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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
180/266

・第百七十話 『縄張り』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^ 


 異世界からこんにちは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、今日は素直に認めようと思うんだ。

 兄貴はすっかり失念していた。

 と言うよりも、そう続けてトラブルに巻き込まれるとは想像していなかったんだ。

 海上に出た途端のロカさんアフロ事件で色々すっ飛んだってのもあるし、遭難してたくせに海賊が、余りにもテンプレな事を言い始めたせいもあった。

 その上で「眼鏡ノッポ」の情報だ。

 多少は気も漫ろになるってもんだろ?

 いや・・・最初に素直に認めるって言ってたな。

 言い訳はこのくらいにしておくよ。

 ちょっとばかし想像力を働かせれば、うちには天下無双のトラブルメイカーが居る訳で。

 やめて!皆まで言うな!

 おれの巻き込まれ体質もあるって言うんだろ!?

 わかってるよ・・・ちくせうorz 



 ■



 たかが六名の海賊団。

 しかも漂着して無人島生活だったらしい彼らは、今までそれなりにうまくやっていたらしい。

 大きく目立つことも無く、普段はごく普通の漁師として就業し、時には連絡船のようなこともやって生計を立てていた。

 しかしその実態は何年も憲兵や漁師ギルドから隠れおおせた海賊で、自分たちより少人数、もしくは弱そうな乗客を狙って略奪行為を繰り返していた。

 自分たちの船がある時は、それとなく眠り薬や痺れ薬を含ませた食料や水を振る舞い、無為の民をその毒牙にかけてきたらしい。

 なかなかに胸糞悪くなる話だ。


 「さいってー!」


 「セイさん!情状酌量の余地は無いよ!」


 縛り上げた船長の尋問中、アフィナとシルキーが口々に憤る。

 まぁ、その意見に反論は無いが。

 どう考えてもこいつらは真っ黒。

 ただ・・・縛られて芋虫状態の船員A~Eをげしげし蹴るのと、殺傷能力を落した雷でいたぶり続けるのはさすがにやめないか?

 いつのまにかやたら過激になっている二人に、お兄さんドン引きです。

 おかげで船長の口の滑りが良いのは幸か不幸か・・・。

 

 おれもこいつらに思うところはあるし、今までの犠牲者たちには同情を禁じえない。

 だが彼女たちとは少々スタンスが違う。

 なぜなら、どちらにせよこいつらにもう先は無い。

 『最後の港町』ミブにも、所謂冒険者ギルド的な物があるらしいし、そこまで送り届ければ、長年の犯罪歴もしっかりと洗い出され、漏れなく極刑が待っている。

 ヴェリオン滞在中、サビール氏やローレンに、周辺地域の法律やら風習等を学んでいたらしいアフィナとシルキー。

 サビール氏に文官としてスカウトされたと言うに、そういう面では優秀なのかもしれない。

 どうして・・・おれの側に居るときはフラグを踏み抜く?


 まぁそんな二人だが、口を揃えて「海賊は死刑!」って言っていた。

 『地球』育ちなおれとしては、あっさり下された死刑判決に驚きも無かったとは言えないが、ここは異世界だからな・・・。

 きっとそれが事実なのだろう。 


 それはともかく。


 「それで?眼鏡ノッポってのはどんな関係だ?」


 「関係も何も・・・!あいつらが疫病神だったんだ!」


 どうにも秋広っぽい情報に話の先を促せば、船長は甲板でイスに腰掛け迎合するおれを睨みつけ、堪え切れないとでも言うかのように叫ぶ。

 その態度に思うところがあったのか、おれの膝の上に丸まって居たロカさんがたしっと甲板に降り立ち、ちゃっちゃっちゃっとツメ音を響かせながら船長に歩み寄った。

 彼は真っ赤な瞳で船長を見上げると、いつものやたら渋い声で脅しをかける。


 「余計な事は言わなくて良いのである。」


 見た目は子犬だが、思う様ぶっ飛ばされたのは船長の記憶にも新しいだろう。

 「ひっ!」と小さな悲鳴を上げ、観念して項垂れるとポツポツと当時のことを語り始めた。


 「最初はあんたより若い赤髪の男と、白髪の爺さん二人組みだったんだ・・・。それがいざ乗船の時になって、眼鏡のノッポと狐の女を連れてきた。俺たちはカモが増えたと思って喜んだくらいさ。

それが・・・あいつら、確かに痺れ薬と眠り薬をたっぷり仕込んだ食料を食ったはずなんだ。なのに俺たちが事を起こそうとした時には、全員まともに動いてやがった!しかも、俺たちを無力化したのは眼鏡のノッポが一人でだ!相手は素手だったのに、手も足も出なかったさ。信じられなかった・・・あんなナヨっとした奴に・・・。」


 (やはり秋広・・・それにまた狐の女・・・ホナミか。)


 特徴と行動を聞くにどうにもあいつがちらつく。

 秋広はそのスタイルから近接が苦手と思われているが、実際にはそうでもない。

 もちろんおれたち幼馴染の中では一番弱いが、それはあくまでこちらが近接戦闘に特化しているだけで、そんな奴らを相手に日々遊んできたのだから、当然その実力は押して知るべき。

 むしろ特化しているおれたちとも、ある程度の拮抗を保てるレベルがあるんだから、チンピラに毛が生えた程度の海賊じゃ為すすべも無かっただろう。

 

 (異世界人チートもあるみたいだしな・・・。)


 アルカ様が言っていたように、おれたちの力はこの世界で異質。

 それはきっと秋広も同じだ。


 

 「その眼鏡のノッポは、他の奴らからなんて呼ばれていた?」


 おれの問いに船長はしばし逡巡、「色々・・・呼ばれてたんだけどよ。」と、何とも歯切れの悪い答えだ。

 全部教えるように促せば、奴が言うには・・・。


 「あきとか・・・シュウ?とか・・・タウンハンター・・・だな。」


 ビンゴ!頭痛がしてきた。



 ■



 間違いないだろう。

 しかしそれならなぜ?

 こいつらは遭難し、あんな無人島に漂着していたのか。

 秋広の性格上、犯罪者とは言えこいつらを殺すとも思えないし、かといってそのまま逃がしたとも思えない。


 「じゃあなんでお前ら遭難してたんだ?」


 おれの素朴な疑問、無力化されたならとっくにお縄になっているはず。

 それに秋広とタウンハンター一行は何処へ行ったのか?

 船長はひどく苦い表情になると、その理由を告げた。


 「白髪の爺さんがよ・・・船の上でとんでもない剣技を使いやがった!船は真っ二つになって沈没するし、馬鹿でかい水柱に飛ばされてあいつらは何処かへ飛んで行きやがった!その先は知っての通りだよ・・・あんたらを見つけてやり直せるかと思ったのによぉ・・・。」


 船上で船を真っ二つにする剣技とか・・・。

 てっきり狐の女・・・ホナミ以外は盟友ユニットだと思っていたが、あいつの『魔導書グリモア』には、そんな力押しタイプは存在していなかったと思う。

 秋広は一体誰を連れて歩いてるんだろうか?

 そして水柱で飛ばされたと言うが、一体何処へ飛ばされたのか。

 『最後の港町』ミブに情報があると良いが、何となくだがうまく行く気がしない。


 思考の波に沈む中、約二名の不穏な会話。


 「やっぱり・・・セイの友達はそういう人なんだね。」


 「アフィナ・・・類は友を・・・。」


 おい?残念と馬の人・・・お前らだけはそれを言っちゃあいけねぇよ?

 ジト目を向けるとすぐさま目を逸らす辺り、本人たちにも自覚はあるらしいが。


 「俺ができる話はこんくらいだ。なぁ頼むぜ?ここまで素直に話したんだ・・・今回だけ!見逃してくれよ!約束する・・・二度と海賊稼業にゃ手を染めねぇよ!」


 弛緩した空気を感じ取ったのか、船長は甲板に額を擦りつけ、涙ながらに訴える。

 だが・・・。


 「無理だな。」


 そんな姿におれは元より、誰一人として心は動かない。

 因果応報、犯した罪の報いは受けるべきだし、そうでないと被害者が浮かばれない。

 おれたちと同郷である『略奪者プランダー』のことなら、おれも自身の手を汚すことに躊躇いは無いが、この世界の住人であるならこの世界のルールで裁かれるべきだ。

 おれの返答や少女二人の刺すような視線、やたら人間臭いため息を吐く尋常ならざる力を持った小型犬ロカさん。

 どうあっても自身のお先が真っ暗なことに諦念したか、船長は甲板に寝転がり「あ~ぁ・・・ツいてねぇぜ・・・。」と呟いた。


 しばらくは誰もが言葉を発さず、アフィナとシルキーに骨の髄まで痛めつけられた海賊たちが、時折「あぁ・・・。」だとか「う・・・うぅ!」と呻く程度。

 船長も完全に諦めたのか、甲板でじっと蹲っていた。


 (まさか・・・寝てないよな?)


 全く動かない男に「図太すぎるだろ?」とつっこみを入れかけた瞬間、縄でギッチギチ縛られているにも関わらず跳ね起きる。

 跳ね起きるとは言っても立てはしない。

 ただ身を捩り、おれの方へ向かってきた。


 「ぬぅ!大人しくするのである!」


 ロカさんがそれに反応して警戒するが、船長の顔は恐ろしく青ざめている。


 「な・・・なぁ・・・あんたら!」


 ひどく興奮し顔色は青ざめているというのに、目は血走り呼吸も荒い。

 明らかに普通ではない状態に、ロカさんも警戒はそのまま言葉を待つ。


 「ヴェリオンから来たって言ったよな!?」


 死刑宣告を受けていてもビビリながらある種達観していた男の放つ異様な空気。

 気圧された訳でも無いが、おれは静かに首肯を返す。


 「そんでミブに向かっている?この船は特別製で・・・自動航行って言ったか?やっぱり・・・最短コースを取るんだよな!?」


 この男は何をそんなに焦っているのだろう?

 アイナやシルキーも、ただ黙って次の言葉を待つ。


 「海中から突き出た・・・十字の岩が無ぇかい?」


 「セイさん・・・あれのことじゃ・・・?」


 船長の発したワードに、シルキーが指差すほうを見れば・・・確かに海中から突き出た岩が、十字の形になっている。

 おれが「あるな。」と答えれば、男は目に見えてガタガタと震え始めた。


 「おい!一体あの岩が何だって言うんだ!?」


 さっきまで飄々としていたくせに、何が奴をこんな風にさせたのか?

 小さくブツブツと呟くその言葉に耳を近づけると、船長はこんなことを言っていた。


 「お、終わりだ・・・!あいつが来る!・・・死ぬより、死ぬよりこわ・・・こわいっ!生きたまま喰われる!」


 (あいつ・・・?生きたまま喰われる?)


 どう考えてもよろしくないセリフ、ロカさんが叫んだのはそんな時。


 「主っ!敵である!こんな近くまで・・・我輩にも悟らせないとは!」


 (敵!?・・・ロカさんの『索敵』を避けただと!)


 身構えるより早く、船長が絶望の声を上げた。


 「ここは・・・ここはもう・・・あいつの縄張りだぁ!」


 「ぬぅ!下である!」


 ゴゴンッ!

 突き上げるような衝撃が、突如船に襲い掛かった。






ここまでお読み頂きありがとうございます。

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