・第百九十九話 『平角鹿王(キングカリブー)』
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異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、君は今呆れているだろうか?
まぁ兄貴・・・結局放っておけなかったよ。
おっさん激おこの原因は、おれたちにもあるしなぁ・・・。
ただ、漠然としすぎててな?
「ノモウルザをぶっ飛ばす」(キリッ
したはいいんだが・・・実際問題、何から手を付ければ良いのやら。
今までもほとんど行き当たりばったりだったし・・・。
いや、投げてないよ?
おれだって色々と考えてはいるんだ。
でも大抵あれなんですよね、気付いた時にはアフターカーニバル。
だれか攻略本とか持ってないかね?
■
荒ぶる里の衆を何とか説得。
だってさ、いくらなんでもこの人たちを、祟り神に向けて突撃させる訳にゃいかんでしょうよ。
子供だっていっぱい居るんだぜ?
ただ、目的=おっさんフルボッコ←これの手段がわからない。
所詮おれたちは招かれざる客。
この地域のことなんて、何一つ把握できていないのだから。
結局ポーレ長老やら里の知恵者に話を聞き身の振りようを模索。
その結果おれは、少々・・・いや大分後悔する羽目になっていた。
里の古老たちは語る。
信仰は力、この地域で圧倒的信仰を集めるノモウルザをぶっ飛ばすためには、その信仰を揺るがす必要がある。
なるほど道理だ。それで?
ならばまず、氷人族と雪人族の王に会うのが良いだろう。
お互いにこの地域に根差す原初の種族。
彼らにおれと言う存在、主神の使徒としての力を見せつけ、その言を信ずるに足るとわからせるのだ。
んん?なんか面倒な予感がしてきたぞ。
『罅割窟』が封鎖される前、彼らは氷人と雪人に分かれて戦争を繰り返していた。
なぁに主神の使徒であるセイだ、何の心配も無いとも。
思うさま暴れてやると良い!
なんか途中で面倒くさくなってないか?
まぁ・・・それはともかく。
これは撫子姉さんが奴の祭壇から調べた結果だが、氷人族と雪人族の諍いってのが、どうもノモウルザの権能を強化する効果があるらしい。
わざと争わせて、その負のエネルギーを回収しているとかなんとか。
聞けば聞くほど守護神の欠片も無いじゃねーか。
再認識、ここまで来て引く気はない。
(乗りかかった船だしな・・・。)
もういいぜ、この地域まるっとおれが面倒見てやんよ?
この後の方針も決まり、おれや撫子姉さんもポーラ一家の天幕で眠りについた。
洞窟から戻って即座に宴、料理に濃い会話。
ロカさんが肩口をたっしたっしするまで泥のように眠った。
明けて朝。
昨夜はぐっすりだったアフィナとシルキーにも説明した結果、意外にもそんなに反応されなかった。
「何となくそうなる気がしたよ。」だそうで。
おれ、そんなにわかりやすいかね?げせぬ・・・。
ポーラ一家に一宿の謝辞を述べ、仲間たちと連れだって天幕の外へ。
祟り神が虎視眈々と恨みつらみを磨いているのが、ウソのように抜けた青空。
旅立ちには丁度良いだろう。
天幕を出たところで里の住人たちに囲まれる。
「兄ちゃん!おいとこの燻製鮭を持っていくべ!」
「いやいや、セイはうちの燻製肉さ持ってくだよな?な?」
「あたしんとこからは『雪狼』の毛皮だべ!寒さにはこれが一等だべさ?」
集まった住人は、手ずから自分の家秘蔵の逸品を持ち寄り、口々の売り込みをしながらおれへと押し付けてくる。
無料でくれるらしいから売り込みってのもおかしいが。
次々におれの腕に乗せられる、彼らの心づくしの贈り物。
徐々に、おれの身体すら埋めかねない勢いで積みあがっていく。
まぁとりあえず落ち着け?
量が量だ、一気に抱えられる訳ねぇだろうが!
『カード化』すればどうってことないんだが、こいつら全くその隙を与えない。
いい加減イライラしはじめた所で、里の住人同士罵り合いが始まった。
「トーマス!セイはおめとこの田舎臭い燻製鮭なんか食わねぇだ!」
「うっせ!うっせ!アーノルド!おめの燻製肉なんて脂っこくて食えたもんでねぞ!?」
「なにをっ!?」「なんだとっ!?」
ああもう、なんでそんなことでバトってんだよ!?
「お前ら!いいか・・・」
「このバカども!セイが困ってるべ!?」
取っ組み合いを始めた鯔族と海驢族のおっさんたちは、おれが止める間もなく・・・。
『雪狼』の毛皮を山ほど持ってきてくれた、白ウサのお姉さんに殴り倒される。
ボグシャァ!とあり得ない音を出す二人。
揃って「「あひゅん!」」と叫び地面とキスをした。
白ウサさん強すぎだろう?
彼女ならノモウルザも倒せるかもしれない。
■
準備は整った。
村人たちの贈り物は全て『図書館』へ収納済み。
そして道中の足であり、氷原踏破の相棒。
長老が飼っている『平角鹿王』の中でも一等丈夫、性格も穏やかで扱いやすい個体、まだ三歳・・・成長株だと言う。
膝を折って待つ彼には、すでに鞍や鐙が装着済みだ。
4mを超す巨体に似合わず、なんとも穏やかな眼差し。
自然、おれは目線を合わせずに居られなかった。
そっと白い長毛に指先を通す。
心地良いと思ってくれているのか、『平角鹿王』はその円らな瞳を細める。
竜兵には怒られそうだが・・・バイアのそれと比べてもそん色がない。
(くそっ!もふもふじゃないかっ!)
心の中で思わずつぶやく。
いや別に、くそでも何でもないんだが。
むしろこれから極寒地域に行くに当たり、何とも心強い限りなのだが。
アフィナやシルキーも最初は恐る恐る、馴れてくると少々大胆にもふっている。
ああ、アフィナに対しては若干いやがっているようだ。
そう、あいつは危険人物だ、野生の勘すげぇな。
「気に入って・・・頂けたべか?」
おれたちの様子を観察していた長老が声をかけてくる。
是非もない、こいつとは長い付き合いになりそうだ。
こくり頷き、問いかけた。
「こいつの名前は?」
「名前・・・ですべか?わしらは魔物に名前を付ける風習は無いべ。」
騎獣として扱われていても名前は無いのか。
たぶんこの地域じゃ普通のことなんだろうが、それは何だか寂しい。
アフィナやシルキーも同じ考えなのか、少しだけ表情を曇らせる。
「こいつはもうセイの騎獣だべさ。良かったらセイが名前付けてやって欲しいべ。」
最初は借りるって話だったはずなんだが・・・いつのまにか「うちの子」認定されている。
長老の言葉を聞いた途端、「はいはーい!ボクが付けたい!」と自己主張著しい残念。
聞くだけは聞いてやろう、目線で促せば・・・。
「白いからシロ!」
「却下。」
ある意味予想の斜め上、残念の面目躍如なお言葉だ。
おれの腕の中、ロカさんも彼の瞳をじっと見つめていた。
おれとロカさん、そして『平角鹿王』の視線が交錯する。
「主!この者は良いであるな!信頼のできる目をしているのである!」
ロカさんのお墨付きだ。
おれもその意見には全面賛成、シルキーもにこにこと頷き、アフィナだけがふくれっ面。
なんだその頬っぺた?黒パンでも目いっぱい詰まってんのか?
アフィナの頬っぺたに意識が向きかけるが修正。
ロカさんの言葉がすっと心に浸透してきた。
「信頼」か・・・なんとなくだがこの出会い、運命的な物すら感じる。
思い起こせばポーラとの友誼から始まった旅程。
おれはすでに、この里の連中を信頼しきってしまっている。
「決めた。お前の名前は今日から「リライ」だ。」
英語で「信頼する」と言う言葉。
リライは気に入ってくれたのか「ヴォフ!」と一声、大きく頷いた。
旅立つメンバーはリライの前へ並ぶ。
おれ、おれの頭の上へ移動したロカさん、アフィナとシルキー、それにポーラだ。
なぜこのメンバーになったかと言うと・・・。
「撫子は・・・この里に残るね?せーちゃんが、全てを終わらせて迎えに来てくれるのを待ってるよ。」
彼女がおれを真っ直ぐに見つめて微笑み、こう切り出したのは昨日の話の最後だった。
「わかった。待っててくれ。」
おれの胸中、決して言葉では言い表すことはできない。
何となく・・・予想していた。
要はウララや竜兵にフローリア、シャングリラを守ってもらっているのと同じ理由。
おれと撫子姉さんが去った後、この里に辛苦が降りかかることはお互い許せなかったのだ。
そして彼女は『地球』でおれのスタイルを、『魔導書』の中身を知り尽くしている。
なぜなら、『地球』に居た頃のおれは、姉さんの『魔導書』を参考にしていたのだから。
・・・そして彼女自身、今は神として彼の国『砂漠の瞳』を守護している。
つまり、おれが防衛を苦手としていることは筒抜けだった。
そして道中の道案内兼、この地域の常識等補佐役としてポーラ。
最初は長老が「わしが行く!」と言ってごねてたんだが、一家どころか里の衆全員から反対されてあえなく撃沈。
孫であるポーラの同行をおれが認めたことで、やっと落ち着いてくれた。
迷惑をかけてすまんなぁと思ってたんだが、本人は至ってご機嫌。
「おい、内陸は初めてで楽しみだべ!」
との談。
いよいよ出発、しばしの別れだ。
各人に各々言葉を紡ぐ。
「アフィナちゃん、シルキーちゃん、それにロカさんとポーラちゃんも・・・せーちゃんをよろしくね?」
そう言って微笑む撫子姉さんの瞳、少しだけ涙が浮かんでいて・・・。
感極まったアフィナとシルキーが、「「姉さん!!」」と叫び彼女の豊かな胸に飛び込んでいく。
いつの間にそんなに仲良くなってたんだよ?
「うむ。主の姉御殿。吾輩の全身全霊で主を守ると誓うのである!」
「アギマイラ様もどうぞ息災で。おいの里をお願いするべ。」
抱き合う三人の乙女たちを見ながら、ロカさんとポーラはそう締めくくった。
アフィナとシルキーをリライへと先に乗せ、おれは撫子姉さんと正対する。
言うことは決まっていた。
彼女もきっとその言葉を願っているだろう。
あの日・・・自宅療養中に容体が急変して、救急車に運び込まれた姉さんがおれにかけた言葉。
うろたえるおれが姉さんに返せなかった言葉。
今回は逆だが・・・。
「じゃあ姉さん、行ってきます。」
「うん・・・せーちゃん、いってらっしゃい!」
おれはきっと、この異世界でも彼女に「ただいま。」を言おう。
『地球』では聞くことのできなかった「ただいま。」を。
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