・第十九話 『オリビアの森』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈は『食物連鎖』って知ってるか?
兄貴がその言葉を習ったのは確か、中学校の生物の時間だったと思う。
虫が木を食べ、虫をトカゲが食べ、そのトカゲが獣のエサになり、獣は死んで木の養分になる。
そんな生物教師の講義に、妙に納得したのを覚えている。
どうやらそれは、『地球』のみのことだったらしい。
少なくともおれが今居る、『オリビアの森』では当てはまらないらしい。
■
『女盗賊頭』エデュッサは、召喚されるなり卑猥なセリフと共に、おれにバチコーンと音がしそうなウインクをかましてきた。
うん、呼ばなきゃ良かった。
「ご主人様、あたいの準備はバッチリです!」
おい、なぜブラをはずそうとする・・・
「エデュッサ、あれを何とかしろ。」
おれがアフィナと、襲い掛かる蜘蛛の群れを指差すと、エデュッサは今気付いた!という感じで振り返り、小首を傾げる。
「・・・小娘が吊るされていますね?新しいプレイですか?」
んな訳あるか!
「セイー!たすけてぇ~!」
アフィナがいよいよやばそうだ。
召喚の光で一瞬怯んでいた蜘蛛の群れも、せっかくかかったエサに狙いを絞り、口から粘糸を吐き出している。
いーとーまきまき寸前だな。
「とにかく助けてやれよ・・・おれは得物が無いんだ。」
嘆息ひとしおのおれの指示で、エデュッサはようやく蜘蛛を倒し始めた。
エデュッサの投擲したナイフが、蜘蛛の急所に突き刺さると、大型の固体は光の粒子を出しながら、カードに変わる。
小型のものは、ただ光の粒子になるだけだな。
カード化に一定以上のサイズとか、あるいは魔力量的なものが必要なのかもしれない。
「ご主人様、少々数が多いですね。」
エデュッサの投擲を、掻い潜る固体が出始めている。
「わかってる、魔導書」
一枚増えているはず、そう思って開いた『魔導書』だったが、期待に反して身体強化魔法しか引いてこない。
くそ、今日の引きはどうしたってんだ?
どうあってもおれを、ドでかい蜘蛛とドッグファイトさせたいらしい。
無いよりマシ、とばかりおれは、運動強化魔法『幻歩』を発動し、迫り来る蜘蛛の群れを殴殺した。
■
今は森の中にあった小川の側で、焚き火を起こし休憩中だ。
「ふぇぇ、ベトベトするぅ・・・。」
涙目で体に付いた粘糸を取っているアフィナに、おれはジト目を向ける。
「・・・お前、いい加減にしろよ?」
結局あの後、なんとか助け出したアフィナは三度、違う罠を踏み抜いた。
2mサイズのワニのようなものを、ツタでぐるぐる巻きにし、その体に枝を這わせて養分にしていた木にも引いたが、一番ひどかったのはアレだ。
おそらく熊であろう獣を貪っていた、大型トレーラーのタイヤくらいあるダンゴムシが50体ほど、一斉にこちらを振り返った時は、正直絶望しかけた。
子供なら絶対、タイガーホース確定だ。
「・・・ごめんなさい。」
おれの無言の圧力に負けて、大人しく謝るアフィナに、『図書館』から出した、清潔なタオルを渡してやる。
「・・・ありがと、覗かないでね?」なんて言って小川へ向かうアフィナ。
誰が水浴びしろと言った?
その時、周囲を警戒させていた変態が沈黙を破った。
「笑止!貴方のような寸胴の小娘に、ご主人様が興味を持つわけないじゃないですか!ご主人様はあたいのような、グラマーな大人の女が好きなんです!」
おれは別に、お前にも興味は無い。
「な、なによ!ボクは寸胴じゃないもん!」
変態の言葉に反応して真っ赤になるアフィナを、チラリと確認するが別に寸胴と言うほどでもない。
ウララのように胸に閑古鳥が鳴いている訳でもないし、出るとこも引っ込むとこもそれなりだ。
歳相応って奴だろ?
まぁ興味が無いのに変わりは無いが。
「ご主人様、あたいと水浴びしましょう!」
「セイ、なんでこの人呼ぶのさー!」
二人そろってやかましい。
緊急事態だったんだ、おれも呼びたくなかった。
おれは、「タオルを濡らして拭くだけだ。服を脱ぐことは許さん。」と吐き捨てた。
■
焚き火を消して出発する。
すっかり暗くなってしまったが、こんな虫だらけの森で野営をする趣味は無い。
今日中に、『オリビアの森』を守護する『森の乙女』に、会える予定だったと言うのに。
「この森を守っているのは、『森の乙女』カーシャか?」
「うん、そうだよ。初代『森の乙女』オリビア様が張った結界のせいで、生態系が狂ってるの。だから『森の乙女』の家系の方でないと、維持できないのよ。」
おれの確認に、とぼとぼと歩きながら答えるアフィナの言葉が引っかかる。
狂った生態系の『オリビアの森』・・・どっかでそんな話聞いたな?
顔も名前も思いだせないが・・・虫使いの、気持ち悪い笑い方をする男だったような・・・?
それはともかく、『森の乙女』カーシャは存命している。
『神官王』クリフォードも、『歌姫』セリシアもだ。
こいつらはみんな、PUPAに反応しなかった。
(つまり、VRで呼べなかった盟友は、存命中もしくはエデュッサのように『略奪者』の下にあるって事か?)
おれの『切り札』ウィッシュはどうなんだろうな・・・
これおれや幼馴染が、『レイベース帝国』メインの『魔導書』じゃなくて良かったな・・・
もしそうだったら詰んでいる。
「そうですわ!あれがあったんです!」
突然叫んだ変態に、思考がぶった切られる。
うるさい、大人しく周辺警戒してろ。
叫んだ途端、おれの金箱に勝手に潜り込むエデュッサ。
ロカさんと言い、自由過ぎるだろ?
箱の中から悲鳴が聞こえてくる。
「いたっ!痛いですイアネメリラ様!あたいのおっぱいがもげちゃいますよー!」
中でどんなカオスが・・・
呼び出している盟友の声しか聞こえないようで、エデュッサの声しか聞こえないが。
イアネメリラは、ぽわーっとした外見に似合わず、すげー嫉妬深いからな・・・
異世界来てから一度も呼んでないし、次回のフォローが大変そうだ。
「これでご主人様もイチコロです!」なんて言いつつ、金箱からエデュッサが戻ってくる。
なぜか、ミニスカのメイド服を着ていた。
そんなこと誰に教わった・・・
おい、アフィナそんな顔するな?
エサになりかけたとこを、一応助けてもらってるんだぞ?
その後、メイド服とミニスカハイソックスについて口汚く罵り合う残念と変態をひきずって、おれは森の中を歩くことになる。
お前ら頼むから、不毛なことは秋広とでもやってくれ・・・。
あぁ、秋広なら「メイドさんはロンスカだろー!」とか項垂れそうだ。
結局『オリビアの森』最深部、『森の乙女』カーシャの守護する結界塔に辿り着いたのは、深夜も大きく過ぎた頃だった。
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