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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
202/266

・第百九十二話 『接合(コネクション)』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


 ノモウルザが結界に再度拳を振るう。

 眩いスパーク光と耳障りな金属音。

 撫子姉さんが結界の保持から抜けたことで、残る四名・・・アルカ様、アフィナとシルキー、それにポーラの母であるロントラさんの表情が目に見えて歪んだ。


 「きさまらは!わしの!供物だろうが!」


 血走った眼で狂ったように、結界を打ち据える青いおっさんは、とうに理性を放棄しているようで。

 堪えながらアルカ様、おれに向かって叫ぶ。


 「セイ君!策があるなら早めにお願いする!長くは持たないよ!?」


 青ざめた彼女に追従、頷いて目線で語る他三名。

 歯噛みしているのはおれも同様、全ては撫子姉さんのカードに託された。

 おれはただタイミングを推し量り、目の前で踊る一枚の魔法カードを構える。


 朗々と撫子姉さんの祝詞、召喚のことわりが儀式の如く厳かに。

 目を閉じ片手には薙刀、もう片方はやはり胸元から引っ張り出された金箱を。

 選択された二枚のカード、一枚が空中で解けて光の粒子に変わる。

 光の粒子は、おれが余りにも見慣れた三つの紋章クレスト・・・瞳を模したそれへと転じ彼女が携える箱の中へと消えていく。

 金箱の蓋が開き輝く世界、一人の盟友ユニットを導いた。


 先ほどの召喚、リザイアのおかげで自分の腕を失ったノモウルザは、明らか怯えた表情で警戒を強める。

 結界への攻撃を中断、更には数歩距離を取り、自身が産み出した謎の壁を前面に押し出す。

 まぁあんなパターンはよっぽど無いんだが、それをわざわざ教えてやる必要も無いだろう。

 距離を取ってくれて好都合。


 「お館様、召喚に応じ馳せ参じましたぞ!」


 箱から飛び出した盟友ユニット、慇懃な態度で撫子姉さんに傅く存在。

 頭部がヤギ、体表は黒く、足が蹄・・・蝙蝠のような翼を背中に生やし、二叉の槍を横抱えにしたそいつ。


 「って、山羊じゃねーか!」


 現われた異形、そいつを見た瞬間におれはつっこんでいた。

 ギギギっと錆付いた動きで振り返る山羊。

 おれの姿を見止めた途端、「ひぃっ!」と悲鳴が零れた。

 期待からの落胆、おれとロカさんそろって「うわぁ・・・。」である。

 なんだろうこの上げて落す感じ。

 通販で届いたカニの身が、スッカスカだった時とでも言えば良いのか?

  

 (確かに・・・『大悪魔グレーターデーモン』は『詠唱』持ちだけども!)


 釈然としないおれたちを他所に、理解していないのは撫子姉さん。

 「ん?」と疑問符、頭に浮かべて小首を傾げる。


 「せーちゃん、ぐれちゃんは『詠唱』持ちの魔族だよ?」


 (ぐれちゃんって貴女・・・。)


 ほぼ誰にでもちゃん付け呼称の撫子姉さん、それにしても『大悪魔グレーターデーモン』だから「ぐれちゃん」って、さすがに山羊への同情を禁じえない。

 なんとも言えない空気がおれと山羊の間に流れる。

 何も言えないおれに不安を覚えたのか、「条件に合わない?」と心細そうにする姉さん。


 (いや・・・条件は合ってますけどね?)


 そういう問題じゃあ無いんだが・・・まぁいいか。

 おれは割り切り次のステージへ進むべく、固まったままの山羊に声をかけた。


 「おい山羊。ちょっと手を貸せ。」


 しかし山羊、完全に怯えているくせに「だ、誰が愚かな人族になど!我は誇り高き悪魔族の将軍だぞ!」と抗弁した。

 これには・・・。


 「「あ゛?」」


 期せずも重なり合う声は二つ。

 おれだけでは無く、静観していたリザイアの琴線にも何かが触れたらしい。

 まぁそれもそうか・・・リザイアにとっては自国の民、要は部下みたいなもんだしな。

 途端撫子姉さんの背後に隠れる山羊頭。


 (おいお前・・・それでいいのか?)


 肩越しにこちらを伺い瞠目、「リ、リ、リ、リザイアさまぁ!!!???」と素っ頓狂な声を上げる。

 即座姉さんの背中から飛び出し平伏。


 「長!お久しゅうございます!」


 これにはおれたちも言葉をなくした。

 なんつーか、変わり身早すぎ。

 姉さん・・・なんでこんなの使ってるんだろう?

 山羊の痴態に頭痛を覚える。

 一瞬ほの暗い表情を見せたリザイアが、「お前みたいな奴が居るから・・・イアネメリラが・・・。」と呟いたが、もちろんおれには聞こえていない。

 聞こえていない・・・はずだ!

 

 「な、何も起きないではないか!きさ、きさきさきさまら!ふざけるなよぉ!?」


 おれたちの醸し出した空気に、青いおっさんが肩を震わせていた。

 あぁ、忘れてたわ。



 ■



 とにかくだ。

 おっさんがまた暴れまわる前に行動しなければ。

 姉さんに結界の維持へ戻ってもらい、おれはリザイアに一枚のカードを渡した。

 素直に受け取り困惑するリザイア。

 おれの指先から離れる時、紅く発光したそのカードは言わずもがな『魔王の左腕』召喚。


 「マスター・・・確かに俺は魔族だが、専属魔法の詠唱能力が無いぞ?」


 もちろんわかっているさ、百も承知。

 だからこそ姉さんに、『詠唱』持ちの魔族盟友ユニットを呼んでもらっている。

 かと言って山羊に、『魔王の左腕』召喚を唱えてもらうのではない。

 元より不可能、如何に協力体制にある魔導師同士でも、コントロールはあくまでその召喚者であり、魔法カードもそれを遵守する。 

 だが策はある、時に使い道の難しいカードですら、今になってみれば布石にしか見えなかった。

 皆までは言わない、行動することで答える。

 こくり頷き、魔法カードを使用した。


 『接合コネクション


 カードから溢れた光のラインが、リザイアと『大悪魔グレーターデーモン』を結ぶ。

 脈打つ波動が双方を優しく包み、目に見えなくとも中身は大いに変貌したはずだ。

 

 「「これは・・・!」」


 魔法効果は自然、二人の脳内に浸透しただろう。

 おれが唱えた特殊魔法、『接合コネクション』の効果とは・・・。

 

 【二体の盟友ユニットを選択する。選ばれた二体が同系種族だった場合、双方の能力アビリティ特技スキルを共有し、自らの力として行使することができる。この効果はどちらかの盟友ユニットが帰還するまで継続し、効果時間中にどちらかの盟友ユニットが帰還した場合、接合されている盟友ユニットも帰還する。】 


 つまり・・・この魔法効果が続く限りは、リザイアに山羊の持つ『飛行』と『詠唱』が、逆に山羊はリザイアの『見参』と『見切り』が追加されたってこと。

 まぁ『見参』に関しては召喚時効果だから、呼ばれてからだと意味無いんだがな。

 因みに、やたら数の多い人族だと楽に『接合コネクション』できると思うだろう?

 どっこいこの魔法、闇属性なんですよねー。

 闇属性のフェアラートとかなら問題無いが、下手な相手に使うと・・・まぁ何と言うか「パァーン!」ってなる。

 テキストには一切記述が無いにも関わらずだ。

 一応公式HPでは公表されていたけどな。

 そして最後の効果、あくまで帰還という表現だが道連れに近い。

 闇属性以外には適用されない使い勝手の悪さと、道連れとしか見えない効果により、本来の用途以外で使う魔導師が増加。

 結果、「無理心中」なんて不名誉な二つ名を付けれられていた。

 とかく他の魔導師には、余り好まれなかったカードだ。

 おれも一枚しか入ってないしな。


 とにかくこれで・・・。

 場は整ったと言えるだろう。


 「なるほど・・・少し待ってくれ。」


 リザイアは目を閉じ『魔王の左腕』召喚を詠唱し始めた。

 相も変わらず人間の耳では聞き取ることが不可能な、不可解言語による詠唱。

 

 「わ、我は・・・どうすれば!?」


 当初の威勢はどこへやら、挙動不審に陥る山羊頭。

 悪魔族の将軍様は肝っ玉が小さすぎた。

 でもなんだろう・・・キョドってる所はそこはかとなく可愛いような・・・?

 待て、落ち着けおれ。

 ゆっくり唱えるんだ・・・あれはもふもふじゃない、もふもふじゃない!

 おれは率直に希望を告げた。


 「隅っこで大人しくしてろ?」


 「はうっ!?」


 山羊涙目、撫子姉さんが結界の維持をしながら目線で咎めてくる。

 だって・・・山羊が吹っ飛んだら、リザイアまで帰っちゃうし?

 山羊を弄っている間にリザイアの詠唱が完了。

 

 「受け取れマスター。」


 リザイアから渡されたカードを即座に発動。


 『専属召喚・魔王の左腕』


 カードが一際紅く輝いた後、おれの左手が見るからに禍々しい闇色のオーラを纏い、それが無骨だが荘厳な手甲へと変化する。

 脳内に響く、無機質な女性の声、聞き慣れたインフォメーション。


 【魔王の欠片を確認・限定条件の解除】


 まぁ・・・魔王の使った魔法って言われる類の物が手札に無いんですがね!

 『混沌カオスボンド』とかあの辺のやつな。

 わかってる、皆まで言うな。

 むしろ・・・手札が一枚も無いんですけどね!

 毎度毎度陥る手札枯渇に、間違いなく全米が泣いた。


 (どっちにしろこれで決める!)


 と言うか決めないと厳しい(手札的に・・・

 決意も新た構えれば、青いおっさんが顔面蒼白になっていた。

 赤くなったり白くなったり器用過ぎる。


 「な!なんだそれはぁ!」 

 

 どうやらこの手甲が発する凶悪な魔力を感知したらしい。

 おれは駆け出し宣言。


 「てめぇをぶっ飛ばす切り札だよ!」


 結界の外へ跳躍、しかしそこは吹雪の園。

 ノモウルザもそれがわかっているからか、余裕の表情を滲ませた。

 だが、おれも無意味に突っ込んだ訳じゃあない。

 確信、それはすれ違い様に見た彼の赤い瞳。

 満を持し、ロカさんが言った。


 「ふむ、待たせたな主。ようやく掌握できたのである。」


 ゾァァァァ!

 おれが跳んだ先、吹雪が音立てて真っ二つに割れていく。

 吹雪・・・雪と氷だったにせよ、元は結局水なんだぜ?

 ロカさんはおれとリザイアのやり取りを横目に、ずっと吹雪の掌握を狙っていたのだ。


 「ば!ばかなぁ!?」


 さっきから叫んでばかりだなおっさん。

 飛び出した先、そこは・・・おれのために、おれだけのために用意された花道。

 ゴッ!ドガァァ!

 繰り出した『魔王の左腕』は、ノモウルザの誇る壁を飴細工のように粉砕した。



 



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