・第二十話 『森の乙女』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、目と目で語る、所謂『アイコンタクト』ってあるだろう?
兄貴は君と、それができていたと思う。
まぁ君は空気を読むというか、自分のことより他人のことばかり考えているような娘だったから、そんな風に思えたのかもしれないな。
言葉にしないと伝わらないこともある。
いや・・・違うな。
言葉にしてもわからない奴が、世界には確かに存在する。
今日はそんなことを思ったよ・・・。
■
そこは『オリビアの森』の最奥地、森がぽっかりと開けた場所にあった。
どこか、『双子巫女』が守護していた結界塔を想起させるような雰囲気だが、質感はまるで違う大木が何本も折り重なってできたような塔。
おれとアフィナとエデュッサは、深夜も大幅に過ぎた頃、『森の乙女』カーシャの守護する結界塔へ辿り着いた。
「さすがに・・・この時間じゃ、起きてないよね・・・」
確かに非常識な時間になってしまったが、すべてアフィナが悪い。
「アフィナ、カーシャとはお前が話をつけろよ?」
おれは、クリフォードから預かった手紙を渡しながら告げる。
「え?なんで?」と、手紙を受け取りつつも聞き返すアフィナに説明する。
「お前はこの国の貴族なんだ。その方が角が立たん。」
「えぇっ?ボク、苗字取り上げられちゃったし、家名無いよー?」
(そういやこいつ、セリーヌが出て来た時気絶してたんだ。)
おれは思い出し、昨日の夜謁見の間で起きた事の顛末を話してやる。
「そっかぁ・・・セリーヌ様がボクに、ミッドガルドを継げって言ったんだ・・・。」
そう呟いたアフィナは、一度目を伏せやたら深刻な顔でおれに嘆願してきた。
「大臣様・・・ボクのお祖父ちゃんを、何とかしてあげられないかな?セイお願い、クリフォード様に頼んでみてもらえないかな?・・・ボクじゃセリーヌ様の決定に逆らえないし・・・。」
おれは正直驚いた。
「・・・あの大臣は、ゴードンに操られていたとは言え、お前を生贄にしようとしたんだぞ?」
おれの言葉にアフィナは一度しっかり頷くと、「でも、ボクに残された、最後の肉親なの。」と言った。
「・・・わかった。お前がそれで良いならな。クリフォードに一応言ってやるが、期待はするなよ?」
「うん!ありがとセイ!」
そう言って笑ったアフィナの笑顔は、輝いて見えた。
■
「んじゃ、行くね。」と言って、塔の入り口に向かうアフィナについて行く。
忘れてはいけない、エデュッサを大人しくさせておかないと。
おれはエデュッサに「余計な事は言うなよ。」と、釘を刺しておく。
アフィナが、木で出来た塔の入り口の、簡素な開き戸をノックすると、意外なことに中から若い女性の声で「開いていますよ。」と、返答があった。
どうやら『森の乙女』カーシャは、まだ起きていたようだ。
もしくは、おれたちの気配に気付いたのかもしれんな。
「夜分遅く済みません、ボクは『風の乙女』アフィナ・ミッドガルドです。クリフォード様から親書を持ってきました。」
「まぁ、シイナの娘ね!無事着いて良かったわ。この時期の森は苦労したでしょう?」
中で待っていたのは、パッと見20歳前後の、緑の髪に青い目のどことなくアフィナに似ている、エルフ女性。
まぁ長命種らしいから実年齢はわからんが。
「シイナとは従姉妹だったのよ。」と言いながら、柔らかく微笑むカーシャは、優しくアフィナを抱き締めた。
良かったな、まだ身内が居たんじゃないか。
アフィナは「あうあう」と、真っ赤になって照れている。
「それでそちらの方々は?」と問いかけるカーシャに、おれはもう一度エデュッサを睨んでおく。
そしてエデュッサは、「わかってますよ!」と言わんばかり大きく頷くと、
「異世界の大魔導師『悪魔』のセイ様と、その性奴隷エデュッサです!」
自信満々に言ってのけた。
そして空気が凍った。
この変態、まったくわかってなかった!
いち早く復活したおれは、『図書館』からロープと丈夫な布を取り出し、「あう!新しいプレイですか!?」とか叫ぶ変態を縛り、猿轡を噛ませて床に転がした。
「え、えっと!カーシャ様!彼は怪しい者では無いんですっ!」と、必死に弁明するアフィナにおれも追随して、ウンウン頷いておく。
カーシャは額に汗を流しつつも、「ま、まぁこんな夜更けに立ち話もなんね・・・とりあえず入って。」と、言ってくれた。
ありがとう大人な対応。
この変態は気にしないでくれ、おれも泣きたい。
■
「ねぇ・・・なんでセイは、『悪魔』って言うの?」
結界塔に入り、「とりあえずお茶でも」と言ってキッチンに向かったカーシャを待つ間、アフィナが声をかけてくる。
「朝、おれの幼馴染が、ドラゴンと天使しか使わないって言ったろ?おれの『魔導書』も似たようなもんでな、悪魔族と堕天使、あとは国を追われた奴とかしか入ってないんだ。まぁおれの場合、それだけが理由でも無いんだがな・・・。」
そう、おれの『魔導書』も、少々くせがある。
使う盟友も闇属性に偏っているし、魔法も闇と炎ばかりだ。
あと強化魔法があるくらいで、回復とかは苦手なんだよな。
怪我だけは気をつけないといかんな・・・
回復なんかはウララが得意なんだ・・・似合わないけど。
「そうなんだ・・・ボク悪魔族って見た事無いよ。」
おれの答えに呟くアフィナ。
ん?アフィナは気付いてないのか?
「何言ってんだ?ずっと見てるだろ?」
おれはそう言って、床に転がる変態の白い髪の天辺を少しずらす。
そこには小さな白い角が生えている。
そう、エデュッサは『砂漠の瞳』という魔族が住む国の、指導者級盟友だ。
たしかおれの主力盟友、『金色の瞳』リザイアと同じ鬼人族っていう魔族だったはずだ。
びっくりするアフィナを尻目に、角を見せる時一際ウーウー唸ったエデュッサが気になるので、少しだけ猿轡をずらしてやる。
「ご主人様!異性に角を見られた鬼人族の女は、その人と結婚しなければいけないしきたりがあるんです!さぁご主人様、あたいと伽を!」
うん、こいつブレないな。
おれは、「そんなしきたりは知らん。事故だ。」と言って、猿轡を締めなおした。
「魔族って・・・みんなこうなの?」
アフィナそれは誤解だ、エデュッサが変態なだけだ。
「セイの場合は・・・使う盟友以外にも、理由があるの?」
聞いてたのか。
「ああ、おれは昔からなぜかカードの引きが良くてな、悪魔の引きなんて言い出した奴が居てな。まぁそれからだ。」
あれは中々に黒歴史だ、できれば思い出したくない。
「そんなに引きが良い人が、なんであの人を呼ぶの?」
床に転がるエデュッサを見ながら呟くアフィナ。
あの時は『魔導書』が二枚しかなかったんだから、仕方ないだろう?
おれもできれば呼びたくなかった。
そこにカーシャが、ティーセットと果物の篭盛りをトレイに乗せて戻ってきた。
「お腹、空いてるでしょう?こんなものしかないけど。」
柔らかく微笑むカーシャ。
そういえば移動中干し肉を齧ったくらいで腹が減っている、気が利くな。
その淑女然とした振る舞いを、是非残念と変態にも見習っていただきたい。
「ありがとうございます、カーシャ様。」と言って、果物を手に取るアフィナに習い、おれも篭の中の果物を取ろうとしてハタと気付く。
「『森の乙女』カーシャ、これは・・・」
「あら、食べたこと無いかしら?『夢の林檎』、おいしいわよ?」
思わず絶句したおれに、小首を傾げながら答えるカーシャ。
おれはこの果物、『夢の林檎』に見覚えがある。
カーシャが見ているが、エデュッサを転がす時、勢いで『図書館』も使ってしまったし、今更だろう。
おれは、『夢の林檎』を『カード化』して『図書館』に収納する。
「セイ?どしたの?」と、アフィナが訝しんでくるが、今はそれどころではない。
『図書館』に入れた、『夢の林檎』のテキストが変わっている。
『カード化』した時は【食料:果物】としか書いていなかったが、今テキストには【ドロー3】と書いてある。
おれは『魔導書』のカードと、『夢の林檎』を入れ替える。
「魔導書」
おれの周りに、A4のコピー用紙サイズのカードが二枚浮かび上がる。
あれから二枚しか増えていない、だが・・・
そこには『夢の林檎』のカードが、確かにあった。
おれは迷わずそれを選択する。
中空に林檎が浮かび、三つに割れるエフェクトが現れ・・・おれの展開する『魔導書』は四枚になった。
(これは・・・!そういうことか!)
「カーシャ、『夢の林檎』はたくさんあるか?」
呆然とその光景を見詰めていたカーシャに、問いかける。
「え、ええ、まだ二、三個はあったと思うけど・・・。今のは一体・・・?」
「後で説明する、林檎は全部くれないか?」
「・・・よくわからないけど・・・わかったわ。」そう言って、席をはずすカーシャを見送り、おれはガッツポーズしたい気分だった。
「セイ、今のって。」
確信を持って見つめてくるアフィナに、首肯で答える。
おれはこの森の中で、アフィナに説明していた。
『魔導書』の、手札枚数という弱点。
使用すると、手札三枚に変わる『夢の林檎』は正に、弱点克服に最適なカードだった。
そしてこの現象は一つの可能性を暗示する。
『図書館』に入れることで、『地球』の設定と同様になるカードが存在する。
おれはこの世界のことを、もっと調べなければいけない・・・。
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