・第二百話 『反省』
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セイが新たな決意、新たな繋がりと共に、ポーラの里を出立したちょうどその頃。
同じ『氷の大陸』メスティアの某所、とある閉鎖空間に彼らは居た。
一見すると天然洞窟のような場所。
されどよく注意してみれば、床や天井、壁にも人の手が入っていることがわかる。
そして洞窟のような場所にもかかわらず、不思議な光量。
少なくともお互いの顔色を伺うのや、普通に歩行するにあたり不便を感じる物では無いだろう。
奥行きが確認できない長細い通路を前後に、少しばかり開けた室内。
室内の人影は三人。
長身眼鏡の青年、白い立派なカイゼル髭の老爺、赤髪の容姿端麗な少年。
見事に男所帯、むさくるしさがそこはかとなく。
イライライライラッ
燃えるような赤い髪、溢れ出る苛立ちを隠そうともせず、『レイベース帝国』の『皇太子』デューンは室内をぐるぐる回っていた。
その姿、まるで餓えた熊のようである。
眼鏡の青年・・・秋広と、カイゼル髭の老爺・・・デュオル老はそんな彼の様子を全く無視しながら、床にどっしりと腰を据え己が得物の整備に余念がない。
銀色に輝く長銃の随所、整備用のギミックをカチャカチャと動かし、各所に魔力を這わせていく秋広。
「シュウ!老師!二人とも何をそんなにのんびりとしてるんですかぁ!」
とうとう爆発したデューン、怒りの形相で秋広とデュオル老に迫った。
しかし秋広とデュオル老、顔を見合わせ「やれやれ。」と言う態度。
その様子が殊更デューンの苛立ちを煽る。
「大体にして何でこんなことになっているんですか!我々には時間が無いんですよ!?」
興奮しきりのデューンなのだが、それを見つめる二人の眼差し、余りにも冷たい。
「それをお前が言うのか?」と、言外にはっきり告げている。
その胡乱な瞳に気付き、「うっ!」と言葉を詰まらせるデューン。
彼らがこのいかにもな洞窟を彷徨うことになった理由、それは・・・。
『真賢者』ガウジ・エオの協力により、『太陽』のテツと名乗る異形の魔導士を撃破。
次いで英雄級の竜人、『双竜』アゴスとウングスも退けた。
そこまでは良かった。
しかし、目的の人物『真賢者』ガウジ・エオとの邂逅に、興奮し焦るデューンの暴走により、彼女の機嫌を大きく損ねたのが大問題。
彼の人物が形成したダンジョンへ、「頭冷やしてから出直せ!」と叩き落されたのだ。
むしろとばっちりは、巻き込まれただけの秋広とデュオル老だった。
「とりあえず・・・デューン君も、武器のメンテしたらどうかな?」
秋広の提案、「そんな暇はっ!」と言いかけたデューンを、師である老人の眼光が射抜く。
「殿下、わしゃ自分の得物を顧みず、戦場で実力を発揮せぬまま死んでいった武人を何十人と知っておる。どんな名剣も日々の整備怠れば、十本幾らのなまくらに不覚を取ることもあるんじゃぞ?」
その言、重く深く、確かな実績と経験に裏打ちされ。
デューンも己の非を認め、「わかりました。」と床に腰を落ち着け、自分の長剣を鞘から引き抜いた。
やっと静かになった少年を尻目、秋広とデュオル老も武具のメンテナンスを再開する。
秋広は銀銃の外装に「ハァ」と呼気吹きかけ、コートの内ポケットにしまってある清潔な布で拭き上げると、顔すらも映り込む鏡面のようになった姿に満足。
「さぁ燕ちゃん、綺麗になったよ。どこか不具合は無いかな?」
秋広は銀銃に向け、当たり前のように話しかける。
理由を知らなければ完全に危ない人だった。
しかし頭の中、無機質ながらはっきりと女性を感じさせる声が響く。
【うん、アキヒロ。うちは万全だよ。】
【メンテありがとう。】と続く念話に秋広、満足げ「うんうん。」と頷く。
デュオル老の片眉がピクリ、されど何も言わず己が大剣に光を当てる。
彼が空気、身に纏った気配とも言うべきものを強張らせたのは一瞬。
だが、その反応は正確に秋広へと伝わっていた。
(燕ちゃんのことも・・・或いは彼らの正確な目的についても、一度・・・話しておくべきかもね。)
時間が有り余っているわけではない。
秋広はともかく、帝国の二人には明確なタイムリミット?或いは焦燥する事由があるのだろう。
もちろん秋広とてのんびりと世界を漫遊するつもりもないのだが、この二人に出会ったのがある意味運のつき。
本来の目的である幼馴染たちとの合流を、遅延させる結果になっていた。
できることなら彼らの目的を果たさせてあげたいものだが、現在置かれている状況はそれを許さない。
これは彼の人物が、意図的にあつらえた空白の時間なのかもしれない。
(デイジーを巻き込まなかったのも変っちゃ変だしね。)
秋広はそんな風に考えた。
長銃を膝の上へ、いつもの如く眼鏡の中央を中指でクイッと、秋広はデュオル老に正対する。
「デュオル老。燕ちゃん・・・『銀燕』に、何か思うところがある?それと・・・できれば貴方たちの目的ってのを、そろそろ教えてくれないかな?」
秋広の真面目な表情、デュオル老も自身の得物を鞘に納め、眼光鋭く長銃と秋広本人を交互に見据える。
「はぁ・・・。」と深くため息、彼の精悍な顔には年相応の疲れが滲んでいた。
何かを言いかけ口を開き、それでも小さく頭を振る。
「やはり・・・それは・・・いかん。」
言いかけたデュオル老、逡巡、苦悩、否定の言葉。
されど、決断をしたのは年若き皇子。
「老師、この際です。シュウとは腹を割って話しましょう。」
■
デュオル老、しばしの黙考。
彼が瞳を開けた時、そこに迷いは一切無かった。
「ではタウンハンター殿、はっきりと言わせてもらうぞい?わしはその銃に見覚えがある。それは我が国『レイベース帝国』の秘宝、『銀燕』に相違ない。正確には・・・秘宝だったと言うのが正しいんじゃがのぅ。当時、脱走兵の一人が持ち出し、20年前の大戦で消失したと思われていた物じゃ。」
「老師、それは・・・本当ですか?」
狼狽えるデューンとは真逆、秋広はデュオル老のセリフに眉ひとつ動かさなかった。
その様子に老将は確信する。
「どうやら・・・知っておったようだの?」
「うん、まぁね。燕ちゃん普通にしゃべるし。」
デューンを完全に置き去り、二人の会話は続く。
「そこでじゃ・・・。タウンハンター殿、お主・・・『決意の銃士』フェルナー所縁の者では無いのか?その銃の最後の主人、そしてわしの記憶にある彼の青年の容姿にどこか似通うお主。無関係とは思えんのじゃ。」
「それは・・・無いと思うよ?」
フェルナーのことは、セイが使っていたからもちろん知っている。
一時自分に似ているなどと言われたこともあるが、秋広は他人のそら似だろうと思っていた。
(それに・・・僕はこの世界の人間じゃないしね。)
簡単に明かして良い情報でもない。
ただこれを説明せずに話を纏めるのも難しい。
なんともジレンマ。
いまいち納得しかねるデュオル老と、話についていけないデューン、少々困り顔の秋広を見かねたかのように、三人の脳内へ直接響く女性の声。
【なに?難癖?うちがアキヒロを選んでるんだよ?うちが帝国の秘宝だから返せとでも言う気?御免だね!帝国なんて大っ嫌い!フェルナーとフォルテがどんだけ悲しい思いしたと思ってるの!?】
「燕ちゃん・・・。」
「いや、すまん。わしゃそんなつもりじゃ・・・。」
無機質な器物の言葉でも、『銀燕』の発露した感情は、歴戦の老将であるデュオル老ですら口ごもらせるものだった。
彼女がこんなに長文でしゃべるのは珍しい。
余程元の主人フェルナーと、その弟であったフォルテの境遇がひどかったのだろうか?
『リ・アルカナ』のテキストにはその辺り不明瞭で、秋広には詳しく知りえることが出来なかったのだ。
もちろん彼女が憤るように、返せと言われて返せるはずもない。
場を沈黙が支配する。
話題を変える目的もあったか、デューンが少しだけ大げさに。
「それは・・・とりあえず今は良いでしょう?彼女・・・『銀燕』さんが元は帝国の秘宝だったにせよ、今はもうシュウとの信頼関係を築いている。シュウの人柄は信に足りるものです。それよりも今は・・・。」
「そうじゃな。」
目線で語らった老将と弟子、「我々の目的ですが・・・。」と前置き、デューンは言葉を紡ぐ。
「我々が『真賢者』ガウジ・エオを・・・いえ、正直に言えば『古の図書館』を探していたのは、二冊の本を閲覧したかったからです。」
「本ね・・・?」
てっきりガウジ・エオ本人との面会を目的にしていると思った秋広は、その答えに一瞬呆けた。
しかしすぐに思い直す。
帝国の最高戦力が二人、供も付けずに捜索する本とは?
しかもおいそれとは入ること叶わぬ『古の図書館』でだ。
ガウジ・エオの下でしばらく静養した秋広は、当然その施設を知っていた。
何より・・・その名を『リ・アルカナ』のカードで見ていたから。
そこまで聞けば自ずと繋がっていくライン。
彼らが探す本の危険性、間違いなく碌なものではないだろう。
「笑われるかもしれませんが・・・夢で神託があったんです。彼は・・・『学問の神』ティエルザを名乗りました。神々しさは間違いなく感じられて、その存在を疑うことはできませんでした。しかし、彼はとても弱弱しく、権能をほとんど失っていると言っていました。明滅を繰り返し喘いでいるのが明らかで、少ない時間の中託されたのが・・・二冊の本を見て欲しいと言うことです。」
「因みに・・・何て本だい?」
意を決し問いかける秋広。
果たしてその答えは、彼の冷静さを大いに揺さぶる名称だった。
「我々が探している本は『トリニティ・ガスキン正史録』。そして・・・『ソウイチロウの手記』と呼ばれる本です。」
ゾワリ・・・!
秋広の背筋を強烈な悪寒が走り抜ける。
疑問は多々ある。
なにゆえ、『亡国』トリニティ・ガスキンの守護神たる、『学問の神』ティエルザが『レイベース帝国』の『皇太子』デューンに神託を?
そしてどう考えても、この世界の住人では無い人間の名を冠した手記のこと。
秋広にはその名、ソウイチロウが『リ・アルカナ』の世界ランキング一位、『法王』の神舘宗一郎その人以外に想像できなかった。
もしこの想像が当たっていたら、彼もこの世界に?
一体何を書き残したと言うのか?
思考を遮るように、壁面に両開きの扉が出現する。
どうやらガウジ・エオの反省タイムが終わりのようだ。
「さて・・・そろそろ休憩も終わりのようじゃ。」
デュオル老が率先して扉へと向かう。
ある意味何も解決していない、どころか謎は深まるばかり。
図らずも秋広、セイとは違う場所で大いなる流れに巻き込まれていく。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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※ついに本編二百話です!
これもひとえに読んでくださる皆様、応援、感想下さる皆様のおかげでございます。
お話はまだまだ続く予定です。
変わらぬご愛顧よろしくお願いしますorz
セイはいつになったら秋広を捕まえられるのか!?
ウララは!竜兵は!そして我らが美祈ちゃんは!?
『略奪者』の皆さんは今!?
次回はセイ視点に戻ります。
それでは^^