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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
179/266

・第百六十九話 『海賊(パイレーツ)』

お待たせしました!



 異世界からこんにちは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、竜兵のやつは一体何に目覚めたんだろうな?

 兄貴は現在船の上、絶賛困惑中だ。

 潜水どころか水陸両用の、ドリルな船を造ってくれたのは前回話しただろう。

 その船なんだが・・・自動航行まで付いてるらしいんだ。

 速度も異常。

 アリアムエイダが支援してくれてるとは言え、遅くとも一日で『氷の大陸』メスティア、唯一の玄関口である『最後の港町ミブ』に着けるとか。

 この船本来(竜兵魔改造前)の性能だと、どんなに順調に行っても約一週間の道のりって言うんだから、どれほどの無茶をしているかお察しください。

 明らかにオーバースペック、自重なにそれ、おいしいの?状態である。

 次はロボットとか造ってないよな?

 自分の想像が否定もできず、何かしら背筋が薄ら寒くなるのを感じながら、秋広が居るらしい『氷の大陸』メスティアに向けて進んでいる。

 今度はどんなトラブルが待ち構えているのか。

 当然予想は当たるんだ・・・初日からな!

 


 ■



 「では、妾はそろそろ戻るとしよう。ぬしらも気をつけてな?何かあればお竜ちゃんが悲しむ。」


 「・・・ああ、エイダ助かった。竜兵のことをよろしく頼む。」


 海面に浮上してしばらく、潜水艇に付いていた自動航行なんてふざけた代物にドン引き。

 これには説明を受けていなかった上、すでに『氷の大陸』メスティアの玄関口、『最後の港町』ミブがインプット済みだとのこと。

 「ただただ意味がわからない。」そんな顔をしていたアフィナとシルキーも、おれの説明でこの船の異常さに気付き、今ではポカーンと口を開けて船を見つめていた。


 (竜兵はもう自重をやめたんだろうか?やめたんだろうな・・・。)


 ちょっと遠い目をしかけたおれに向け、『海龍』アリアムエイダの分体である青髪の美女はそう声をかけ、たおやかな一礼を見せる。

 彼女に謝辞を述べ竜兵を守ってくれるよう頼む。

 そんなおれの言葉に、「任された。」としっかり頷き、彼女は竜兵に渡されていたカード・・・『脱出エスケープ』の魔法を発動した。

 アリアムエイダの長身が一瞬にして光の玉に包まれ、一度だけ中空に漂った後、光の玉は水中へと飛んでいく。

 おれたちはその光景を見守った。

 

 「行っちゃったね・・・ちょっと寂しいな。」


 「セイさんとアフィナと私、すっかり人数が減ってしまったね。」


 ポツリと呟くアフィナとシルキー。

 確かに今朝方までは色んな人間が入り混じって、すこぶるドタバタしていたからな。

 寂しく・・・は無いが、ずいぶん静かになったものだとは思う。

 おれは自走する船の上、進行方向を見つめたまま「そうだな。」と呟いた。


 「ね?セイ・・・このまま三人で?」


 おれの目の前に回り込み、顔を覗きこみ尋ねてくるアフィナ。

 いつのまにかシルキーもぴったり寄り添ってきている。


 (なんだろうか?心細いとか?)


 意図はわからないが、とりあえずおれは首を振る。

 

 「いや、盟友ユニットを呼ぶぞ?」


 当たり前と言えば当たり前な返答に、なぜか不満そうな表情を見せる二人。

 「そっか・・・。」「だよね・・・。」と顔を見合わせる。

 そりゃそうだろ・・・残念と馬の人を一人でフォローとか・・・どんな罰ゲームだ?


 「残念じゃないもん!」


 「・・・!また馬って・・・!」


 おい、心を読むな。

 キッと睨みつけてくる二人から微妙に目を逸らし、おれはため息一つ『魔導書グリモア』を展開した。

 目の前に浮かぶA4のコピー用紙サイズ、六枚のカード。

 二枚を選択、一枚が星型の紋章クレスト三つに変わる。

 金箱に吸い込まれる紋章クレストと、光を放ち始めたカード。

 おれは召喚のことわりを唱えた。


 『霧の精霊を統べる者、全ての姿を得られし者、我と共に!』

 

 「あっ!そのことわりは!」


 金色に輝く世界の中、おれが呼んだ盟友ユニットが誰なのか、それに気付いたアフィナが嬉々とした声を上げる。

 心なしかシルキーのポニテも揺れていた。

 まじであのポニテどうなってんだ?一度解明したい。

 それはともかく、まぁ・・・気持ちはわかる。

 なんだかんだでおれも、久々に彼と会えるのは嬉しいのだから。

 なんたって彼は・・・もふもふである!そう、もふもふなのだ!

 大事な事なので二回(ry

 『精霊王国』フローリアの英雄級盟友ユニット、我輩口調で話す渋い声、闇と水を操るチートな子犬・・・(実際には狼だが)その名も『幻獣王』ロカさんだ。

 

 「ぬぅ!主・・・もっと我輩を呼ぶのである!」


 どこかぷりぷりとした雰囲気、金色の光を割って現われた小型犬は、姿と裏腹のバリトンボイスで不満を訴えてくる。

 

 「ごめんな、ロカさ・・・!?」


 「わーい!ロカさん・・・だ!?」


 「ロカさん、おひさしぶ・・・!?」


 ロカさんの身体をはっきりと認識、おれたち三人は言葉を途中で詰まらせる。

 そして同時につっこまざるおえなかった。

 

 「「「アフロっ!!!?」」」


 「ぬぅ・・・!」


 ロカさんは酷く不本意そうに、ゆるゆると・・・もっさりした頭を振った。



 ■



 ちょっと落ち着いた途端、「可愛いー!」と突進したアフィナからロカさんを救い出し、現在彼はおれの腕の中、頭がアフロで尻尾がふりふり・・・これはっ!

 まて、落ち着けおれ。

 なぜ頭部がチリってしまったのかを聞こう。


 「主・・・!箱の中は戦場である!」


 (なん・・・だとっ!?)


 余りにもあんまりな情報になんと答えて良いかわからない。

 おれですらそうだ、アフィナやシルキーは完全に困惑。


 「まず、イアネメリラ殿の要請でエデュッサとカオスが捕縛されたのである。『砂漠の瞳』に属するほとんどの盟友ユニットや我輩も協力し、抵抗する彼奴らを無力化し、リザイア殿の折檻で二人も反省しているかに見えた・・・しかし、彼奴らは虎視眈々と狙っておったのである!我輩たちが油断している内に、いつのまにやら味方引き込んだプレズント殿やジェスキス殿・・・それにラカティス殿が結託し、箱内で抗争が勃発したのである!」

 

 「なんで・・・そんなことに・・・。」


 唇に乗るのは苦々しい呟き。

 おれの盟友ユニット同士で争っている、しかも箱の中でとか・・・。

 ロカさんはアフロをふりふり、ため息混じりに呻く。


 「ジェスキス殿はわからぬが・・・プレズント殿とラカティス殿は言っていたのである・・・「祭りだ!」と・・・。」


 「祭りだ!」じゃねーよ!?

 あいつら確信犯だな・・・頭痛で頭が痛いわorz

 

 (とりあえず・・・ロカさん以外はしばらく呼ぶの辞めよう。)


 おれは決意した。


 「ともかく・・・アフロ治るかな?」


 ロカさんの頭がとても可哀想なことになっている。

 いや、可愛いか可愛くないかで言ったら、間違いなく可愛いんだが。

 おれはロカさんに少し多めの魔力を譲渡・・・問題無くアフロが収まったのを見て、ほっと胸を撫で下ろす。

 魔力なんて言う謎エネルギーだが、実に便利で助かる。


 「主・・・かたじけないっ!」


 尻尾をこれでもか、実に嬉しそうにふりふりするロカさんを甲板に降ろし、やっとこ人心地付いた時だった。


 「セイさん!あれ!」


 シルキーの指差す方を見れば、進行方向から少し外れた場所に小さな島影。

 目を凝らすと到底人が住めるようなサイズではなく、岩肌がむき出しの小島だ。

 そんな小島に、細々と煙が立ち上っていた。


 (この辺は無人島しか無いって話だったが・・・?)


 訝しみつつもじっと見つめていると、その島に人影が見えた。

 どうも相手もこちらを見ているらしく、手を振ったり飛び跳ねたり両手を口元に添えて叫んでいる様子もある。


 「遭難者・・・とか?」


 「・・・かもしれんな。」


 アフィナの疑問に小さく返し、おれは船の自動航行を止めにブリッジへ。

 目に留まったからには仕方ないな。

 お互いに気付いている以上、放置では少々寝覚めが悪い。

 小島へ向けて、船の針路を変えた。



 ■



 「いやぁー!ほんっとーに助かった!あんたらは命の恩人だぜ!」


 遭難者は六人、『港町』カスロの漁師だと名乗った。

 今おれの手を握り、感謝感激と言った様子で話す不精髭の男が、どうも船長だったらしい。

 なんでも漁師ギルドの制止を振り切って出航し、『最後の港町』ミブに向かう最中あえなく転覆。

 命からがら付近の無人島に漂着し、大破し流れてくる船の漂着物で生きながらえていたと。

 それももうすぐ尽きる、そんな折におれたちに発見されたらしい。


 「まぁ・・・災難だったな。おれたちはカスロには行く予定は無いが、ミブになら送ってやれる。それで良いか?」


 「ああ!もちろんだぜ!助けてもらっておいてカスロまで送ってくれなんざ、船乗りとしての矜持が許さねぇよ!」


 とりあえず、もしもの時のためにと『カード化』しないで詰んでいた食料と水を振舞いながら、おれたちの目的地を告げる。

 船長と名乗った男はそれに素直に頷いた。

 その後彼らは甲板に座り込み、相当飢えていたのだろう。

 しばらくは何もしゃべらずガツガツと食料を貪る。


 腹も膨れ満足そうな表情になった船長が、「ところで・・・。」と前置きしてからおれに問いかける。


 「この船にはあんたら三人だけかい?・・・誰も操舵している素振りもねぇし・・・。」


 そうだよな・・・船乗りなら気付くか。

 アフィナかシルキーどっちかに、操舵してる振りでもさせとくんだったな。


 「ん?ああ・・・まぁな。この船は・・・特別製なんだ。」


 適当に誤魔化すが船長は特に気にした素振りも無く、「特別製か・・・それに三人ね。」と呟いた。

 そしておもむろに立ち上がり、「てめぇらぁ!」と船員たちに声をかける。

 五人の船員が一斉に立ち上がり、どこか不穏な空気を発し始めた。

 そこには先ほどまでの粗野でありながらどこか人の良さそうな雰囲気は無く、まるでこれから命のやりとりでもするかのような気配。


 「あ・・・あの・・・なに?」


 船員たちに頭の先からつま先まで、舐めるように見られたアフィナとシルキー。 

 気持ち悪かったのだろう、自分の身を守るように抱きしめている。

 その様子に船長は、突然テンプレなことを言い出した。


 「この船は俺たちが頂く。せめてもの情けだ、船と女を置いて身一つ、海に飛び込むってんなら、てめぇも命だけは助けてやらぁ!」


 「・・・え?」


 ナニコレ?・・・えーっと。

 遭難者を助けたと思ったら、実は海賊でした。みたいな?

 一瞬思考が止まったのをビビってるとでも勘違いしたのか、海賊どもが調子付く。


 「うっへっへ!上玉が二人に見たこともねぇ船だ!こりゃツイてるな!」


 「さっさと飛び込めよガキィ!船長の寛大さに感謝しながらなぁ!」


 「この海域は魔物の巣窟だぜ?うひゃひゃ!」


 「大体にしてあんななよっとしたガキだ!陸地に着くまでに溺れて死んじまうさ!」


 「ハハッ!違ぇねぇ!」


 海賊A~Eが大はしゃぎです、ヤダー。

 最後に船長が言う。


 「俺は気が短けーんだ!さっさとしな!」


 そしておれに向かって手を伸ばそうとした瞬間、横方向に吹っ飛んだ。

 中々にガタイの良い船長を、木っ端のようにぶっ飛ばしたのは漆黒の子犬。

 彼・・・ロカさんは赤い目を爛々と輝かせていた。


 「主!珍しく呆けていたであるな!」


 全く持ってその通り、面目無い。

 余りのテンプレ展開に、気持ちが追いついていかなかった。


 「「「「いっ、犬がしゃべったっ!?」」」」


 海賊どもが驚愕の声を上げ、ロカさんが「狼である!」とつっこんでいる間に、海賊二人が炎と雷に包み込まれていた。


 「ぎゃあああ!熱いいいいい!」「あばばばばばっ!!」


 「「「えっ!?」」」


 まだ無事な海賊三人が振り向けば、だいぶお冠なアフィナとシルキー。


 「遭難してるのを助けてあげて・・・。」


 「ご飯とお水をもらっておいて・・・。」


 「「この恩知らず!!!」」


 二人の撃ち出した炎と雷は海賊どもをあっさりと無力化した。

 ・・・おれの出る幕無いね。

 多少余裕があったらしい船長が、やけに悲痛な叫び声を上げる。


 「眼鏡ノッポの四人組と言い、こいつらと言い、なんでこんなにツいてねーんだ!神よ!」


 海賊が神に祈ってんじゃねぇよ・・・。

 

 (ん・・・?)


 流そうと思ったセリフで、すごくひっかかる部分がある。

 眼鏡・・・ノッポで四人組?

 おれは船長の胸倉を掴み引き起こす。


 「ひぃっ!やめろ!もうしません!許して!」


 ズイっと顔を近づけると、すっかり怯えきっていた。

 「こ、殺さないで!」と涙ながらに訴える大のおっさん。

 その視線はこんがりローストされた部下たちに、しっかりと固定されている。

 人聞き悪いな・・・殺さねぇよ。

 部下A~Eだって死んではいないだろ・・・たぶん。

 アフィナ?腹が立ったのはわかるけど、もう気絶してるから蹴るのはやめようか?

 そんなことよりだ。


 「おい、眼鏡ノッポについて詳しく!」


 おれの言葉に元海賊船長は「・・・え?」と一言、固まった。





ここまでお読み頂きありがとうございます。

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