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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
186/266

・第百七十六話 『黄昏竜帝(ダスクドラゴンロード)』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


※6/25 誤字修正しました。

 異世界からおはよう。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈聞いてくれ、巨大イカに続き、流氷での立ち往生だ。

 兄貴は本格的にお祓いを視野に入れている。

 せっかく竜兵が用意してくれた潜水艇も沈黙。

 なんでも魔道具封印の結界が張られているとな・・・。

 余りにも連続するトラブルに、もふもふに逃避することを許して欲しい。

 うん、いや、わかってる。

 とりあえず涙目で物を投げてくるのはやめようか。

 ごめん、冷静になるよ。

 白熊族の猟師ポーラの毛皮と肉球は破壊力バツグンだが、そんなことを言ってる場合じゃない。

 なんとか算段をつけて、せめて「ドラゴンホットライン」が機能する場所まで行かないとな。

 それにしても大陸の真逆・・・逆端かぁ・・・。

 相も変わらずおれの前途は多難だ。



 ■



 潜水艇の操舵桿を操作、兵器ではないボタンもいくつか押してみる。

 全く持って無反応・・・いや、実に困った。

 

 「やっぱり・・・だめ?」

 

 後ろから覗き込んでくるアフィナへ、ため息と共に送る所謂「お手上げ」のサイン。

 エンジントラブルを伝えてきた操舵桿脇に取り付けられたモニターも、今は暗転し沈黙。

 竜兵と違い、ぶっちゃけおれには何が壊れているのかすらわからない。

 正直な話、船自体の故障によるものか、それともポーラの話した魔道具障害の結界のせいか、それすらも判断できない状態だった。


 食堂に戻れば三対の視線が一斉に。

 シルキーとロカさん、そしてポーラだ。

 フォルテ?寝てるよ?

 おれの様子で判断したのだろう、結果を問うことも無い。

 無造作イスに腰掛け少し逡巡、どうにも府に落ちないことがある。

 

 「ポーラ、ちょっと良いか?」


 問いかければ小首を傾げ、「なんだべ?」とおれに正対する。

 

 「確か氷人族?の王様が魔道具障害の結界を張ってるんだったよな?」


 「んだ。氷人族の王様は代々、この大陸を雪と氷に閉ざした殺戮兵器、伝説の『ミステリア道具グッズ』を封じてるって話だな。」


 なるほど・・・この地域がこんな状態なのは、その兵器のせいなのか。

 兵器の名前を言わないのとか、兵器自体の情報が無いのは、雪人族の王が使ってる認識阻害とやらのせいか?

 そもそも氷人族や雪人族ってのを初めて聞いた。

 もちろん『地球』のカードゲーム、『リ・アルカナ』にも登場していない。

 唯一それっぽいのが、ホナミが使役していた盟友ユニット、『氷の天使』アリュセくらいだろう。

 なんだかきな臭い話ではある。


 しかし問題はそこじゃない。

 魔道具の封印結界が張られている・・・事実「ドラゴンホットライン」は機能しなかった。

 ではなぜ?船内の灯りとなる魔道具や暖房、コンロに該当するそれは普通に使用できるのか?

 率直に質問をぶつけてみる。


 「ポーラ、魔道具が使えないはずなのに、灯りやコンロは使えているんだが・・・。」


 柔らかな雰囲気を醸し出す白熊は、「ああ、そのことな・・・。」と一つ頷き、理由を教えてくれたのだった。 


 「じゃあ何か?火属性や光属性には障害が発生しないと?」


 話を聞いて確認、頷くポーラを見て一人ごちる。


 (火と光か・・・)


 この「ドラゴンホットライン」って何属性になるんだろう。

 確か・・・銀板の内部にドラゴンのカードが収められているはずなんだが・・・。

 蓋をスライドして開いてみれば、新月に向かって咆哮する漆黒竜のカードが鎮座していた。

 『黄昏竜帝ダスクドラゴンロード』・・・思う様闇属性である、チクショウ。

 多数のドラゴン系盟友ユニットの中で、おれはこいつが一番お気に入りだと、以前確かに言った覚えがあった。

 だがしかし竜兵よ・・・そこまでおれを闇に染めなくても良いと思うんだ。

 おれが何とも言えない気持ちになっていると、なんだか『黄昏竜帝ダスクドラゴンロード』のカードがしおしお萎えていく。

 

 (いかんっ!気持ちが伝わるんだったな!)


 慌てて「お前のせいじゃない、お前は悪くない、キャーリューサンカッコイー!」と念じれば、カードはシャキーンと音でも立てそうなほど反り返る。

 おれは静かに銀板の蓋を閉めた。


 コントのようなことをしている間にも、ポーラの説明は続いている。


 「・・・んだべ。これは結界の形成に『氷雪神』ノモウルザ様が関わっているからとも、封じたかった兵器が氷雪系の道具だったからとも・・・或いは、灯りや暖を奪えば人が住めなくなるからとも言われておるだが・・・詳しいことはわかってねぇだ。」


 諸説ある訳だが、なんとなく気になるのは一番最初。

 また・・・神様である。

 これが正解のような気がするなー。

 根拠は無いんだが、今までの傾向からすると・・・な?

 この世界の神様は、どれだけおれに迷惑をかけるのだろう。

 おれは募るイライラを、名前も初耳まだ見ぬ神に全て向けておく。

 うん、八つ当たりとも言う。



 ■



 とりあえずの現状は把握できた。

 にっちもさっちもどうにもいかないってことがな。

 『図書館ライブラリ』の中にある物資と、とりあえずの魔力だけあれば当面しのぐことはできそうだが・・・。

 幸いこの辺は魔獣も少ないらしいしな。

 思考に沈むおれに、ポーラがおずおず声をかけてくる。 


 「セイ・・・これからどうするだ?」


 「ん・・・そうだな。」


 多少の事情は説明済みだ。

 『深海王国』ヴェリオンからこちらに向かってきたこと、秋広とガウジ・エオ・・・人探しの目的があること、おそらくは転移罠のような物に引っかかったのであろう現状、目的地として『氷の大陸』メスティア内陸部へ行かねばならないだろうこと。

 曖昧な答えに後押しされたか、ポーラはおれを見据えて一案を投げた。


 「んだば・・・おいの里さ来るか?」


 それは最初から考えていたんだが・・・。

 しかし、正直相手から言われるとは思っていなかった。

 脳裏に過ぎるのは、この世界においての人族と獣人の関係性。

 それと、雪人族の王が使用したらしい認識阻害の結界の話。

 見るからに人の良さそうなポーラはまだしも、他の獣人たちは他種族を警戒しないだろうか?

 そしてわざわざ認識阻害までかけているということは、隠したい何がしかが存在し、更には他者との交わりを拒絶しているからじゃないのだろうか?

 それに・・・もし移動するにしてもこの船をそのままにはしていけない。

 当然『カード化』して『図書館ライブラリ』にしまっていくが、それをポーラに見せてしまって良いのか。

 不安と懸念が顔に出ていたのか、ポーラは屈託の無い笑顔を向けてくる。

 

 「遠慮しとるなら気にするでねぇ。おいの里の連中はみんな気の良い奴らだで、歓迎こそすれ危害なんぞ加えねぇだぞ?むしろ外の世界の話ば、喜んで聞くと思う。」


 おれの視線はロカさんに向いている。

 彼は黙ってアイコンタクトを送ってきた。

 『索敵』の副次的な使い方、ロカさんクラスの使い手なら相手に一切悟らせず、言わば嘘発見器のような効果をもたせることも出来る。

 少なくともポーラの言に嘘は無いようだ、もちろん敵対心や含みも。

 ポーラ本人が意図していなかったとしたら、それはさすがにどうしようもないが。


 沈黙を迷いと判断したか、ポーラは「他にもあるだ。」と続ける。


 「人探しの方は・・・おいたちにはどうにも出来ねぇかも知れんけど、もしセイたちが内陸さ行きたい言うなら、おいの里には騎乗用に馴らした『平角鹿王キングカリブー』がおるだよ。里長さとおさに頼めば譲ってくれるかもしれね。」


 『平角鹿王キングカリブー』って言うのは、寒さにめっぽう強い魔物で・・・『地球』で言うところのヘラジカとかトナカイの巨大版、全長4mもあるような鹿型の生物らしい。

 一般的な人型なら四、五人軽くその背に乗せて、ふかふかで柔らかな長毛は雪も氷も物ともせず、頑強な足腰で山岳地帯や凍結した湖面も踏破する。

 野生のそれはとんでもない気性の荒さと凶悪な角で、ポーラのような白熊族の獣人でも紙切れみたいにふっとばされるとか。

 なにそれこわいと思ったが、子供の頃から飼育してやるとすこぶる穏やかに育ち、騎乗用の魔物として重宝されているみたいだ。


 (うーん・・・それは興味があるな。)


 サイズと踏破能力にだぞ?ふかふかの長毛にじゃないぞ!?(墓穴

 色んな意味で半ば以上気持ちが固まりかけた時、耳元に一陣の風・・・そして囁き。


 『セイ・・・本当に大丈夫?ポーラは信用できそうだけど・・・。』


 (これは・・・アフィナか?)


 彼女に視線を向けても何処吹く風、囁き声だけ飛ばしたらしい。

 まぁ物語に出てくるエルフとかが良く使う能力か?

 ・・・!そう言えばこいつエルフだったな、ハーフだけど。

 同様にもう一度。


 『セイさん冷静?何だかポーラさんの毛皮に、凄くご執心に見えるんだけど・・・。』


 シルキー・・・否定はしない!

 だが心を読むのはやめろといつも言ってるじゃないすか・・・。


 『・・・zzz』


 いや、フォルテの寝息送ってくる必要ある?

 うーん・・・。

 おれは意を決し、確かめてみることにした。


 「ポーラ、一つ確認したいんだが・・・。」


 「なんだべ?」


 いかにも朴訥そうな瞳、こてんと首を傾げる白熊、普通にかわいい。

 いかん!落ち着けおれ。 


 「ポーラ本人含め、里の住人・・・この地域にとって『カードの女神』アールカナディア様はどういう扱いだ?」


 ハッと息を飲むアフィナとシルキー。

 一応はおれも魔導師と名乗ったが、潜水艇を『カード化』するなんて行動はちょっと普通じゃないだろう。

 だからこそこれは今確かめておくべきこと。

 ポーラは『氷雪神』ノモウルザとやらに敬称付けしていたから、きっと彼の神の信徒なんだろうが・・・。

 それでもアルカ様は主神だ、まさかシャングリラみたいに邪神扱いなんてことはないだろう。

 きょとん・・・何を聞かれたのかわからない。

 そんな表情でおれを見返すポーラ。 


 「アールカナディア様?・・・主神様だべ?この世界をお創りになった最初の女神様だ。おいたちは『氷雪神』ノモウルザ様を奉ってるだが、もちろんアールカナディア様の祭壇もあるだよ?」


 思ったより好感触。

 アルカ様、自分では卑下してたけど意外と慕われてるんじゃね?

 これならいけるかもしれない。

 

 「じゃあもし、もしだぞ?おれが・・・アールカナディア様の『加護』を受けてるって言ったら?」


 心持ち真剣に、しかしあくまで冗談の体で・・・。


 「ナハハ!セイも冗談言うだな!・・・いや・・・ちょ・・・間違いねぇべ!」


 最初は笑い飛ばし、その後おれをじっと見つめたポーラは何かに気付いた風。

 突如「ハハァーーーー!」とイスから飛び降り平伏した。

 いや?何が!?なんかやばそう!


 「ポーラ!もしって言ったろ!冗談だぞ冗談!」


 慌てて誤魔化すおれと、絶叫するポーラ。


 「冗談じゃねぇだー!セイのやたら強ぇ魔力の中に、確かに主神様の力を感じるだよぉ!おいの目は魔力を見ることができる魔眼なんだべー!」


 な、なんだってー!?





ここまでお読み頂きありがとうございます。

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