表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
209/266

・第百九十九話 『平角鹿王(キングカリブー)』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


 異世界からこんにちは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、君は今呆れているだろうか?

 まぁ兄貴・・・結局放っておけなかったよ。

 おっさん激おこの原因は、おれたちにもあるしなぁ・・・。

 ただ、漠然としすぎててな?

 「ノモウルザをぶっ飛ばす」(キリッ

 したはいいんだが・・・実際問題、何から手を付ければ良いのやら。

 今までもほとんど行き当たりばったりだったし・・・。

 いや、投げてないよ?

 おれだって色々と考えてはいるんだ。

 でも大抵あれなんですよね、気付いた時にはアフターカーニバル。

 だれか攻略本とか持ってないかね?



 ■



 荒ぶる里の衆を何とか説得。

 だってさ、いくらなんでもこの人たちを、祟り神に向けて突撃させる訳にゃいかんでしょうよ。

 子供だっていっぱい居るんだぜ?

 ただ、目的=おっさんフルボッコ←これの手段がわからない。

 所詮おれたちは招かれざる客。

 この地域のことなんて、何一つ把握できていないのだから。


 結局ポーレ長老やら里の知恵者に話を聞き身の振りようを模索。

 その結果おれは、少々・・・いや大分後悔する羽目になっていた。

 里の古老たちは語る。

 信仰は力、この地域で圧倒的信仰を集めるノモウルザをぶっ飛ばすためには、その信仰を揺るがす必要がある。

 なるほど道理だ。それで?


 ならばまず、氷人族と雪人族の王に会うのが良いだろう。

 お互いにこの地域に根差す原初の種族。

 彼らにおれと言う存在、主神の使徒としての力を見せつけ、その言を信ずるに足るとわからせるのだ。

 んん?なんか面倒な予感がしてきたぞ。


 『罅割窟』が封鎖される前、彼らは氷人と雪人に分かれて戦争を繰り返していた。

 なぁに主神の使徒であるセイだ、何の心配も無いとも。

 思うさま暴れてやると良い!

 なんか途中で面倒くさくなってないか?


 まぁ・・・それはともかく。

 これは撫子姉さんが奴の祭壇から調べた結果だが、氷人族と雪人族の諍いってのが、どうもノモウルザの権能を強化する効果があるらしい。

 わざと争わせて、その負のエネルギーを回収しているとかなんとか。

 聞けば聞くほど守護神の欠片も無いじゃねーか。 

 再認識、ここまで来て引く気はない。 


 (乗りかかった船だしな・・・。)


 もういいぜ、この地域まるっとおれが面倒見てやんよ?

 

 この後の方針も決まり、おれや撫子姉さんもポーラ一家の天幕で眠りについた。

 洞窟から戻って即座に宴、料理に濃い会話。

 ロカさんが肩口をたっしたっしするまで泥のように眠った。


 明けて朝。

 昨夜はぐっすりだったアフィナとシルキーにも説明した結果、意外にもそんなに反応されなかった。

 「何となくそうなる気がしたよ。」だそうで。

 おれ、そんなにわかりやすいかね?げせぬ・・・。


 ポーラ一家に一宿の謝辞を述べ、仲間たちと連れだって天幕の外へ。

 祟り神が虎視眈々と恨みつらみを磨いているのが、ウソのように抜けた青空。

 旅立ちには丁度良いだろう。

 

 天幕を出たところで里の住人たちに囲まれる。

 

 「兄ちゃん!おいとこの燻製鮭を持っていくべ!」


 「いやいや、セイはうちの燻製肉さ持ってくだよな?な?」


 「あたしんとこからは『雪狼スノウウルフ』の毛皮だべ!寒さにはこれが一等だべさ?」


 集まった住人は、手ずから自分の家秘蔵の逸品を持ち寄り、口々の売り込みをしながらおれへと押し付けてくる。

 無料でくれるらしいから売り込みってのもおかしいが。

 次々におれの腕に乗せられる、彼らの心づくしの贈り物。

 徐々に、おれの身体すら埋めかねない勢いで積みあがっていく。

 まぁとりあえず落ち着け?

 量が量だ、一気に抱えられる訳ねぇだろうが!

 『カード化』すればどうってことないんだが、こいつら全くその隙を与えない。

 いい加減イライラしはじめた所で、里の住人同士罵り合いが始まった。


 「トーマス!セイはおめとこの田舎臭い燻製鮭なんか食わねぇだ!」


 「うっせ!うっせ!アーノルド!おめの燻製肉なんて脂っこくて食えたもんでねぞ!?」


 「なにをっ!?」「なんだとっ!?」


 ああもう、なんでそんなことでバトってんだよ!?

 「お前ら!いいか・・・」


 「このバカども!セイが困ってるべ!?」

 

 取っ組み合いを始めた鯔族と海驢族のおっさんたちは、おれが止める間もなく・・・。

 『雪狼スノウウルフ』の毛皮を山ほど持ってきてくれた、白ウサのお姉さんに殴り倒される。

 ボグシャァ!とあり得ない音を出す二人。

 揃って「「あひゅん!」」と叫び地面とキスをした。

 白ウサさん強すぎだろう?

 彼女ならノモウルザも倒せるかもしれない。



 ■



 準備は整った。

 村人たちの贈り物は全て『図書館ライブラリ』へ収納済み。

 そして道中の足であり、氷原踏破の相棒。

 長老が飼っている『平角鹿王キングカリブー』の中でも一等丈夫、性格も穏やかで扱いやすい個体、まだ三歳・・・成長株だと言う。

 膝を折って待つ彼には、すでに鞍や鐙が装着済みだ。

 4mを超す巨体に似合わず、なんとも穏やかな眼差し。

 自然、おれは目線を合わせずに居られなかった。

 そっと白い長毛に指先を通す。

 心地良いと思ってくれているのか、『平角鹿王キングカリブー』はその円らな瞳を細める。

 竜兵には怒られそうだが・・・バイアのそれと比べてもそん色がない。


 (くそっ!もふもふじゃないかっ!)


 心の中で思わずつぶやく。

 いや別に、くそでも何でもないんだが。

 むしろこれから極寒地域に行くに当たり、何とも心強い限りなのだが。

 アフィナやシルキーも最初は恐る恐る、馴れてくると少々大胆にもふっている。

 ああ、アフィナに対しては若干いやがっているようだ。

 そう、あいつは危険人物だ、野生の勘すげぇな。

 

 「気に入って・・・頂けたべか?」


 おれたちの様子を観察していた長老が声をかけてくる。

 是非もない、こいつとは長い付き合いになりそうだ。

 こくり頷き、問いかけた。

 

 「こいつの名前は?」


 「名前・・・ですべか?わしらは魔物に名前を付ける風習は無いべ。」


 騎獣として扱われていても名前は無いのか。

 たぶんこの地域じゃ普通のことなんだろうが、それは何だか寂しい。

 アフィナやシルキーも同じ考えなのか、少しだけ表情を曇らせる。


 「こいつはもうセイの騎獣だべさ。良かったらセイが名前付けてやって欲しいべ。」


 最初は借りるって話だったはずなんだが・・・いつのまにか「うちの子」認定されている。

 長老の言葉を聞いた途端、「はいはーい!ボクが付けたい!」と自己主張著しい残念。

 聞くだけは聞いてやろう、目線で促せば・・・。


 「白いからシロ!」


 「却下。」


 ある意味予想の斜め上、残念の面目躍如なお言葉だ。

 おれの腕の中、ロカさんも彼の瞳をじっと見つめていた。

 おれとロカさん、そして『平角鹿王キングカリブー』の視線が交錯する。


 「主!この者は良いであるな!信頼のできる目をしているのである!」


 ロカさんのお墨付きだ。

 おれもその意見には全面賛成、シルキーもにこにこと頷き、アフィナだけがふくれっ面。

 なんだその頬っぺた?黒パンでも目いっぱい詰まってんのか?

 アフィナの頬っぺたに意識が向きかけるが修正。

 ロカさんの言葉がすっと心に浸透してきた。

 「信頼」か・・・なんとなくだがこの出会い、運命的な物すら感じる。

 思い起こせばポーラとの友誼から始まった旅程。

 おれはすでに、この里の連中を信頼しきってしまっている。


 「決めた。お前の名前は今日から「リライ」だ。」


 英語で「信頼する」と言う言葉。

 リライは気に入ってくれたのか「ヴォフ!」と一声、大きく頷いた。


 旅立つメンバーはリライの前へ並ぶ。

 おれ、おれの頭の上へ移動したロカさん、アフィナとシルキー、それにポーラだ。

 なぜこのメンバーになったかと言うと・・・。

 

 「撫子は・・・この里に残るね?せーちゃんが、全てを終わらせて迎えに来てくれるのを待ってるよ。」


 彼女がおれを真っ直ぐに見つめて微笑み、こう切り出したのは昨日の話の最後だった。

 

 「わかった。待っててくれ。」


 おれの胸中、決して言葉では言い表すことはできない。

 何となく・・・予想していた。

 要はウララや竜兵にフローリア、シャングリラを守ってもらっているのと同じ理由。

 おれと撫子姉さんが去った後、この里に辛苦が降りかかることはお互い許せなかったのだ。

 そして彼女は『地球』でおれのスタイルを、『魔導書グリモア』の中身を知り尽くしている。

 なぜなら、『地球』に居た頃のおれは、姉さんの『魔導書グリモア』を参考にしていたのだから。

 ・・・そして彼女自身、今は神として彼の国『砂漠の瞳』を守護している。

 つまり、おれが防衛を苦手としていることは筒抜けだった。


 そして道中の道案内兼、この地域の常識等補佐役としてポーラ。

 最初は長老が「わしが行く!」と言ってごねてたんだが、一家どころか里の衆全員から反対されてあえなく撃沈。

 孫であるポーラの同行をおれが認めたことで、やっと落ち着いてくれた。

 迷惑をかけてすまんなぁと思ってたんだが、本人は至ってご機嫌。


 「おい、内陸は初めてで楽しみだべ!」


 との談。

 いよいよ出発、しばしの別れだ。

 各人に各々言葉を紡ぐ。


 「アフィナちゃん、シルキーちゃん、それにロカさんとポーラちゃんも・・・せーちゃんをよろしくね?」


 そう言って微笑む撫子姉さんの瞳、少しだけ涙が浮かんでいて・・・。

 感極まったアフィナとシルキーが、「「姉さん!!」」と叫び彼女の豊かな胸に飛び込んでいく。

 いつの間にそんなに仲良くなってたんだよ?

 

 「うむ。主の姉御殿。吾輩の全身全霊で主を守ると誓うのである!」

 

 「アギマイラ様もどうぞ息災で。おいの里をお願いするべ。」


 抱き合う三人の乙女たちを見ながら、ロカさんとポーラはそう締めくくった。

 アフィナとシルキーをリライへと先に乗せ、おれは撫子姉さんと正対する。

 言うことは決まっていた。

 彼女もきっとその言葉を願っているだろう。

 あの日・・・自宅療養中に容体が急変して、救急車に運び込まれた姉さんがおれにかけた言葉。

 うろたえるおれが姉さんに返せなかった言葉。

 今回は逆だが・・・。


 「じゃあ姉さん、行ってきます。」


 「うん・・・せーちゃん、いってらっしゃい!」


 おれはきっと、この異世界でも彼女に「ただいま。」を言おう。

 『地球』では聞くことのできなかった「ただいま。」を。


 

 



ここまでお読み頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ