・第百八十九話 『便乗』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、昔TVで見たお笑い番組を思い出したよ。
兄貴も思わず笑ったアレだ。
暇を持て余した神々の遊び。
所詮あれはTV、画面の向こうで半裸のおっさん二人が見せたコント。
だがそれが現実ならどうだろうか。
これだけは言える。
冗談じゃねーぞ!?
ウララの神認定に続き、撫子姉さんまで神様転生、便乗して主神様が「来ちゃった。」
周囲に神様が溢れる状況にも慣れてきた。
100歩譲って女神様たちの件は、まぁ良いだろう。
だがおっさん、テメェはだめだ。
次から次へとお前ら仕事しろやぁぁぁ!
■
なんかこう・・・「来ちゃった。」的雰囲気を醸し出すアルカ様。
胸に緑色のカタログを押し抱き、おれに向かってにこやかに手を振っている。
まぁ彼女が顕現した理由には想像が付いているのだが。
うん、どうすんだこれ?
「せ・・・せーちゃん・・・アールカナディア様と知り合いなの?」
とりあえずなのか自然となのか、跪き臣下の礼を取った撫子姉さんが、おれとアルカ様の間で何度も視線を彷徨わせる。
そこにはなんとも言えない不安が垣間見えた。
一応この後おれたちのことも話す予定では居たのだが・・・姉さんが結婚云々で暴走したから有耶無耶になってたんだよな。
浮いていた中空からふわり着地、再度にっこりの主神様。
おれや盟友たち、それにアフィナやシルキーなんかはまだマシなんだが・・・。
とりあえず・・・ポーラ一家とか、今にもちびりそうなんで・・・後光抑えてもらえませんかね?
おれの気持ちが届いたのか、アルカ様は発光を辞める。
「みんな、驚かせてしまってごめんよ?私が顕現できる条件が難しくてね。今回偶然にもこのタイミングになってしまったんだ。みんな・・・私はそんなに畏まられるような存在じゃないよ。どうか顔を上げて欲しい。」
アルカ様は広間に存在する面々を気遣いながら、ゆっくりとおれたちに向かって近付いてくる。
その慈愛に満ちた表情で、緊張した空気が少しだけ和らいだ。
彼女はそのままおれたちの前に立ち、極僅か表情を曇らせる。
最初はおれにぺこり、真摯に頭を垂れる。
「セイ君、ヴェリオンの件本当に助かったよ。子供たちを輪廻の輪に戻してくれたから、私もなんとかここまで力を取り戻せた。あの時は直接お礼を言えなくて申し訳ない。こんなに頑張ってもらっているのに・・・『回帰』は・・・。」
「あんたのせいじゃないさ。『略奪者』への警戒が足りなかったのは、どう転んでもこっちの責任だ。」
彼女の謝辞に、おれは手を振って答えた。
相変わらず律儀な・・・こういう所はやはり好感を持てる。
次いでアルカ様は撫子姉さんに正対、再度深々と頭を下げた。
「アギマイラ・・・いや、撫子さんとお呼びした方が良いのかな?貴女にもずいぶん迷惑をかけてしまったようだね。心から謝罪させて欲しい。しかも・・・元はセイ君同様異世界の方だったとは・・・本当に私たちは何をしているのだろうね?自分たちの不始末を異世界の人たちに押し付けて、未だ神々の国は大荒れさ。」
前半ははっきりと謝罪、後半は自嘲気味に呟くアルカ様。
撫子姉さんは目に見えて狼狽した。
「ちょ、ちょっと整理させて?せーちゃんは・・・撫子の半身『狂気の女神』アギマイラの召喚した眷属を倒し、ノモウルザの結界を破った。それどころか・・・主神様と知り合い?しかもずいぶん親しそうに・・・一体・・・せーちゃんは・・・何者なの?」
愕然とした表情のまま、ポカーンと口を開けて撫子姉さんが零す。
うーん、そう言われても成り行きで流れ着いただけで・・・狙ってやったことはほとんど無いような?
アルカ様との出会いもそんな感じだったしなぁ。
(あ!そういや・・・。)
思い出したのはシャングリラでウララが『加護』・・・『図書館』をもらった時のこと。
あの『図書館』には色んな情報が詰まっていたはず。
撫子姉さんの疑問もある程度払拭できる可能性がある。
「アルカ様、その『図書館』はやっぱり?」
おれの問いかけにしっかりと頷く彼女。
やっぱりそういうことらしい。
予想はしていたが、本人からの肯定で裏づけが取れた。
おれが渡した『子鬼』のカード、そこから『加護』が派生して、撫子姉さんも『図書館』と『カード化』を得たって寸法だ。
「撫子さん、これを受け取って欲しい。」
アルカ様の差し出す緑のカタログを見て、なぜかおれを確認するように伺う撫子姉さん。
デジャブ・・・ウララの時を再現したように。
なんでおれに確認を取るのだろうか?
相手はこの世界の主神様だろうに・・・。
話が進まないのでおれがこくり頷くと、撫子姉さんはやたらホッとした表情で『図書館』を受け取った。
カタログと撫子姉さんが淡く輝く。
そして彼女は、この世界で起きていることと、おれたちやアルカ様の戦いを大まかに理解した。
ゆっくりと内容を嚥下・・・確かめるように小さく呟く。
「そうなんだ。りゅーちゃんとうららちゃん・・・あきちゃんも居るんだね。撫子もみんなに会いたいな・・・。それにホナミも・・・マドカは残念だったね・・・。」
同郷の人と情報の共有、内心の葛藤に対する共感。
図らずも少しだけ目頭が熱くなる。
複雑な空気が流れる中、それは突然やって来た。
■
ギギギギギッ・・・それは異音・・・。
錆付いた鉄扉を無理矢理押し開くかのような。
音がした方向を見れば、空間に巨大な裂け目。
見るからに極一般的なサイズの家屋を越える大きさ。
裂け目の左右、開きかけ湾曲している部分に見えてしまった野太青い毛むくじゃらの指先。
そして・・・奥から覗いたのは青い肌と黒い瞳。
どう考えたって人間サイズでは無いが、逆に妙な人間臭さがあり寒気を覚える。
二度三度、きょろきょろとこちらを見回した目が引っ込み、次いでにぃっと三日月を浮かべた口が覗く。
同じく青い肌に黒い髭、口の周りをびっしりと覆うそいつは手入れなど感じられなくて・・・所謂泥棒髭って奴だろう。
その大きな口が、黄色く染まった乱杭歯を見せて呟いた。
「なぁるほどねぇ。」
「・・・ノモ・・・ウルザ!」
撫子姉さんの鋭い叫び、弛緩していた空気が動き出す。
つんざくような音を立て、徐々に広がっていく裂け目。
ねじり込むようにこちらに向かって足先が突き出してくる。
裸足・・・そして黒々とした体毛に覆われた巨大な何か・・・いや、『氷雪神』ノモウルザ。
裂けた空間の向こう側から現われたそいつは、体長10mはあろうかと言う巨人だった。
青い肌に斜め掛けの獣の皮。
(お前どこの原始人だよ?)
どこかで見た覚えがあると思ったが、そう言えば『雪巨人』。
あいつを更に巨大化したような姿だ。
ただし頭頂部に毛髪が皆無、サイドにはあるけどな。
そして暑苦しい髭がもっさもさ、男性ホルモン強すぎるんじゃないか?
日本の小学生には間違いなく、「ザビエル」と呼ばれることだろう。
「主神の小娘がばたついているから何かと思えば・・・わしの花嫁がなぜか解放されておるし、他にも美味そうな処女がおるではないか。」
おれたちをねめつけ、アルカ様、撫子姉さん、アフィナとシルキーを順繰りに視姦。
女性陣が目に見えて不快感を露にする。
アフィナとかどっちかと言うと信心深いんだけどな。
まぁあれはおれもいやだ。
「ふむ・・・白熊族よ、これは供物だな?」
硬直するおれたちを他所にノモウルザは、最後に目に留めたポーラ親子に向かって、訳のわからないことを言い出した。
確かに白熊族のポーラ親子はお前の信徒かもしれないが・・・ポーラの両親はお前のせいで三年も壁に閉じ込められてたんだぞ。
しかもだ・・・言うに事欠いてアフィナやシルキーを「供物」だ?
一瞬で心が凍てつくのがわかった。
それに、こいつははっきりとアルカ様を「小娘」呼ばわりしていた。
本来なら、この世界を作り上げた彼女は母親同然の存在だろう。
つまり、この青いおっさんはどう考えてもアルカ様の・・・引いてはおれたちの敵である。
アルカ様が自然な体でおれに身を寄せる。
「済まないセイ君。私の通った神門を辿られたらしい。」
「そうか。」
なんとなく話の流れで判っていた。
素っ気無くなってしまったのは許して欲しい。
別にアルカ様に怒ってる訳じゃあない。
三柱目の神様登場に戸惑う一同を制し、真っ先に声を上げたのは撫子姉さんだった。
「ノモウルザ!私は貴方の妻にはならない!ちゃんと婚約者もここにいる!」
毅然、正しくその言葉がしっくり来るだろう。
普段は自分のことを「撫子」と名前呼びする、ポヤポヤしたお姉さんがはっきりと明確な拒絶。
おれの手を取りその胸に抱え込む。
(ちょ?婚約者のフリは乗っても良いけど!すげー当たってますよ!?)
金箱すら収納可能な撫子姉さんの魔乳が、おれの腕を完全ホールド。
「ボクも!」「私も!」
合わせて腕と背中にくっついて来るアフィナとシルキー。
お前らは張り合わんでよろしい!
あのおっさんが嫌だったのはわかるが、元より婚約者とかでなくても「仲間」を処女厨巨人にくれてやるつもりなんか無い。
だから落ち着け、離れろ。
ポーラが一言ボソリ。
「セイはモテモテだなや・・・。」
そういう状況か?
ロカさんもなんでドヤ顔なんですかね?
登場から終始、下卑た笑いを貼り付けていたノモウルザが、すーっと目を細めた。
気温が下がる、プレッシャーが増す。
「そのガキは人族だろう?ハッ!?神と人が婚姻などできるものかよ!」
唾を地面にベッと吐き出し、獰猛に哂うでかいおっさん。
なんだこいつ・・・これが神様?
どっかの盗賊かチンピラの間違いじゃねーのか?
アルカ様が一歩前に、静かだが朗々と響き渡る声で言い放つ。
「何も問題は無い。私が認めるよ。」
まてまてまてまて、アルカ様何口走っちゃってんの?
更に強まる撫子姉さんの圧迫。
「せーちゃん!主神様が認めてくれたよ!撫子とずっと一緒だね!?」
姉さん、また一人称が自分の名前になっていますよ。
それとおっさんプルプルしてるからね?
あんまり刺激しないほうが良いんじゃね?
「あ・・・あんだとぉっ!?」
牙を剥き血走った目、怒気が冷気になって吹き付ける。
アルカ様キリッ、「君はこの場に相応しくない。さっさと去り給え!」宣告。
結果・・・青いでっかなおっさんがブチキレた。
「わしが認めねぇって言ってんだよぉ!!!」
さて・・・いつものパターンですかね。
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