・第百七十五話 『北海峡』
いつもお読み頂きありがとうございます。
ブクマ励みになります^^
異世界からおはよう・・・だと思う。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、あいさつが疑問形になったのは理由がある。
兄貴は現在気絶中だと思われます。
なんとなくだが、時間はそれなりに過ぎた感じ?
違うよ、いつもの無茶じゃない!
巨大イカとの死闘の後、津波を突破するためにドリルで突っ込んだんだが・・・。
今回はちゃんと事前準備もしてあったし、そういう機能を竜兵が付けてくれていた。
まぁエンジンが一基おかしくなったのは想定外だったけどな。
だけど問題はたぶんそこじゃない。
後半に感じた酩酊感・・・転移する時のような前後不覚の状態。
あそこが分岐点だったと思う。
予想では海中に転移系の何がしか・・・罠のような物があったんだろう。
今となっては確かめようも無いんだが。
えっ!?も・・・もふもふじゃないか!
■
ゴンゴン・・・ゴンゴンゴン
硬質の鉄板を叩くような音。
「・・・か!・・・だかっ!?・・・てたら・・・しれ!」
次いで途切れ途切れ、どこか必死さを匂わせる声。
ゴンゴン・・・ゴンゴンゴン
金属を叩く音が続く。
「・・・っつぅ・・・。」
痛む頭を振りながら瞼を開く。
暗い・・・真っ暗じゃないが灯りは一筋、霞む視界で辺りを見回す。
いまいち状況が把握できないながら、少しずつ繋がっていく記憶。
(確か・・・津波をドリルで突破しようとして・・・エンジンが壊れて・・・その後・・・!)
そうだった。
巨大イカの置き土産から逃げる際に、転移する時みたいな意識の消失を受けて・・・。
そこまで思い出し、慌てて船室だろう部屋の中を見渡す。
アフィナとシルキーはイスの上、気を失っているようだがどうやらシートベルトが間に合ったらしい。
フォルテは・・・記憶の中で丸まって居た隅っこから微動だにしていない。
小さく「zzz」が聞こえてくる辺り、もうある意味才能だろう。
(ロカさんっ!?)
ロカさんの姿が見えない。
最後まで障壁を張り続けた彼は少々離れていたが・・・。
「ロカ・・・さん!」
喉が渇いているのか、絞り出した声は掠れていた。
しかし・・・「主!無事であるか!?」とイスの陰から転がり出てくる子犬の姿にほっと胸を撫で下ろす。
良かった。
おれは身を起こしロカさんを抱き寄せる。
その時またしても・・・。
ゴンゴン・・・ゴンゴンゴン
「だれか!おるだかっ!?生きてたら返事しれ!」
船体を叩いているだろう音と、妙になまっているが人の良さを滲ませる焦った声。
声の聞こえた方へ視線を向けると、ブリッジの半ば以上閉じられた窓の隙間から、大きくてまんまるな目が船内を覗き込んでいた。
(さっぶ・・・!)
第一印象は間違いなくこれ。
寒いなんて言う次元を遥かに通り越し、身を切るようなとは正にこのこと。
なんとなーく感覚的にだが、これ白夜って奴かね?
太陽が見えるわけでもなく、薄モヤがかかったような不自然な明るさ。
『地球』だと北方である現象らしいが、この世界でもその辺は同じなんだろうか。
ロカさんを胸に抱いたまま甲板に出れば、辺りは一面真っ白な世界だった。
流氷に覆われているのか、海面は全く持って見えない。
「あんれまぁ!人族と・・・そっちの犬っころは・・・精霊の類だか?どうやってこっただとこ来ただ?」
甲板でおれたちを待っていたのは・・・白熊である。
いや、わかってる、白熊型の獣人だろう。
普通にしゃべってるし、見るからに温かそうなフード付きジャンパーみたいなの着てるしな?
自前の毛皮あるじゃねーかとかつっこんじゃだめなんだろう。
犬っころ呼ばわりされたロカさんが非常に不機嫌だが、ここは堪えて欲しい。
右も左もわからないおれたちに、とりあえずは敵意を持たない第一村人は得がたい存在だ。
一応相手がどんな存在かわからなかったのと、起きれば間違いなくうるさいだろうアフィナとシルキーは船内に置いて来たが、これなら起こして連れて来ても良かったかもしれない。
なんたって相手はもふもふ様だ、もふもふ様に悪人は居ない。
それはともかく。
もふもふ一色になりかけた思考を戻す。
船外でずいぶん心配してくれていたようだし、とりあえず自己紹介しなければ。
「おれの名前はセイ、魔導師だ。こちらはロカさん。」
そう言って一礼、ロカさんを肩に乗せ右手を差し出せば、白熊さんもフードをはずし礼を返す。
「まんずご丁寧に・・・。おいの名前はポーラ、見ての通り獣人種白熊族の猟師だべ。」
おれの手を握りながらにかっと笑顔。
見た目完全に熊さんだが、なんとも人懐こそうな印象。
確かに背中にたすき掛け、猟銃のようなものを背負っている。
それにしても、なまってるなー・・・モグラのぐっさんもなまってたが、この世界の獣人はなまる習性でもあるんだろうか?
いやでも、ラビト君とか普通だしな・・・。
そして・・・握手したことで判明する事実に愕然とする。
(肉球さんやで・・・!)
ロカさんに勝るとも劣らぬぷにぷに肉球に、再度意識を持っていかれる。
危ない危ない、現状把握だぞおれ!
肉球の誘惑を振り切り、名残惜しくも手を離す。
「おれたちは『最後の港町』ミブ沿岸で『狂気烏賊王』に襲われたんだ。ここは一体どの辺りなんだろうか?」
「ミブ・・・ミブ!?」
白熊族の猟師ポーラはしばし逡巡、そして目を見開き驚いた。
■
船内にポーラを招き入れる。
いやね・・・もう寒くて限界だったんですよ。
もう少し外に居たら、思うさまポーラをもふっていた自信があるよ、うん。
「はぁ・・・にしても、こらすげぇ船だなや!」
ポーラは物珍しそうにきょろきょろと、船の中を観察しながらおれの後ろを大人しく付いて来る。
とりあえず灯りとかは生きてるっぽいな。
暖房も無事か・・・一応は魔力が続く限り凍死は避けられそうだ。
「ここで待っててくれ。」
食堂にポーラを案内し、イスを勧めたところでブリッジに向かう。
ブリッジに入って脱力。
出た時とまるで状況が変わっていない。
(こいつらには危機感とか無いんだろうか?)
痛む頭を振りながら、アフィナ、シルキー、フォルテの順で起こしていく。
「ほら、起きろ!」
「待ってセイ!ボクたちにはまだ早いよ!」
なにがだ・・・?
案の定というかいつもの如く、起きる気配ゼロの残念である。
シルキーは肩を揺すりながら、「シルキー、起きてくれ。」と声をかけた。
「んっ・・・うぅ・・・?」
眉を顰めて呻き、薄目を開けたシルキーが、おれの首筋に飛びついてくる。
「セイさん!好き!」良くわからんが告白を受け、それを「はいはい。」と受け流し引き剥がす。
なんかハッとした表情でぷるぷる震えてるし寝ぼけたか?
またポニテが回転してるし、あんまり突っ込まない方が良いんだろう。
次いで、部屋の隅っこに潜むニートへ向かう。
角を使った完全防御姿勢にイラっ、おれは「優しく」蹴りを入れた。
ドフッ!・・・うん、結構良い音がした。
「おうふ!若様ひどい!」
無事起きてくれたようで何より。
寝たままのアフィナ、「骨が折れた!」と騒ぐフォルテを抱え上げ、シルキーを伴い移動。
手間の掛かる奴が多すぎる。
食堂には黒いもふもふ様と白いもふもふ様が待っている。
いつのまに意気投合したのかテーブルの上にお座りするロカさんへ、器用にイスに腰掛けたポーラが身振り手振り付きで語りかけている。
「ポーラ、待たせて済まない。」
「いんや問題ねーだよ。ロカさんと話してただ。」
アフィナとフォルテを空いているイスへ配置して、シルキーに温かい飲み物を作ってくれるようお願いする。
「セイさん・・・この方は?」
言われるがままコンロ的魔道具にヤカンを乗せたシルキー、少し怪訝そうにポーラを伺う。
「白熊族の猟師ポーラだ。船が座礁しているのを見て、生存者が居ないか確認に来てくれたらしい。」
ポーラの紹介と出会った経緯、シルキーは「ありがとうございます。」と丁寧なおじぎを返す。
それに「気にしなくていいべ。」と手を振りながら答えるポーラ。
作り置きしてあったコンソメスープを暖めなおし、全員にカップが回ったところで彼の話を聞く。
やっと起きて目をパチクリのアフィナはまだしも、イスの上で体育座り・・・明らかに寝ているフォルテにはいらないんじゃないか・・・?
「それにしても全員無事だったみたいで良かったべ。んで・・・さっきロカさんにも話してたんだども、ミブってのは人族の港だな。むかーし、じっさまにそんな話聞いたことあっでよ。しかし・・・ミブ・・・ミブなぁ・・・。」
言いよどむポーラ。
いやな予感がビンビンだったりする。
「なぁポーラ、ここはミブから遠いのか?・・・と言うより、ここはどこだ?」
ポリポリと頭を掻く白熊、見るからに言い難そうだ。
真剣な表情、目線を合わせて頷く事で先を促す。
「んー・・・ここは北海峡って場所でなぁ、おいみてぇな白熊族だとか、海豹族の獣人種が住む地域なんだ。んで、ミブってのはちょうどおいたちの住む集落の反対側、大陸の逆端だでな?」
「「えぇっ!?」」
アフィナとシルキーの声がハモる。
おれはある程度覚悟していたが・・・まさか逆端だとは思わなかった。
「んだからな、おめぇさんらがなんでこんなとこさ居るかわからねぇだよ。海を移動して来ようにも、この辺は流氷がすごくってなぁ・・・。」
しきりに首を傾げるポーラだが、ロカさんとおれには心当たりがあった。
お互いに目線で頷きあう。
おそらくはドリルで潜行した時に感じた酩酊感、目的はわからないが転移系の何かにひっかっかったのだろう。
アフィナがハッとした表情で言う。
「セイ!とりあえず竜君に!」
そうだな・・・まずは連絡した方が良いだろう。
「ドラゴンホットライン」の銀板を取り出し、表面を操作。
しかし・・・銀板は全く反応しなかった。
故障とは思えないが、今度は何だ?
「それは魔道具の類だか?」
肩を落すおれの掌、握られた銀板を見てポーラが尋ねる。
頷くおれに頭を振る白熊。
「そら無理だよ。この辺一帯は氷人族の王様が魔道具封印の結界張ってるでな。なんでも大昔に大量殺戮兵器を封じたとかなんとか。あと・・・雪人族の王様の降らせる雪が、認識阻害の結界になってるだ。だもんでこの地域の情報は、ほとんど世界に流れないって話だべ。」
踏んだり蹴ったりとは正にこのことだろう。
たぶんこれ、潜水艇もまともに動かせないぞ?
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