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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
192/266

・第百八十二話 『罅割窟』中編


 弾き飛ばされた銀槍が空中で霧散、完全にその効力を失う。

 正直勘弁して欲しい。

 仮にも奥義、フォルテにとっては最高の一撃だ。

 それをいとも無造作に・・・或いは相性が悪かったのか?


 「ルゥゥゥガァァァァ!!!」


 フォルテの攻撃でおれたちを改めて敵認定、血走った瞳、大口を開けて吠え猛る『雪巨人スノウジャイアント』。

 服を身に纏う程度の知能を持ちながら、言語を解する類の存在には全く見えなかった。

 しかし戦闘において言うなら、それなりの知能を持っているのは疑う余地も無い。

 吠え猛り憎々しげにこちらをねめつけながら、それでも奴はすぐには近付いてこない。

 アフィナの火球、フォルテの初弾を見て、遠隔攻撃を警戒しているのだろう。


 「悪い冗談だべ!」


 タタタン!

 問答無用、呆けたのも一瞬で、ポーラがその腕前を披露する。

 神速の抜き打ちで三発、両目と額を狙った銃撃。

 異世界でも銃は銃だ。

 普通なら弾速は不可視、彼が今までの戦いで眉間を正確に狙っていなければ、おれでも弾道の予測は困難だっただろう。

 相手がただ図体がでかいだけの獣だったなら、予定通り物言わぬ骸に変わっていたはず。

 しかし巨人は曲りなりにも知能があり、まして遠隔攻撃を警戒していた。


 カカッ!

 刹那、自身の目の前に掲げた棍棒で、あっさりと銃弾を防ぐ巨人。

 そりゃそうなるよな・・・。

 「そんなっ!?」とか叫んでるポーラには悪いが、完全に予定調和ですよ?

 巨人は棍棒を降ろし、大きく息を吸い込み始める。

 元より巨大な胸板が、更に膨れ上がった。


 (これは・・・まずい!)


 この手のテンプレはもううんざり、所謂ドラゴンがお得意な奴でしょう?


 「ロカさん!」


 「承知!」


 巨人の怪しげな挙動にロカさんの名を呼べば、すでに「わかっている」と言わんばかり、おれたちの前面に躍り出る。

 ロカさんがその身体から、漆黒の霧・・・『魔霧』の障壁を生み出したのとほぼ同時、巨人が大口を開け『吐息ブレス』を吐き出した。

 細かな砕氷と雪が混じった『吐息ブレス』・・・言うなれば『吹雪ブリザード吐息ブレス』って奴だろう。

 ロカさんの障壁に阻まれてこちらに被害は無いが、直で食らっていたらと思うとゾッとする。

 いや、違うな。

 これは飛び来る氷雪だけが危険なんじゃない。


 「アフィナ!火玉で周囲を暖めろ!」


 そう、気温・・・一気に冷やされていく温度に危機感。

 アフィナは一度きょとんとするが、「わ、わかった!」と答え周囲に火玉を浮かばせる。

 多少なり上昇する空気に安堵も束の間、シルキーが鋭い悲鳴を上げる。


 「セイさん!」


 見れば巨人は『吐息ブレス』を吐き出しながら、天井に垂れ下がる氷柱を手折り、ロカさんに向けて投擲する構え。

 

 (やろう・・・!)


 即座に『魔導書グリモア』を展開。

 目の前に浮かぶA4のコピー用紙サイズ、六枚のカードの内から、火属性初級攻撃魔法『火炎フレイム』を選択。

 アフィナがよくやる火球同様、小さな火球を生み出し投げつける。

 迫り来る氷柱と火球が空中で交錯、小型の爆発を起こし粉々に。

 

 埒が明かないと思ったか、巨人が『吐息ブレス』を止め棍棒を構え直した。


 「ロカさん、『魔霧』まだいけるか?」


 『吐息ブレス』を耐え切り障壁を解除、ロカさんが「無論!」と答える。

 ロカさんの身体から噴き出した闇色の霧が、意志でも持つかのように巨人に牙を剥く。

 多種多様な効果を持つ『魔霧』の中でも必殺の効果、屍毒で持って巨人を屠ろうと考えたのだが・・・。

 巨人に纏わり付いた『魔霧』が、キラキラとした氷の結晶に変わり通路の床に降り注ぐ。


 「なんと・・・!」


 「まじかよ・・・。」


 おれとロカさん、驚愕の呟きに答えるのはポーラ。


 「セイ、『雪巨人スノウジャイアント』の体温はマイナスなんだべ!水や氷の魔法は効かねぇし、下手な火魔法でもあっさり消されちまうだ!」


 なるほど確かに・・・『魔霧』は魔力を纏う毒の霧だが、霧ってことは水属性。

 凍らされてしまうのも頷けるが・・・実に面倒くさい。


 そして状況は更に悪化。


 「ルガァァァァ!」

 

 ビリビリと大気を震わせる巨人の咆哮。

 呼応するかの如く巨人の背後から、『雪蝙蝠スノウバット』や『雪狼スノウウルフ』が何匹も集結。

 隊列を組むようにおれたちの眼前に展開し、襲いかかる隙を伺っている。

 思えば遭遇した時も狼を四匹従えていた。

 もしかすると・・・この巨人は魔物を使役するような力まで持っているのだろうか?



 ■



 蝙蝠には、フォルテの銀矢とシルキーの雷撃で弾幕を張る。

 銀矢に翼や胴体を射抜かれ、或いは雷撃に絡みつかれてビクリと震え、あえなく絶命。

 墜落する途中でカードに転じ、洞窟の出口へ向けて飛んでいく。


 「くっ!『雪蜥蜴スノウリザード』もおるべ!」


 魔眼で警戒するポーラの猟銃から三発の銃撃。

 横壁に張り付き体色を擬態させ、回り込もうとしていた『雪蜥蜴スノウリザード』が姿を現し、やはり眉間を貫かれてカードに転じている。

 

 おれとロカさんは『雪狼スノウウルフ』の処理だ。

 おれの拳も、ロカさんの爪や牙も無双状態。

 近寄る敵に一切情けはかけず、黙々と作業のように蹂躙する。

 むしろそれしかやりようが無かった。


 「ルゥゥガァァ!ルゥゥガァァ!」


 巨人が何事か吠えながら、ドスドスと床に棍棒を叩き付ける。

 何を言っているかおれたちにはさっぱりわからないが、けしかけられてでもいるのか、次々と命を散らしながらも魔物の進撃は止まらない。

 本当に厄介な敵だ。


 「アフィナ!」


 「わかってる!」


 巨人がまたもや天井から氷柱を手折ると、おれたちに向けて投擲し、それをアフィナが火球で撃ち落す。

 所詮は能力アビリティ特技スキルで作り出した物でも何でも無い自然物の氷柱、おれの初級攻撃魔法でも迎撃できたことから、アフィナはそちらの迎撃に専念させている。

 現状火力を一枚落すことになってしまっているが、放置もできない以上割り切るしかない。

 それに「あの」アフィナだ。

 攻撃参加もしながら敵の動向に注意なんて・・・まぁお察し下さい。


 そんな攻防をしばらく続けている。

 そろそろ攻勢に出たい所、元よりおれは守勢は苦手なんだよ。


 「魔導書グリモア

 

 飛び掛ってくる爪を振るう『雪狼スノウウルフ』を殴り飛ばし、はたまた地面から牙を剥く個体を踏み抜きながら、『魔導書グリモア』を展開。

 五枚のカードの中から一枚を選択。


 「全員ジャンプ!」


 おれの言葉に迷わず跳び上がる仲間たち。

 意味がわからずきょろきょろと視線を泳がせるポーラ。


 「のわわっ!?」


 アフィナが風魔法で巻き上げたようだ、グッジョブ。

 同じく跳び上がり、おれは魔法名を唇に乗せる。


 『熱波ヒートウェイブ


 火属性上級攻撃魔法『熱波ヒートウェイブ』・・・地面に足を付けている者を、敵味方問わず火達磨に変える魔法。

 逆巻く炎が床面を舐め、埋め尽くすように奔る。

 飛んでいない魔物・・・『雪狼スノウウルフ』や壁ではなく地面に擬態していた『雪蜥蜴スノウリザード』が炎に包まれ、カードに変わり飛んでいく。

 アフィナが風魔法を操り、仲間たち全員を軟着陸させる。

 『熱波ヒートウェイブ』の効果は一瞬、魔法の発動も早ければ持続性も皆無だ。

 発動の瞬間中空に居たおれたちが、炎に巻かれる事は無い。


 「セ・・・セイは本当に魔導師だったんだべな・・・。」


 ポツリ、呟くポーラ。

 だから最初からそう言ってるだろうに?


 そんなことより・・・。

 通路に立っていた者はひとたまりも無いはずなんだが・・・。

 居るね・・・居るよ、未だ健在。

 黒髪黒髭に青い体の巨人、『雪巨人スノウジャイアント』が鬱陶しそうに身体を揺すれば、絡みついた炎が剥がれて消えた。

 さすがに無傷では無いようで、身体のあちこちに火傷・・・焦げている感じ。


 「ルゥゥゥガァァァ!!」


 しかし再度咆哮、巨人の奥から駆けつける魔物の群れ。

 もうね・・・すごく面倒くさい。 

 『追放エグザイル』でも使ってさくっと処理したいなぁ。

 もしくはもっと高威力の火魔法か。

 引いてないから無理だけども。


 「セ、セイ・・・どうするだ?一回退いて体勢を立て直すだか?」


 ポーラが弱気発言、両親を助けに来たんだろう?

 まぁこういうのが初めてなんだろうし仕方ないか。

 チラリ、他のメンバーを一瞥。

 仲間たちは・・・うん、まだ心は折れていないようだ。


 ロカさんは特に何も言わずに狼たちを張り倒しているし、フォルテも真面目に蝙蝠を叩き落している。

 アフィナとシルキーは、おれの目線に気付いてこくりと一つ頷く。

 「任せる」ってことね。

 さすがにおれと同行した経験の差が出たかね。

 この程度の魔物の群れは日常茶飯事だ・・・不本意だがな!


 「ポーラ、どうせこいつを倒さないと先に進めないぞ?覚悟決めろ。」


 「だ・・・だか・・・。」


 言葉に詰まるポーラ。

 おいおい、今更後ろ向きにならんでくれ。

 それにおそらくだが・・・この後はもっと面倒くせーのが待ってるぜ?

 正に経験者は語るって奴だ・・・不本意だがな!


 まぁでも・・・こんな所で腰が引けてもらっちゃ困るんだ。

 いっちょ不安を払拭してやるかね。


 「ポーラ、あんなのはただでかいだけのおっさんだ。お前は、おれたちが見つけにくいトカゲをしっかり駆除するんだ。」


 「でかい・・・おっさん!?・・・だどもセイ!矢や銃も効かね、炎も振り払う。どうやって倒すだ?」


 彼の肩をポンと叩き『魔導書グリモア』を展開。

 カードを一枚選択して即発動。


 『ハンズ・オブ・ヴァーミリオン


 魔力が込められた言霊、応えるのはカードに宿る力。

 朱色の魔力が集束、おれの拳を鮮やかに彩った。

 幾度と無く繰り返してきた構え、両脚を肩幅腰だめに拳、一度目を閉じ呼気を整える。

 括目、ニヤリ・・・できるだけ自信満々に。


 「決まってるだろう?殴って倒すんだよ。」






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