・第二百二話 『薪』
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異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、湖の次は山なんだ。
いや実際、兄貴も不安になるよ。
なんせこの山を越えた先は、まだ見ぬ氷人族と雪人族のテリトリー。
それも主戦場である、『紅雪の谷』って言う所らしい。
ポーラの説明を信じるとだな・・・なんでもその『紅雪の谷』にまつわるエピソード、地名の由来ってのがちょっとしたホラーなんだよ。
良くあるっちゃ良くある話なのか?
本来真っ白な新雪が降り積もる谷は、氷人族と雪人族の度重なる戦争で・・・その犠牲者の血で赤く染まっているらしいんだ。
な?ちょっとしたホラーテイストだろう?
「どうしてそこまでするの?」って・・・そうだな、兄貴もそう思うよ。
ただ一つだけわかってるのは、そこにあの青いおっさんが絡んでるってことだけだ。
ならおれが出来ることは・・・信じて待っててくれるよな?
■
なんだかんだ異常に疲れるはめになった、箱内のアレコレ。
イアネメリラほんと自重しろよ?
ロカさんとか全身アフロ化したショックで、ちょっと拒食症になりかけたんだからな!
結局、メスティア上陸メンバーとなった現在。
天気は快晴、朝一番から『氷積湖』をリライに乗って踏破中。
ポーラも「じっさまの話だとここが好天なのは珍しいべ!」と言っていて、事実道程は順調そのものだ。
にもかかわらず、おれは釈然としない思いでいっぱい、朝食は軽くしたはずなのに胸がいっぱい。
(なんだろう・・・このそこはかとない不安は・・・。)
原因はたぶんアレだろう。
一番後ろに乗ってるアイツ。
どうやらポーラとロカさんは視界に入れないことに決めたようだが・・・アフィナとシルキーはチラチラ何度も振り返る。
気持ちは大いにわかるぞ。
と言うかフォルテ、お前ばかなんだろう?
何が奴の琴線に触れたのか、「直してやる。」って言ってるのに頑なに拒絶。
フォルテの頭部はアフロのままだった。
「なぁフォルテ・・・お前ずっとそのままで居るつもりなのか?」
「えっ!?」
さも「びっくりした!」という風情、ちゃんと聞こえているはずなのに、わざわざ二度見までかますフォルテ。
イラッ!
一瞬で怒りのゲージが溜まる。
何だろうか?こいつに舐めた態度を取られると非常にイラつく。
おれの苛立ちに気付いたのか、慌てて手を振りながらフォルテは語る。
「知らないんですか若様?アフロは男の最強ヘアースタイルなんですよ。攻めて良し、守って良し、枕にして良し!」
良く分かった。
つまりは最後の枕が目的なんだな?
「良し、じっとしてろよ?今丸刈りにしてやるからな。」
「ぎゃー!若様の鬼畜ーーー!」
おれたちがどうでもいいことで争っていると、ポーラが窘めてくる。
「セイもフォルテも暴れねぇで欲しいべー!こっから山さ登るのに、リライが難儀してまうべよ!」
うん、正直すまんかった。
「若様おこられたー!」とニヤニヤするフォルテに、おれは黙って金箱を突き出した。
瞬間、「ごめんなさい!」と綺麗な土下座。
今はもう落ち着いているはずなんだが、どうやらフォルテにとっても十分トラウマになったらしい。
それにしても、リライの背中の上でジャンピング土下座とか・・・良くやるわ。
緊張感を欠いた道中。
視界、徐々に山脈が近づく。
体感、徐々に体の均衡が傾いていく。
「ポーラ、ここはもう山脈なのか?」
「んだべな・・・おいはそう思うども・・・。ロカさんどうだべ?」
おれの問い、しばし逡巡するポーラはロカさんに話題を振る。
ロカさんは相も変わらずリライの頭頂部にすっく立ち、尻尾をピコピコ振りながら数度頷いた。
「間違いないのである。今まで感じていたさらな水の気配、今はもう感じられないのである。」
ふむ、どうやら『氷積湖』の分厚い氷の下、水源は健在だったらしい。
それをロカさんは感じ取れていたようだ。
水の気配が無くなったと言うことは、自ず陸地へと到達したと考えて良いだろう。
(思ったより早かったな・・・。)
リライのおかげか、何事もなく湖を後にする。
「いやぁ若様・・・何も起こりませんでしたね?こういう時って・・・ね?」
おいフォルテ、変なフラグ立てるのやめろ!
我らが誇るフラグマスターのアフィナさんですら、はっきりと嫌な表情浮かべたぞ?
■
遠目に見えていた山裾に到達。
さすがにこの辺まで来ると、針葉樹の類が乱立していた。
『地球』のように人手は入っていないだろう。
思い思いの場所で天へと向け、大樹とも言えるサイズ。
雪化粧で白く染まっているが、上部には針金のような葉が十分に茂っている。
きっと古代兵器云々がある前から存在していた木々。
斜度が付き障害物が現れたというのに、リライの健脚は全く翳りを見せなかった。
おれたちを長毛でしっかり寒気から守りながら、彼は悠然と雪原を闊歩する。
サックサックっと巨体には似合わぬ軽い足音。
パウダースノーに見える細かな雪にも、彼の身体が沈み込むことは無い。
揺れも少なく、いつのまにかアフィナとシルキー、それにいつものフォルテが舟を漕ぐ。
騎獣に乗ったまま居眠りとか中々器用な真似を・・・。
程なくして・・・。
山の中腹ほどまで来たのだろうか?
リライの軽快な歩みが緩やかになっていく。
やがて彼は完全に立ち止まり、おれを振り向き「ヴォフ!」と一声。
「ん?どうした?」
「ああ、なるほどだべ。」
意味が分からないおれに対し、ポーラは一人得心顔だ。
ポーラ曰く・・・このまま進むと遮蔽物の無い山頂で、真夜中を迎えてしまうとのこと。
人間は白夜のせいで完全に時間間隔が狂っているようで、リライが率先して「そろそろ休憩した方が良いんじゃない?」と示してくれたらしい。
「それに山頂付近には、「リライでも威圧できない魔物が居るかもしれない。」ってじっさまが言ってたべ。」
ああ、その話はおれも聞いたな。
ならば是非もない。
リライが止まってくれた場所は木々が多少密集しながら、ぽっかりと開けた広場のようになっている場所。
実に野営向きの場所と言えた。
それにしてもとしみじみ思う。
ポーラにせよ、リライにせよ、この地でもおれは出会いに恵まれた。
この地域、彼らの協力無くして進むことは、絶対に不可能だっただろう。
寝こけている三人を起こし、今日はここで野営することを告げる。
今回は密集した針葉樹とリライの二方面で壁を、『図書館』から天幕を引っ張り出して設置。
今日も今日とて『雪狼』の毛皮を敷き詰める。
こればかにできねーんだ。
(さて・・・ダッチオーブンで簡単に済ませるか・・・。)
そんなことを考えながら、『図書館』をめくっている内ハタと気付く問題点。
意外と薪の消費が早いのだ。
一応ヴェリオン出立時には結構な量を『カード化』してきた。
しかし、本来ならば『最後の港町』ミブにて、再補充する予定だったのである。
ポーラの里でそれなりに分けてもらったのだが。
そこはやはり彼らにとっても必需品である以上、決して無理は言えなかったのだ。
それでもおそらく彼ら、限界に近い量を持たせてくれたであろう。
暖を取るため仕方ないっちゃ仕方ないのだが、思ったより使ってしまっていたようだった。
もちろん今すぐどうこうって訳じゃあない。
だがここは今、幸いにも木々に溢れる山中。
薪集めができますね!
そして思い出してほしい。
今の状況、働いている人々、働かざるもの食うべからず!
周囲の警戒に余念の無い『索敵』持ちのロカさんと、『魔眼』持ちのポーラ。
料理や拠点作りを一手に振られているおれと、そのアシスタントであるシルキー。
道中頑張り続けてくれたリライは、当然最初から論外。
あれ?全く話に出てこない人が二名ほど居ませんか?
そうです!皆さんご存知、残念とニートである。
「薪の在庫が心もとない。アフィナとフォルテは薪広いだ。」
「「えええええええええええええ!?」」
声まで合わせるお荷物二人。
「反論は認めない。」
静かに告げたおれの声音に、揃って大げさ肩を落とす。
小声で「横暴」「鬼畜」などと呟きながら、とぼとぼと歩きだした二人を端目に、おれはダッチオーブンに向き直った。
その時おれは、すっかり失念していたのだ。
変なフラグを立て終えているアフロニートと、フラグが遥か成層圏にあろうとも、確実に引き寄せる天運を持つ残念。
揃って行動と言う安定感、フォローが居ないと言う危険性。
そりゃ・・・拾ってくるよねぇ・・・。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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※実は・・・新作書いてみました^^;
まだプロローグだけ、かなたび優先の為不定期になると思いますが、良ければそちらも覗いてやってください^^
0時に予約投稿しておきます~><