・第百九十三話 『棍棒』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、これで幕だ。
兄貴は青いおっさんをぶっ飛ばす。
あー、ずっと青いおっさんって適当に言ってるが・・・一応神様な。
彼の信徒であるポーラ一家には少々無理をさせるが・・・。
だけどまぁ、「オレサマ、ショジョ、マルカジリ」とか言ってる奴を敬う必要無いんじゃないかなぁ?
とかくこの世界の神様は、思慮が足りねぇ気がするぞ。
次から次へと「やぁ、来ちゃった。」で出てくるくせに、中身ペラッペラの奴が多すぎる。
元は実在した偉人賢人だったか?
んー、アルカ様を除くとイマイチ俗物濡れが過ぎるような・・・。
まぁ神様云々の話はおれの居た世界『地球』でもそう変わらんか。
実際祟り神の一種は存在していた訳だしな。
現在は学問の神様と言われているあの方の神社だって、元は相次ぐ天変地異を収めるための鎮魂的意味合いで建てられていたって事例もある。
それじゃあおれも・・・鎮魂(物理)しますかね。
■
粉々、砕け散った強固な壁。
驚愕、されど咄嗟に飛び退くノモウルザ。
いつのまにかリザイアに断ち切られた腕も再生している。
なにその回復チート?
ただただ面倒臭ぇ・・・。
絶対の信頼を寄せていたはずの壁をぶち破った動揺は、思ったより浅いものだった。
さっきまでの威勢も他所に、即座飛び退く青いおっさん。
存外・・・状況が見えているらしい。
途端に開く彼我の距離、残念ながらコンパスの長さが違いすぎる。
おれの足が短いってことじゃないぞ?
体格の差があり過ぎるだけだ。
「がぁぁぁぁ!!」
ノモウルザは喉も裂けよと大声でがなりたて、腕を掬い上げるように垂直に振る。
到底届くはずの無い距離から繰り出された攻撃は、三本の氷刃になって襲い掛かってきた。
軽くステップ、踊るように軽やかに。
運動強化の魔法をかけてる訳でもないのに、やたらと身体の動きが良い。
(なんだろうな・・・やはり『魔王の左腕』のせいか?)
どこか既視感、左腕の手甲から感じる闇の波動が妙に心地良い。
やべぇ・・・今のセリフ、すごい厨二じゃないか?
一瞬走った背筋のむず痒さはとりあえず後回し、今は目の前に集中するべきだ。
氷刃の側面に回り込み、無造作左腕を振りぬく。
一撃はあっさりと氷刃を割り砕き、空中へと霧散させた。
おれの背後に詰めていたリザイアが、少しだけ腰を落とし居合いで一閃。
都合二本になった氷刃を、纏めて横薙ぎに切り飛ばす。
おれとリザイア、共並びで駆ける視線の先には、虚空から氷の棍棒を引っ張り出したノモウルザが居た。
氷で出来た棍棒は約3mほどもあり、一般的な長槍とそう変わらない。
しかし特筆すべきはその太さ。
人間の胴回りとか評するのもおこがましい、樹齢何百年を経た丸太と言って良いサイズ。
そんな棍棒を軽々と片手で持つ辺り、恐るべき膂力と言って良いだろう。
しかし・・・。
(また棍棒かよ・・・生活レベルが伺える。)
胸に昇ってきたのはそんな感想。
その姿は・・・おれたちが一階入り口で屠った件の巨人、『雪巨人』を自然と想起させる。
どう考えても『雪巨人』はこいつの眷属だったはず。
それが一階付近でうろつき、ましてアンティルールが適用された謎は未だ解けぬままだ。
しかし今は関係ない。
おれたちはこの祟り神をぶっ飛ばす必要がある。
「人風情が過ぎた力よ!そこな魔族も同様!わしに逆らう愚かさを味わうが良い!」
狂相も露に携えた棍棒を滅多矢鱈、ブンブン振り回す。
もちろんそんな攻撃を避けるのは難しくないのだが・・・。
その行動は到底狙いを定めているものではなく、付近の壁や床を砕き氷塊を散らす。
(あっ!これまずいぞ!)
思った時には少々遅かった。
「ぐっ!」とくぐもった声。
弾き出された氷塊が、背後からリザイアを強か打ち据えていた。
軽快な動きが止まり、がくりと膝を突く美丈夫。
そう・・・彼の持つ能力、完全な防御性能にも見える『見切り』だが、残念ながら万能ではない。
発動条件は彼を対象にする攻撃。
つまり無意識下、範囲で行われた攻撃には発動しないのだ。
それでも普段のリザイアなら避けたかもしれない。
しかしタイミングが悪かった。
彼は今、謎の箱内大戦でイアネメリラと戦い傷ついていたのだ。
「マスター、済まん。ドジを・・・!」
悔しげに歯を鳴らすリザイアの身体から、光の粒子が上り始める。
彼の攻防ステータスは、ご存知の通り攻撃超特化。
普通の指導者級が容易く耐え得るダメージでも、瞬時致命傷になってしまう。
「山羊ぃ!撫子姉さんの箱に戻れぇ!!!」
「なっ!マスター待て!」
太刀を杖代わり、必死に立ち上がったリザイアを無視して、おれは声高に叫んだ。
■
訳もわからず撫子姉さんの金箱に飛び込む『大悪魔』。
奴の姿が箱に消えると、繋がっていた光のラインがリザイアを強制的に箱へと引っ張る。
『接合』の効果を、無理矢理発動させたのだ。
「マスター!俺はまだ闘える!ぬぅお!」
箱に引きずり込まれ、片手で箱の縁を掴み抵抗するリザイア。
「あほかっ!こんな所でお前を失う訳にはいかねーんだよ!」
おれは無情にリザイアの手を引き剥がした。
なんとか最悪の事態は免れた。
神との戦いでアンティルールが発動するかは謎だが、絶対に忌避すべきこと。
おれにとって最も宜しくないのは、盟友を失ってしまうことなのだから。
足元に陰影。
思考を交えず後方に、がむしゃら大きく跳び退いた。
ズガァッ!
おれが直前まで居た場所に叩き付けられる氷の棍棒。
「おいおい、神様が不意打ちとは感心しねぇな!」
「抜かせぇ!お前も先ほどの魔族同様、返り討ちにしてくれるわっ!」
リザイアの行動をどこまでも棚に上げたおれの軽口も何処吹く風、目を血走らせたノモウルザが迫る。
暴風のような棍棒の攻撃を紙一重で避けながら、チラリ仲間たちの様子を伺えば・・・。
祈るような仕草のアルカ様、撫子姉さん、シルキー。
(おいおい、アルカ様と撫子姉さんは誰に祈ってんだよ?)
むしろ彼女たちは祈られる対象だと思うのだが・・・。
アフィナが暴れるロカさんをぎゅっと胸に抱きしめている。
グッジョブだ。
今ロカさんに魔力を譲渡する余裕は無いし、たぶん前衛が二人になっても状況は好転しない。
フォルテは片膝突きで静かに、銀弓『銀鴎』を構えていた。
その視線こそ見えないが、向いている先は間違いなくノモウルザの頭部。
ポーラとポーロ父子も銃を構えている。
彼らの真ん中に立つ白ウサさん。
ポーラの母でポーロの妻、ロントラさんが二つの銃口に指を這わせる。
赤く輝く二つの銃口、恐らくは何らかの強化魔法。
おれの盟友最高峰の遠距離物理アタッカー、『嘆きの射手』フォルテがコクリ、小さく顎を沈める。
それは彼の事を知らなければ容易に見逃すような小さな動き。
おれを撲殺しようと躍起、余裕の無いおっさんは全く気付いていなかった。
(準備は完了って訳だな?)
おーけー、勝利へのルートは見えた!
仲間たちから視線を逸らすため、あえて巨体と正対。
振り下ろされた棍棒を転がって避け、即座丹田の構え。
途端左腕に膨大な魔力の迸りを感じる。
魔力の強大さにノモウルザの表情が歪み、連撃を躊躇って後退さる。
そして、頭の中に響く無機質な声。
【友よ・・・考えはわかるが・・・余り賢いとは言えないな。】
懐かしい声、VRでは聞き慣れた、おれを友と呼ぶその存在。
『絶望』の詠唱にもあるように、たぶんこれが魔王なんだろう。
元より『魔王の左腕』ってカードだしな。
あまり自発的に語りかけてくる相手ではないが、今回は一言物申したかったらしい。
心の中で応答。
【なんだよ?自信無いのか?】
沈黙・・・くつくつと愉快そうな笑い声。
【くっく!我は汝の身を案じたと言うのに・・・愚考であったな。・・・好きにせよ。】
今日はずいぶんとご機嫌にしゃべるじゃねーか。
【元よりそのつもりだ。力を貸せ!】
【承知した。】
脳内会議が終わり・・・ニヤリ、口角を吊り上げ言い放つ。
「おいおっさん。いい加減飽きたぜ・・・寒いからさっさと帰りてーんだ。・・・かかって来いよ?」
人差し指でちょいちょいと挑発、さっきまでさんざ避けていたのに、我ながらなんと不遜な言い様だろう。
これには黙って居られなかったのか、警戒していたおっさんも高々棍棒を振り上げ、両手持ちに変えて打ち下ろしてきた。
「くたばれぇ!矮小な人族がぁぁぁぁぁ!!!」
「ふっ」っと小さく呼気を漏らし、裂帛の気合。
意識の外で溢れ出た雄たけび。
「オラァァァァァッ!!!」
交錯・・・巨大な質量の棍棒と、荘厳なる手甲に包まれたおれの左拳。
結果は爆砕、ノモウルザの丸太に等しき棍棒は、根元から粉みじんに砕け散った。
さすがにおれも無傷じゃあない。
手甲に守られた拳はどうってこと無いが、重圧を受けた身体は傷だらけだった。
「ば・・・ばかなっ!?」
今日何度目の驚愕だろうな?
完全に茫然自失と化したノモウルザ。
そしてその空白が命取り。
ズガッ!
轟音を奏でて銀色の槍が、深々奴の左目に突き刺さる。
「ぐっ!ぎゃああああああああああ!」
タタタン!ダーン!
叫びを上げた口内に、ポーラ父子の銃弾が飛び込んだ。
自然蹲る形、遠かった頭が目の前に降りてきた。
倦怠感を訴える身体を無理矢理奮起させ、奴の眼前へと歩を進める。
「ま、までぇ!わじは、神なん、だぞおおおおお!」
口元を押さえ余った手でおれを制す。
無言、ステップ、振りかぶった左拳。
「までえええええええええええええ!!!」
ゴッ!ズブゥ!
おれの拳はフォルテの放った銀槍の石突を殴りつけ、ノモウルザの眼窩奥へと送り込んだ。
「ぎゃあああああああああああああ!!!」
身体から光の粒子を撒き散らし始めた奴を見て、やっと全身に通わせていた力を脱力。
プシッ!
飛沫音を立て、左肩から血潮が噴出する。
これは・・・ちょっとしばらく使い物にならんかもしれん。
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