・第百八十一話 『罅割窟』前編
お待たせしました!
いつもお読み頂きありがとうございます。
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、相変わらず厄介なことが起きてるらしいぞ?
兄貴たちは、現在交戦中です。
いやぁ・・・前情報通りって言われたらその通りなんだがなぁ・・・。
ちょっと多すぎませんかね?
ポーレ長老も語ったし、道中ではポーラも眉を顰めたように、魔物の数がすごいんだ。
元は内陸部に通じる一本道・・・ここが?
うそだろ?ただの魔物の巣じゃん?
思わずつっこんでしまうのも仕方ないだろう。
むしろ洞窟前に何も居なかったのが不自然だわ。
え?上層部が向こう側に繋がってて、ここ自体は地下三階まであるって?
そんで地下三階に大きな広場が確認されてるんだー、へぇー。
うん、進むだけなら突っ切った方が良いんだろうけどさ。
このトラブルの発生源、絶対そこだろ・・・。
ハァ・・・テンプレがおれを苦しめる。
■
幅もそれなりだが、天井までの高さもかなりある。
いやな予感がビンビンだ。
(これ絶対・・・飛行型が居るな。)
アフィナが産み出した火玉が松明代わり。
氷に覆われた岩壁と通路をゆらゆらと照らし出す。
数m先は闇、決して十分な灯りではない。
隊列を整え『罅割窟』に入って、しばらく続く一本道。
直線なのが幸か不幸か、気付くのは同時。
ロカさんとポーラが注意を促す。
「主!」「セイ!すげぇおるだ!」
(・・・oh・・・。)
闇の中、火玉の光を反射するように輝く数多の光点。
赤い・・・目だ。
『イリーン階段丘』に棲んでた魔物たちとは明らかに違う。
あいつらの目には怯えや疑念、理性的な輝きがあった。
しかし、奴らの赤い目を見た瞬間に確信できる敵意。
これは絶対話し合いでなんとかできるような相手じゃあない。
野生の獣、或いは狂気に追い立てられる者の目だ。
ゲームっぽい表現をするならきっと、「モンスター」って奴なんだろう。
『罅割窟』に入った途端、襲い掛かってきたのは純白の蝙蝠『雪蝙蝠』と、同じく純白のネズミ『雪鼠』。
(敵意もさることながら・・・でかいな。)
どちらも『地球』の常識的なサイズからは明らか逸脱した大きさ。
蝙蝠は羽を広げれば1mくらいあるし、ネズミも7,80cmくらい?
十分にパニックムービーの素質がある。
こちらを視認すると同時、蝙蝠はたぶん聴覚感知なんだろうが・・・一斉に迫り来る魔物の群れ。
ポーラが猟銃を構え、タタタンと軽快な発砲音。
閃くマズルフラッシュと同数、頭部を撃ち抜かれ墜落する『雪蝙蝠』。
相変わらず一撃必殺、これが魔眼か!
しかし敵は圧倒的多数。
とてもじゃないが三発程度で減らせる数じゃない。
「こう数が多いと・・・おいは不利だべな!」
ガチャ、カシャカシャと手早く次弾を装填しつつ、嘆くポーラ。
彼の猟銃は三連式、三発の発砲と共に弾切れを起こす。
おそらく普段の猟でそれ以上の性能は必要無いのだろう。
むしろこんな数と真向から闘うこと自体が想定外なんだ。
「追撃します。」
【広範囲でいくわねー?】
フォルテは淡々と告げる。
続いて無機質なのにどこか気の抜ける女性の声が、フォルテの構えた銀弓『銀鴎』から、全員の頭に直接響く。
さながら弦楽器でも奏でるが如く、弓兵だとは思えない綺麗な指先で爪弾く弓弦。
放つのはただ一矢。
ヒュカッ!
風切り音、おれたちの頭上を山なりに、煌く軌跡を残すフォルテの銀矢。
されど銀矢は中空で分裂し、銀雨となって降り注ぐ。
小さな風切り音が一瞬で、ザァッと響く雨音に変わる。
銀色の雨に打たれた『雪蝙蝠』と『雪鼠』が、なすすべも無く絶命。
光の粒子を放ちながらカードに変わり、洞窟の出口へ向かって飛んで行く。
(アンティが発生しないってことは・・・自然現象なんだろうなぁ・・・。)
フォルテに倒された群れを見ながら考える。
この世界で問題が起きていると言われると、ついつい『略奪者』の暗躍を疑ってしまう。
ちょっと過敏になっているだろうか?
「主、まだ!」
「わかってる。」
ロカさんの忠言、おれが少々考え事をしていたことに気付かれていたようだ。
だが安心してくれ、油断はしていない。
正に銀色の雨と言うしかないフォルテの攻撃を、たまたま避けられた数匹の『雪鼠』が、一番手前・・・おれとポーラに向かって飛び掛る所だった。
迎撃しようとするポーラの腕を、トンと押さえて前に出る。
フォルテの銀弓に装填される銀矢と違って、ポーラの銃弾は無制限じゃない。
これはおれの仕事だろう。
「ふっ!」
小さく呼気を吐き出し、左右の拳を振るう。
振り抜くまでも無い、ボクシングで言えばジャブ程度の拳撃。
かなり力は抜いているのだが・・・それでもせいぜい7,80cmのネズミだ。
インパクトの瞬間に魔力を放つイメージ。
いつもの「なんちゃって発剄」で吹っ飛ぶネズミが、ピンボールのように別の個体を巻き込む。
同じ要領で生き残りもあっさり駆逐。
洞窟の通路に光の粒子が溢れた。
■
初っ端のお出迎えをあっさり蹴散らした後、前進中にポーラがボソリと呟く。
「セ・・・セイは・・・獣人だか?」
「いや?100%純製の人だが?」
意味がわからんな・・・けも耳も尻尾も無いぞ?
もふもふは愛でるべき物であって自分で装備しようとは思えない。
しばし沈黙。
「じゃあ・・・伝説に出てくる拳闘士って奴だべか?」
「・・・魔導師って名乗ったよな?」
ポーラがおれをじっと見つめている。
うん、前を注視した方が良いんじゃないのか。
半ば呆れたように言葉を紡ぐ白熊。
「人族の魔導師が、素手で魔物を殴り倒すなんて・・・聞いたことねぇだ。」
「そう言われてもな・・・一応、殴るときに魔力使ってるぞ。」
おれの回答にも「そういうことじゃねぇだ!」と猛るポーラ。
アフィナとシルキーもぶんぶん頷いてるし、異世界あるあるか?
そういや洞窟に入る前に「武器は?」とか聞かれたような気もする。
道中は遠距離でポーラとフォルテが処理してたからなー。
この世界には格闘技とか無いんだろう。
なんか「おいでも銃さ使って倒すのに・・・納得いかねぇだ・・・。」と呟き肩を落すポーラを、アフィナとシルキーが「ポーラ、考えたら負けだよ!」とか「セイさんだから!ね?」とか言って慰めてるんだが・・・。
なんだよ、何が不満なんだ?倒せてるんだからいいじゃねーか?
そんな他愛の無い会話も束の間。
ロカさんの『索敵』に敵勢力が引っかかる。
「主!奥から・・・五!一匹でかいのである!」
お出迎えに余念が無いな、熱烈歓迎って感じか。
仲間たちにさっと緊張が走る。
ポーラとフォルテはそれぞれ猟銃と銀弓を構えて前方を見据え、アフィナとシルキーも少し重心を落す。
「アフィナ、火球を二、三発撃ち込んでやれ!」
「わかった!」
灯り代わり、先制攻撃になれば儲けもんだ。
アフィナがバスケットボールくらいある火球を二個成形。
数秒両掌に浮かべた後、まだ暗い前方に飛ばす。
「ギャインッ!」
鋭い鳴き声を上げて一匹、白い狼型の魔物が吹き飛ぶ。
どうやら効果はバツグンのようだ。
火球が当たった魔物はそのままカードに転じた。
「やった!」
「アフィナすごい!」
「『雪狼』だべ!」
異世界組はそっちに気を取られたようだが・・・おれと盟友たちは違った。
そしてその光景が一気に焦燥感を煽る。
「まじか!」
「主っ・・・!」
「若様、集中に入ります。」
アフィナの放った火球は二発。
最初の一撃は『雪狼』に着弾して倒したが・・・二発目はその後ろに居た大型、火球のおかげで一瞬垣間見えたそいつに「握り」潰された。
そう、そいつは火球を無造作に手掴みして消したのだ。
「アフィナ!もう一発火球を天井に上げろ!」
おれは数歩前に出ながら指示。
「えっ!?わ、わかった!」
アフィナが天井に打ち上げた火球、お出迎えの魔物ご一行様を照らし出す。
白い狼型の魔物『雪狼』が三匹。
そして・・・人間くらいある棍棒を持った、青い巨体の人型生物が一人。
黒い髪に黒い髭、肩掛けにした獣の皮は服なんだろう。
つまり服を着るような知性があるってことだ。
狼は身を屈めて唸り声で威嚇、巨人は血走った瞳でおれたちを迎合していた。
「ポーラ!あいつは何者だ!」
「あ・・・あれは!『雪巨人』だべ!な、なんであいつがこんなとこさ!?じっさまの話じゃ地下三階の広間に居るって話だべさ!」
やべぇ、いやな予感はしたんだよ。
なんで本来のボスモンスターと思わしき奴が、一階の入り口付近うろついてんだ!
「若様、先手必勝でいきます。」
「やれ、フォルテ!」
集中を終えたフォルテの合図、おれは迷わずGoを出す。
フォルテの奥義を知る仲間たちは自ら進んで、未だ『雪巨人』遭遇の衝撃から覚めないポーラはおれが引っつかみ、射線上から身体をずらす。
直後・・・。
「奥義シャグランフレッシュ!」
フォルテの番えた銀槍が、奥義の名の下に解き放たれる。
纏った衝撃波で床の氷を削りながら、まっすぐ『雪巨人』の胸元に突き進む。
行きがけの駄賃に『雪狼』を巻き込んで、巨人を貫くはずの銀槍は・・・。
「ガァァァァ!!!」
咆哮した巨人、棍棒の横薙ぎで打ち払われた。
「・・・なっ!」
【えぇ?フォルテちゃんの奥義よ・・・?】
珍しく驚愕を露にしたフォルテと、無機質な声でも動揺を隠せない銀弓。
おれも想いは同じだ。
(うそだろ!?)
こりゃまた・・・ヘビーな展開だぜ。
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