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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
207/266

・第百九十七話 『生還』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


 異世界からおはよう。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、君の見解を聞かせて欲しい。

 兄貴またしても気絶である。

 相手が意識を失うまで魔力を持ってくとか・・・。

 それって譲渡じゃなくて、吸収とか吸魔って類の物じゃ無かろうか?

 思わず脳裏に浮かんだのは、両手を前に突き出して「今だー!」と叫ぶ人造な爺さんの姿。

 いや、それはさすがにアルカ様に失礼か。

 一応は助かってる訳だしなぁ・・・。

 おーけー、一度ポーラの里に戻るんだな。

 もちろんだ、是非も無いよ。

 え?宴・・・?うんまぁ、そりゃ両親が無事でめでたいはめでたいよな。

 ああ、なるほど・・・おれもお料理するんですね?



 ■



 どのくらい気を失っていたのだろう。

 鈍く痛む頭をゆっくりと覚醒させていく。

 

 (痛つぅ・・・身体が・・・動かん。)


 鈍痛、襲い掛かってくる倦怠感と戦いながら、それでも少しずつ瞼を開いていく。

 最初に目に入ってきたのは・・・真っ白な毛皮。


 (・・・ポーラ?)


 真っ先に思い浮かんだ友人の顔。

 おれは白熊族の狩人に、しっかりと抱きしめられていた。

 もぞり、身じろぎを感じ取り、果たして予想通りの人物が顔を覗かせる。


 「セイ、セイ!良かった!気ぃ付いただな!?」


 次いでポーラの父ポール氏や、母ロントラさんが笑顔を見せる。

 口々に「良かった良かった。」と喜ぶ様、むしろ自分たちの方が大変だったはずなのに、なんだか胸の奥がじんわり熱くなる。

 この二人を救えて・・・本当に良かった。


 おそらくなのだが、彼らは自身の柔らかな毛皮でおれのことを温めてくれていたのだろう。

 おれには彼らのような耐寒性能は無いからな。

 それはいい。

 問題は、意識がはっきりしてきたことによって理解した、身体が一切動かぬ理由。

 両腕と後ろ頭が拘束されているのだ。

 そこはかとなく既視感を覚えるホールドは、おれの自由を完全に奪っていた。

 何に?いや・・・正確には誰にだな。

 もうお分かりだろう?アフィナとシルキー、それに撫子姉さんですよ。

 どうも三人は、おれを拘束したまま寝ているらしく、意識の無い人間特有のぐったりとした重さ。

 そんなおれたち四人を囲むように獣人一家の三人が、己が毛皮を駆使して壁になってくれていた。


 ぱちくり、交錯する視線、暗に説明を求めれば。


 「アールカナディア様が洞窟外まで転移ばしてくだすっただ。そん時にセイが魔力使い果たしたみてぇでな?ほら・・・ソリやら野営道具の類は、セイの本に入ってるべ?んだで、移動のしようも無くてだな。結界さ張ってセイが起きるの待ってただよ。」


 なるほど、言われてみれば気温はそう低くない。

 これが結界の恩恵なのだろう。

 しかし『カード化』と『図書館ライブラリ』の意外な弱点だな。

 便利ではあるが、おれ以外物が引き出せないからな。


 それはともかく。

 この拘束状態は何なのか?

 困り顔のおれに気付いたか、ポーラは経緯を語った。

 

 「最初はアギマイラ様が言いだしただ。何でも古来より伝わる伝統的な介抱の仕方だとかでな?本来ならば双方裸で人肌で温めるのがどうのと言ってたべが・・・アフィナとシルキーが断固反対してな。そんでその形に収まったべ。」


 姉さん・・・貴女は一体どうしてしまわれたのでしょう?

 まぁ、暖かいことは間違いないけど、動けないのは困るぞ。

 そこでハタと気付く。


 (なんか・・・忘れてるような?)


 こんな時真っ先に飛びついてくるはずの彼。

 そう、ロカさんはどうなった?

 フォルテは・・・うん、まぁお察しください。


 「ポーラ!ロカさんは!?あと、一応フォルテ?」


 おれの問いにさっと目線を逸らし、何とも言えない表情を浮かべるポーラ。

 

 「主・・・無事で良かったのである。」


 聞こえてきた声は、余りにも哀愁を漂わせていて・・・。

 声の方向に目を向ければ、おれに背を向け肩を落とす漆黒の子犬。

 見るからにしょんぼり、胸がぎゅっと掴まれるような悲しい気配を纏っている。


 「ロカさん・・・一体何が・・・。」


 「主・・・吾輩は・・・吾輩はぁ!」


 振り返り一足飛び、ピョーンと胸に飛び込んできたロカさん。

 その姿を一目見て・・・ごめん。

 おれは噴き出した。


 「なんでモヒカンやねん!」



 ■



 おれを拘束する女性陣を起こして引きはがし、ロカさんのモヒカンを修繕。

 『図書館ライブラリ』へ収納していたソリや毛布の『カード化』を解除し、具現化しながらロカさんに尋ねる。


 「ロカさん、フォルテはどうなった?」


 「むぅ・・・。」

 

 珍しく歯切れが悪い。

 またしてもおれの与り知らない所でトラブル発生だろうか。

 彼が訥々と語り始めた内容は、やはりおれの人知を超えていた。


 「イアネメリラ殿の怒りが収まらないのである。さすがに主の盟友ユニットがほぼ使えないのは困ると説明したのであるが・・・フォルテも今は、リザイア殿と共闘して説得中なのである。吾輩だけ戻ってきたのは、リザイア殿が主の身を案じての事。」


 (えー、メリラさんどんだけ怒ってんだよぅ・・・。)


 「まぁ・・・ジェスキス殿とラカティス殿が復活しておったゆえ、ほどなくして沈静化するとは思うのであるが・・・。」


 いまいち安心できない情報だが、本当にそろそろ落ち着いてくれないと困る。

 最悪、一回イアネメリラを召還して事情聴取だ。

 おれとロカさんが切ない空気に飲まれている中、ポーラが放してあった『足長山羊ロングフットゴート』を回収してくる。

 『罅割窟』を後にしたのは、太陽が中天に差し掛かる頃合いだった。


 「しかし、一階の向こう側に通じるルートが無事だったのは、僥倖だったな。」


 おれたちが寝ている間に、洞窟内を調べておいてくれたポーロ氏の情報に感謝。

 地下二階、三階部分は崩落してしまったらしいが、幸いにも『氷積湖』に抜けるルートは無事だったとのこと。

 おれの呟きを聞き留め、撫子姉さんが柔らかく微笑む。


 「アルカ様が苦心したみたいよ?この後使えなくなったら、せーちゃんが困るだろうって。そのおかげで・・・せーちゃんが気絶するくらい魔力使っちゃったらしいけどね。」


 有難いことだが、できれば事前に伝えて欲しかった所だな。

 ともあれポーラ一家を送り届けた後、この国の内陸部へ向かうことになるだろう。

 いよいよ『平角鹿王キングカリブー』をもふも・・・もとい、秋広の探索を始められる。


 帰り道は順調そのものだったと言えよう。

 『罅割窟』の沈静化による影響か、魔物の出現率が段違いに減っていた。

 一応病み上がり?と言うか、三年も壁に取り込まれていたポーロ夫妻や、神とはいえそれ以上の辛苦に晒されていた撫子姉さんを気遣い、行きよりもかなり旅速を落としてはいたのだが・・・。

 それでも深夜と言わないまで、夜方にはポーラ一家の里へたどり着いた。

 白夜のおかげで、はっきりとした時間はわからないんだけどな。

 この地方に住む獣人の皆さんがそう言うのだし、事実そこまで夜が更けている訳じゃ無いのだろう。


 ソリを里の広場に停める。

 一際大きな里長・・・ポーレ長老の家の前へ。

 物音に気付いたのか、家の垂れ幕を引き上げて顔を出す長老。


 「セイ殿!ポーラ!戻ったべ・・・か・・・。」


 おれたちの姿を見止めてからずらした視線。

 ポーラの後ろ、少々気恥ずかしげに笑うポーロ夫妻の姿に気付いて絶句。

 へなへなと崩れ落ち尻餅、精悍なはずの容貌があっさりと歪む。


 「ポーロぉ!ロントラぁ!良かった!良かった!わしは・・・わしはもう・・・二人はだめじゃろうと・・・!うっうううぅ!」


 後半はもはや言葉にならなかった。

 ポーレ長老、ポーラやポーロよりも大きな身体を震わせ、男泣きに泣いた。

 威厳纏いし古老の慟哭・・・こいつは異世界人のおれにも中々グッとくるものがある。 

 アフィナやシルキーは完全にもらい泣き、抱き合って「良かったね!」と喜色満面。

 撫子姉さんは柔和な微笑みを浮かべ、おれの腕の中に居るロカさんの尻尾が痛いくらいに振られている。


 当然、里唯一の広場でそんなことをしていれば、里の住人とて気付かぬはずがない。

 いつの間にか集まっていた里の大人たちが、喜びの声を上げる。

 その雄叫びに反応、各々のかまくらや天幕から、寝ていたはずの小童どもが顔を覗かせた。

 小さな手足を振り回し、人の輪の中へ駆け寄ってくる。

 内容は良くわかっていないのだろうが、大人たちの喜びだけは正確に把握した子供たち。

 静かに、だが速やかに、喜びの波は伝播していく。

 うん、こういうのは・・・悪くねぇな。


 内の一人、巨大な牙を生やした恰幅の良い鯔族のおっさんが吠えた。


 「里長さとおさぁ!こいつぁ!」


 ポーレ長老はすっくと立ち上がり、片手を高々と天に向かって突き上げた。


 「わしの息子と娘を救いに行き、見事連れ戻してきた孫と客人たちを持て成さねばなんねっ!皆の衆、今宵は宴ぞっ!即刻用意ばするべぇ!」


 「「「うおおおおおおおおおおおお!!!」」」


 どこからそれだけの声量が出るのか、里長以下住人の皆さんが発する耳を劈くような歓喜。

 子供たちもこぞってジャンプする。

 くいくいっと小さく袖を引かれる感覚。


 (なんぞ?)


 目線を落とせば白ウサ獣人の少女が、おれの法衣の裾をぎゅっと握りしめていた。

 きゅっと噤んだ口元、だがその円らな瞳が「言いたいことがある。」とはっきり訴えかけている。

 おれは屈み、彼女に目線を合わせた。


 「どうした?」


 努めて優しく問いかける。

 「あの・・・あのね・・・。」と口ごもりながら、何処となく申し訳なさそうな顔をする。

 いつの間にやら周囲の大人たちや、おれの仲間もその動向を見守っていた。

 意を決し彼女は言った。


 「わた・・・わたし!お兄さんの作った料理さ、食べちゃい!」


 最後で噛み、「あふっ!」と顔を真っ赤に染める少女。

 うん・・・なんだこの可愛い生き物・・・。


 「・・・しょうがねぇなぁ!」


 おれは彼女の頭をくしゃりと撫ぜ、腕まくりをするのだった。

 さぁて、何を作るかね?






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