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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
200/266

・第百九十話 『吹雪』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


 吼え猛ったノモウルザが両手を打ち鳴らす。

 バチィン!

 轟音・・・そして空間に舞い降りる雹、雪、霜。

 元より決して暖かではなかった室内の温度が急激に落ち込み、吐く息が途端白くなる。

 明らか特技スキル能力アビリティ


 (さすがは『氷雪神』ってやつか?)


 「みんな、私の後ろへ!」


 でっかなおっさんと真向対峙したのはアルカ様。

 瞬時にして自身の後方に結界を形成、その中はうららかな春の如し温もり。

 仲間たちや撫子姉さん、ポーラ一家も慌てて結界に飛び込む。


 「うぅ・・・さむ・・・眠い・・・おやすみなさい。」


 (フォルテー!?)


 一人動いてない奴が居ました。

 下がった気温に一度反応、考えることを放棄して再度眠りにつこうとしている。

 それだめなやつ!永眠しちゃうからー!

 躊躇無く結界の外に飛び出したロカさんが、襟首を咥えて引き摺ってくる。

 外に出たのは一瞬だと言うのに、ロカさんの毛皮が真っ白、全身をガクブル震わせる。

 おれはロカさんを抱き寄せ、魔力を譲渡しながら暖めるイメージ。


 次いで引き寄せたフォルテの頬っぺたを、数回優しく殴打。


 「寝るなフォルテ!寝たら死ぬぞ!」


 バチバチ!

 

 「ぎゃー!若様それで死ぬ!死んじゃいます!」


 雪山遭難のセオリーでフォルテを起こすと、何とも身に覚えのない非難を受ける。

 あくまでもおれは優しくしか叩いていない。

 フォルテの両頬が真っ赤に腫れているのは・・・うん、全然問題無し。

 おれがすっと金箱を差し出せば、全力で首を振り虚空から銀製の大弓『銀鴎アルジャンムエット』を引っ張り出す。

 前髪で隠れて見えないはずの相貌が、確かにキラリ・・・輝いたような気がした。

 

 「若様!僕はいつでもいけます!」


 どうやら平和的説得が功を奏したようだな。


 「セイ君・・・!ずいぶん余裕がありそうじゃないか!できればこちらも手伝って欲しいんだが!?」


 息も絶え絶え、そんな調子で声をかけてきたのはアルカ様だ。

 結界の外は真っ白、心なしか障壁の輝きも鈍くなっている。


 (えええええ!?主神様余裕ちゃうのん!?)


 失礼、思わずエセ関西弁が出ました。

 おれの驚愕に気付いたか、彼女は「全盛期なら、どうと言うことは無いんだよ!」と、なんだか老いた剣豪みたいなことを言い出す始末。

 大体にして、あのおっさんほんとに神様かよ?

 処女処女って騒いでるし、やたら沸点が低い上に視野も狭い。

 この吹雪だって、自分たちの信者であるポーラ一家を全く省みていないことは明白だ。

 まぁ不完全体とは言え、主神様が押されてる時点で相当な力は持っているのだろうが。

 なんとも違和感、いやな空気。


 「アルカ様、あのおっさん何なんだ?いきなり襲い掛かってきたぞ?」


 おれの疑問も最もだろう。

 現にアフィナやシルキーも追随して、ウンウンとしきりに頷いている。


 「この世界に居る神々は、大抵ベースとなる偉人賢人が居るんだ。セリーヌなら魔術の素になった太古のエルフだし、オーディアなら全世界に和平を説いた人魚の姫。セイ君の世界には悪神とか祟り神ってのは居ないのかい?偉人賢人が等しく皆善良だとでも?」


 なんだかわからん問いかけ。

 そりゃ世の中には色んな人間が居るだろうけどさ。

 

 (まてよ・・・祟り神・・・善良?)


 繋がるライン、導かれる答え。


 「もしかしてノモウルザってのは・・・!」


 額に脂汗を浮かべ、必死に結界の維持に努めるアルカ様がコクリ頷く。


 「ああ!あいつは、この地方で何百人と言う民・・・それも年端も行かぬ処女ばかり狙って食い殺した巨人族の王。元の名を蛮族王ノモウルザ!古代兵器と共に封印された最悪の祟り神だよ!」


 おいおい、蛮族王ってなんだよ?

 世界の果てまで行っちゃうのかコノヤロウ。

 とりあえずそんなの奉ったらいかんでしょうに。

 しかも処女が供物って・・・まんま貪り食うつもりじゃないですか、ヤダー。


 「と、とにかく手伝ってぇ!ふにゃぁ~!」


 やべぇ、アルカ様が限界であらせられる。

 なんか変な鳴き声上げて、膝もガクガクし始めた。

 降臨時の威厳ある姿もどこへやら、今はもう歳相応の少女にしか見えない。


 (だけどさ、手伝えって言われても・・・敵さん吹雪の中だぜ?)

 

 逡巡するおれの肩に、優しく手が置かれる。


 「せーちゃん、撫子もがんばるからフォローして?」



 ■



 姉さんはおれにそれだけ言うと、またしても着物の胸元に腕を突っ込む。

 彼女がゆっくりと引き出した物体を見て絶句。


 (な・・・薙刀だとぉ!?)


 金箱どころじゃねぇよ!

 いや、確かにVRバーチャルリアリティの頃、撫子姉さんの得物は薙刀だったけども。

 どうやってそこに入れてたし。

 なんかもう、つっこんだら負けな気がしてきた。


 でもこの地域って、『ミステリア道具グッズ』の性能が封じられるんじゃなかったか? 

 おれの疑念を他所に、次いで彼女、静かに『魔導書グリモア』を展開する。

 浮かび上がった六枚の中から一枚を選択、薙刀が明滅して刃と柄の間に四連なりの鈴が括られた。


 (なるほど・・・。)


 あれは『四元の鈴』、武器の属性を大まかな四元素「地水火風」のいずれかに任意変更できる『ミステリア道具グッズ』。

 姉さんがシャラリ・・・薙刀の刃元に括られた鈴を鳴らして正面に構えると、薙刀の刀身が燃え盛る炎に転化した。

 ふむふむ、そういう能力は発動する訳ね。

 キッと前方を見据えて彼女は言う。


 「ノモウルザ!いつまでそんなものに隠れているんですか?この臆病者!幸いこちらは貴方のむさ苦しい顔を拝まなくて済みますけどね!」


 うん、挑発でした。

 昔、彼女の家へ遊びに行った時は、「アップルパイ焼いたの、食べる?」ハートのエプロンで微笑んだ撫子姉さん。

 それが今や・・・「この臆病者!」である。

 近所のホンワカお姉さんは・・・この世界に神は居ない!(血涙

 いや、呼んで無くてもうじゃうじゃ沸くくらいいっぱいいたわーorz


 冗談はさておき、さすがにそんな安い挑発には乗らないだろう・・・そう思っていた時期がおれにもありました。


 「ぬぁんだとぉ!!!」


 吹雪あっさり止む。

 青いおっさんが顔を真っ赤にして怒る。

 いや、意味がわからん。

 とにかくどえらいご立腹で、巨人のおっさんが突っ込んできた。


 おれ?慌てて『魔導書グリモア』展開しましたよ。

 でもだめだわこれ、一枚増えて四枚になったけど、リザイアのコンボカードじゃあない。

 ここに来て引きがイマイチとはなぁ。

 おれが手札に意識を彷徨わせていると、おっさんが涎を垂らしながら激昂した。


 「わしが優しくしておれば、どこまでも付け上がりおってぇー!」


 さっきまでの会話でどこに優しさが含まれていたのか。

 成分表に偽り有りで訴えるぞ?

 

 「お前らが主神アールカナディアと大神アギマイラだとしても、今は所詮不完全な小娘に過ぎん!黙ってわしの胃袋に納まれば良いんだ!」


 (うわぁ・・・。)

 

 たぶんおれたちの気持ちは今一つになっていた。

 一同、ただただドン引きである。

 さすがに信奉者であるはずのポーラ一家も、主神様をマルカジリ発言には目を見張った。


 しかし、相手は腐っても神。

 伸ばした巨大な手が、アルカ様の結界をギャリギャリと軋ませる。


 「はぁっ!」


 撫子姉さんが薙刀を振るう。

 剣閃が焔の鞭になって、ノモウルザの伸ばした手に襲い掛かった。


 「温りぃんだよぉ!」


 ノモウルザは焔の鞭を一瞥、「ぶふぅ!」っと息を吹きかければ、炎が燃え盛る形のままで凍りついた。

 そして結界が破られる。

 元よりアルカ様の限界も近かったのだろう。

 抵抗むなしくパシャーン!

 グラスが砕けるような音、陽だまりのような暖かい空気が消え去り、広間に溜まっていた冷気が辺りを支配する。


 「きゃあああああ!」


 アルカ様の悲鳴、まるで絹を引き裂くような。

 彼女はノモウルザの野太い指に囚われていた。

 牽制・・・矢を、火球を、雷を放とうとしていたフォルテ、アフィナ、シルキーに向けて氷の散弾が雨あられと降り注ぐ。

 ロカさんが『魔霧』で防御するが、その結界ごと凍りついていく。


 「ぬぅ!小癪な!」


 「ロカさん、一回切り離せ!」


 全身凍らされる前に間一髪、譲渡した魔力をある程度放棄して、子犬姿になり回避する。


 「たぁー!きゃっ!」

 

 遠距離を諦め薙刀で切りかかった撫子姉さんが、アルカ様を捕らえた手とは逆の手で乱雑に振り払われた。

 彼女はそのまま弾き飛ばされる。

 即座背後に回り、何とか支えることに成功。

 良かった、傷は無さそうだ。


 「まずはお前だ小娘!今日からわしが主神よ!」


 捕らえた獲物・・・アルカ様をゆっくりと、ことさらに恐怖を煽る如く口元に近づけていくノモウルザ。

 もう迷っている時間は無かった。

 『魔導書グリモア』を二枚選択、一枚が瞳の紋章クレスト三つに変わり、金箱に吸い込まれていく。

 もう一枚のカードは相棒だ。

 自然、滑るように流れるように・・・唇に乗せていたのは召喚のことわり

 幾度と無く口にした、おれのエース盟友ユニットを呼ぶための合言葉。

 

 (頼むぜ!ちゃんと召喚されてくれよ!)


 前情報で荒廃した箱の内部が気になりすぎるが、今来てくれないと本当に困る。


 『砂漠の瞳の長たる者、金色こんじき運命さだめ背負いし者、我と共に!』


 金色に埋め尽くされる世界。

 願いは届く。

 何も見えない聞こえない、やけに静かな一時を過ぎて、箱から現われたのは長身痩躯の浪人。

 抜き身の大太刀を担ぎ、紅色の角持つ美丈夫は、小さく「チッ」と舌打ちした。


 「マスター済まん。少しズレた。」 


 彼が振り返りおれに謝るのと、ノモウルザが「・・・えっ?」と呟くのは同時だった。

 ドサリ・・・。

 アルカ様を摘み上げていたノモウルザの腕が、根元から両断されて床に落ちた。




 


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