表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
183/266

・第百七十三話 『嘆きの射手(アルシェ・ドシャグラン)』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


 異世界からこんにちは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈すまん、毎度毎度の事ながらボヤかせてくれ。

 兄貴はこの世界に来てから、本当に床ドンしたくなることが増えた。

 主におれの盟友ユニット、本来なら頼れる相棒であるはずの奴らのことである。

 何度か話したように『地球』でも闇属性は敬遠されていた。

 それは能力アビリティの特殊性であったり、はたまたその盟友ユニット独自の性格、自由奔放過ぎる点に目がいくからだろう。

 しかしだ。

 同じ闇属性でも、ロカさんやアルデバラン、フェアラートのように真面目な奴ら。

 エデュッサやカオスのようにトラブルそのものな存在。

 一概に闇属性だからどうこうで決着が付く話ではない。

 イアネメリラ?ああ・・・うん。

 彼女はなんというかアレだ・・・おれに対する保護欲がオーバーフローしているだけで、基本的に無害と言うか、むしろおれにとってはありがたい盟友ユニットだからな。(遠い目

 そこで今回の問題。

 属性抜きに箱内で暴れているらしいプレズントやラカティス、そしてニート丸出しのフォルテ・・・こいつらは等しく、ギルド『伝説の旅人』の所属だった。

 結論・・・おれの使役する盟友ユニットに問題があります。

 リーダーだったウィッシュさんよ・・・良くこいつらまとめてたもんだよorz



 ■



 番えた弓弦を引き絞れば、だらけきったフォルテの雰囲気が劇的に変わる。

 車の運転中、性格が変わる人なんてのが良く居るだろ?

 言わばあんな感じ、伸ばされた前髪で未だ瞳は窺い知れないが、口元はきゅっと真一文字、その真剣さは確かめる必要も無い。

 弓使いとは思えないほどたおやかな指先に、いつのまにか銀色の矢弾が装填。

 見るものを等しく魅了する美しい射姿は、揺れる船上でも一切崩れない。

 ある種神秘的、神々しさすら纏い、静かに呼気を整える。


 「ふっ!」


 掛け声は小さく、フォルテ自身は特に気負うでもない。

 ルンッ!と弓弦が小気味良い音を響かせ、巨大イカに向け銀の矢を解き放つ。

 空気の膜を切り裂いて、突き進む銀色の矢弾。

 一本の矢が二本、二本が四本、倍々ゲームのように空中で膨れ上がる。

 これは魔法攻撃ではなく、あくまでも物理属性・・・言うなればエデュッサが無限に産み出す投げナイフに近い物だ。

 見る間に数十本に増加した矢弾が、巨大イカに降り注ぐ。

 必殺の一撃に見えた・・・しかし。

 

 水中から多数の水柱を伴って、イカの触手が本体を覆い隠して身を守る。

 フォルテの放った矢弾は、水と触手に阻まれ胴体部分に届かなかった。

 だが、これで確信。

 やはり『狂気烏賊王フューリーテンタクルロード』は物理に弱い。

 明らかにフォルテの矢弾を嫌った動きだ。 


 【あらー、全部防がれちゃったわー?お姉さんショックー。】


 突如響き渡る無機質ながら、どこか気の抜けた女性の声。

 ショックと言いながら全くそれを感じさせない声は、まるで直接頭の中に響いてくるようで・・・。

 察しの良い人ならすでに気付いているかと思うが、フォルテの握る銀色の弓から発せられたように感じ取れた。


 銀色に輝く弓、『知恵或コネサンスアルク』・・・銘は『銀鴎アルジャンムエット』。

 意志を持ち、使用者を選ぶ『ミステリア道具グッズ』、『嘆きの射手アルシェ・ド・シャグラン』フォルテの専用武器だ。

 その声に追随するように、フォルテがごね始める。


 「だから言ったじゃないですか若様。こういうのは兄さんの担当だってー。」


 次いで先ほども聞こえてきた弓からの声。


 【確かにねー。私とフォルテちゃんの得意なのは面の制圧よー?狙撃はフェルナーちゃんと妹の方が上手よー。】


 そんな事、今更言われること無くわかっている。

 彼女・・・『銀鴎アルジャンムエット』の言うフェルナーちゃんと妹ってのは、フォルテの兄で同じくギルド『伝説の旅人』所属の英雄級盟友ユニット、『決意の銃士シャサール・ド・ギャージュ』フェルナーと、彼女の後継機である銀色の長銃、『銀燕アルジャンイロンデル』のこと。

 カードでは銀銃を携えた長身の青年、眼鏡にロングコート姿の優男で描かれている。

 パッと見ではフォルテとフェルナーが兄弟とは窺い知れない。

 それもそのはず。

 戦災孤児であるフォルテとフェルナーは血の繋がらない兄弟、『レイベース帝国』からの亡命者だったらしい。

 どのようにしてギルド『伝説の旅人』所属になったか、詳しい経緯は語られていないが。


 それはともかく。

 彼女の言ったとおり、面制圧を得意とするフォルテと、一点の狙撃を得意とするフェルナー・・・運用方法の違いは押して知るべし。

 今回のように明確なポイント、明らか弱点臭い宝石を狙うなどと言う話なら、当然フェルナーの方が向いている。

 もちろんそのことは重々承知、おれだって使えるのならばそうする。


 しかしだ。

 フォルテと違い『決意の銃士シャサール・ド・ギャージュ』フェルナーは、なぜかVRバーチャルリアリティに反応せず、カードゲームのときとは違い控え(サイド)に回さざるおえなかった。

 それが導き出す答えは、未だ存命か『略奪者プランダー』が使役中ってことだろう。

 願わくば前者であって欲しいのだが・・・本当にままならない。


 「おれだってフェルナーが呼べるなら呼んでいる!触手はおれたちが抑えるから、フォルテはあの宝石を狙え!」


 気付けば体育座りで顎を膝に埋め、「やる気無いですよー。」アピールを前面に押し出す形のフォルテ。

 弓を構えたときの凛とした姿が嘘のよう、服装こそ兵士のそれだが・・・これでジャージでも着ていた日には自宅警備員にしか見えない。

 息切れが早すぎる・・・なんて無気力な奴なんだorz



 ■



 『魔導書グリモア』を展開。

 現在の手札・・・浮かび上がったA4のコピー用紙サイズ、カードは三枚。

 二枚を選択、強化魔法を発動させる。

 一枚は跳躍強化魔法『翔歩ウインドウォーク』、もう一枚は攻撃強化魔法の『朱のハンズ・オブ・ヴァーミリオン』だ。

 空中を足場にできるようになれば、なんとかイカの本体まで到達することもできるかもしれないが、ちょっと不透明なところだな。

 それに魔法と火属性に変換された拳は、おそらく強固な魔法防御を誇る相手に効果が薄いだろう。

 とは言え・・・人間をずぶずぶと吸収したようなブツに、直で触れるのはさすがにいやだったんだ。

 やむおえずおれが直接触手を散らす予定、空いた射線にフォルテの矢を通す算段。


 「ロカさん、守りは任せる。アフィナとシルキーもさっきまでの行動を継続、フォルテは大技を頼むぞ。」


 「主!無茶はいかんのである!」


 「えええ・・・若様アレ疲れるんですよー。」


 ロカさんのかけてくるいつもの言葉に、「わかってる、触手を散らすだけだ!」と答え、空中を足場に大きく跳躍、三角跳びのイメージで、空気を蹴って速度を上げた。

 フォルテの言葉は無視。

 あえて何も言わないことで、断固とした命令とする。

 端目に弓を構えて片膝を突いた所を見ると、さすがに状況を理解したか?


 「セイっ!」と叫んだアフィナから、魔力の塊が飛んでくる。

 なかなか器用におれの動きを読んだらしく、ちょうど次に跳ぼうとした場所を過ぎるように飛来する魔力の塊。

 効果はわからないが、さすがに攻撃魔法ってことも無いだろう。

 素直にアフィナの放った魔力の塊を身に受ける。


 「ほう・・・。」


 思わず声が漏れるほどの感嘆。

 アフィナから受けたのは風の力、それが背中と足元に蟠ったのがわかる。

 どうも効果は加速と空中制動のような?しかも結構強い。

 要はバーニアとウイングをもらったようなもんか。

 

 「助かる!」と声をかけ本人を見れば、ぐっとサムズアップにウィンク。

 とかくおれのすることに苦言を呈すばかりだったのに、バックアップまでこなすようになるとは・・・明日吹雪になるんじゃないか?

 まぁそれだけ付き合いも長くなったと思うべきか。

 

 益体も無いことを考えている間にも、デスマスクを擁した触手が迫ってくる。

 朱色の魔力に輝く拳で迎撃。

 ちょうど一回り、自身の拳を延長するようなイメージで殴りつけて弾き、纏わせた魔力を送り込む。

 炎の魔力が一瞬集束、触手を爆砕する。

 結構触手も吹っ飛ばしたはずなんだが・・・。


 (イカって足10本じゃないっけ?)


 どう見ても海面から突き出た触手は10本以上ある。

 異世界の・・・ましてや神の眷属なんて言われる魔物に、『地球』の常識は当てはまらないかもしれないが、いくら多くても100本、200本とかじゃないと思いたい。

 何本もの触手が襲い掛かってくる。

 相変わらず船自体も狙ってはいるようだが、単身空中に飛び出したおれを組し易いと思ったか、はたまた野生?の勘で脅威と思ったか。

 『狂気烏賊王フューリーテンタクルロード』の濁った瞳から伺うことはできない。

 

 幾度と無く空気を蹴り、アフィナのかけてくれた風の加護で急加速、急制動。

 拳からの魔力の爆発をあえて近距離で、わざと身体を弾くように舞わせて動きを読ませない。

 デスフェイスから吐き出される黄土色の毒液を避け、或いは触手との間に風の魔力でクッションを置いて踏み台に。

 徐々に減っていく触手、これ以上はいよいよ打ち止めか?

 もはや船を襲う余裕は無さそうだ。


 焦れたのか、それとも最初から狙っていたのか、まぁおそらくは悪あがきの類だろう。

 イカが見るから醜悪な口・・・胴体の下部分をおれに向けてくる。


 (このパターンは・・・!)


 この手の生物の代名詞、墨でも吐きかけてくると見て間違いない。

 しかしただの目くらましとは思えない・・・毒だの何だの、もしかしたら水流同様の骨片散弾などが、絶対に用意してあるはずだ。


 だが・・・それは悪手。

 攻勢が弱まったせいで、ロカさんがほぼフリー。

 イカの本体からは少し離れた場所、その前面ですでに『水支配』をより強固な物に変えている。


 ぶぅっと膨れるイカの胴体、全身に魔力が満ちていく。


 「主!」


 ロカさんの叫びと、おれが後方・・・船に向かって跳ぶのは同時。

 イカが吐き出した不快な黒、緑色が混じりどう見てもヤバイそれは、ロカさんが垂直に噴き上げた海面に飲み込まれ、おれたちに届くことは無かった。


 【用意が出来たわー。】


 甲板に着地、頭に直接響いてくる声。

 かなりの長時間甲板に片膝突き、じっと弓を構えたまま集中を高めていたフォルテの手元、そこにあったのはもはや矢と呼べる代物ではなかった。

 太く、長く、細部に渡り装飾の施された槍・・・形状こそ矢であっても、それは槍としか呼び様がないほどのサイズ。


 「フォルテ、やれ!」


 「はい・・・若様。」


 だれている時とは全く違う、静かだが熱のこもった声。

 フォルテは奥義を解き放つ。


 「奥義シャグランフレッシュ!」


 ルゥオン!先ほどとは明らかに異なる弓鳴り。

 水面を巻き上げながら貫く銀光が、ロカさんの噴き上げた水壁すら易々と食い破り、巨大イカ・・・『狂気烏賊王フューリーテンタクルロード』に向けて突き進む。

 突如現われた脅威に対し、イカは慌てて水柱や触手を伸ばすが・・・そのどれもが遅い!

 イカのくせに驚愕「信じられない!」とでも言いたいのか、身を震わせた『狂気烏賊王フューリーテンタクルロード』の胴体、宝石部分に銀槍が突き刺さる。


 「カロ!カロロロロロロロ!!」


 全てのデスマスク、或いは本体からも発せられた鳴き声が海の上で響き渡り、程なくしてイカは痙攣・・・海中へと沈んでいく。

 そして、イカの沈んだ場所から膨大な量、不快な魔力・・・云わば魂の奔流とでも言うべき激流が襲い掛かってきた。

 




ここまでお読み頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ