化型』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、日頃の行いって大事なんだよ。
兄貴は今日、リアルなorzを決めるハメになりました。
普段から残念とかニートに言ってることが、まさかの自分にブーメラン。
いや、これ本当におれのせいなのか?
どうにも釈然としない思い、辺り漂うやるせない空気。
「主、吾輩は・・・そんな主が大好きであるぞ?」
ロカさん、ありがとう。
おれがこの世界に転移した時もそう言ってくれたよな。
気を遣ってくれてるのはすごく嬉しいよ。
ただね・・・その、耳と尻尾がそんなにダラーンってしてたらさ・・・。
何となくあの時の感動まで台無しだよ!
とりあえず・・・幼馴染たちが、おれの事をどう思ってるのか良くわかりました。
シッテタケドネ(白目
■
雪像の崩れた下、雪の中から一枚のカードが飛び出し、空に向かって飛んでいく。
案の定アンティルールが発生しない辺り、ポーラの見極めたとおり雪像は、ノモウルザ所縁の存在だったと思って間違いないだろう。
とりあえずの脅威は去った。
おれとロカさんが力を抜いた所で、仲間たちもほっと一息。
緊張跡切れ座り込む。
そして辺りを覆っていた濃厚な魔力。
禁呪の効果時間が切れた。
おれたちや雪像を囲むように地中から生えていた石柱が、まるでビデオの逆再生。
生えてきたのとは逆順に、一本また一本と地面へ沈み込んでいく。
崩壊が始まれば速い。
『遷都』の効果で無理矢理再現した『ロイヤルコロッセオ』は、真夏の世の夢の如く・・・そこに最初から存在などしていなかったように掻き消える。
跡に残ったのは、円形にすっぽりと更地化された大地のみ。
草木の一本も無く、ただ荒涼とした平野。
ある意味環境破壊もいいところである。
あれ・・・『災害』?
その光景を見回しポーラ、へたりこんだまま呟く。
「おいは・・・もうセイのすることにいちいち驚かねと思ったども・・・幾らなんでもこりゃねぇべ・・・。」
ふぅむ、やはり雪山にいきなりコロシアム引っ張り出すのは異常かしらん?
でもまぁ・・・危なかったですしおすし・・・。
ポーラは胡乱な瞳で、ポリポリ頬を掻くおれをじっと見詰めたままだ。
なんだかいたたまれなくなって視線を逸らす。
「ロカさん・・・。」
『ロイヤルコロッセオ』の特技、能力無効化フィールドはもう消えている。
そのまま視線の先に居たロカさんへ、おれの意図を正確にくみ取り彼は周囲に『索敵』を飛ばした。
「ふむ・・・どうやら吾輩の『索敵』範囲内に、敵勢反応は見当たらないであるな。」
その言葉で気付いたか、ポーラも周囲をぐるり見回し頷いた。
どうやら『魔眼』にも引っかかる者は無かったらしい。
「んじゃ・・・とりあえず飯だな。」
そうと決まればさっさと準備だ。
幸いと言うか、地面は乾いた土が剥き出し状態、寒さもかなり軽減されることだろう。
おれは、『図書館』に緊急退避させた野営セットやら料理を引っ張り出し、次々と『カード化』解除。
またしてもリライが「ヴォフ!」と一鳴き、風除けとして有効な場所に身を横たえる。
シルキーが何事も無かったかのように、おれの手伝いを始める。
「この状況で普通に飯とか・・・おいがおかしいべ?」
ポーラがしきりに首を捻り、その肩をアフィナが通り掛けにポンポン叩く。
「ポーラ、考えるな・・・感じろ!だよ?」
なんだそのドヤ顔?
そしてアフィナ、「ふぃー、今回も大変だったねぇ。」などと言いながら天幕の中へ・・・。
入ろうとした瞬間に「たしっ!」とロカさんに抑え込まれる。
驚愕に見開かれる青い瞳、その大きさも相まって零れ落ちそうなほど。
「ロ・・・ロカさん?」
「娘・・・!お主は正座である!」
「ま!待ってロカさん!?ボ、ボクは!セイーーー!助けてーーー!」
哀れ、残念はロカさんに襟首を咥えられ、ずるずると引き摺られていきましたとさ。
そうだ、お前は少し・・・いや、だいぶ反省しろ!
夕食の支度をしながらハタと思う。
(なんか・・・忘れてるような?)
手の止まったおれに気付き、シルキーが訝しむ。
「セイさん?どうしたの?」
「ん・・・いや。なんか忘れてるような・・・キノセイかな?」
自己完結、そんなおれにシルキー「えぇっ!?」と信じられないものを見たと言う顔。
(え?そんな驚くこと?)
むしろその表情に驚き、彼女の視線の先を見れば・・・おれの金箱である。
「あああ!フォルテ!おい、ニート!生きてんのか!?」
おれは慌てて箱に呼びかけた。
瞬間、視界いっぱいに広がるショッキングピンク。
ゴッツ!痛てぇぇぇぇぇ!
目の前に星が舞うって初めての経験だぞ!?
おれの鼻っ柱を強烈に打ち付けたのはウララの盟友、『見習い天使』キアラの頭頂部だった。
「セ、セ、セ、セイ様!忘れるなんてひどいですよ!私心配で心配で!途中から箱から出られなくなるし!って、ここどこですかぁ!?」
うるせええええええええええ!おれ、今、悶絶!お前のせい!
耳元で騒ぎ立てる天使のヒステリックな叫び。
鼻の奥がツーン、耳の奥がキーン、なんだこのカオス!
とりあえず、うるさいのでアイアンクローしました。
■
かけたのはアイアンクローだけなのに、なぜかかっちりとしたスーツ姿が見事に乱れ、涙目でおれを睨むキアラ。
「セイ様乱暴です!私・・・初めてだったのに!」
いや、何がだ?アイアンクローがか?
訳のわからないことを言い出すキアラ、その頭を少々乱暴にぐりぐり撫でる。
「ん・・・んもぅ!そんなことじゃ誤魔化されないんですからねっ!?」
言いながらも徐々に笑顔に変わっていくキアラ。
やっぱ子供はこれが一番だよな。
「そ、それで・・・どうして途中で出れなくなったんでしょう?」
「ああ・・・それはな。」
おれはジェスキスの禁呪『遷都』で特技、能力無効化施設を引っ張り出したことを説明した。
キアラも納得、「なるほどぅ・・・それで私の『白旗』が発動しなかったんですねぇ・・・。」などと呟いていた。
敵対行動が不可能な代わりに、どの勢力にも移動できる能力・・・そうか、『白旗』って言うんだっけか。
でも待てよ・・・こいつ、『ロイヤルコロッセオ』が消えて、おれたちが夕食の準備するまで出てこなかったような?
今までの経験上、箱内の声や音は召喚している盟友以外聞こえないが、キアラは普通に箱内でも外の様子を知れたはず。
どうでもいいような気はするが、一度気付くと気になってしまう。
それにこいつ・・・そこはかとなくアフィナっぽい、つまり残念の匂いがするんだよな。
「なぁキアラ?お前、能力使えるようになっても、すぐ出てこなかったよな?」
おれがその点に言及した途端、「あ、あははー、たまたま気付かなかったんですよー!」と目線を逸らす。
これ・・・完全に『有罪』である。
おれは無言で彼女の両頬を引っ張った。
「いひゃい!いひゃい!セイひゃま、いひゃいれす!」
なんだこの頬っぺた・・・モチか?伸びすぎだろう・・・。
物理法則を無視するが如く、やたら伸びていくキアラの頬肉。
「キアラ・・・正直に話した方が良いよ?」
シルキーが完全にジト目だった。
程なくしてキアラ、自白・・・フォルテを引っ張り込み、しばらくはおれたちを案じてヤキモキしていたらしいのだが、余りにも気持ちよさそうに眠るフォルテに誘発されて寝ていたらしい。
今回のフォルテは寝てたんじゃないからね?お前が落としたんだからね?
それはともかく、お説教が終わったのかアフィナとロカさんも帰ってきたことだし、シルキーとポーラもおれを見て頷く。
本題に移ろうか。
「で、キアラ・・・ウララと竜兵か?」
おちゃらけた空気は終わり、キアラも真摯な眼差し、「はい!」と大きく頷く。
「心配・・・させちまったよな・・・?」
わかってはいた、彼女がここに居る理由なんて一つしかない。
おれの身を案じたウララが情報の共有のために送り出したのだろう。
「それはもう!とりあえずセイ様・・・これを。」
キアラが渡してきたのは一枚の手紙。
宛名にしっかり「セイへ」、良く見慣れた女の子っぽい丸文字だ。
きちんと蝋封された便箋を開き、三つ折りされていた紙片を開く。
一枚目・・・
「あんたバカなの?死ぬの?」
一枚まるままを使ってでかでかと書かれた一文、おれはそっと手紙を閉じた。
ちょっと一枚目から完全に心折られたんだが・・・。
キアラの涙目とシルキー、ロカさんのとりなしによって読み進める。
案外と・・・ウララたち、こちらの現状を把握しているようだ。
驚くことにアギマイラの・・・と言うか撫子姉さんの仕掛けた大規模転移陣や、ノモウルザと古代兵器の云々まで。
どうやらバイアが認識阻害を打ち破り、色々と思い出したと。
結果、おれの進行ルートを割り出したことで、思いの外あっさりキアラが合流できたらしい。
うん、ルート予測とか普通にすごいと思うんだけど、一情報ごとにおれを罵倒するのはやめないか。
心弱い子なら泣いてるからね?
そしてウララの手紙が終わり、竜兵からは端的に一枚だけ。
おれの「ドラゴンホットライン」が何らかの障害で正常に動いてないことを予想、強化型「ドラゴンホットライン」をキアラに託したと言う。
さすが安定の製作チート。
おれの弟分は、すっかりその世界の第一人者になっているらしい。
もはや何も言うまい。
「キアラ、竜兵から預かった「ドラゴンホットライン」を。」
手紙を読み終わって声をかければキアラ、小さなポシェットから「どうぞ!」と銀の板を差し出してくる。
変わっているのは見た目だけ。
装飾がかなり凝ったものに変わっている。
だが竜兵が強化型と言うからには、事実その通りなのだろう。
おれは銀板を受け取り、竜兵をコールするために表面を操作。
しかし・・・銀板は微動だにしない。
戸惑うキアラの口から、「あ・・・あれ?」と乾いた呟き。
イヤな・・・イヤな予感がする!
おれは逸る鼓動、震える指先を必死で押さえつけ、銀板のカバーを開き、核となるドラゴンのカードを確認した。
中に納まっていたドラゴンカードは・・・新月に向かって咆哮する漆黒竜、ご存じ闇属性の『黄昏竜帝』である!
「「「・・・・・・・・・。」」」
事情を知る一同、完全に時が止まる。
慌てたのはキアラだ。
「わ、わ、わ、私落としたりしてないですよ!?」と、叫びながらポシェットをガサゴソ。
いや・・違うんだキアラ。
お前のせいじゃないことはわかってるんだよ。
何かを見つけたのか、キアラの表情が輝く。
「セ、セ、セ、セイ様!あ、あ、あ、安心してくださいっ!竜兵様はこんなこともあろうかと・・・ほら!もう一つ「ドラゴンホットライン」を!」
彼女に渡された二枚目の銀板、当然さっきと同じ装飾が施されている。
おれは操作を確認することもなく、おもむろその蓋をスライドさせた。
うん、知ってた。
三枚目の『黄昏竜帝』登場orz
どんだけ持ってんだよ竜兵エ・・・。
「なぁ・・・おれ、火魔法も使ってるよな?」
遠い目をしながら呟けば、アフィナとシルキーが揃って言う。
「「うん、でも・・・セイ(さん)と言えば・・・闇かな・・・。」」
そっと寄り添ってきたロカさんは、「主・・・吾輩はそんな主が大好きであるぞ?」と言ってくれたが・・・その耳と尻尾、見事なまでに項垂れていて・・・。
うん、イメージって大事だね!
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