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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
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・第百七十二話 『狂気烏賊王(フューリーテンタクルロード)』後編

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^

 おれたちは、なかなかに追い詰められていた。

 現在甲板にはおれとロカさん、ブリッジに続く扉でアフィナが待機。

 操縦桿の前はシルキーと交代した。 

 ピリリと首筋に走る悪寒。


 「ロカさん!またアレが来るっ!」


 「ぬぅ!小癪な!」


 巨大イカ・・・『狂気烏賊王フューリーテンタクルロード』が、三角形の頭に魔力を貯めているのが見て取れた。

 魔力はイカの額とも言うべき場所にある、黒い宝石のような所に集束。

 直後、圧倒的な水流となって、勢い良く噴き出してくる。

 この攻撃は二度目・・・一度目はうまく射角を逸らすことで事無きを得たが・・・。


 思わず目を見開く。

 その水流の中には取り込まれた犠牲者の成れの果てなのか、幾多の骨や頭骨がふんだんに混入されていた。

 ほとんどが一般的な人型サイズのもの、しかし中には大型の海獣だったであろう骨も混在している。

 こんなもんまで取り込んだのか・・・とか、宝石から水はまだしも骨出るのはおかしいだろとか・・・つっこみたい所は山ほどあるが、状況はそんな緩いものではない。


 ロカさんの能力アビリティ、『水支配』によって水流の威力は収まるが、いかんせん異物である骨片が防ぎきれない。

 しかも本来なら支配できるはずの水が、相手も同等の性能を持っているらしく、お互いに支配権を握ろうと拮抗しているとか。

 当然『水支配』に集中しているから障壁も薄いわけで・・・。

 

 ギャリン!ギャリン!と音を立て、骨片が障壁を滑っていく。

 アフィナが慌てて風の障壁を外側に張り、ロカさんの障壁維持を補助する。

 

 「セイっ!」


 アフィナの逼迫した声、言いたいことはわかる。

 なるほどたしかに、こいつはアフィナでは荷が勝ちそうだ。

 骨となってなお刺々しく、明らか巨大生物の頭骨・・・水流に乗って回転しながらこちらに迫ってきていた。


 「ハァァァッ!」


 呼気を吐き出し丹田に構えた拳、迫り来る大型海獣のものだろう骨片を下方向から突き上げ、なんちゃって発剄で弾き飛ばす。

 けれど・・・後から後から溢れ出す物量に、反撃の糸口は見えず防戦一方。 


 「我輩を舐めるなである!」


 気合のこもった怒声、水流を力尽くでねじ伏せ、そのコントロールを奪ったロカさんが、水へ闇の魔力を纏わせ槍に変える。

 暗水色に染め上げられた水槍を、水面から突き出たイカの頭部に向けて解き放つ。

 うねりを上げて水面を滑った水槍が、『狂気烏賊王フューリーテンタクルロード』を串刺すように見えたその時、見えない壁にぶち当たりただの水滴に転じた。


 「ぬぅ!効かぬであるか!」


 臍を噛むロカさん。

 正確には効いていないのではない。

 少なくともロカさんの魔力、闇に属する物は敵の体表まで到達していた。

 しかしどうにも魔法抵抗が高い、特に水。

 闇の魔力の方は無効とまではいかないが、あの巨体・・・ほとんど効果が無かったのだろう。


 「ロカさんやっぱり・・・。」


 「魔力に対する何らかの能力アビリティを持っている。主の洞察は間違いないのである!」


 苦々しく漏れ出た呟きに、確信を持って答えるロカさん。

 おれは奴が現われた直後、古代級火属性攻撃魔法『炎帝バーニングカイザー』をぶっ放したのだが・・・まさかの無傷だった。

 追撃をかけたアフィナの風刃とシルキーの雷も同様。

 そこから導き出される答えは、魔法耐性しかありえなかった。


 魔力で全開の強化をかけたとはいえ、中級魔法の『火弾フレイムバレット』で触手を吹き飛ばせた事も考えれば、魔法耐性があるのは胴体だけなのだろう。

  

 「シルキー!赤いボタンだ!」


 窓越しにかけた指示に頷いたシルキーが、操縦桿の横に備えられたボタンを押す。

 赤は・・・魚雷だ。

 コンココンコン・・・バシュバシュバシュ!

 水面に気泡でシュプールが描かれ、都合三本、船の側面から魚雷が発射された。

 ファンタジーな世界観をぶち壊し、竜兵が作った近代兵器が牙を剥く。


 「カロ!カロロロロロ!」


 爆雷をもらっているからか、イカの触手に付いたデスマスクが一斉に叫ぶ。

 ドンドンドン!と水中で爆発・・・しかしイカ本体には損害無し。

 どうやら奴は水中に潜む触手を犠牲に、魚雷を全て叩き落したようだ。


 「ぬぅ!竜兵君の兵器でもだめであるか!」


 「セイ!どうするのっ!?」


 二人の焦る声を背に、おれは一つの光明が見えていた。

 奴は魔法を胴体で受けても悠然としているのに、魚雷は慌てて叩き落した。

 その上爆雷では確かにダメージを受けていたのだ。

 導き出されるのは「魔法耐性があっても物理耐性は無い、或いは弱い。」ってこと。

 それにあの頭部に光る宝石。

 いかにも過ぎる弱点じゃないのか?


 

 ■



 しかしだ、攻略法はわかれど、実行するのは難しい。

 おれやロカさんが直接殴りに行こうにも周りは海面、はっきり言って手詰まりだ。

 

 「ロカさん、アフィナ、障壁の維持だ。シルキー、魚雷を撃ち続けてくれ!」


 現状それしかない。

 神妙に頷く三人、ロカさんがおれの前・・・船の舳先で『魔霧』を全開に。

 アフィナ、シルキーも指示道りに動き始める。


 それとは別に、おれは祈るような気持ちで『魔導書グリモア』を開く。

 この状況を打破できるカードは確かにある。

 しかし枚数は多くない、おそらく一枚。

 魔法が効きにくい、近接攻撃が難しい敵、そんな『狂気烏賊王フューリーテンタクルロード』を相手取れるのは・・・。


 「魔導書グリモア


 目の前に浮かび上がるA4のコピー用紙サイズ、五枚のカード。

 『火弾フレイムバレット』と『炎帝バーニングカイザー』で消費した二枚、ドロータイミングで新たに引いてきたカードが、正しくおれの望んだ者だった。

 召喚のことわりを唱えようとして、ハタと気付く。

 ロカさんの言葉「箱の中が戦場。」と、アフロってた哀れな姿。

 無いとは思うが、箱内で戦闘中だから呼び出せないなんてこと・・・いやまさか・・・でも・・・。

 変態による召喚妨害だとかの記憶が脳裏を過ぎり、一瞬にして不安が首をもたげる。


 「ロカさん、フォルテはどうしてる!?」


 障壁の維持に勤しみながらおれを振り返ったロカさんは、狼フェイスで器用に「なるほど。」と言った表情を見せて答えた。


 「フォルテはサーデイン殿の後ろに居たのである!立ったまま寝ておった!」


 (おうふ・・・相変わらず過ぎる。)


 ある意味予想通り、呼ぼうとしている盟友ユニットの現状に少々眩暈。

 一番安全な場所でサボるのは、あいつの常套手段だった。

 

 カードを二枚選択。

 一枚が盾の紋章クレスト三つに変わり、箱の中に吸い込まれていく。

 光を放ち始めたカードを見据え、召喚のことわりを唇に乗せる。


 『伝説の旅を続けし者、魂に嘆き秘めし者、我と共に!』


 右手に携えた金箱の蓋が開き、金色の召喚光に輝く世界。

 光が収まった時・・・そこには、誰も居なかった。


 (って、おいいいいいいいいい!?)


 いや、箱の中から指先だけ出ている。

 細い指先、まるで白魚のようなと評される類の綺麗な指先だ。

 パッと見完全にホラーだが、間違いなく奴である。


 「おまっ!さっさと出て来い!」


 思わず指に向かって怒鳴れば、箱の中からいかにも不本意と言う声が聞こえてくる。


 「ええ?若様、時間外ですよ?」


 時間外!?時間外ってなんだ!?

 

 「えー?サーデインさんまでそんな事言うんですかー?・・・うーん、確かに若様が死んじゃうと困りますけどー・・・。」


 全く持って渋々、いやいや感を全力で振りまきながら、その少年・・・ギルド『伝説の旅人』所属の英雄級盟友ユニット、『嘆きの射手アルシェ・ド・シャグラン』フォルテが姿を現した。

 くすんだ金髪のショートカットだが、瞳は前髪に隠れていて見えない。

 射手らしいハーフカットの皮鎧を町人のような服装の上に付けている。

 フォルテは箱から出た途端、甲板にがっくりと膝を突きorzの構え。

 そして何を言うかと思えば・・・。


 「嗚呼・・・働きたくない・・・働いたら負けだと思うんです・・・。」


 完全にニートである。


 「主!」「セイ!」

 

 困惑しきりのおれとは別に、障壁班が注意を喚起。

 またしても水流攻撃が来そうな雰囲気。


 「くっ!フォルテ!一回は防ぐからあの宝石を撃ち抜け!」


 イカに視線を移し、やる気こそ無いが凄腕の射手であるフォルテに指示を出す。

 ロカさんとアフィナ、三人係りでなんとか水流を防ぎ、返事の無かったフォルテに目をやれば・・・。

 ふぁぁぁぁ!?目を離した瞬間に丸まって寝てるんですが!?!?


 予想以上の無気力に思わず絶句。

 明らか狸寝入りのフォルテに、ロカさんの中で何かが切れたのがわかった。

 あ・・・噛んだ。

 

 「ぎゃああああ!?」


 さすがに噛まれるとは思っていなかったのか、跳ね起きるフォルテは頭をしきりに摩る。

 そしておれを恨みがましく見つめる。

 いや、目が隠れてるから判別できないんだけど、何となく雰囲気で・・・。 


 「若様ひどいです・・・僕はなんて不幸なんだ・・・。」


 被害者ぶるフォルテにロカさんが牙を見せると、慌てて「わかった!わかりましたよ!」と叫び、虚空から銀色に輝く長弓を取り出す。

 そしてフォルテ・・・「こういうのは、兄さんの分野だと思うんだけどなぁ・・・。」などと呟きながら、弓に矢を番えるのだった。

 




ここまでお読み頂きありがとうございます。

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