表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
196/266

・第百八十六話 『壁』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


※7/12 誤字修正しました。

 異世界からこんばんは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、大方の予想は当たっていただろうか?

 兄貴vs壁再び!

 もはやこれ・・・何かの呪いだろうよ?

 うん、皆まで言うな。

 壁に埋まる美女云々の話が出た時点で、背中にタラリ冷や汗。

 おれの行動のダイジェストが作られた日には、きっとあちらこちらを殴って解決の危険人物が映し出されることだろう。

 本人の本意ではない。

 おそらくは何か大いなる神様的な者の意思。

 あれ?この世界の主神ってアルカ様だよな?

 彼女がおれに「頼むね?」って言った以上、この解決法で合ってるのか?

 まて、落ち着け・・・思考パターンがウララってるぞ!



 ■



 やはりと言うかなんと言うか、壁に埋まる白熊と白ウサ女性はポーラの両親だ。

 駆け寄りドンドンと壁を叩くポーラ。


 「おっとぉ!おっかぁ!くそっ!どうすりゃいいだ・・・!」


 ポーラが幾度と無く叩いても、壁はびくともしない。

 振り返り縋るような眼差しをおれに向けてくるポーラ。

 生死も不明で三年ぶりに会った両親が、明らかな異常・・・壁の中に埋められているなんて、確かに悪夢だ。

 彼が取り乱してしまうのもやむなしだろう。


 仲間たちもポーラの異変に気付き、いつのまにか周囲に集まって来ていた。

 

 「セイ・・・これって、ウララの時に似てるよね?」


 アフィナの言に対し静かに頷くシルキー。

 ロカさんも意見は同じようだ。


 「ぬぅ・・・主!」


 ロカさんが唸り周囲を見回す。


 (なるほど・・・囲まれてるな。)


 いつのまにか周囲に複数の気配を感じる。

 暗がりから光源へ、ゆっくりと近寄って来たのは、先ほど眠らせておいたはずの『大悪魔グレーターデーモン』。

 他に『一眼鬼サイクロプス』と『牛頭鬼ミノタウロス』の姿もあった。

 復活の早さにも驚いたが、最も驚いたのは全員武器を所持をしていないことだ。

 

 「それに触れるな・・・!」

 

 剣呑な視線をくれる『大悪魔グレーターデーモン』を庇うように、『一眼鬼サイクロプス』と『牛頭鬼ミノタウロス』が前に出る。

 二体の魔族は山羊頭を制止し、おれたちに向けて土下座した。


 「お願いだ・・・それに触らねぇで欲しい・・・。」


 それは切実な懇願だった。


 「・・・話を聞かせろ。」


 殊勝な態度にほだされた訳じゃないが、腑に落ちない点だらけ。

 できればちゃんとした説明が欲しい。


 「愚かな人族に話すことなどっ・・・!」


 叫ぶ『大悪魔グレーターデーモン』を『牛頭鬼ミノタウロス』が押さえつけ、『一眼鬼サイクロプス』が「おでたちも詳しくはわからねぇんだが・・・。」と一言前置き、静かに語り始める。

 その内容とは・・・。


 気が付けばこの洞窟の守護を担っていたこと。

 記憶はあいまいだが彼らは思ったらしい。


 「自分たちが魔族である以上、主は現在壁の中、『狂気の女神』アギマイラとしか思えない。」


 まぁ、それに関しちゃおれも否定できないな。

 それから・・・地下二階と三階を拠点にしたため、元から洞窟内に居た魔物を追いやってしまったこと。

 これが洞窟のボスが一階入り口に居た原因のようだ。


 そして、先ほどは「触るな」と言ったが、本当は女神を壁の中から救い出したいと願っていること。

 何でも彼らが何をしても壁には傷一つつかなかったそうな。 


 (うーん・・・結局何もわかってないに等しいじゃねーか・・・。)


 「この二人は?」


 壁をコンコンと叩き、ポーラの両親を視線で問う。

 『一眼鬼サイクロプス』は一瞬バツの悪そうな表情を浮かべる。


 「その人らは・・・三年前くらいにここに来て話を聞いてくれたんだ。「自分たちが何とかしてみる。」って言って、壁に何かしてたんだが・・・おでらが手を出す間も無く壁に吸い込まれちまった。」


 相手が獣人だったから?或いは敵対行動が一切無かったからだろうか?

 もしくは対応が山羊じゃなかったからかもしれないな。

 あの山羊頭は、おれと『一眼鬼サイクロプス』が話し合っている間も、ずっとこちらを睨みつけて暴れている。

 『牛頭鬼ミノタウロス』に口を押さえられる形だからか、「んー!んー!」と言う呻きしか聞こえてこないが、自由に話せていたらさぞ煩かっただろう。


 結局・・・ポーラの両親は話し合いによってここまで辿り着き、そして壁をどうにかしようとして逆に取り込まれた。

 話の筋は通ってるような気はする。

 

 「セイ!なんとかならねぇか?」


 「あんたらの強さは身に染みてわかってるだ。おでらも神様に色々聞きたいんだ。」


 話の一段落、縋るような視線を向けてくるポーラと、それを追いかけるように『一眼鬼サイクロプス』。



 ■



 (簡単に言うけどなぁ・・・おれだって万能じゃ無いんだぞ?)


 しかしポーラの両親を救いたい気持ち、神様に色々物申したいのはこちらも同じ。

 とりあえず確かめるためにも、一撃拳を叩き込んでみることにした。

 呼気を整え、基本中の基本正拳突き。


 「ふっ!」


 『ハンズ・オブ・ヴァーミリオン』の効果は切れているが、まぁ物は試しだ。 

 ゴスッ!

 殴った直後に跳ね返ってくる反動、痺れる左腕。


 (痛ったぁー!なにこれ?超硬いんですけど・・・?)


 帝国の『機神』すら殴り倒したおれの攻撃は、痛みに反して壁への被害は皆無、ヒビどころか欠けすら見えない。

 おれの拳の威力を知っている仲間たちも呆然、「信じられない!」と顔に書いてあるようだ。

 それはこの世界で初の驚きかもしれない。

 しかしおれは、痛がる素振りなど見せなかった。

 表面上は冷静・・・に見えるはず。

 内心は「マジふざけんな!」である。

 その衝撃は、一発で心が折れるほど滅茶苦茶な痛さだった。


 (あれか?『南天門』みたいな謎物質的な・・・?)


 無駄だろうとは思いつつ、仲間たちにも攻撃を促してみる。

 この硬さだと・・・壁が割れて中に被害・・・全然現実味が無い。

 案の定、ロカさんの爪牙も、アフィナやシルキーの火球や雷も、果てはフォルテとポーラの矢弾も悉く弾かれる。

 全て傷一つ付かずにだ。

 なんとも万事休す。


 「プークスクス、だから愚かな人族になど・・・。」


 イラッ!

 暴れない、邪魔をしないと誓わせて、大人しくさせて居た『大悪魔グレーターデーモン』がほくそえむ。

 ちょうどおれたちの耳に入るくらいの絶妙なボリューム。

 キッと睨むと、すっと視線を逸らす辺り小物臭がプンプンだ。

 慌てて「おじちゃん!」と叫んだ『妖魔インプ』が飛びよるが、それよりも早くおれは一瞬で彼奴との距離を詰める。

 ガシッ!

 無駄に立派な山羊角を掴み一言、「・・・折るぞ?」と優しく囁いた。

 途端ガクブルの山羊頭に一瞥だけくれて投げ捨て、仲間たちの下に移動。


 「セイさん・・・八つ当たりは良くないよ?」

 

 シルキーの苦言を受け流し、おれはため息混じり、『魔導書グリモア』を展開する。

 目の前に浮かぶのは、A4のコピー用紙サイズ、四枚のカード。

 余り良い手札とは言えないな。

 もしもの時の保険・・・もしアギマイラが襲い掛かってきた場合に使用する、リザイアのコンボカードも引けて居ないし・・・強化魔法だけで攻撃魔法も無い。

 まぁ上級くらいまでの攻撃魔法で、この壁に効果があるとも思えないが。 


 「ウララの時は・・・サーデイン様の『制約』で解呪したんだよね・・・。」


 アフィナが人差し指を唇に当てながら、思い出すように首を捻る。

 シルキーとロカさんもおれを見てるな。

 あの時は二人も一緒だったからなぁ。

 残念ながらサーデインも引いていないし、『制約』も然り。

 何よりサーデインを引けたとして、あいつ無事に召喚に答えてくれるだろうか?

 どっちにしろずっと付いてくる問題だ。


 「ロカさんかフォルテ、箱の中見てきてくれ。」


 「えっ!?」「若様!?ご無体な!」


 箱の中を確かめてもらおうと声をかけたのだが・・・双方ビクリと肩を震わせ後擦さり。

 フォルテはプルプル震えてるし、ロカさんは涙目・・・そんなにか?

 まぁ時間が無駄になるので我慢してもらおう。

 近くに居たロカさんに静かに金箱を差し出す。


 「くっ!ままよっ!」


 何とも言えない表情でおれを見上げた後、ロカさんはそんな気合の言葉と共に金箱へ頭を突っ込んだ。


 「・・・ふぁっ!?待つのである!・・・アッー!」


 沈黙、鋭い悲鳴、慌てて飛びのいたロカさんは頭を箱の外へ。

 そして・・・もはや溢れる涙を滂沱の滝へと変えながら、ロカさんの頭部がまたしてもアフロに変貌していた。

 おいおい!?


 「主ー!」

 

 泣き付いてくるロカさんに魔力を譲渡。

 荒ぶるアフロを修復しながら中の様子を聞く。


 「フォルテの行った時と変わっていないのである!リザイア殿とイアネメリラ殿以外動く者は居なかったのである!主、我輩はもう帰りたくないのである・・・。」


 可哀想にロカさん・・・いや、強要したのはおれだけども。

 それにしても進展無しとか・・・あいつらマジで何やってんだよぉ・・・。

 おれは諦めつつも、もう一度『魔導書グリモア』を確認した。

 手札は増えていない。


 (いや・・・待てよ?)


 一枚の強化魔法、目に飛び込んでくるテキスト。

 おれはそのカードを選択、発動した。

 

 『ヴォーテックス破槌・ブロウ


 魔法名の宣言、カードが光の粒子に変わり、おれの左腕に集まってくる。

 青く変色した光の粒子は、不思議な魔法文字に変わり円環を三重に作り出し、勢い良く螺旋の回転を始める。 


 「あ・・・それって!」


 あの日のことを思い出したのか、アフィナがおれの使った魔法の効果に気付いた。


 「ふん!人間如きが何をしようと・・・。」


 山羊頭がまたなんか言ってるが、『妖魔インプ』が必死に口を塞いで止めているから見逃してやろう。

 『ヴォーテックス破槌・ブロウ』のテキストはこれ。


 【渦状の魔法文字が破壊力を増強する。特性「壁」「門」「扉」を持つ盟友ユニットや、『ミステリア道具グッズ』を一撃で破壊する。】


 目の前に鎮座する壁を見て、「もしかして」と思った訳だ。

 あとはこの硬さが魔法陣・・・つまり魔法そのもので無いことを祈る。

 おれはあの時同様半身で構え、最大限引き絞った左腕を壁に向けて叩きつけた。

 ゴッガン!!


 青い魔法文字が螺旋を描きながら、壁へゆっくりと吸い込まれていく。

 ピッピシ・・・パシャーン!

 壁はそんな音を立て、最初から存在しなかったかのように消滅した。

 おおーうまくいった。

 うん・・・山羊ドン引き。

 

 


ここまでお読み頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ