・第百七十八話 『歓待』
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異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
聞きましたか美祈さん?
ウララに続いて兄貴までもまさかの神呼ばわり。
この世界の住人は神が好き過ぎだと思う今日この頃です。
実際現世に顕現することもあるからだと言われたらそうなんだろうが、おれにとっては寝耳に水・・・まごう事無きただの誤解だ。
使徒云々ですら固辞しているというのに、一段飛び越して神様だなんて、それこそトラブルの神様がサムズアップでウインクである。
トラブルの神様なんて居るかどうか知らないが。
いや、ホント気にしないで良いんで!
「呼んだ?」とか顔出してもらわなくて結構なんで!
危険な想像に必死で蓋をする。
こちらは『正義の女神様』だけで、胸もお腹もいっぱいです。
願わくばすんなり誤解を晴らしたいところだ。
■
どうも里長・・・ポーラのじっさまこと、ポール長老には現在進行形の悩み事があるらしく・・・。
ちょうど神様に祈りを捧げて来たばかりだったらしい。
ある意味見た目通りと言うか、なかなかこちらの言うことを信じてくれない頑固さを発揮するポール長老を、ポーラと二人で必死に説得。
平伏したまま「そんな訳ねぇだ!」と繰り返す長老を、やっとのことで落ち着かせたところだったりする。
いや、おれたちの素性を疑ってとかじゃないんだ。
とにかく彼の魔眼で見たおれの魔力ってのが、どう見ても常人らしからぬ・・・それこそ神様としか思えない程の強さだったらしい。
おれの異常性について懇々と説明されているようで、ひたすら遠い目をするしか無かった。
そんなつもりじゃなかったんです。
なんか色々ごめんなさい。
一度目を閉じてから大きく頷き、ポール長老は言う。
「お話はわかりましただ・・・セイ様、わしらの里にようこそおいでなすっただ。里を挙げて盛大な歓迎の宴を・・・」
だめだ、やっぱりわかってない。
「あのな、長老おれたちは・・・できるだけ騒ぎを大きくしたくは・・・。」
苦言を呈すおれを遮りポール長老、「これは譲れない!」とばかり鼻息も荒い。
うーん・・・。
「せめてその・・・セイ様ってのだけでもやめてもらえないか?」
なんかこう、今まで出会ってきた連中にも様呼ばわりされたことはあるんだが、今回はどうも釈然としないんだよな。
「だども、セイ様!」と言い募る長老を、「だからそれをやめれって言ってるだ!セイがいやがってるべ!?」とポーラが諌める。
長老もしぶしぶ従うことにしたようだ。
「・・・ぬぅ!」とか言ってるから間違いなく納得はしていない。
それはともかく。
歓迎してくれること自体は悪いことじゃないか。
あんまり大騒ぎになってもあれだとは思うが、この里では旅人なんて存在が何十年ぶりかのものらしく、もうすでに宴会の準備は始まっているだろうとのこと。
閉ざされた田舎ってそんなものかもしれない。
せっかく人々が用意してくれた好意を無碍にするのも良くないしな。
そういうことなら・・・おれも何か宴会料理でも作るかね。
歓迎してくれる里の住人へのお礼と、この先の円満な関係を築くため。
ひいてはふさふさ長毛の鹿さん・・・もとい、この先の氷雪を踏破するための『平角鹿王』を譲ってもらうためにも。
まぁ・・・まだ打診はしてないが、さっきのポール長老の態度からして、断固拒否ってことも無いんじゃないかなーとは思う。
意外と普通に「良いですだ。」って言ってくれるんじゃないかと。
里の生活には必要不可欠の騎獣らしいし、少し楽観過ぎるか?
さて・・・料理を作るなら『図書館』を開かなきゃいけないんだが。
宴の準備中らしい里の広場ではさすがにまずいだろう。
『カード化』と『図書館』に関しては異常の極みらしいからな。
「ポーラ、この家に厨房は?」
「ん・・・厨房?台所ならそっちの奥だべ。」
ポーラに場所を聞き、長老に使用して良いか尋ねる。
おれが料理を作るつもりだと聞いて長老は恐縮するが、「かえって何もしないのは心苦しい。」と言えば諦念、「無理はせんでくだされ。」と言葉を足すだけに留まる。
もちろん厨房も好きに使ってくれとのこと。
まぁ最初からそんなに手の込んだ物を作るつもりも無い。
里の住人は子供も含めて約40人ほど、50人には満たないらしいがそれでも結構な量だ。
おれとポーラ、長老のやり取りを聞いてアフィナとシルキーが目を輝かせた。
「セイのご飯!ボク楽しみ!」
「セイさん、お手伝いするよ。」
シルキーったらすっかり成長して・・・アフィナの残念さは健在、この娘は成長しないんだろうか?
アフィナに関しては手伝いか邪魔かわからん所もあるが・・・それでも働かざる者食うべからずだ。
「手伝わない人には食べさせません。」
にっこり笑顔で告げた言葉に、慌ててアフィナとフォルテが立ち上がる。
フォルテ・・・!お前もか!
おれは自分の分含め、四人分のエプロンを具現化した。
「ぬぅ・・・我輩は・・・!」
ロカさん大丈夫!気持ちだけもらっておく!
■
(やっぱ鍋かねぇ?)
『図書館』に収納されている食材とにらめっこ。
カタログ調のページを捲りながら思案する。
この極寒な土地柄と、50人に満たないまでもそれなりの人数。
魚や肉は普通に食べてるっぽいが、どう考えても野菜の類は少ないだろう。
一口に鍋と言っても色々種類はあるんだが・・・万人受けしそうなシンプルなのが良いか。
良し、野菜たっぷりの寄せ鍋風に・・・。
そこまで決めたところでポーラが厨房に顔を出す。
「セイ?おいが昨日撃った鳥使うだか?」
その腕に抱えられていたのは、鶏を二回りほど大きくしたような鳥が五羽。
こいつはなかなか食いでがありそうだ。
すでに血抜きや羽毛の処理は終わっていて、後は調理を待つばかりと言った風情。
「お!良いな!」
ポーラから鳥を受け取る。
寄せ鍋風から方向転換、鶏がらベースの白湯スープでいこう。
「我輩は鳥を見ると・・・から揚げを思い出してしまうのである・・・。」
邪魔にならない厨房の隅で尻尾を振り振り、堪えきれず呟く子犬。
ロカさんよだれよだれ!
「「・・・から揚げ!」」
ハモって呟きゴクリ、唾を飲み込むアフィナとシルキー。
お前らもか・・・。
揚げ物はね、食べる方は良くても作る方は大変なのよ?
脳裏に過ぎるはヴェリオンで饗されたカツ丼500人前と言う暴挙。
頭を振り『カード化』してあったから揚げのカードを具現化。
皿に盛られてほかほかの湯気、一つだけ自分で摘み、残りをロカさん始め他のメンバーの口に放り込んでやる。
途端幸せそうな表情に変わる面々に微苦笑し、「こ、これはぁ!」と口からビームでも出しそうなポーラに、長老にも分けてあげるように言って皿ごと押し付けた。
「今日はから揚げは無しだ。鍋を作るぞ。」
宣言すれば口々に、「それもおいしそう!」と破顔する。
どうやら不満は無いらしい。
ポール長老の住居前、広場に急遽設営された大型テント。
里の祭事に使われる、暖房の魔法が組み込まれた特別製のものらしい。
住人たち総出の歓待だった。
「いやはや・・・もてなすつもりが、すっかりご馳走になってしまったべ。」
「んだなす。」
「外の世界の料理?おいしかっただよ、お兄さん!」
よし、ラッコ族の少年よ、おれの膝に乗るが良い。
相も変わらず子供に集られるおれと、子供が一切寄り付かないアフィナ。
「な・・・なぜ?」がっくり膝を突き涙目、恨みがましくおれを睨む。
日頃の行いを胸に手を当てて考えてみることだ。
実に明暗を分ける光景である。
口々にお礼を述べる里の住人たちと異種族交流。
おれが提供したのは白湯スープをベースにした野菜たっぷりの鍋、絶対に50人前以上あったはずだが、すでに底が見えスープさえも飲みつくされている。
他にも大型の猪みたいな獣の丸焼きとか、2mくらいあるシャケみたいな魚をそのままスモークしたのとかあったんだが・・・。
今は全て骨だけになっていた。
さすがは獣人種、健啖家ぶりに舌を巻く。
陽気に歌い踊り、何度もおれたちの杯に自分のそれを当ててくる。
きっと貴重な備蓄用の食糧もあったんだろうが、彼らの向けてくる好意には一切裏を感じ取れなかった。
突如訪れた、彼ら曰く「外の世界」の客人であるおれたちを、誠心誠意もてなしてくれたんだと思う。
宴もたけなわ。
子供たちもしきりに目元を擦り、一人、また一人と住人たちが別れの挨拶。
自然残ったのはおれと仲間たちに、ポーラとポール長老の里長家族。
「そろそろ戻るべか。」
ポーラが言い、「片付けは?」のシルキーの問いに、「明日皆でやるべ。」と堪えるポール長老。
用意も片付けも里の住人全員でやるらしい。
やっぱりみんな仲が良いんだな。
■
長老家に戻り一息つく。
暖かいお茶のカードを具現化して車座、暖炉の前で長老に正対した。
歓待と宴会への謝辞、料理提供への返礼を交わし本題。
「ポール長老、頼みがある。」
「なんだべ?」
居住まいを正し真剣な話、長老も真っ直ぐ見つめてくる。
おれは内陸に向かいたい旨と、そのために『平角鹿王』を一頭譲って欲しいことを切り出した。
「・・・だか・・・『平角鹿王』を譲ることは全く吝かでねぇ、むしろ一番良い子を贈りてぇだ。だども・・・。」
意外、丹精込めて育て大切なはずの騎獣、それの一番良い子を譲るとまで言ってくれる長老だが、頭を振って言いよどむ。
「何か・・・問題が?」
おれの問いに深く嘆息、顰め面を見せる長老。
「内陸はやべぇだ。」
どういうことだろうか?
その後静かに語りだしたポール長老の話を纏めると・・・。
里から内陸へ向かう際必ず通らなければ行けない『氷積湖』、そこに至るための一本道『罅割窟』と言う洞窟が現在どうにも不穏な気配らしい。
以前から多少なり魔物が出る場所ではあったらしいが、ここ数年それが異常化。
数に加え、魔物個体の強さも未だかつてあり得ない程強くなっている。
到底、人が踏破できる雰囲気ではないと。
常人ならその通りなのかもしれないが、あいにくとその程度で退ける程、柔な神経や覚悟はしていない。
全く諦めていないのを視線で感じたか、或いはその魔眼で見抜いたか、長老は実際の事例で持って説得することにしたらしい。
それは中々に衝撃の事実。
「わしの息子・・・ポーラの父であるポーレと、その嫁ロントラも三年前調査に向かったきり帰って来ねぇべ・・・。」
ゴトンッ!カップが落ち、中のお茶が零れる。
全員の視線が集まった先にはポーラ、完全に虚を突かれたという体。
「じっさま・・・おいはその話知らねぇだ!おっととおっかは里さ出て内陸の町さ行ったて!」
父親と母親が行方不明?ポーラは知らなかったのか?
ポール長老は苦しげに呻いた。
「それは嘘だべ・・・おめに言ったら探しに行くって言うでな・・・。だどもセイたちさ危険な目に合わす訳にいかんべ?だで・・・今話しただ。」
長老は淡々と説明するが、その手は硬く握られている。
捜索に行けない悔しさはきっと、何も知らされていなかったポーラに勝るとも劣らぬ物だったのだろう。
なるほど、悩み事ってのはこいつか。
「セイ・・・。」
「セイさん・・・。」
仲間の二人が口々に、はっきりと内容こそ言わないが、その目が雄弁に語っている。
そしてそれなりに長い付き合い、おれの性格はバレているだろう。
こいつらにもきっと、確信があるんだと思う。
いつのまにか寄っていた、眉根の皺を擦ってほぐす。
目を閉じて嘆息。
(しかし三年・・・三年か。)
正直ポーラの両親、生存は絶望的じゃなかろうか?
それでも・・・聞いてしまったからなぁ。
「おいは・・・おっととおっかさ探しに行くだ!」
そりゃそうだろう、ポーラははっきりと口にした。
猛然と立ち上がりかけた彼の腕を掴み無理矢理座らせる。
「セイ、離すべ!おいは行かねば!」
焦燥するポーラを、「落ち着け!」と一喝する。
こう言っちゃ冷たいが、三年間も間がある。
今すぐ動いたから何かが変わる訳じゃない。
おれは閉じていた目を開き宣言する。
「出発は明日の朝、『罅割窟』はおれが開放する。ポーラ・・・一緒に来たいなら今日は休め!」
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