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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
201/266

・第百九十一話 『見参』


 ただ無造作に・・・床へと転がった巨大な腕。

 青く太い毛むくじゃら・・・アルカ様を捕らえていたノモウルザの腕だ。

 血は流れていない。

 床に転がる腕からも、切断された肩口からも細やかな薄氷が零れるのみ。

 云わば零れる薄氷こそが、ノモウルザの血液のような物なのかもしれない。


 それを為した男は、実に何でも無いことのように大太刀を振り払い、腰元に下げられた鞘へと落とし込む。

 チン・・・場違い、響き渡る涼やかな音色が耳朶を打つ。


 拘束されていたアルカ様ですら理解が及ばず、完全に固まっていた。

 圧倒的優位から突如、前触れも無く自身の腕を切断されたノモウルザ本人はことさらだろう。


 「わしの・・・わしの腕?」


 信じられないと言わんばかり、幾度も肩口と転がる腕に視線を彷徨わす。

 残念だが受け入れろ、そんな汚い腕はお前以外持っちゃ居ない。

 

 驚いていないのは、おれと盟友ユニットたちだけ。

 何故なら、その美丈夫・・・『金色こんじきの瞳』リザイアの力を知っているから。

 少しだけおれのエース盟友ユニット、リザイアの能力アビリティを話そう。


 この結果は、彼のいくつかある能力アビリティの中で、最も凶悪であろう力が起因している。

 その能力アビリティとは・・・『見参』、カードのテキストはこうだ。

 

 【能力アビリティ:『見参』 この盟友ユニットの召喚が成功した場合、リザイアは全ての事象を差し置いて1アクション行動できる。認識外からの行動は、如何なる効果によっても阻害されない。但し、神を含む一部の例外を即死させることはできない。】


 そして・・・彼の攻防ステータスは極端な数値。

 端的に言えば、攻撃に極振りで装甲は紙。

 つまり召喚にさえ成功してしまえば、その場に居る誰よりも疾く、そして何者にも邪魔されず、必殺の一撃を繰り出せると言うことだ。

 これが、以前VRバーチャルリアリティで竜兵が呼んだ『赤竜レッドドラゴン』を細切れにし、今また『氷雪神』ノモウルザの腕を切り落とせた理由だった。


 (まぁ相手によって、即死は不可能なんだがな。)


 現にノモウルザも腕一本の犠牲で耐えていることから、テキスト通りの内容で間違いないのだろう。

 ただ・・・本人が「ズレた。」って言ったからには、本来もう少し深手を与えることも可能だったのかもしれない。

 ズレた理由は相手が神だったからか、それとも召喚前の箱内大戦が原因か。

 なんとなく後者のような気がしてならない。

 怖いから聞くのはやめとこう。


 場が動き出す。

 茫然自失状態から戻ってきたノモウルザ。


 「きさっ!きさきさきさまぁ!神であるこのわしに!何をしたぁああああああああ!」


 怒号、口角に泡を飛ばしながら残った腕でリザイアに殴りかかる。

 目線は彼一人に向いていた。

 それは未知への恐怖、或いは傷つけられたプライドへの固執。

 長身痩躯とは言え、リザイアの身長はおれとそう変わらない。

 ただ悠然と構えるだけの彼は、圧倒的質量による殴打で簡単に潰せるように思えたことだろう。

 現にノモウルザは肉塊になるリザイアを幻視して愉悦、女性陣も最悪の結末を想像して咄嗟に目を背ける。

 悲劇は起きるはずもない。

 他の相手ならいざ知らず、リザイア相手にそれは愚行。


 (いやいや、アギマイラでもある撫子姉さんはリザイアの事知ってるだろうに?)


 思わず心の中でつっこんでしまう。

 撫子姉さんは自国の長であったリザイアのことを知らないのはおかしいし、何より彼女・・・カードのテキストを記憶しているはずなんだが。

 

 ノモウルザの拳が着弾する寸前、その場から鬼人族の剣士は姿を消した。

 否、振り下ろされた拳の真横に彼は居る。

 豪腕によって巻き起こされた風に黒髪を靡かせて、近所の茶店にでも行くように飄々と歩いていた。

 その姿で更に冷静さを失い、「うがぁ!」とわめき散らしながら何度も拳を繰り出すノモウルザ。

 少しずつ距離を詰めるリザイア。

 飛び来る岩石にも等しい拳は悉く当たらない。

 当たる訳がないのだ。


 リザイアの持つ能力アビリティは『見参』だけではない。

 防御型に属し、常時発動するその能力アビリティ名は『見切り』。

 彼本人を対象とした攻撃は、どんなに強力だろうが誘導性を持っていようが、全て紙一重で避けられてしまう。

 リザイアに攻撃を当てたいのならば、点ではなく面。

 彼個人を対象にするのではなく、エリアやフィールドを巻き込むような攻撃をしなければならない。

 それこそノモウルザが最初に見せたような吹雪。

 あれならリザイアを押し留めることもできただろうが、頭に血が上ったおっさんはただ拳を繰り出すのみ。


 十分に近付き一閃。

 居合いで放たれた大太刀が弧を描く。

 間合い、速度共に神業、しかし・・・。

 ギャリン!

 金属を無理矢理擦り合わせた音を奏で、リザイアの大太刀がノモウルザの胸面を滑った。

 リザイアはその端正な顔立ちを僅かに歪ませ一言、「む・・・硬いな。」とだけ呟いた。



 ■



 「ばかめっ!不意打ちでも無ければ、そんな爪楊枝でわしの肉体を傷つけることなどできんわ!」


 おれの居る場所まで一気に飛び退くリザイアに向け、思う様勝ち誇る青いおっさん。


 (ばかはお前だけどな・・・。)


 「どうしたぁ!不意打ちでなければまともに剣も振るえないのか!?尻尾を巻いて逃げるだけか!?」


 何も答えない相手に対し、ノモウルザの明後日発言は続く。

 彼は別に逃げた訳ではない。

 すでに目的を果たしたから退がっただけである。

 

 「リザイア、おつかれさん。」


 おれの労いにリザイア、コクリ静かに首肯を返す。


 ノモウルザはその態度を怪訝に思ったか辺りを見回し、やっと事態に気付き目を見張る。

 おれの腕にしっかりと抱かれた、現在最大の懸念・・・『カードの女神』アールカナディア。

 そう、奴がリザイアを倒すことに夢中になっている間に、おれはさっさとアルカ様を回収させてもらったわけだ。

 おっさんプルプルである。

 怒り心頭、目を血走らせ吼えた。


 「どこまでも・・・どこまでも虚仮にしてくれるっ!全員氷付けにして叩き割ってやるわぁ!」


 ノモウルザは断ち切られた自身の腕を持ち、それを勢い良く床面へと叩き付けた。

 バキンッ!

 乾いた音、砕ける腕、溢れ出す白煙。

 結婚式場のドライアイスさながら、周囲が一瞬にして白く染められる。


 「セイ君まずい!」

 

 おれの腕から飛び降りたアルカ様が、再度結界を構成。

 撫子姉さんにアフィナやシルキー、ポーラの母親の白ウサさんまで協力して、強固な防衛陣を形成する。 

 ノモウルザが腕一本を媒介にした吹雪は結構な猛威だが、今回の結界は相当頑強そうだ。

 さすがに神二人とネームレベル三人、都合五人掛かりの結界だからな。


 (さて・・・結局振り出しか・・・。)


 打開策を思案していると、突然ガクリと膝を突くリザイア。


 「おい!?どうした!」


 ノモウルザの攻撃は一切当たっていなかったはずだ。

 見えないところで掠ったりしていたのか?

 驚くおれの側、リザイアは片手で腹を押さえ、もう一方の掌をおれに向ける。

 「大丈夫。」ってことか?


 (それにしても・・・腹?)


 額に脂汗、苦しそうな表情のリザイア。

 いくらなんでも、腹なんかに当たってたらこの程度じゃ済まないだろう。

 ただの青いおっさんにしか見えないが、相手は腐っても神様だ。

 おれの疑念と心配は、次いで彼が発した一言によって瓦解した。


 「今になって・・・イアネメリラにもらったボディが・・・!」


 ふぁ!?ボディ!?

 後から効いて来るボディとか!お前らどこのボクサーだよ!

 まじで箱の中で何やってんのぉ!?

 何ともいえない空気の中、フォルテが叫び矢を放つ。


 「若様!」


 飛来した極太の氷柱が、フォルテの銀矢と交錯して破断。

 結界の表面をガリガリ削りながら後方へ流される。

 続けて豪腕、ノモウルザの拳が結界にぶち当たり、眩いスパーク光を散らす。

 

 タタタン!ダーン!

 ポーラとポール、白熊父子が同時に銃撃。

 ここに来て初めて腹を括ったらしい。

 今までは信奉する神に向けて矛を向ける行動に、やはり多大な葛藤を抱えていたのだろう。

 だがさすがにだ、あのおっさんはどう考えてもだめだろ?


 フォルテも躊躇無く銀矢を穿つ。

 だが・・・どれもノモウルザには届かない。

 まるでデジャブ、撫子姉さんを埋めていた壁のような物が、奴の前面に浮かんでいた。

 

 「無駄な抵抗は辞めて、さっさと氷像になれぃ!」


 醜悪な笑みで勝利を確信するノモウルザ。


 「セイ君!」「セイ!」「セイさん!」「せーちゃん!」


 結界担当の皆さんから一斉におれコール。

 気持ちはわからんでもないが・・・ええい!どないせーと!

 ロカさんは心配そうにおれを見上げている。

 実際心配しているのだろうが、そこには確かな信頼があった。

 円らな瞳が言葉よりも明確に語る。


 そう、「主ならなんとかするのである!」と。


 おれは『魔導書グリモア』を展開した。

 手札は当然増えていない。

 二枚・・・それがおれの切り札。


 「くぅ!あの壁がどうにもならねぇべ!セイ、壁を壊した時の魔法はねぇだか!?」


 ポーラの悲痛な叫び。

 『ヴォーテックス破槌ブロウ』は一枚しか入れていない。 

 さっき使ったからにはしばらく引けないだろう。

 二枚の手札の内、一枚には可能性を感じる。

 それは『魔王の左腕』召喚、まごう事無きおれのフィニッシュブロー。

 されど無情、悪魔族や堕天使の詠唱無しには使えないカードだ。

 種族的にはリザイアも含まれてはいる・・・しかし、彼は魔法の詠唱ができない完全な近接盟友ユニットだった。

 

 (何か・・・何か無いのか?)


 最後に目に止めたのはもう一枚。

 独特すぎる魔法カードが一筋の光明に変わる。

 いつのまにか除外していた可能性。

 それは・・・ここにいる魔導師がおれ一人じゃなかったと言うこと。


 「姉さん!『詠唱』持ちの魔族盟友ユニット呼べないか!?」

 

 意図ははわからずとも撫子姉さん、即座に『魔導書グリモア』の確認をしてくれる。

 そして閉じかけていた可能性の扉が開いた。


 「居る!居るわよ!」


 興奮する姉さんにおれは頼む。


 「急いで召喚してくれ!」





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