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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
213/266

・第二百三話 『誘引』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


※8/6 誤表記修正しました。

 異世界からこんばんは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈様におかれましては、既に予想の範疇でしょう。

 いいえ、今回は兄貴ではございません。

 そうです、アイツです。

 その石は、あの残念ハーフエルフと、アフロニートへ投げてください。

 拾い物?は、まぁ・・・やむなし・・・なのかなぁ?

 問題はそのあとだよね。

 いやいや、ちょっと考えれば実に簡単な問題なはずだよ。

 それは・・・雪+山×火魔法=???と言う計算式。

 普通の人なら、そこで掛け算しないと思うんだ。

 はっはっは!もう笑うしかなかったよね。

 はぁ・・・。

 最近、残念が比較的大人しい。

 そんなことを思っていた時が、おれにもありました。

 ニート?何と言うか・・・お荷物?

 


 ■



 「アフィナとフォルテさん・・・遅いね?」


 継ぎ足しのコンソメスープ、適当に刻んだ野菜でミネストローネ風。

 火にかけた鍋をかき回しながらシルキーが呟く。

 

 「あの二人の事だ。大方適当にやってて、全然集まってないんじゃないのか?」


 おれは秘蔵のカレールウを塗った、ナンのような生地の様子を確認しながら適当に答えた。

 良い感じで膨らんできている、完成は近い。

 周囲にカレー粉を焦がす香ばしい芳香。


 「セイさん・・・アフィナだって、セイさんの役に立ちたくてがんばっているよ?・・・フォルテさんは・・・ちょっとわからないけれど。」


 おれをチラ見してクスリ、冗談交じり「めっ!」の真似事をしながらシルキーは言う。

 その仕草、人間そのもので・・・彼女の正体が馬の人であることを忘れかける。

 なんというか、普通の美少女だわ、うん。

 元よりこの世界やたら美形が多いんだが、彼女はその中でも純粋に正統派美少女って感じが・・・いやまて!

 おれが「馬の人」って思ったときはポニテがぎゅんと逆立ち、「美少女」って思ったときはポニテがぐりんぐりん回転している。

 どう見ても、ナチュラルにおれの心を読んでやがる。

 やっぱ人じゃねぇ!

 おれはそっと目線を逸らす・・・そう、おれは何も見ていない。


 それはともかく、彼女の言。


 (訳に立ちたいねぇ・・・。)


 正直アフィナさんが一番役に立つのは・・・本国待機のような気がするんだが?

 そしてよくわかんないと評されたフォルテ。

 全くだよ、おれもお前の事はさっぱりわからん。


 だが改めて言われてみると、確かに。

 アフィナとフォルテに薪広いを言いつけ、どれくらいの時間が過ぎただろうか?

 別にそこまで遠くに行かなくても、この森林地帯だ。

 適当に安全圏をぐるっと回ってくれば、必要な在庫は確保できるだろうと思っていたのだが。

 あいつら、一体どこまで行ったんだ?


 食事の用意は完全に終わり、それでも二人は帰ってこない。

 それこそカレーの匂いで戻ってくると思っていた。

 さすがに少し心配になってくる。

 と言うより、今更になって気付いた。

 送り出すときは「働かないコンビ」くらいに考えていたけど・・・おれ、もしかしてとんでもない奴らをコンビにして放逐したんじゃなかろうか・・・。

 わかってる、遅いよって言うんだろ?

 おれも今、暑くも無いのに背中を汗が伝っているよ。


 「ねぇセイさん。やっぱり遅すぎないかな?・・・なにかあったんじゃ・・・。」


 シルキーイケナイ!

 たぶんそれもフラグな気がする。


 「ロカさん!『索敵』は!」


 リライの頭の上、周囲を油断無く探査していたはずのロカさん。

 おれの声に「むぅ!?」と唸り瞠目した。

 なんか嫌な予感しかしないぞ?


 「主済まぬ!敵勢反応が無かったから、少し目を離していたのである!なにゆえあやつら・・・こんなに遠く・・・?いや、近付いて・・・戻ってはいるのであるが・・・。」


 目を離してた云々はともかく、なんだか妙に歯切れが悪い。

 騒ぎ出したおれたちに気付き、ポーラも慌てて天幕に戻ってくる。


 「ポーラ!南側である。お主には見えるであるか?」


 ロカさんからポーラ引き継ぐ形。

 当然ロカさんも継続して『索敵』はかけてくれているんだろうが。


 (ロカさんの『索敵』で把握しきれない距離?)

 

 果たしてあの二人、そこまで遠くに行ってしまったのか?

 或いは『索敵』と『魔眼』による精度の問題。

 ポーラは「ちょっと待つべ。」と言い、ロカさんの指示した方向を『魔眼』で見据える。

 

 「確かにアフィナとフォルテの魔力だべ・・・戻っては来ているみてぇだども・・・。」


 「やはりポーラも見えているのであるか?」


 二人だけで何事か分かり合う。

 全く分かっていないのはおれとシルキー、根気よく二人の言を待つ。 


 「んだべ、二人だけじゃないし、急いでるように見えるだな?」


 (・・・二人じゃない?急いでいる?)


 それが導く答えは何だろうか。

 ロカさんとポーラの様子から、考えられるのは敵勢ではない第三者の反応?

 そして残念とニートが逃げている可能性。

 やたら気になるポーラの発言の後、ロカさんが叫んだ。



 ■



 「むっ!いかんのである!主、敵対勢力が『索敵』の範囲に入ったのである!」


 あいつら薪拾いに行って、敵拾って来やがったのか?

 ザワリ、全員に緊張が走る。

 賢いリライも身体を起こし臨戦態勢に。


 とりあえず・・・アレだ。

 周囲の物を安全圏に退避させなければ。 

 それどころじゃないって?

 馬鹿言うな、ポーラの里でもらった野営セットや、せっかく作った料理やらを台無しにされたら目も当てられないだろう?

 最悪、怒りに任せてフォルテのアフロを丸刈りにする自信があるぞ。


 見ろ、シルキーもちゃんと心得ている。

 おれが回収しやすいように、種別ごと纏めてくれていた。

 彼女が手渡してくるものを片っ端から『カード化』、『図書館ライブラリ』に突っ込んでいく。


 次いで『魔導書グリモア』を展開。

 おれの目の前に浮かぶA4のコピー用紙サイズ、六枚のカード。

 状況は全く分からないが、基本の運動強化魔法『幻歩ファントムウォーク』を選択。


 『幻歩ファントムウォーク


 魔法名を唇に乗せれば、全身に漲る魔力、身体が劇的に軽くなる。

 まさに「何と言うことでしょう!」ってやつだ。

 そして南方の森林から飛び出してくる影。

 

 「セイー!助けてー!」


 「若様ーーー!」


 良く見知った二人、認めたくはないがおれの仲間である。

 アフィナが風魔法でも使っているのか、揃って雪原から少しだけ浮いている。

 そして、二人の少し後ろの中空を飛ぶ小柄な人影。

 そう、その人影は一対の純白の翼をはためかせて滑空している。


 『地球』で言うところ、所謂秘書官の女性が着ているような、黒っぽいかっちりとしたタイトスカートとブラウスを着た少女。

 アフィナのミニスカもびっくりの薄着。

 明らかに寒いだろう。

 いや、おれもVRバーチャルリアリティの戦装束、漆黒の法衣しか着てないので人の事は・・・。

 それはともかく少女、かなり濃い桃色の髪を肩までで切りそろえ、その毛先はくるんと内側に巻いている。

 そして手には羽根ペンと大きなメモ帳。


 「な、な、な、なんで逃げるんですかぁ!?アフィナ様、私ですよぉ!」


 ドモりながら素晴らしい高速飛行。

 アフィナとフォルテも中々の速度だが、どうあっても引き離せるようには見えなかった。

 おれたちの姿を確認したアフィナとフォルテが、「セイ!」「若様!」と同時に叫んで止まる。


 (ばか!そこで止まったら・・・!)


 思ったときには遅かった。

 ゴッスゥ!

 ある意味では小気味の良さまで感じる音を立て、「セ、セ、セ、セイ様!?」と脇見飛行した少女の頭部が、フォルテのアフロに突き刺さる。

 不思議な斜め回転の捻りまで加えて吹っ飛ぶフォルテ、木にぶつかりくたり脱力。

 あれは完全に落ちている。

 そして同様の衝撃を受けたはずなのに全くの無傷、飛び上がりおれに向かって突進してくる少女は、言うまでもなく見知った存在だった。

 戦闘能力は皆無だがこの世界最速の飛行速度を誇る、『天空の聖域』シャングリラの指導者級の盟友ユニット

 ウララの愛用する盟友ユニット、『見習い天使』キアラである。


 「セ、セ、セ、セイ様!やっとみつけましたぁ!」


 なんだろう・・・この既視感。

 問答無用飛びついてきたキアラを、おれは・・・全力で避けた。

 さすがは『幻歩ファントムウォーク』、抜群の運動性能。

 まさか避けられるとは思っていなかったのか、キアラはおれの真横を通り過ぎ、空中に一瞬置いてきた金箱に吸い込まれる。

 相変わらず人の箱でも勝手に出入りできるらしい。

 すぐに箱から頭だけ出してくるキアラがシュール過ぎる。


 「セイ様ひどいです!私、すごくすごく探したんですよ!?せっかく見つけたアフィナ様も逃げるし!」


 「まぁお前がおれを探してたのも、アフィナが逃げたのも理由は大体わかってる。とりあえず箱の中で待機だ。」


 たぶんこれ、アフィナを発見したキアラを追いかけていた何某が!ってことですよね?

 キアラはいっつも変なもん連れてくるな・・・いや待てよ、むしろそれを丸ごと連れてくるアフィナが・・・結論、アフィナが悪い。

 「うううぅ!」と唸るキアラを無視して、彼女たちが現れた方へ視線を移動。


 「そうだセイ!大変!大変なんだよぅ!キアラの後ろにアレが見えたから、ボクもフォルテ様も逃げたの!」


 残念が何やら喚いているが、時すでに遅し。

 おれにも森林の異変がはっきりわかった。

 ズズッズズズズッ・・・

 シルキーがポツリ、「うそでしょ・・・?」と零す。

 大いに賛成だね、おれもウソだと思いたい。


 擦過音を奏でながら巨大な人型の雪像と言った存在が、ゆっくりゆっくりと近付いてくる。

 

 「はわわわわ!なんですかこれー!」

 

 キアラは頭出さなくて良いんだよ!お前が連れてきた奴だからね?

 おれの悪寒を後押し、案の定ポーラが叫ぶ。


 「見たことのない魔力だべ!いや・・・ノモウルザの魔力に似てるべ!」


 「くそっ!そうだと思ったよ!」


 リライの頭から、無言で飛び降りたロカさんに魔力を譲渡する間に、事態は最悪の方へ推移した。

 きっかけはポーラ。

 『魔眼』で見抜いたのだろう、「む!あそこに核があるべ!」と雪像の胸辺りを指刺した。

 それに誰よりも早く反応したのが・・・もうお分かりですよね?

 我らが誇る残念、アフィナさんです。

 「任せて!」と一声、一瞬で非常識なサイズの火球を作り出す。

 そしておれが「待て!」と言う間もなく、おもむろ「山の斜面」に向かって投擲した。 


 「あ・・・!」


 ズンッ!・・・ゴ・・・ゴゴ・・・ゴゴゴゴゴゴ

 おいいい!?「あ!」じゃねえよ!

 これってアレだろおおおおおおおおおおお!?

 不穏な音、徐々に揺れ、滑落し流れ出す山の斜面。

 そう、雪崩である。

 さすがアフィナ、やる時はやる女。

 まさに恐怖、選択は逃げる一択だ。

 あ・・・!フォルテ!





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