・第百八十七話 『計画』
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※8/19 誤字修正しました。
異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈さん、少々お時間宜しいだろうか?
兄貴は本日も対処に困っています。
「ダンジョンアタック?おれに任せろ。」
なんて・・・思っていた時がありました。
うん、これただのダンジョンアタックじゃないね。
どう考えても交錯するあちらこちらの思惑、繋がっていくラインがおれに集束する悪寒。
そして待っているのは新たな出会い・・・違うな、再会だ。
・・・!?・・・「計算通り」だとっ!?
あんたのせいでどれだけ面倒な事になったと・・・ええい、話を聞け!
おれは「そんなこと」しないからな?
違う!「押すなよ押すなよ」の法則じゃない!
だめだこの人・・・早く何とかしないと・・・。
■
予想通りと言うべきか。
『渦の破槌』の特殊効果【壁破壊】が発動。
弾け飛び、最初から存在していなかったかのように消え去る巨大な壁。
壁の前に集まった者たちが一様に沈黙する中、最初に我に返ったのはポーラだった。
「おっとぉ!おっかぁ!」
ドサリと倒れ伏す両親に向かって叫び、走り出すポーラ。
治癒魔法の使えるアフィナもそれに帯同する。
そして・・・もう一人?一柱?
おれたちと同じ目線、言わば平行線上の壁に囚われていたポーラの両親とは違い、少々高い場所・・・ビルの二階ほどに相当する3,4mの所に埋まっていたアギマイラが、支えを失い落ちてくる。
しかしふわり・・・ただ落ちるのではなく重力に逆らうゆっくりとした落下。
彼女はちょうどおれの上空1m上に滞空、見下されているようであまり良い気分ではない。
ふるふると揺れる睫毛、静かに両の眼が開かれていく。
カードゲームの記憶と寸分違わぬ、その髪と同じ赤い瞳。
両目の開眼と共に襲い掛かってくる、どこかしら身に覚えのある強烈なプレッシャーに確信した。
(やはりアギマイラ・・・!)
彼女はぼんやりと周囲を見渡し始める。
その場に存在する各々を観察、値踏みするように。
魔族たちは視線に気付き慌てて平伏、おれの仲間たちは警戒を強める。
そして順番、どういう訳か最後になったおれ。
一番近くに居た筈なのだが、両親に駆け寄ったポーラやアフィナよりも後回しにされた。
いや、別にだからどうだって話だけどな?
見つめあいしばし沈黙、首をコテン、横に・・・良くイアネメリラがする仕草。
その妖艶とも言える外見に不釣合いな行動に、おれは理由無く警戒心が揺らぐ。
(いや・・・警戒しなきゃいけないのはわかってるんだが・・・なんだこの感覚?)
説明が難しい。
いつかも感じた・・・胸を突く・・・むしろ溢れ出すのは不思議な感情。
いくら『地球』のカードゲームで見たことがあったって、この世界では間違いなく初対面のはず。
なのにはっきりと覚える、懐かしさ・・・安心感の矛盾。
本能でわかる・・・彼女は敵じゃあない。
そんなおれの葛藤を他所に、アギマイラは表情を一転。
どこかぼんやりとした表情から、またしても懐かしさを覚える微笑を浮かべ、静かに・・・そして嬉しそうにおれの名を呼んだ。
「やっぱり・・・せーちゃんだ。来てくれたんだね!」
彼女のセリフで爆発的に溢れた懐旧、封じられていた記憶が溢れ出す感覚。
これは・・・あの時と同じ。
そう、『略奪者』のハルやホナミを思い出した時と同じだ。
知らず、おれは彼女の名前・・・本来アギマイラであるはずの、彼女の名前を呟いていた。
「もしかして・・・撫子姉さん・・・?」
疑問符が付いているが確信だ。
おれのことを「せーちゃん」と呼ぶのは一人しか居ない。
いや、居なかったが正解だろう。
彼女の名前は栗林撫子、おれと美祈がすごくお世話になった近所のお姉さんのはず・・・。
そして『地球』のカードゲーム『リ・アルカナ』のトップランカー、『女教皇』の称号持ち。
魔族の国『砂漠の瞳』を多用するプレイヤーで、おれの師匠的存在でもあった。
おれは・・・そんな彼女のことすら忘れていたらしい。
また何かしらの魔法?認識阻害のようなものがかかっていたのだろうか。
気味が悪い事実に悪寒が走る。
予想はやはり当たっていたらしい。
撫子姉さんは「そうだよ?」と柔らかく微笑み、おれに向かってゆっくりと降りてくる。
その姿には一切マイナスのイメージは無くて、でもどうしたら良いのかもわからない。
なぜなら・・・彼女は『地球』で半年前不治の病を発症、弱冠22歳と言う若さで既に亡くなっているのだから・・・。
「撫子姉さんは・・・半年前に亡くなっている。一体どういうことなんだ・・・?」
疑問を絞り出すのがやっと。
そんなおれの前に降り立った彼女は、「ふふっ」と小さく笑い自分の口元をトントンと指示する。
記憶の中の彼女と同じ位置に黒子。
髪や目が赤かったり、肌が褐色になったりしているが、何よりも纏っている雰囲気が本人であることを明確に示唆していた。
「そっかぁ・・・『地球』では半年なんだねぇ・・・撫子はたぶん10年以上待ってるんだけどなぁ・・・。」
不可解なことを呟きつつ彼女、突然おれを抱きしめる。
(ちょっ!)
抵抗虚しく谷間に埋め込まれるおれの頭部。
「「セイ(さん)っ!?」」
約二名の絶叫が聞こえてくるがおれのせいじゃない。
おれをホールドした撫子姉さんは、しばらくして満足したのか開放、こんなことを言い出した。
「とりあえず・・・これだけは言っておかないと・・・計画通り!ニャハハ!」
グッとサムズアップ、妖艶なくせにどこか無邪気なその笑顔を見て思った。
(あ・・・これやっぱり撫子姉さんで間違いねーわ!)
■
彼女の事情を聞く。
もはや警戒心も危機感も完全に決壊していた。
立ち話も何だと言う訳でいつも通り、『図書館』からテーブルやイスを具現化。
アギマイラとして敬われていた撫子姉さんに声をかけられ、魔族の皆さんも一先ず落ち着き、今は皆で準備を手伝っている。
山羊がチラ見してくるのが若干ウザい。
(あ?やんのか?)
おれと山羊の不穏な空気を感じ取り、『妖魔』少年と『一眼鬼』おっさんが必死に取り成し、『牛頭鬼』が無言で山羊の頭を引っぱたく。
「ごめんなさい!おっちゃんも謝って!」と『妖魔』少年。
プイッとそっぽを向く山羊・・・苦労してんなぁ。
それはともかく。
準備が整う頃には、ポーラの両親も復活してきた。
まじで生きてて良かったわ。
謎の壁の中で三年過ごしても大丈夫とか、ファンタジー様々だな。
何度も頭を下げ礼を言う親子に、少々ささくれ立っていた感情も軟化。
気にしなくていいことを言い含め、最寄の集落代表として撫子姉さんの事情説明への参加を促した。
イスに座るのはおれと撫子姉さん、アフィナとポーラ親子に『一眼鬼』のおっさんだ。
ロカさんは子犬化しておれの膝の上、すばらしい暖房である。
シルキーは魔道具でお茶の準備。
良いのかアフィナ?シルキーと女子力の差がドンドン開いていくぞ?
山羊が「自分も!」って騒いでいたが、『牛頭鬼』が有無を言わせずどこかへ連れ去った。
フォルテ?ああ・・・武器を仕舞ったからか・・・寝てるね。
まぁおれも鬼じゃない、道中頑張っていたので少し休ませてやろう。
「実際・・・さっぱり状況が判ってないんだが、撫子姉さんはここで何をやってたんだ?そもそも「計画通り」ってどういう事だよ?」
主要なメンバーが落ち着いた所で疑問を唇に乗せる。
問われた撫子姉さんは「んー・・・。」とどこから話すべきか迷っているようで。
前提と言うことで投じた一言が全く持って波乱を感じさせるセリフだった。
「まずね・・・撫子は『狂気の女神』アギマイラの分体です。と言うか転生体みたいな?」
「・・・・・・。」
一同沈黙。
うん、「みたいな?」じゃないよな、なんだそれ。
確かに見た目アギマイラそのものだけども、転生?
またしても異世界物ではテンプレの情報だが、まさか自分がそれの関係者になるのは想定外だった。
彼女は続けて語る。
「撫子が気付いたのは20年前かな?ちょうど『第一次エウル大戦』の終結時、アギマイラ自身も一度消滅しかけてるんだよね。その時何の因果か撫子がアギマイラとして転生、この世界に降臨したわけ。あ、神としての力はかなり弱体化してたわ。その代わり、『リ・アルカナ』のカードが使えることがわかって助かったけどね。その後、状況はなんとなく理解できたから、できるだけ平和的に生きてきたのだけれど・・・。」
一区切り、シルキーが差し出したお茶をこくり、喉を潤し唇を湿らせる。
「約10年前から『戦神』オーギュントが調子乗っちゃってさぁ・・・。アギマイラ自身の狂気が強くなりすぎちゃって、撫子の自我を侵食しようとし始めたのよ。それで身体を二つに分けて、この洞窟に隠れ住むことにしたんだけど、『氷雪神』ノモウルザに見つかっちゃってね。求婚を拒んだら封印されちゃった!てへぺろ。」
いや・・・てへぺろじゃねーし。
神様が複雑怪奇に絡みすぎてませんかね?
「まぁ・・・あいつ相当撫子のこと気に入ってたし、「100年も壁の中に居れば考えも変わるだろう。」とか言ってたから殺す気は無かったと思うんだけど・・・咄嗟に『魔導書』の大解放で、盟友の遅延召喚ができたから、この子たちに守ってもらえたんだけどね。」
(ふぅむ、緊急でランダム自動召喚の魔法カードでも使ったってことか。)
つまりここに居る魔族は撫子姉さんの盟友だった訳だ。
だからアンティが起用されたってことなんだろう。
姉さんが『略奪者』とは想像できないし、おれが彼女のことを忘れていた・・・認識阻害の件は『氷雪神』とやらが絡んでる臭いな。
次いで気になることを質問。
「ポーラの両親が壁に取り込まれたのは?」
彼女は「あ!それね!」と言い、ポンと掌を叩く。
「お二人はノモウルザの信徒なのよね?おそらく親和性が高すぎたんだと思うわ。迷惑かけちゃってごめんなさい!」
イスから立ち上がりペコリ、真摯な謝罪を受けかえって恐縮するポーラ親子。
「とんでもねーだアギマイラ様!むしろおいたちの神様がとんでもねぇことを・・・申し訳ねぇだ!」
「ですだですだ!本来ならわっちらがなんとかして差し上げねばならんだのに・・・。」
うん、なまり!なまりすごいよ!
父親も母親も絶妙になまっていらっしゃる。
奥さん美人なのに「わっちら」って・・・。
なんつーか、すごく人当たりの良さそうな夫婦だな。
思えばポーラも初対面からそうだったし、この親にしてって感じかね?
まぁ・・・なまりのせいで余計にそう思うのかもしれないが・・・。
■
あと重要なことは・・・そうだ!
「撫子姉さん、イカは?ヴェリオンからミブに通じる海路に、『狂気烏賊王』なんてふざけたナマモノが居たんだが?」
パンパン二度手を叩き、おれを指差し「そうそう!それそれ!」。
相変わらず明るく美人、『地球』での記憶そのままの動きをする撫子姉さんだが、人を指差しちゃいけません。
「あれって狂気に染まり始めたアギマイラの眷属なの。召喚自体は阻止できなかったけど、ギリギリ撫子も割り込めたから、転移術式組み込んでやったのよー!あれを倒せるレベルの人間ならこの状況を救ってくれるかもって思ってね!」
それが「計画通り」の真意か・・・まったく。
おかげでこっちはとんでもない大回りだぞ?
ため息交じりのおれに対し、ずいっと身を乗り出してくる撫子姉さん。
「まさかそれでせーちゃんが来てくれるとは思わなかったけど、これって運命かな?かな?ニャハハ!」
「は?それってどういう・・・?」
おれが問い正す前に、彼女は今日一番の爆弾を投げた。
「せーちゃん!撫子と結婚しよう!安心して、目瞑ってる間に終わるから!」
「「けっ結婚っ!!!?」」
ちょ!?ま!なにがどうしてそうなった!?
むしろおれの動揺よりアフィナとシルキーの声がうるせぇ!
「撫子姉さん!なんで結婚なんだ!?」
「大丈夫せーちゃん!撫子に任せて!きっと幸せにするよ!」
いやいや、何だその男前発言?
と言うかおれの話を聞け!
「そうじゃなくて!おれは・・・!」
発言を右手で制し、「皆まで言うな」の構えを取る撫子姉さん。
「昔偉い人が言いました。「いやよいやよも好きの内、押すな押すなは押せのサイン」、大丈夫撫子わかってる!ニャハッハ!」
ふぁ!?何を言うかと思えば、それ偉い人の言葉じゃねーよ!
昔から暴走癖はあったけど・・・異世界でバージョンアップしてらっしゃる!?
やばいこの人・・・早く何とかしないと・・・。
周囲の人々、特にポーラ親子と『一眼鬼』は完全に置いてけぼりだった。
おれのせいじゃないと思うんだけど・・・なんかごめん。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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