表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第一章 精霊王国フローリア編
21/266

・第二十話 『森の乙女』

ブクマ、評価、感想ありがとうございます!

励みになります。


 異世界からこんばんは。

 おれは九条聖くじょう ひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、目と目で語る、所謂『アイコンタクト』ってあるだろう?

 兄貴は君と、それができていたと思う。

 まぁ君は空気を読むというか、自分のことより他人のことばかり考えているような娘だったから、そんな風に思えたのかもしれないな。

 言葉にしないと伝わらないこともある。

 いや・・・違うな。

 言葉にしてもわからない奴が、世界には確かに存在する。

 今日はそんなことを思ったよ・・・。



 ■



 そこは『オリビアの森』の最奥地、森がぽっかりと開けた場所にあった。

 どこか、『双子巫女』が守護していた結界塔を想起させるような雰囲気だが、質感はまるで違う大木が何本も折り重なってできたような塔。

 おれとアフィナとエデュッサは、深夜も大幅に過ぎた頃、『森の乙女』カーシャの守護する結界塔へ辿り着いた。


 「さすがに・・・この時間じゃ、起きてないよね・・・」


 確かに非常識な時間になってしまったが、すべてアフィナが悪い。


 「アフィナ、カーシャとはお前が話をつけろよ?」


 おれは、クリフォードから預かった手紙を渡しながら告げる。

 「え?なんで?」と、手紙を受け取りつつも聞き返すアフィナに説明する。


 「お前はこの国の貴族なんだ。その方が角が立たん。」


 「えぇっ?ボク、苗字取り上げられちゃったし、家名無いよー?」


 (そういやこいつ、セリーヌが出て来た時気絶してたんだ。)


 おれは思い出し、昨日の夜謁見の間で起きた事の顛末を話してやる。


 「そっかぁ・・・セリーヌ様がボクに、ミッドガルドを継げって言ったんだ・・・。」


 そう呟いたアフィナは、一度目を伏せやたら深刻な顔でおれに嘆願してきた。


 「大臣様・・・ボクのお祖父ちゃんを、何とかしてあげられないかな?セイお願い、クリフォード様に頼んでみてもらえないかな?・・・ボクじゃセリーヌ様の決定に逆らえないし・・・。」


 おれは正直驚いた。

 

 「・・・あの大臣は、ゴードンに操られていたとは言え、お前を生贄にしようとしたんだぞ?」


 おれの言葉にアフィナは一度しっかり頷くと、「でも、ボクに残された、最後の肉親なの。」と言った。


 「・・・わかった。お前がそれで良いならな。クリフォードに一応言ってやるが、期待はするなよ?」


 「うん!ありがとセイ!」


 そう言って笑ったアフィナの笑顔は、輝いて見えた。



 ■



 「んじゃ、行くね。」と言って、塔の入り口に向かうアフィナについて行く。

 忘れてはいけない、エデュッサを大人しくさせておかないと。

 おれはエデュッサに「余計な事は言うなよ。」と、釘を刺しておく。

 

 アフィナが、木で出来た塔の入り口の、簡素な開き戸をノックすると、意外なことに中から若い女性の声で「開いていますよ。」と、返答があった。

 どうやら『森の乙女』カーシャは、まだ起きていたようだ。

 もしくは、おれたちの気配に気付いたのかもしれんな。


 「夜分遅く済みません、ボクは『風の乙女』アフィナ・ミッドガルドです。クリフォード様から親書を持ってきました。」


 「まぁ、シイナの娘ね!無事着いて良かったわ。この時期の森は苦労したでしょう?」


 中で待っていたのは、パッと見20歳前後の、緑の髪に青い目のどことなくアフィナに似ている、エルフ女性。

 まぁ長命種らしいから実年齢はわからんが。

 「シイナとは従姉妹だったのよ。」と言いながら、柔らかく微笑むカーシャは、優しくアフィナを抱き締めた。

 良かったな、まだ身内が居たんじゃないか。

 アフィナは「あうあう」と、真っ赤になって照れている。

 「それでそちらの方々は?」と問いかけるカーシャに、おれはもう一度エデュッサを睨んでおく。

 そしてエデュッサは、「わかってますよ!」と言わんばかり大きく頷くと、


 「異世界の大魔導師『悪魔デビル』のセイ様と、その性奴隷エデュッサです!」


 自信満々に言ってのけた。

 そして空気が凍った。


 この変態、まったくわかってなかった!

 いち早く復活したおれは、『図書館ライブラリ』からロープと丈夫な布を取り出し、「あう!新しいプレイですか!?」とか叫ぶ変態を縛り、猿轡を噛ませて床に転がした。

 「え、えっと!カーシャ様!彼は怪しい者では無いんですっ!」と、必死に弁明するアフィナにおれも追随して、ウンウン頷いておく。

 カーシャは額に汗を流しつつも、「ま、まぁこんな夜更けに立ち話もなんね・・・とりあえず入って。」と、言ってくれた。

 ありがとう大人な対応。

 この変態は気にしないでくれ、おれも泣きたい。

 

 

 ■



 「ねぇ・・・なんでセイは、『悪魔デビル』って言うの?」


 結界塔に入り、「とりあえずお茶でも」と言ってキッチンに向かったカーシャを待つ間、アフィナが声をかけてくる。

 

 「朝、おれの幼馴染が、ドラゴンと天使しか使わないって言ったろ?おれの『魔導書グリモア』も似たようなもんでな、悪魔族と堕天使、あとは国を追われた奴とかしか入ってないんだ。まぁおれの場合、それだけが理由でも無いんだがな・・・。」


 そう、おれの『魔導書グリモア』も、少々くせがある。

 使う盟友ユニットも闇属性に偏っているし、魔法も闇と炎ばかりだ。

 あと強化魔法があるくらいで、回復とかは苦手なんだよな。

 怪我だけは気をつけないといかんな・・・

 回復なんかはウララが得意なんだ・・・似合わないけど。


 「そうなんだ・・・ボク悪魔族って見た事無いよ。」


 おれの答えに呟くアフィナ。

 ん?アフィナは気付いてないのか?


 「何言ってんだ?ずっと見てるだろ?」


 おれはそう言って、床に転がる変態の白い髪の天辺を少しずらす。

 そこには小さな白い角が生えている。

 そう、エデュッサは『砂漠の瞳』という魔族が住む国の、指導者級盟友ユニットだ。

 たしかおれの主力盟友ユニット、『金色こんじきの瞳』リザイアと同じ鬼人族っていう魔族だったはずだ。

 びっくりするアフィナを尻目に、角を見せる時一際ウーウー唸ったエデュッサが気になるので、少しだけ猿轡をずらしてやる。

 

 「ご主人様!異性に角を見られた鬼人族の女は、その人と結婚しなければいけないしきたりがあるんです!さぁご主人様、あたいと伽を!」


 うん、こいつブレないな。

 おれは、「そんなしきたりは知らん。事故だ。」と言って、猿轡を締めなおした。

 

 「魔族って・・・みんなこうなの?」

 

 アフィナそれは誤解だ、エデュッサが変態なだけだ。


 「セイの場合は・・・使う盟友ユニット以外にも、理由があるの?」


 聞いてたのか。

 

 「ああ、おれは昔からなぜかカードの引きが良くてな、悪魔の引きなんて言い出した奴が居てな。まぁそれからだ。」


 あれは中々に黒歴史だ、できれば思い出したくない。


 「そんなに引きが良い人が、なんであの人を呼ぶの?」

 

 床に転がるエデュッサを見ながら呟くアフィナ。

 あの時は『魔導書グリモア』が二枚しかなかったんだから、仕方ないだろう?

 おれもできれば呼びたくなかった。


 そこにカーシャが、ティーセットと果物の篭盛りをトレイに乗せて戻ってきた。


 「お腹、空いてるでしょう?こんなものしかないけど。」


 柔らかく微笑むカーシャ。

 そういえば移動中干し肉を齧ったくらいで腹が減っている、気が利くな。

 その淑女然とした振る舞いを、是非残念と変態にも見習っていただきたい。

 「ありがとうございます、カーシャ様。」と言って、果物を手に取るアフィナに習い、おれも篭の中の果物を取ろうとしてハタと気付く。

 

 「『森の乙女』カーシャ、これは・・・」


 「あら、食べたこと無いかしら?『夢の林檎』、おいしいわよ?」


 思わず絶句したおれに、小首を傾げながら答えるカーシャ。

 おれはこの果物、『夢の林檎』に見覚えがある。

 カーシャが見ているが、エデュッサを転がす時、勢いで『図書館ライブラリ』も使ってしまったし、今更だろう。

 おれは、『夢の林檎』を『カード化』して『図書館ライブラリ』に収納する。

 「セイ?どしたの?」と、アフィナが訝しんでくるが、今はそれどころではない。

 『図書館ライブラリ』に入れた、『夢の林檎』のテキストが変わっている。

 『カード化』した時は【食料:果物】としか書いていなかったが、今テキストには【ドロー3】と書いてある。

 おれは『魔導書グリモア』のカードと、『夢の林檎』を入れ替える。


 「魔導書グリモア


 おれの周りに、A4のコピー用紙サイズのカードが二枚浮かび上がる。

 あれから二枚しか増えていない、だが・・・

 そこには『夢の林檎』のカードが、確かにあった。

 おれは迷わずそれを選択する。

 中空に林檎が浮かび、三つに割れるエフェクトが現れ・・・おれの展開する『魔導書グリモア』は四枚になった。

 

 (これは・・・!そういうことか!)


 「カーシャ、『夢の林檎』はたくさんあるか?」


 呆然とその光景を見詰めていたカーシャに、問いかける。


 「え、ええ、まだ二、三個はあったと思うけど・・・。今のは一体・・・?」


 「後で説明する、林檎は全部くれないか?」


 「・・・よくわからないけど・・・わかったわ。」そう言って、席をはずすカーシャを見送り、おれはガッツポーズしたい気分だった。

 

 「セイ、今のって。」


 確信を持って見つめてくるアフィナに、首肯で答える。

 おれはこの森の中で、アフィナに説明していた。

 『魔導書グリモア』の、手札枚数という弱点。

 使用すると、手札三枚に変わる『夢の林檎』は正に、弱点克服に最適なカードだった。

 そしてこの現象は一つの可能性を暗示する。

 『図書館ライブラリ』に入れることで、『地球』の設定と同様になるカードが存在する。

 おれはこの世界のことを、もっと調べなければいけない・・・。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

よければご意見、ご感想お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ