・第百八十話 『予測』
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※三人称視点、その時彼らは!
異世界の魔導師『悪魔』のセイとその仲間たちは、本来の目的地『最後の港町』ミブの逆端、『北海峡』へ強制的に転移。
程近い里から内陸部に向かうため、何の因果か『罅割窟』なるダンジョンアタックに向かう。
新たな仲間、白熊族の狩人ポーラを加え、決意を燃やしているちょうどそんな頃の話。
とある・・・一目で趣味の良いことがわかる部屋の中、向かい合わせイスに腰掛け、何事か真剣な表情で話し合うのは五人の男女。
他を押さえ場の中心に居るのが・・・この世界『リ・アルカナ』ではお目にかかれないような、派手なプリントTシャツとハーフパンツ、明るい茶髪に野球帽を被った少年。
そして彼の両隣、どこかお揃いにも見える中華風の衣装を纏う男女。
白髪白髭の老人と、青い長髪を独特な結い方で括った美女。
そんな三人の向かいに居るのが、不思議と似通った雰囲気を見せるホタテビキニの人魚と、人が良さそうな三十路の人族男性。
彼らはテーブルに輝く銀板を置き、困りきった表情を交し合う。
「せめてもう少し・・・情報を集めたかったのぅ・・・。」
「済まん・・・妾が失念しておったばっかりに・・・。」
白髪白髭の老人、『古龍』バイアの『人化』モードが苦々しく呟き、青髪の美女『海龍』アリアムエイダの『人化』モードが目を伏せる。
「一応さ・・・今日はおいらが連絡を取るって言ってみるけど・・・。」
(だめだろうな・・・。)
半ば諦念、アニキとの連絡は一日ごとの持ち回りなのだ。
重いため息を吐いて、少年が銀板を操作。
聞きなれたコール音、ドラゴンの咆哮。
三度の咆哮が響き、相手と繋がった感覚。
「・・・はい、なんかあったの?」
お目当ての人物が銀板越し、その声を響かせる。
瞬間、示し合わせたように・・・。
バタンッ!
けたたましい音を立て、豪奢な扉が開かれる。
駆け込んできたのは、鮮やかな緑髪を振り乱した美幼女。
タンクトップのような薄布を着た幼女の下半身は魚のそれ、尾びれを必死で繰りながらやっとの思いで辿り着いたのだ。
室内に居た面々が一斉に振り返る。
その人魚は己が胸元に手を当てスーハーと呼気を整える。
「竜兵様っ!?お兄様と連絡が取れないって本当ですのっ!?」
発せられた言葉に、途端「しまった!」と言う表情を浮かべる面々。
特に明るい茶髪に野球帽、鳶色のやんちゃそうな瞳をした少年・・・竜兵の表情が暗い。
意を決し彼女の父、『深海王国』ヴェリオンの宰相、サビールが声をかける。
「あの・・・リューネ?・・・取り合えず、落ち着こうか?」
しかし・・・ヴェリオンの女王、『歌鮮姫』リューネは、そんな父をキッと睨み付けた。
「これが落ち着いていられますかっ!」
一息で吐き捨て竜兵に詰め寄るリューネに、サビールはなおも食い下がろうとするが・・・。
「お父様は黙ってて下さいまし!邪魔ですわ!」
一喝、サビール氏は声も無く撃沈。
ションボリと「娘が・・・私を邪魔だって・・・。」虚ろな目で呟く。
そんな弟の姿に慌ててセイの盟友、『水の戦乙女』ヴィリスがフォロー。
「サビール!負けないで!娘はいつか嫁に行くものなのよ!?」
うむ、何かが違う。
その時、テーブルに置かれた銀板から、とんでもないプレッシャー。
地の底から響くような声が聞こえてきた。
「ぬぁんですってぇ~っ!?」
ゾクリッ!
誰しもが背中に氷を突っ込まれたような感覚を味わう。
勢いに任せて乱入したリューネも同様。
今はもうガクガクと震え、自身の細い肩を必死で抱きしめるのみ。
「竜・・・聞いてないわよ?」
本来ならば小鳥の囀り、或いは鈴が鳴るようなと呼称される類の美声。
しかしその声は、今や死刑宣告の読み上げの如し。
「あ・・・あのね、ウラ姉?」
少々上ずりながらも声を上げた竜兵、彼よりも遥かに年嵩の一同が感心する。
(さすがは異世界の魔導師よ!)
大人たちの気持ちは、図らずも正確にリンクする。
束の間、ドスの効いた「・・・なによ。」の一言で、ただ「ごめんなさい。」と謝る竜兵を、誰が責められることだろう。
涙目になった竜兵をよそに、銀板から声が続く。
「なんなのあのバカは?普通出発して一日で消息を絶つものなの?何のために竜が通信手段を渡してると思ってるのかしら?バカなの?死ぬの?」
ウララさんのイライラゲージが破裂寸前である。
これが怖かった竜兵及び一同は、出発初日で行方不明となったセイの所在だけでも確認しようとして奔走していたのだが・・・結局明確な足取りが掴めないまま今に至り、どこかから情報を得たリューネの暴露によって、一触即発な『正義の女神』様に露見することになってしまったのだ。
ひとしきりセイを罵り、帰った際に執行するらしい刑を決めたところでウララは、竜兵に対し包み隠さずわかっていることを説明するよう命じる。
■
ウララはとりあえず竜兵の報告を黙って聞いた。
つっこみ所は満載だったが、それを逐一言い募っても仕方ない。
もう事故は起きてしまったのだ。
話し終えお茶を飲み干し、再度「ごめんなさい。」と謝る竜兵。
「まぁ話はわかったわ。竜?その「ごめんなさい」は何に対してかしら?」
二人の銀板越しの会話を、ただ見守ることしかできない他の面々。
問われた竜兵は、一瞬言葉に詰まるも・・・。
「う・・・昨日の時点でウラ姉に相談しなかったことです・・・。」
小さく答えを言う。
確かにウララが怒るものやむなし、竜兵だって同じ立場なら怒るだろう。
「そうね・・・じゃあ、今回は許してあげるわ。」
ウララの言葉に場を包む緊張が少しだけ弛緩する。
元よりウララにとっては年下で守るべき存在である竜兵、多少浅慮な所があったにしても目を瞑る。
やはりこういう場合、秋広が居ないことが悔やまれた。
「それはともかく・・・。」
またもや低くなるウララの声音、緊張が戻ってくる。
「原因はどう考えても・・・アリアムエイダとサビール氏にあるわよね?」
「「うっ・・・!」」
今度は二人が冷や汗を流す番だった。
そうなのだ。
ウララへの報告の誤魔化し、時間稼ぎを図ったのは竜兵にも責がある。
されど、セイが行方不明になった原因、『狂気烏賊王』との会敵、ひいては現在使用を忌避されている海路への注意を喚起しなかったのはこの二人。
情報を掴んでいたはずなのに忘れてしまっていた、と言う大失態だった。
コツコツ、コツコツと爪でテーブルを叩きながらウララ。
「いいえ・・・二人だけじゃないわね。あの変態中年二人は何をしてるのかしら?確か凄腕?の諜報員のはずよね?」
『地球』のカードゲーム、『リ・アルカナ』の記憶がある以上、わかっていてあえてその名を口にする。
まさか奴らとて「忘れてました。」では済まないだろう。
咎はヴェリオンの誇る変態紳士、『海星』ローレンと『水先案内人』オーゾルにも及ぶようだ。
言葉も無く押し黙る一同、正にショボーンである。
バタンッ!
どこかデ・ジャ・ビュ。
つい先刻リューネが顔を出した時同様、激しく開かれる扉。
タイミングが良いのか悪いのか、当の本人たちが顔を出す。
「はっはっは!皆さんどうしたのかな?セイ君の足取りは掴んだぞ!」
「これでウララ様を誤魔化せますな!このオーゾル、胸を撫で下ろしましたぞ!」
絶句・・・慌てて部屋に居た全員が、指を一本唇の前「しーっ」のハンドサインで促すが、時既に遅し、吐き出した言葉は取り消せない。
一番聞かれてはいけない人物に、「誤魔化せる」発言がストライク。
ウララと通話中の銀板は、ただの『謎の道具』であるはずなのに、物理的圧力を持って場を支配した。
「詳しく・・・聞かせてもらおうじゃない?ねぇ・・・ローレン、オーゾル?」
後に二人は語る。
「ヴェリオン奪還時よりも怖かった!」と。
■
ローレンとオーゾルは、セイが消息を絶った・・・正確には竜兵がアフィナ、シルキーのために作ったブレスレットの追跡が切れた海域を調査していた。
「やはりお兄様は『狂気烏賊王』と交戦したんですの?」
手を胸の前で祈るように組み、不安、心配を隠そうともしないリューネ。
オーゾルはコクリと頷き、ローレンは「間違いないでしょう。」と続ける。
ローレンは己が特技も使い、周辺の海洋生物に確認も取ったが、見たことも無い船と件の化け物が戦う姿、あちこちで目撃されていた。
「まぁ・・・あいつが、スルメの化け物なんかに負けるとは思えないけど・・・。」
「それは・・・そうだね。」
ウララ、竜兵どちらもセイが、そんな柔な性質では無いとわかってはいる。
しかし、わかっていても心配なものは心配だ。
なにしろ『狂気烏賊王』なる魔物は、『狂気の女神』アギマイラの眷属だと言うではないか。
『正義神』ダインのことがある。
アールカナディアやセリーヌ、オーディアと言った穏健派に属する神はまだしも、二人ともこの世界の神に全幅の信頼を寄せている訳ではない。
しかもアギマイラは『第一次エウル大戦』の引き金になった神の一柱。
自然と沈黙、重い口を開いたのはサビール氏。
「ローレン、足取りがわかったと言っていたが・・・それだけかい?」
「いえ、同胞の一人が、セイたちの物と思われる潜水艇が魔法陣に呑まれるのを見ておりました。私もその魔力残滓を調べたところ・・・十中八九転移魔法の類かと・・・。」
ローレンの言葉を受け、地図を取り出すオーゾル。
「「・・・転移。」」
期せずして重なるウララと竜兵の呟き。
二人の考えることも似偏っている。
つまりはこれが『略奪者』の行いなのか?ということ。
それとも『狂気の女神』アギマイラの独断?
ならば目的は・・・。
答えは出ない、情報が足りない。
頭を数度振り、ウララも銀板の向こう側、自室にて地図を取り出しテーブルに広げる。
ローレンはコンパスを取り出すと、セイが『狂気烏賊王』と闘った海域へ針を刺し、ペン先をくるりと一回点。
「魔力残滓と目撃証言から割り出した魔法陣のサイズ、これが転移だったと仮定して割り出した跳躍範囲はここまでです。」
奇しくもその範囲はかなり正確。
方向こそ不明とは言え、確かにセイの飛んだ『北海峡』を網羅していた。
「どこからどこまで?」
その円が見えないウララは尋ねる。
竜兵とローレンの説明により、ウララの地図にも同様の円が描かれた。
しばし黙考。
「ウラ姉・・・アニキたちはどこへ飛んだと思う?」
「そうね・・・。」
ウララは地図を見ながら自身の髪先を弄る。
(転移の目的は不明・・・いくらあいつがバカでも、あたしたちが心配してるってことはわかっているはずよ。それなのに連絡してこないのは・・・きっとまた『妨害』みたいな物があるんじゃないかしら?)
「ねぇ・・・この『氷の大陸』メスティアってのは、本当に町が一つしかないの?大体にしておかしいわよね?いくら北だからって、どうしてここだけ氷に包まれているのよ・・・カスロもヴェリオンもそんなに寒い町じゃ無いでしょう?」
素朴な疑問、異世界組にとっては常識。
しかし言われてみれば・・・確かにメスティアだけが氷に閉ざされているのだ。
それがウララにはどうにも気持ち悪く、ファンタジーで片付けて良いのか?と思ってしまう。
「えっ・・・確かそのように・・・あれ?」
サビールを皮切りに、口々「あれ?」と言う疑問が出てくる異世界組。
ウララと竜兵には覚えのある現象。
「バイアもそう?」
今まで黙って成り行きを見ていたバイア、ここで活目す。
「いや・・・そうじゃ!古代の魔導兵器・・・そう!魔導兵器のせいで雪と氷に閉ざされたんじゃ!」
忘れていた・・・否、忘れるよう仕組まれていた。
ウララは認識阻害を読み切った。
「バイア、その兵器があったのはどこ?」
地図の一点を指す指先が答え。
きっとあいつはそこへ行く。
だってそれが『悪魔』のセイと言う男が背負った業だから。
「そこを中心に探せばかなり範囲は狭まるわ。竜・・・あの子に頼んでみる。本当はあたしが行くって言いたい所だけれど・・・。」
ウララの言った「あの子」、竜兵はすぐに思い至った。
竜兵は思考を巡らせる。
音信不通のアニキに今何が必要か?
「わかった。ウラ姉、一回こっちに寄って貰って?」
「ええ。」
短く答えたウララは「ドラゴンホットライン」を切り、『魔導書』を展開。
目の前に浮かぶA4のコピー用紙サイズ、六枚カード。
カードを一枚選択。
ウララの掌に浮かぶ青い宝石・・・サファイア。
(これ・・・あいつがくれたのよね・・・。)
そんな事を考えながらサファイアを握る。
効果が発動、宙に浮かぶ羽根の紋章二つと、新たに手札に加わる一枚のカード。
追加でカードを選択し、金箱へ紋章が飛び込んだのを確認。
いつも通り厳かに、歌うように召喚の理を唱えた。
『天空の聖域の夢見る者、勇気の心を運びし者、我と共に!』
金色に輝く世界。
現われたのは『見習い天使』キアラ。
世界最速の飛行速度を誇る天使族の盟友。
「キアラ、状況は理解してる?」
「はい、ウララ様!セイ様の魔力は覚えてます!」
両手をグーにして胸の前、「むんっ!」と気張る彼女に「いい子ね。」と微笑むウララ。
二人はウララの自室を後にして、竜兵の待つヴェリオンへの転移装置へ向かう。
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