・第百九十四話 『崩落』
お待たせしました!
PC及びワープロソフト復活であります!
そして元PCに入っていたデータは全て消えました!
やったー!orz
いつもお読みいただきありがとうございます!
異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、これもテンプレってやつなんだろうか。
兄貴はこんなパターンを望んでおりません。
わかるよ?良く見るアレですよね。
「くそう!こうなれば自爆スイッチだ!」
うん、知ってる。
ただそれ、もうかなりあちこちで使い古された手法だからね?
今時そんなもんが結実することは無いよ。
こっちにも一応神様が二柱控えてる訳だしさ。
当然対策くらい・・・・え?魔力切れ・・・?
ウソだろおおおお!?
お願いだから、偶には普通に終わらせてくれよ!
■
気を抜けば・・・どっと襲い掛かってくる倦怠感。
知らず吐息、全身に蔓延る痛痒が増していく。
フォルテの放った銀の槍が、ノモウルザの顔面へと深々・・・おれの繰り出した『魔王の左腕』にて送り込んだ。
所謂パイルバンカーにも似た一撃。
さすがの巨人も身をくの字、身体から光の粒子を撒き散らす。
当然の帰結、いずれカードへと転じ輪廻の輪に戻るのだろう。
青いおっさんは完膚なきまでに叩きのめしたはずだった。
まさに薄氷の上を渡るような、そんなギリギリのラインを突き抜けて、最後に降り立った着地点。
紡いだカードが一枚でも入れ替わっていたならば、この結果を導くことはできなかったかもしれない。
「これで幕。」誰もが・・・そう、おれ自身疑わなかったこと。
「ぐっぐぶぶ・・・わしが・・・わしが負ける?たかが人族の小童にっ!?」
蹲りながらも自問自答。
ノモウルザの残された片目はすでに焦点が合わず、どこか遠くを見ているようだった。
おれだって決して無傷じゃあない。
満身創痍、特に奴が振り下ろした棍棒を砕いた左腕は、肩口からだらだらと血流を溢している。
いや、自分でも結構無茶したとは思ってるんだ。
ただ・・・そこに勝利へのルートが見えたんだから仕方ないだろ?
「みとめ・・・みとめ・・・みとみとみとみとめられるかぁ!!!」
残った一眼に狂気を湛え、口角から泡を飛ばす。
激昂、立ち上がりかけたノモウルザの膝頭を断ち割る形。
いつのまにやら接敵していた撫子姉さんが、手にした薙刀を存分に振り切る。
「しつこいっ!」
普段のどこかポヤポヤした雰囲気を微塵も感じさせず、彼女は冷蔑の視線で吐き捨てた。
相変わらず血は流れない。
青いおっさんから迸るのはあくまでも薄氷のような結晶。
だがそれが奴にとっての血潮、エネルギーの塊であることは想像に難くなかった。
無造作倒れ伏す、立ち上がることさえ許されないだろう。
「がああああああああああ!!!」
再度響き渡る絶叫。
魂を引き絞るが如き咆哮はどこか切なげで、されど誰の心を苛むこともない。
警戒を解かぬまま近づいてくる、仲間たちから発せられた気配が、そのことを如実に語っていた。
ノモウルザの身体から立ち昇る光の粒子が、加速度的に増していく。
その姿を確認し、身体に張りつめていた緊張の糸が解けた。
ぐらり、視線が揺らぎ意識が闇に引っ張られる感覚。
(まだ・・・落ちる訳にはいかねーんだよ!)
へたり込む寸前、ウソのように言うことを聞かない身体に鞭打ち、膝頭に手をついて耐えた。
鋭い痛みが腕から脳髄に駆け上がってくる。
「ぐっ・・・!」
無意識に呻いていた。
「セイ君!」「せーちゃん!」「セイさん!」「セイ!」「主!」
アルカ様を筆頭に、女性陣の姦しい悲鳴やロカさんの悲痛な叫び。
口々におれの名を呼び駆け寄ってくる。
崩れ落ちかけたおれを支えたのはポーラだった。
次いでアフィナと彼の母親ロントラさんが、おれに治癒系の魔法を施す。
彼女たちに握られた身体の面から、柔らかでじんわりと暖かい力が流れ込んできた。
「セイ!大丈夫だか!?いくらなんでも神様の武器さ受け止めるなんざ無茶だべ!」
「そうだよ!セイに何かあったらボクはどうしたらいいの!?」
「セイさん・・・いつか本当に死んでしまうよ・・・?」
「主!なにゆえ主はそのような真似をするのであるか!?吾輩寿命が縮むのである!」
(ええい!うるさい!)
ポーラの苦言から始まり、アフィナやシルキー、それにロカさんも揃っておれの行動を責める。
アルカ様は何とも言えない憂い顔。
えーっと・・・それもおれのせいなんですかね?
撫子姉さんは一度だけ「せーちゃん・・・。」と呟いたが、今は薙刀を油断なく構えてノモウルザを注視していた。
文字通り手足をもがれる如く無様転がるおっさんが、突如弾かれたように笑い出した。
「ぐぶ!ぐぶぶぶぶ!もう良い!全て滅べば良い!」
■
綻びは突然やってきた。
不穏を感じ問答無用、撫子姉さんの一刀が空を切る。
ノモウルザの巨体が一気に崩れ落ち、巻き起こる冷たい風、荒れ狂う氷の猛威。
咄嗟に撫子姉さんやアルカ様が結界を作り出す。
瞬時に形成された物とは思えないほどの強度。
たぶん魔力は事前に練り上げてあったのだろう。
多数の氷雪が結界に当たって、内部には一切の被害出すことなく弾け砕け散った。
時間にしたらほんの1分くらい、爆轟と化した氷雪陣が消え去る。
中空に膨大な光の粒子、内に一際大きな青い塊。
その青い塊は、ノモウルザの顔面を宿していた。
憎々し気こちらを睨み付ける凍った眼、銅鑼を打ち鳴らすような声が脳内に響く。
【主神となるわしに仇為す愚か者ども!この洞窟諸共、永久の凍土に囚われるが良い!】
バギン!
言うだけ言い捨てて、ノモウルザの顔面が虚空に消える。
(カードが残らない・・・どういうことだ!?)
言い知れぬ不安と焦燥感が襲い掛かってくる。
驚きこの世界の主神を伺えば、彼女の顔も驚愕に満ち満ちていた。
「アルカ・・・様?」
細い顎先に指を添え、訥々と語られる予測にゾッとする。
「セイ君・・・あれは恐らく分体だったんだよ・・・。」
全員が息を呑んだこと、容易に把握できた。
そりゃそうだろう?
あれだけの暴虐無人な振る舞い、言葉に裏打ちされた悪意ある行動。
こちらのほぼ全力、全知を振り絞って何とか跳ね返した相手。
それが実は、本来の力の何分の一かは知らないが分身体だったと言うのだ。
つまり本体は未だ神の領域にて健在、こちらへの干渉は片手間に行っていたレベルのお話。
この地域で活動を続ける限り、またぞろ同様のトラブルを呼び込む可能性が否定できない。
まるで・・・出来の悪い悪夢だな。
目まぐるしく倒錯する思考は、撫子姉さんの注意によって遮られた。
「せーちゃん!ここまずいかも!」
彼女の喚起を鑑みる。
アルカ様も同時、視線を宙に彷徨わせ、なんとも苦み走った表情を作った。
気を付けて感覚を研ぎ澄ませば、周囲から「ゴゴゴゴ」と唸るような音、腹底に響いてくる振動。
ハッとして思い出すノモウルザの投げ捨てていった言葉。
この「洞窟諸共」・・・「永久の凍土に囚われろ」・・・。
思い至れば簡単だ。
余りにもセオリー、云わば「自爆スイッチ」?
ほとんどのメンバーがその事実に思い至ったのだろう。
表情を曇らせ眉根にしわを寄せていた。
「アルカ様、撫子姉さん結界で持ちそうか?」
双方顔を見合わせ、静かに首を横へ振る。
「無理だと思う。」
「うん・・・規模もわからないし・・・それに魔力がもう・・・。」
魔力切れかよ・・・女神様たち頼むぜ・・・。
確かにずっと結界を維持していた彼女たちが、一番魔力を使ってはいたのだろうが、なんとなく魔力の総量が少なすぎる気がする。
おれは元より、竜兵やウララも相当な魔力量だった覚えはあるが・・・予想としては『リ・アルカナ』の魔導士であることが起因しているのか?
言ってしまえば異世界チート。
撫子姉さんも魔導士としてカードを使う力はあるようだが、カードを使わずとも自然に結界を張ったりしていた辺り、どちらかと言えばこちらの世界寄りの存在なのだろう。
最初から地盤が違う・・・彼女はあくまで転生だ。
それはともかく、走って出るのは・・・無理だよなぁ。
必死で打開策を考えるおれに、ただ一人察しの悪い誰かさんが話しかけてくる。
「ねね?セイ、どうしたの?」
「ん、ああ・・・崩れるんだろ?ここ。」
「ええええええええええええええええええええ!!!」
耳元で騒ぐな、うるさい。
徐々に増してくる振動と、「なんでそんなに落ち着いてるのさぁ!?」と猛るアフィナ。
考えが纏まらない。
落ち着くためにもロカさんをもふり、その流れで魔力を譲渡。
2m大になったロカさんを見ていると、アルカ様が沈黙を破った。
「短距離転移なら・・・できるかもしれない。」
全員が一斉に彼女を注視。
一同の視線に少々戸惑いつつ、アルカ様が自分の考えを語る。
「洞窟の入り口くらいまでなら、転移で飛べるかもしれない。ただ・・・魔力が足りないからセイ君に魔力を譲渡してもらわないといけないのと、人数を少しでも減らしたほうが距離を稼げるので、できればロカさんとフォルテ君は・・・。」
言いかけた瞬間、フォルテが走った。
まさに脱兎のごとく、無気力状態の彼からはとても想像のできない速力。
「ロカさん!」
「承知!」
直後、おれの意図を正確に読み取ったロカさんに、襟首を咥えられて引き摺られるフォルテの姿があった。
「うわーん!若様の人殺しー!僕頑張ったじゃないですかー!」
ごねるフォルテに洞窟を抜けたら箱から出て良いことを言い含め、ロカさん共々箱内へ回収。
むしろ毎度アフロってしまうロカさんに、申し訳無さがいっぱいだ。
文句こそ言わなかったが、彼の尻尾はすっかり股の間に収納されていた。
全員できるだけアルカ様に寄り添い、おれは彼女の手を握って魔力を譲渡する。
「たぶんこれで私は魔力を使い果たすよ。そうなればこの世界にはしばらく顕現できない。セイ君、撫子さん・・・まだ話したいことがあったけどそうも言っていられないね。」
撫子姉さんと顔を見合わせ、二人そろってアルカ様に首肯を返す。
アルカ様はおれたちにふわりとした微笑みを見せると、全身から激しくも暖かい光を放ち始めた。
「なに、またきっと会えるさ。忘れないでくれ、私はいつも君たちを見守っている。」
その言葉を最後に、視界が眩い光輝に埋め尽くされた。
(ちょ・・・まっ!)
予想外だったのは一気に吸い出された魔力の量。
これは聞いてない。
おれは為すすべもなく魔力を奪われ、一瞬にして意識を手放した。
気絶乙。
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