表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
208/266

・第百九十八話 『宴の後』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^

 

 異世界からこんばんは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、いかな強敵とは言え倒せないもんじゃない。

 兄貴は頑張ったぞ!

 たぶん・・・賞賛の域に達する類の物だと思う。

 「また戦闘!?」いや、ちが・・・ある意味戦場だったけど・・・。

 だって、獣人族の皆さんがな?どうも初対面の時は遠慮してたらしくてだな。

 本気だしたらまじすげーのよ。

 なにが本気って・・・うん、尋常じゃない健啖ぶりだったんだ。

 いや、あの、料理なんですがね・・・。

 鯔族の漁師さんが秘蔵の燻製鮭を引っ張り出し、そいつを片っ端からスライスしてクリームチーズやオニオンスライスを盛りつけたり。

 「お手伝いする!」と気合の入った獣人幼女に、一口サイズのウインナーやボイル野菜を爪楊枝で纏める作業をさせたり。

 そんな簡単な作業中に、なぜかアフィナから爪楊枝を刺されたロカさんを救出したりだな。

 撫子姉さんお手製のミートローフに、久々舌鼓を打ったりしていた。

 うん、そんな冷たい目で見なくていいと思うんだ。

 別に状況を楽観してる訳じゃ・・・遊んでないよ。

 ほんとだよ?



 ■



 宴もたけなわだろう。

 急きょ設営された里唯一の広場、宴会場は中々に惨憺たる状況だった。

 獣人族の奥さん方総勢とおれや撫子姉さん、それにお手伝いのシルキーや邪魔係りのアフィナ。

 それぞれがあり得ないほどの料理を用意したのだが・・・。

 地面やテーブルに空の皿や杯が乱雑に放り投げられ、男衆は見事撃沈。

 奥さん方に蹴り起こされ各々の自宅へ帰っていく。

 さすがに子供たちは途中で寝かしに行っていたがな。

 うちの残念と馬の方も力尽き、さっき長老の家に転がしてきた。

 結構な強行軍だったし、またしても神様登場だったからなぁ。


 天幕から広場に戻れば、人もずいぶん疎らになっていた。

 おれもやっと人心地、約三時間ぶりに座れましたよ。

 ロカさんがてくてくと近付いてきて、ジャンプ一番、おれの膝の上で丸くなる。

 白夜のおかげで十分明るいんだが、暖と景気づけの為?煌々と焚かれたかがり火の下、まんじりともせず、紅茶のカップを傾ける。


 ついさっきまではそれなりに人も居たんだが、今はもう長老を加えたポーラ一家と、おれ、ロカさん。

 あとは・・・アルカ様とノモウルザの祭壇を見に行った撫子姉さんだけだろう。

 目的は聞いていない。

 神となった撫子姉さんにしかわからない何かがあるようだ。


 時折響くポーラ一家の会話をBGM、静かな時間流れる。

 ある意味での人払い、おそらくだが・・・里の連中も気を利かせたんだと思う。

 家族水入らずってのもあるんだろうし、撫子姉さんのこともある。

 ほとんどさっくりした説明しかしていないのだが、彼女が『狂気の女神』アギマイラと同じ姿であることに気付いていないのは、一部の幼い子供たちだけだった。

 それでもおれたちを信用し、何も説明を求めずに受け入れてくれたここの住人たちは、よっぽど懐が深い。

 もちろん、ポーロ氏やロントラさんの生還って言う影響があるんだろうけどな。

 

 ロカさんもおれの膝の上、伏せった状態で静かな寝息を立てている。

 寝ていたロカさんの耳がピクリ、ふいに背後に人の気配。

 良く知っていた懐かしい、何とも言えない柔らかな気配。


 「せーちゃん、お疲れ様。」


 「姉さんもね。」


 そんなやり取りを交わし、撫子姉さんがおれの横にふわりと腰かけた。

 姉さんはおれの手杯を覗き込み、「何を飲んでるの?」と尋ねてくる。

 

 「紅茶・・・ぽいものだよ。姉さんも飲む?」


 『図書館ライブラリ』を展開しながら答えれば、「ふふ・・・。」と柔らかい微笑み。


 「撫子はお酒が良いな?」


 (ああ、そういやこの人お酒好きだったな。)


 そんないつかの思い出を想起しながら、『図書館ライブラリ』を操作。

 酒は・・・料理酒以外無かった気がする。

 おれたちの会話を何処となし聞いていたのだろう。

 ポーレ長老が、酒杯と酒瓶を持ってのっそりと顔を出す。


 「お二方、わしらも混ぜてもらって良いべかのぅ?」


 「ああ、長老気にしないでくれ。姉さんに酒を入れてやってくれるか?」


 おれはこくり頷き、撫子姉さんも「もちろん。」と笑顔を見せた。

 ポーラとポーロ氏が連れだって席に着く。

 最後にロントラさんが、多少残った料理の見栄えの良い部分を皿に纏めてテーブルへ。

 こういう心遣いは助かるな。

 作るのがメインでおれ、ほとんど食ってないんだよ。

 

 円形のテーブルに各々腰かけ、誰となし杯を軽く打ち合わす。

 乾杯の文化は異世界でも共通らしい。

 因みにおれ以外・・・同い年のポーラも飲んでいるのは酒だ。

 白熊族は酒にめっぽう強いそうな。

 おれはと言えば・・・。

 串に刺してあるウインナーをはずしてロカさんの口元へ、おれは下の部分・・・フライドポテトをつまむ。

 しばし沈黙が過ぎる。

 ロカさんの「むむ!これはなかなか・・・。」などと言う呟きと、モグモグ可愛らしい咀嚼音を聞きながら、各々杯を重ねていた。

 

 程なくして・・・。

 撫子姉さんが表情を陰らせ、「ほぅ・・・。」と物憂げなため息を吐いた。

 全員の視線、自ず彼女に集まる。

 姉さんが「祭壇を見に行く。」って言った時から何となくは察していた。

 たぶん詰めなきゃいけない話がある。

 


 ■



 まぁ予想通りっちゃ予想通りだった。

 青いおっさんご乱心である。

 いや、祟り神としてなら本懐なのかもしれないが。

 要は・・・姉さんがノモウルザの祭壇を調べたところ、「祟っちゃうぞコノヤロウ!」状態だそうで。

 おれたちや、本来なら自分の信者であるはずの白熊族、白兎族にまで見放されたこと。

 しかも分身体だったにせよ追い返された原因が、権能を減じた二柱の女神や、パッと見ただの人族なおれだった。

 奴としては甚くプライドを傷つけられたそうな。

 こちらとしてはまさに、「知らんがな。」である。


 「はぁ・・・で、姉さん?あのおっさんはいつ、何をしようとしてる?」


 話の一段落、うんざりとした思いをため息に変えて吐き出し、撫子姉さんに問いかけた。

 彼女は悲しげに眉を八の字にする。


 「何時っていうのは正直わからない。ただ・・・そんなに時間は無いと思うよ。やろうとしてるのは・・・伝わってきた魔力の波形から察するに・・・無差別の雪崩とか吹雪かな・・・?」


 (おいおい・・・。)


 自分の頬が引き攣ってるのがわかる。

 シャレにならんってレベルじゃねぇぞ?

 『氷雪神』の称号そのまま、無差別雪崩と吹雪のテロかよ。


 「無差別ってことは・・・おれたちがここから移動しても?」

 

 宴の時間はまずかったか・・・いやしかし、アフィナやシルキーは割と限界だったと思うし・・・。

 思い悩むおれに、撫子姉さんはゆるゆると頭を振る。

 くそっ!この里の連中は関係ねぇだろうが・・・。


 「今はアールカナディア様が、神々の領域から干渉を制限してるみたいだけど・・・。」


 一度切ったセリフは「・・・長くは持たないと思う。」と締めくくられる。

 こうなれば答えは一つしかない。

 いや、きっと最初っから答えは出ていたんだ。

 

 「主!吾輩は、一応言わねばならないのである。無茶はいかんのである。」


 今まで黙って話を聞いていたロカさん。

 おれを見上げるその赤い瞳には、確かな諦めが宿っていた。

 さすが・・・長い付き合いだな。

 

 「ノモウルザは・・・おれがぶっ飛ばす。」


 この地域の守護神と言われている存在に対し、決定的言葉を吐いた。

 もはや後戻りはできないだろう。


 「せーちゃん・・・。」「主・・・。」

 

 何か言いかけて止める、そんな撫子姉さんとロカさん。

 その時、ポーレ長老が重い口を開いた。


 「息子や孫にも話は聞いておったが、ほんにノモウルザ様がのぅ・・・。」


 宗教の根は深い。

 特に神が現実に顕現するこの世界なら・・・。

 例え血を分けた息子や孫の言葉でも、実際に目撃した訳ではないポーレ長老が、俄かに信じられなかったとしても仕方のないことだ。 

 だが・・・黙考する長老は言う。


 「ですが・・・今わしらの目の前には、アギマイラ様が顕現しておられるべ。他国の神と言え、その言に疑う余地は無い。ましてや主神アールカナディア様も、息子たちをお救いくだすったと言うべ。それに比べてどうだべ?わしらが信奉しておった『氷雪神』は、罪も無い女神を捕らえ、あまつさえ主神様を喰らおうとしたと言う・・・。そのうえ更に祟り?わしらを馬鹿にするのも大概にするべ!」


 長老の言葉にポーラたちがこぞって頷いた。

 彼らの表情は真剣そのもので、冷汗が背中を伝っていく。

 何だろうか?信じていたからこそ裏切られた思いが深いのか?

 だが・・・このセリフに続く危険性、おれはそれを言わせてしまって良いのだろうか?

 いずれこの世界を去るおれが、この世界で暮らしていく彼らのアイデンティティーを・・・。

 言霊ってあるだろ?

 言葉は力だ。

 一度握った拳は解けても、口から紡いだ音は決して消し去ることはできない。


 「ポーレ長老・・・それは!」


 止めようとしたおれを手で制し、ポーレ長老は朗々と告げる。


 「それにわしらはすでにセイたちと友誼を結んでおりますべ!『メスティアの民は何よりも友誼を重んず』。わしの・・・遠い祖先からの決して違えることならぬ掟だべ!今この時より・・・ノモウルザ様・・・いや、悪神ノモウルザはわしらの敵だべぇ!」


 一度瞑目した長老、再度開いた眼差しに迷いの色は一切なく、何とも男臭いウィンクを向けてくる。



 ■



 宣言に面喰らい二の句が継げないおれと撫子姉さん。

 瞬間、怒号が冷たい空気を割り割いた。


 「「「うおおおおおおおおおおおお!!!」」」


 「話は聞かせてもらったべぇ!」


 「良く言った!良く言ったべ!里長さとおさぁ!!!」


 「んだべ!んだべ!アールカナディア様を喰らおうとするなんざ、神様の風上にも置けねぇべ!」


 「こんな若い友達が戦うってのに、あたしらが何もしない訳にゃいかねぇべ!それにあたしらにゃ女神さまが二柱もついてるべさ!」


 「んだぁ!アールカナディア様とアギマイラ様のお墨付きだべぇ!」


 里の大人たち大集合である。

 どうやら密談だと思っていただけで、里の衆にはまるっと聞かれてしまっていたらしい。

 それにしても・・・アルカ様と撫子姉さんの評価が思いのほか高ぇな?

 まぁ実際敬うにしても、見目麗しい美女と毛むくじゃらの青いおっさんとか、二択の余地も無いわ。


 大人たちの意気はとどまるところを知らず。

 せっかく寝かしつけただろう子供たちも起きてしまい、大人たちの傍でぴょんぴょん飛び跳ねる。  

 なんかもうすげーんだけど・・・酒瓶とか握りしめた鯔やら海驢やら、果ては白ウサのお姉さんとかまで「やってやる!やってやるべ!」なんて闘志を剥き出しに。

 色々溜まってたんだろうか・・・。

 この状況で全く起きる気配のない、うちの残念と馬の人はどうなってんだ?


 盛り上がっていく村人たちと反比例。

 どんどんおれの心は静かになっていく。

 素直に気持ちはありがたいと思う。

 ただ・・・何と言うか・・・普通の村人に神様とドンパチは無理ですよね?

 決定的瞬間は刻一刻と迫っていた。 

 

 一しきり騒いだ後、ポーレ長老が皆を鎮める。


 「セイ、それにアギマイラ様!わしらの覚悟はわかってもらえたと思うべ!これは勢いで言ってるんじゃ無いべ!ただ・・・わしらは所詮田舎の村人だべ。魔物程度ならまだしも、神様となんか戦ったことは無いべ・・・。」


 長老は意外と冷静だった。

 良かった、竹槍握って突貫とかされたらどうしようかと・・・。

 そりゃ神様とガチンコした人の方が少ないと思いますよ?

 あれ・・・おれ、この数か月で二回目?これから三回目・・・?

 なんだろう、おかしいな、目から汗が・・・。

 しかし・・・おれの懸念は続けられた言葉で現実のものとなる。


 「お願いするだ!わしらにできることを、戦い方を教えてくれ!」


 興奮のまま視線が集まる。

 うわぁ・・・全然わかってなかったYO!

 おれは、殊更ゆっくりと頷いた。

 全員の視線、おれの顎先に集中している。

 まるで次の言葉を催促する如く。


 「えっと・・・とりあえず、『平角鹿王キングカリブー』を一頭、都合してくれるか?」


 「もちろんだべ!」


 即答である。

 それは良い・・・しかし、彼らの目は「それからそれからぁ!?」と、雄弁に語っている。

 おれは撫子姉さんとそっと目線を交わした。

 アイコンタクト、二人の意見は一致している。


 「わしらには他に何ができるべ!?」


 沈黙に耐えられずポーレ長老、村人も期待を込めておれの言葉を待っている。

 万感の思いを込めて、おれは告げた。


 「待機かな・・・?」


 「ズコーーーーッ!!」


 一斉にずっこける村人たち。

 子供も一緒に、まるで示し合わせたかのようなタイミング。

 どこの雛壇芸人だよ。







ここまでお読み頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ