・第百七十六話 『黄昏竜帝(ダスクドラゴンロード)』
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※6/25 誤字修正しました。
異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈聞いてくれ、巨大イカに続き、流氷での立ち往生だ。
兄貴は本格的にお祓いを視野に入れている。
せっかく竜兵が用意してくれた潜水艇も沈黙。
なんでも魔道具封印の結界が張られているとな・・・。
余りにも連続するトラブルに、もふもふに逃避することを許して欲しい。
うん、いや、わかってる。
とりあえず涙目で物を投げてくるのはやめようか。
ごめん、冷静になるよ。
白熊族の猟師ポーラの毛皮と肉球は破壊力バツグンだが、そんなことを言ってる場合じゃない。
なんとか算段をつけて、せめて「ドラゴンホットライン」が機能する場所まで行かないとな。
それにしても大陸の真逆・・・逆端かぁ・・・。
相も変わらずおれの前途は多難だ。
■
潜水艇の操舵桿を操作、兵器ではないボタンもいくつか押してみる。
全く持って無反応・・・いや、実に困った。
「やっぱり・・・だめ?」
後ろから覗き込んでくるアフィナへ、ため息と共に送る所謂「お手上げ」のサイン。
エンジントラブルを伝えてきた操舵桿脇に取り付けられたモニターも、今は暗転し沈黙。
竜兵と違い、ぶっちゃけおれには何が壊れているのかすらわからない。
正直な話、船自体の故障によるものか、それともポーラの話した魔道具障害の結界のせいか、それすらも判断できない状態だった。
食堂に戻れば三対の視線が一斉に。
シルキーとロカさん、そしてポーラだ。
フォルテ?寝てるよ?
おれの様子で判断したのだろう、結果を問うことも無い。
無造作イスに腰掛け少し逡巡、どうにも府に落ちないことがある。
「ポーラ、ちょっと良いか?」
問いかければ小首を傾げ、「なんだべ?」とおれに正対する。
「確か氷人族?の王様が魔道具障害の結界を張ってるんだったよな?」
「んだ。氷人族の王様は代々、この大陸を雪と氷に閉ざした殺戮兵器、伝説の『謎の道具』を封じてるって話だな。」
なるほど・・・この地域がこんな状態なのは、その兵器のせいなのか。
兵器の名前を言わないのとか、兵器自体の情報が無いのは、雪人族の王が使ってる認識阻害とやらのせいか?
そもそも氷人族や雪人族ってのを初めて聞いた。
もちろん『地球』のカードゲーム、『リ・アルカナ』にも登場していない。
唯一それっぽいのが、ホナミが使役していた盟友、『氷の天使』アリュセくらいだろう。
なんだかきな臭い話ではある。
しかし問題はそこじゃない。
魔道具の封印結界が張られている・・・事実「ドラゴンホットライン」は機能しなかった。
ではなぜ?船内の灯りとなる魔道具や暖房、コンロに該当するそれは普通に使用できるのか?
率直に質問をぶつけてみる。
「ポーラ、魔道具が使えないはずなのに、灯りやコンロは使えているんだが・・・。」
柔らかな雰囲気を醸し出す白熊は、「ああ、そのことな・・・。」と一つ頷き、理由を教えてくれたのだった。
「じゃあ何か?火属性や光属性には障害が発生しないと?」
話を聞いて確認、頷くポーラを見て一人ごちる。
(火と光か・・・)
この「ドラゴンホットライン」って何属性になるんだろう。
確か・・・銀板の内部にドラゴンのカードが収められているはずなんだが・・・。
蓋をスライドして開いてみれば、新月に向かって咆哮する漆黒竜のカードが鎮座していた。
『黄昏竜帝』・・・思う様闇属性である、チクショウ。
多数のドラゴン系盟友の中で、おれはこいつが一番お気に入りだと、以前確かに言った覚えがあった。
だがしかし竜兵よ・・・そこまでおれを闇に染めなくても良いと思うんだ。
おれが何とも言えない気持ちになっていると、なんだか『黄昏竜帝』のカードがしおしお萎えていく。
(いかんっ!気持ちが伝わるんだったな!)
慌てて「お前のせいじゃない、お前は悪くない、キャーリューサンカッコイー!」と念じれば、カードはシャキーンと音でも立てそうなほど反り返る。
おれは静かに銀板の蓋を閉めた。
コントのようなことをしている間にも、ポーラの説明は続いている。
「・・・んだべ。これは結界の形成に『氷雪神』ノモウルザ様が関わっているからとも、封じたかった兵器が氷雪系の道具だったからとも・・・或いは、灯りや暖を奪えば人が住めなくなるからとも言われておるだが・・・詳しいことはわかってねぇだ。」
諸説ある訳だが、なんとなく気になるのは一番最初。
また・・・神様である。
これが正解のような気がするなー。
根拠は無いんだが、今までの傾向からすると・・・な?
この世界の神様は、どれだけおれに迷惑をかけるのだろう。
おれは募るイライラを、名前も初耳まだ見ぬ神に全て向けておく。
うん、八つ当たりとも言う。
■
とりあえずの現状は把握できた。
にっちもさっちもどうにもいかないってことがな。
『図書館』の中にある物資と、とりあえずの魔力だけあれば当面しのぐことはできそうだが・・・。
幸いこの辺は魔獣も少ないらしいしな。
思考に沈むおれに、ポーラがおずおず声をかけてくる。
「セイ・・・これからどうするだ?」
「ん・・・そうだな。」
多少の事情は説明済みだ。
『深海王国』ヴェリオンからこちらに向かってきたこと、秋広とガウジ・エオ・・・人探しの目的があること、おそらくは転移罠のような物に引っかかったのであろう現状、目的地として『氷の大陸』メスティア内陸部へ行かねばならないだろうこと。
曖昧な答えに後押しされたか、ポーラはおれを見据えて一案を投げた。
「んだば・・・おいの里さ来るか?」
それは最初から考えていたんだが・・・。
しかし、正直相手から言われるとは思っていなかった。
脳裏に過ぎるのは、この世界においての人族と獣人の関係性。
それと、雪人族の王が使用したらしい認識阻害の結界の話。
見るからに人の良さそうなポーラはまだしも、他の獣人たちは他種族を警戒しないだろうか?
そしてわざわざ認識阻害までかけているということは、隠したい何がしかが存在し、更には他者との交わりを拒絶しているからじゃないのだろうか?
それに・・・もし移動するにしてもこの船をそのままにはしていけない。
当然『カード化』して『図書館』にしまっていくが、それをポーラに見せてしまって良いのか。
不安と懸念が顔に出ていたのか、ポーラは屈託の無い笑顔を向けてくる。
「遠慮しとるなら気にするでねぇ。おいの里の連中はみんな気の良い奴らだで、歓迎こそすれ危害なんぞ加えねぇだぞ?むしろ外の世界の話ば、喜んで聞くと思う。」
おれの視線はロカさんに向いている。
彼は黙ってアイコンタクトを送ってきた。
『索敵』の副次的な使い方、ロカさんクラスの使い手なら相手に一切悟らせず、言わば嘘発見器のような効果をもたせることも出来る。
少なくともポーラの言に嘘は無いようだ、もちろん敵対心や含みも。
ポーラ本人が意図していなかったとしたら、それはさすがにどうしようもないが。
沈黙を迷いと判断したか、ポーラは「他にもあるだ。」と続ける。
「人探しの方は・・・おいたちにはどうにも出来ねぇかも知れんけど、もしセイたちが内陸さ行きたい言うなら、おいの里には騎乗用に馴らした『平角鹿王』がおるだよ。里長に頼めば譲ってくれるかもしれね。」
『平角鹿王』って言うのは、寒さにめっぽう強い魔物で・・・『地球』で言うところのヘラジカとかトナカイの巨大版、全長4mもあるような鹿型の生物らしい。
一般的な人型なら四、五人軽くその背に乗せて、ふかふかで柔らかな長毛は雪も氷も物ともせず、頑強な足腰で山岳地帯や凍結した湖面も踏破する。
野生のそれはとんでもない気性の荒さと凶悪な角で、ポーラのような白熊族の獣人でも紙切れみたいにふっとばされるとか。
なにそれこわいと思ったが、子供の頃から飼育してやるとすこぶる穏やかに育ち、騎乗用の魔物として重宝されているみたいだ。
(うーん・・・それは興味があるな。)
サイズと踏破能力にだぞ?ふかふかの長毛にじゃないぞ!?(墓穴
色んな意味で半ば以上気持ちが固まりかけた時、耳元に一陣の風・・・そして囁き。
『セイ・・・本当に大丈夫?ポーラは信用できそうだけど・・・。』
(これは・・・アフィナか?)
彼女に視線を向けても何処吹く風、囁き声だけ飛ばしたらしい。
まぁ物語に出てくるエルフとかが良く使う能力か?
・・・!そう言えばこいつエルフだったな、ハーフだけど。
同様にもう一度。
『セイさん冷静?何だかポーラさんの毛皮に、凄くご執心に見えるんだけど・・・。』
シルキー・・・否定はしない!
だが心を読むのはやめろといつも言ってるじゃないすか・・・。
『・・・zzz』
いや、フォルテの寝息送ってくる必要ある?
うーん・・・。
おれは意を決し、確かめてみることにした。
「ポーラ、一つ確認したいんだが・・・。」
「なんだべ?」
いかにも朴訥そうな瞳、こてんと首を傾げる白熊、普通にかわいい。
いかん!落ち着けおれ。
「ポーラ本人含め、里の住人・・・この地域にとって『カードの女神』アールカナディア様はどういう扱いだ?」
ハッと息を飲むアフィナとシルキー。
一応はおれも魔導師と名乗ったが、潜水艇を『カード化』するなんて行動はちょっと普通じゃないだろう。
だからこそこれは今確かめておくべきこと。
ポーラは『氷雪神』ノモウルザとやらに敬称付けしていたから、きっと彼の神の信徒なんだろうが・・・。
それでもアルカ様は主神だ、まさかシャングリラみたいに邪神扱いなんてことはないだろう。
きょとん・・・何を聞かれたのかわからない。
そんな表情でおれを見返すポーラ。
「アールカナディア様?・・・主神様だべ?この世界をお創りになった最初の女神様だ。おいたちは『氷雪神』ノモウルザ様を奉ってるだが、もちろんアールカナディア様の祭壇もあるだよ?」
思ったより好感触。
アルカ様、自分では卑下してたけど意外と慕われてるんじゃね?
これならいけるかもしれない。
「じゃあもし、もしだぞ?おれが・・・アールカナディア様の『加護』を受けてるって言ったら?」
心持ち真剣に、しかしあくまで冗談の体で・・・。
「ナハハ!セイも冗談言うだな!・・・いや・・・ちょ・・・間違いねぇべ!」
最初は笑い飛ばし、その後おれをじっと見つめたポーラは何かに気付いた風。
突如「ハハァーーーー!」とイスから飛び降り平伏した。
いや?何が!?なんかやばそう!
「ポーラ!もしって言ったろ!冗談だぞ冗談!」
慌てて誤魔化すおれと、絶叫するポーラ。
「冗談じゃねぇだー!セイのやたら強ぇ魔力の中に、確かに主神様の力を感じるだよぉ!おいの目は魔力を見ることができる魔眼なんだべー!」
な、なんだってー!?
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