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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
189/266

・第百七十九話 『雪原』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^

 

 異世界からおはよう。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、なんだかおかしなことになってきた。

 今兄貴は人生初のダンジョンアタックです。

 何言ってるかわからないよな。

 いやー、自分でも・・・このトラブルを惹きつける体質にドン引きしてるとこなんだ。

 おれたちの進む方向、内陸部に到達するためには不可避のルートのようなんだが、巨大イカに襲われ、目的地の逆側に転移でぶっとばされ、船も連絡手段も機能しない。

 あげく魔物大量発生の洞窟に突入である。

 自分で啖呵を切っておきながら、「こういうのは秋広の担当」そう思ってしまっても仕方ないだろう。

 まぁ・・・付き合いは短いが、親切で気の良い里の住人たち。

 彼らの抱えた難事を取り除くのも吝かじゃあない。

 さて今度は何が出てくるのやら・・・。



 ■



 『平角鹿王キングカリブー』よりもかなり小さい・・・それでも一般的な馬と同じくらいのサイズ。

 『足長山羊ロングフットゴート』なる魔物の二頭立てで、馬車型のソリが雪原を行く。

 このソリは風雪を凌ぐ天幕と、暖かな毛布をふんだん座席に敷き詰めた、外見こそ質素だが乗員のことを精一杯気遣った仕様。

 荷台部分に乗り込むのはおれの仲間たち、アフィナ、シルキー、フォルテの三人。

 それぞれコートの上から毛布を被り、やはり寒さはしんどいよう。


 「火・・・使って良い?」


 「あほか、だめだ。」


 室内で火玉を飛ばしたいなどとのたまう残念を即座に切り捨て、おれは深々とため息を吐く。


 「だってね、セイ。足がスースーするの!」


 お前の残念さには言葉も無いよ。

 だから毎度毎度ズボンを履けと言っt(ry

 シルキーは苦笑い、フォルテはわれ関せずの姿勢を貫いていた。


 御者台には山羊を操作するポーラと、その横に腰掛けたおれ、そしておれの腕の中大人しく暖房代わりになってくれているロカさん。 

 

 「セイ、おめさも荷台におっていいだぞ?毛皮の無い人族に外は堪えるべ?」


 ポーラはチラリ、二枚重ねの毛布で完全武装のおれを見ながら言う。

 事実、御者台の寒さは五割り増しである。

 それに・・・荷台もかなり広い。

 仲間たち三人がそれなりに余裕を持って座っても、少なくともあと三、四人は楽に収納できるだろう。

 当然それだけの備えにしたのにも、ポール長老が「このソリを是非使って欲しい。」と申し出たのにも理由がある。


 おれたちだけならまだしも、洞窟内にもし生存者・・・つまりはポーラの両親などが居た場合、『平角鹿王キングカリブー』だけじゃ手狭になる可能性もあるからだ。

 この氷雪地帯、危険な洞窟に向かって三年間行方不明。

 普通なら絶望的としか思えないが、ポーラは両親の無事を信じている。

 なんでもポーラの母親ロントラは、移動こそできなくなってしまうが絶対防御と生命維持の効果を兼ね備えた結界を張ることができるらしい。

 所謂仮死状態になって全ての攻撃から身を守るとか。

 さすがは異世界、奥が深い。

 因みに父親のポーレはポーラやポール長老と同系統の魔眼持ち。

 魔眼の狩人と絶対防御の嫁、里一番の実力者な夫婦だった。

 そんな二人だったからこそポーラも、「内陸の町に出稼ぎに行っている。」と言う長老の嘘を疑わなかったそうな。

 

 おれは「んー・・・。」と一つ唸り、あえて外に居る理由の説明をする。


 「まぁ・・・道中でも他の魔物が見れるかもしれないっていうことで、傾向の把握と・・・念のためだな。」


 『罅割窟』はどうにも不思議な性質を持っているらしい。

 洞窟内で沸いた魔物はほとんど外に出てくることも無く、通行する者を阻むように襲い掛かってくるとのこと。

 それはまるで里と内陸を隔絶するかのように、或いは洞窟内に守るべき物でもあるかのように。

 しかしほとんど出てこないと言っても一部例外は居るらしい。

 そんなのが道中でもお目にかかれるかもしれないと言うので、寒いのはある程度我慢、ロカさん共々御者台で警戒中って寸法だ。


 おれは今まで、この世界『リ・アルカナ』に存在する魔物等ほとんど見たことがあった訳だが、この地域・・・正確には『狂気烏賊王フューリーテンタクルロード』の登場辺りからそれが揺らいでいる。

 氷人族、雪人族の情報に加え、『平角鹿王キングカリブー』も『足長山羊ロングフットゴート』もそうだ。

 相手の情報がわからなければ、得てして遅れを取ることもあるだろう。

 事実あのイカには苦しめられた訳だし・・・。

 この先もそれじゃまずいからな。


 まぁ後は・・・単純にポーラ一人に任せるのもアレだったってのもある。

 彼の実力、戦闘能力についてはわからないが、何かに襲われた時にもおれとロカさんなら即応できるし、話し相手も居た方が良いだろう。

 なんとなくおれの考えに予想が付いたのか、ポーラは目を瞬かせる。


 「心配・・・してくれてるだな。済まねなセイ、おいも冷静になったべ。」


 「ふふ・・・主は優しいのである!」

 

 「ん。まぁ・・・気にするな。」


 にかっと笑うポーラと、やたら誇らし気に耳をピコピコするロカさん。

 おれはロカさんをぎゅっと抱きしめる。


 「主?照れているのであるか?」

  

 「いいや?寒いからだ。」


 「セイは・・・素直じゃねぇべ。」

 

 そんなやり取りを交わしながらソリは行く。

 荷台の連中は舟を漕ぎ、トットッと軽い蹄音を奏でながら二頭の山羊が走る。

 雪原に二本のシュプールを残しながら、おれたちは『罅割窟』へ向けて進んでいた。



 ■



 軽く舞う雪、変わらない風景、少々飽きてきた。

 道のりは順調、そんな折・・・。

 

 「なんかおるだな!」


 「そんなに大型ではないのである。数は三・・・。」


 ポーラとロカさんが同時に警告。

 次いでおれの首筋にもピリリと危険察知。

 ロカさんは『索敵』、ポーラはその魔眼で異常を把握したのだろう。

 御者台に立てかけていた猟銃を片手で構えるポーラ。

 パッと見何も無い雪原に、矢継ぎ早、三連続で銃を放つ。

 タタタンッ!

 ほとんど同時に響く軽い銃声。

 何も無かったはずの雪原に、体長1m程のトカゲが忽然と姿を現す。

 三匹とも等しく眉間を一撃、明らか絶命しているのが見て取れた。


 (ほぅ!)


 思わず感嘆、おれは「お見事。」と声をかけた。 


 「『雪蜥蜴スノウリザード』だべな。雪に体色を擬態して待ち伏せする魔物だ。おいよりロカさんがすげぇべ。数を教えてくれたもんで、潜伏場所の把握が楽だっただ。」


 おれから手放しの賞賛に、ポーラは照れくさそうに頭をカシカシと掻いた。

 こいつは中々心強い。

 少なくとも彼が冷静で居てくれる限り、ちょっとやそっとで魔物に後れを取ることも無さそうだ。


 それはそうと、いくらポーラが瞬時に倒しているからと言って、全く起きる素振りも見せない仲間たち。


 (お前らだらけすぎじゃねぇのか?)


 特に頑張る宣言をしたフォルテ。

 お前はなんだかんだ昨日も一番最初に寝てたよね?

 せめて索敵に参加するとかこう・・・殊勝な所も見せて頂きたい。


 (やっぱり箱に返そうかしら?)


 「若様!見張りを交代します!」


 ・・・ある意味すごいな。

 おれがフォルテの待遇を考えた途端、がばっと起き上がり保身に走るフォルテ。

 危機回避能力はずば抜けているらしい。

 ポーラはそんなフォルテを目を丸くして見つめていた。

 同様の襲撃があの後三度、ポーラが「ちょっと多すぎるべ・・・。」と呟いていたのが気に掛かる。


 程なくして・・・。

 おれたちは『罅割窟』の前に辿り着く。


 「ここか・・・。」


 「間違いねぇべ。」


 荷台から顔を出し、ポーラとフォルテの間から覗きこんだおれの呟きに答えるポーラ。

 目の前には雪と氷を纏ったいかにもダンジョンな洞窟。

 大柄な白熊族のポーラが居ても、三人は優に並んで歩けそうな入り口だ。 

 身支度を整えさっさと荷台から降りる。

 次いで降りてくるアフィナとシルキー。 


 「うぅ・・・寒い!」


 「アフィナ・・・セイさんの言う通りズボンを・・・。」


 そりゃ寒いだろうよ?

 一応コートは着ているが、ミニスカハイソックスはそのまま、雪原で太もも丸出しとかばかじゃないのか?

 見かねて苦言を呈すシルキーに、「これはボクのアイデンティティー!」とドヤ顔アフィナ。

 もはや何も言うまい。


 「ソリは・・・『カード化』して持っていくか。山羊はどうする?」


 おれの懸念にポーラは、「ああ、こいつらなら大丈夫だべ。」と山羊に付けられた装具をはずしながら答える。

 はずした装具も受け取り『カード化』、ソリ共々『図書館ライブラリ』に収納。 


 「放しとけば自分らでエサ取って食うだ。帰りはコレで呼べるでよ?」


 彼が首から提げているのは白い笛、見た感じ何かの骨で作られた物。

 大方、犬笛のような物なんだろう。

 

 元気良く雪原へ掛けて行く二頭の『足長山羊ロングフットゴート』を見送り、おれたちはいよいよ『罅割窟』に侵入する。

 隊列は事前に決めてある。

 一番前におれとポーラ、次列がアフィナとシルキー、フォルテとロカさんが殿だ。

 ポーラには魔眼で前方を、ロカさんには『索敵』で後方を警戒してもらうことになる。

 魔眼はその名の通り目に見えないと意味が無いし、バックアタックもロカさんが居てくれれば安心だ。


 アフィナとシルキーを真ん中に置くのはいつものことだな。

 多少役に立ってくれるようにはなったが、やっぱり心配なものは心配だ。

 油断するとやらかすのがアフィナという存在である。

 シルキーは残念のお守りな意味合いが強い。

 彼女は一人だと真面目な馬の人だが、アフィナが何かすると高確率で巻き込まれる損な性質を持っている。

 あれ?そう考えるとセットにしないほうが良くね?

 いや・・・ばらけるともっと被害が拡大する可能性が高い。


 頭を振って否定、ここまで連れて来てしまった以上、何を考えても今更だ。

 おれとフォルテの位置は言わずもがな、得物の性能上他に選択肢が無かったとも言う。 

 まぁおれの場合、得物と言うか・・・素手なんだが。


 ガチャカシャカシャと音を立て、猟銃の点検をするポーラ。

 アフィナは懐剣を取り出して腰に、フォルテも虚空から銀弓『銀鴎アルジャンムエット』を引っ張り出す。

 おれは全員の準備が整ったのを確認、「行くぞ。」と声をかけた。

 そして白熊ポーラを加えた仲間たちは、一斉にこくりと頷く。

 ダンジョンアタックの開始・・・。




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