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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
191/266

・第百八十一話 『罅割窟』前編

お待たせしました!

いつもお読み頂きありがとうございます。



 異世界からこんにちは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、相変わらず厄介なことが起きてるらしいぞ?

 兄貴たちは、現在交戦中です。

 いやぁ・・・前情報通りって言われたらその通りなんだがなぁ・・・。

 ちょっと多すぎませんかね?

 ポーレ長老も語ったし、道中ではポーラも眉を顰めたように、魔物の数がすごいんだ。

 元は内陸部に通じる一本道・・・ここが?

 うそだろ?ただの魔物の巣じゃん?

 思わずつっこんでしまうのも仕方ないだろう。

 むしろ洞窟前に何も居なかったのが不自然だわ。

 え?上層部が向こう側に繋がってて、ここ自体は地下三階まであるって?

 そんで地下三階に大きな広場が確認されてるんだー、へぇー。

 うん、進むだけなら突っ切った方が良いんだろうけどさ。

 このトラブルの発生源、絶対そこだろ・・・。

 ハァ・・・テンプレがおれを苦しめる。 



 ■


 

 幅もそれなりだが、天井までの高さもかなりある。

 いやな予感がビンビンだ。


 (これ絶対・・・飛行型が居るな。)

 

 アフィナが産み出した火玉が松明代わり。

 氷に覆われた岩壁と通路をゆらゆらと照らし出す。

 数m先は闇、決して十分な灯りではない。

 

 隊列を整え『罅割窟』に入って、しばらく続く一本道。

 直線なのが幸か不幸か、気付くのは同時。

 ロカさんとポーラが注意を促す。


 「主!」「セイ!すげぇおるだ!」


 (・・・oh・・・。)


 闇の中、火玉の光を反射するように輝く数多の光点。

 赤い・・・目だ。

 『イリーン階段丘』に棲んでた魔物たちとは明らかに違う。

 あいつらの目には怯えや疑念、理性的な輝きがあった。

 しかし、奴らの赤い目を見た瞬間に確信できる敵意。

 これは絶対話し合いでなんとかできるような相手じゃあない。

 野生の獣、或いは狂気に追い立てられる者の目だ。

 ゲームっぽい表現をするならきっと、「モンスター」って奴なんだろう。


 『罅割窟』に入った途端、襲い掛かってきたのは純白の蝙蝠『雪蝙蝠スノウバット』と、同じく純白のネズミ『雪鼠スノウラット』。


 (敵意もさることながら・・・でかいな。)


 どちらも『地球』の常識的なサイズからは明らか逸脱した大きさ。

 蝙蝠は羽を広げれば1mくらいあるし、ネズミも7,80cmくらい?

 十分にパニックムービーの素質がある。

 

 こちらを視認すると同時、蝙蝠はたぶん聴覚感知なんだろうが・・・一斉に迫り来る魔物の群れ。

 ポーラが猟銃を構え、タタタンと軽快な発砲音。

 閃くマズルフラッシュと同数、頭部を撃ち抜かれ墜落する『雪蝙蝠スノウバット』。

 相変わらず一撃必殺、これが魔眼か!

 しかし敵は圧倒的多数。

 とてもじゃないが三発程度で減らせる数じゃない。


 「こう数が多いと・・・おいは不利だべな!」


 ガチャ、カシャカシャと手早く次弾を装填しつつ、嘆くポーラ。

 彼の猟銃は三連式、三発の発砲と共に弾切れを起こす。

 おそらく普段の猟でそれ以上の性能は必要無いのだろう。

 むしろこんな数と真向から闘うこと自体が想定外なんだ。


 「追撃します。」


 【広範囲でいくわねー?】

 

 フォルテは淡々と告げる。

 続いて無機質なのにどこか気の抜ける女性の声が、フォルテの構えた銀弓『銀鴎アルジャンムエット』から、全員の頭に直接響く。

 さながら弦楽器でも奏でるが如く、弓兵だとは思えない綺麗な指先で爪弾く弓弦。

 放つのはただ一矢。

 ヒュカッ!

 風切り音、おれたちの頭上を山なりに、煌く軌跡を残すフォルテの銀矢。

 されど銀矢は中空で分裂し、銀雨となって降り注ぐ。

 小さな風切り音が一瞬で、ザァッと響く雨音に変わる。

 

 銀色の雨に打たれた『雪蝙蝠スノウバット』と『雪鼠スノウラット』が、なすすべも無く絶命。

 光の粒子を放ちながらカードに変わり、洞窟の出口へ向かって飛んで行く。

  

 (アンティが発生しないってことは・・・自然現象なんだろうなぁ・・・。)


 フォルテに倒された群れを見ながら考える。

 この世界で問題が起きていると言われると、ついつい『略奪者プランダー』の暗躍を疑ってしまう。

 ちょっと過敏になっているだろうか?

 

 「主、まだ!」


 「わかってる。」


 ロカさんの忠言、おれが少々考え事をしていたことに気付かれていたようだ。

 だが安心してくれ、油断はしていない。

 正に銀色の雨と言うしかないフォルテの攻撃を、たまたま避けられた数匹の『雪鼠スノウラット』が、一番手前・・・おれとポーラに向かって飛び掛る所だった。

 迎撃しようとするポーラの腕を、トンと押さえて前に出る。

 フォルテの銀弓に装填される銀矢と違って、ポーラの銃弾は無制限じゃない。

 これはおれの仕事だろう。


 「ふっ!」


 小さく呼気を吐き出し、左右の拳を振るう。

 振り抜くまでも無い、ボクシングで言えばジャブ程度の拳撃。

 かなり力は抜いているのだが・・・それでもせいぜい7,80cmのネズミだ。 

 インパクトの瞬間に魔力を放つイメージ。

 いつもの「なんちゃって発剄」で吹っ飛ぶネズミが、ピンボールのように別の個体を巻き込む。

 同じ要領で生き残りもあっさり駆逐。

 洞窟の通路に光の粒子が溢れた。


 

 ■



 初っ端のお出迎えをあっさり蹴散らした後、前進中にポーラがボソリと呟く。


 「セ・・・セイは・・・獣人だか?」


 「いや?100%純製の人だが?」


 意味がわからんな・・・けも耳も尻尾も無いぞ?

 もふもふは愛でるべき物であって自分で装備しようとは思えない。

 しばし沈黙。


 「じゃあ・・・伝説に出てくる拳闘士って奴だべか?」


 「・・・魔導師って名乗ったよな?」


 ポーラがおれをじっと見つめている。

 うん、前を注視した方が良いんじゃないのか。

 半ば呆れたように言葉を紡ぐ白熊。


 「人族の魔導師が、素手で魔物を殴り倒すなんて・・・聞いたことねぇだ。」


 「そう言われてもな・・・一応、殴るときに魔力使ってるぞ。」


 おれの回答にも「そういうことじゃねぇだ!」と猛るポーラ。

 アフィナとシルキーもぶんぶん頷いてるし、異世界あるあるか?

 そういや洞窟に入る前に「武器は?」とか聞かれたような気もする。

 道中は遠距離でポーラとフォルテが処理してたからなー。

 この世界には格闘技とか無いんだろう。


 なんか「おいでも銃さ使って倒すのに・・・納得いかねぇだ・・・。」と呟き肩を落すポーラを、アフィナとシルキーが「ポーラ、考えたら負けだよ!」とか「セイさんだから!ね?」とか言って慰めてるんだが・・・。

 なんだよ、何が不満なんだ?倒せてるんだからいいじゃねーか?

 

 そんな他愛の無い会話も束の間。

 ロカさんの『索敵』に敵勢力が引っかかる。


 「主!奥から・・・五!一匹でかいのである!」

 

 お出迎えに余念が無いな、熱烈歓迎って感じか。

 仲間たちにさっと緊張が走る。

 ポーラとフォルテはそれぞれ猟銃と銀弓を構えて前方を見据え、アフィナとシルキーも少し重心を落す。

 

 「アフィナ、火球を二、三発撃ち込んでやれ!」


 「わかった!」


 灯り代わり、先制攻撃になれば儲けもんだ。

 アフィナがバスケットボールくらいある火球を二個成形。

 数秒両掌に浮かべた後、まだ暗い前方に飛ばす。

 

 「ギャインッ!」


 鋭い鳴き声を上げて一匹、白い狼型の魔物が吹き飛ぶ。

 どうやら効果はバツグンのようだ。

 火球が当たった魔物はそのままカードに転じた。 


 「やった!」


 「アフィナすごい!」


 「『雪狼スノウウルフ』だべ!」


 異世界組はそっちに気を取られたようだが・・・おれと盟友ユニットたちは違った。

 そしてその光景が一気に焦燥感を煽る。


 「まじか!」


 「主っ・・・!」


 「若様、集中に入ります。」


 アフィナの放った火球は二発。

 最初の一撃は『雪狼スノウウルフ』に着弾して倒したが・・・二発目はその後ろに居た大型、火球のおかげで一瞬垣間見えたそいつに「握り」潰された。

 そう、そいつは火球を無造作に手掴みして消したのだ。


 「アフィナ!もう一発火球を天井に上げろ!」


 おれは数歩前に出ながら指示。


 「えっ!?わ、わかった!」


 アフィナが天井に打ち上げた火球、お出迎えの魔物ご一行様を照らし出す。

 白い狼型の魔物『雪狼スノウウルフ』が三匹。

 そして・・・人間くらいある棍棒を持った、青い巨体の人型生物が一人。

 黒い髪に黒い髭、肩掛けにした獣の皮は服なんだろう。

 つまり服を着るような知性があるってことだ。


 狼は身を屈めて唸り声で威嚇、巨人は血走った瞳でおれたちを迎合していた。 


 「ポーラ!あいつは何者だ!」


 「あ・・・あれは!『雪巨人スノウジャイアント』だべ!な、なんであいつがこんなとこさ!?じっさまの話じゃ地下三階の広間に居るって話だべさ!」


 やべぇ、いやな予感はしたんだよ。

 なんで本来のボスモンスターと思わしき奴が、一階の入り口付近うろついてんだ!

 

 「若様、先手必勝でいきます。」


 「やれ、フォルテ!」


 集中を終えたフォルテの合図、おれは迷わずGoを出す。

 フォルテの奥義を知る仲間たちは自ら進んで、未だ『雪巨人スノウジャインアント』遭遇の衝撃から覚めないポーラはおれが引っつかみ、射線上から身体をずらす。

 直後・・・。


 「奥義シャグランフレッシュ!」


 フォルテの番えた銀槍が、奥義の名の下に解き放たれる。

 纏った衝撃波で床の氷を削りながら、まっすぐ『雪巨人スノウジャイアント』の胸元に突き進む。

 行きがけの駄賃に『雪狼スノウウルフ』を巻き込んで、巨人を貫くはずの銀槍は・・・。


 「ガァァァァ!!!」


 咆哮した巨人、棍棒の横薙ぎで打ち払われた。

 

 「・・・なっ!」


 【えぇ?フォルテちゃんの奥義よ・・・?】 


 珍しく驚愕を露にしたフォルテと、無機質な声でも動揺を隠せない銀弓。

 おれも想いは同じだ。


 (うそだろ!?)


 こりゃまた・・・ヘビーな展開だぜ。





ここまでお読み頂きありがとうございます。

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