・第百六十八話 『潜水艇』
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※第四章メスティア編開幕です。
異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈は寒いのあんまり得意じゃ無かったよな。
兄貴はそうでもない、どちらかと言えば暑い方が苦手だ。
ただし・・・物には限度がある。
これからおれたちが向かう先、『氷の大陸』メスティアは所謂氷雪地帯。
『地球』で言うところの北極、南極に分類される場所らしい。
大陸って言うくらいだし陸地があるのか?
だとすれば南極に近そうだ。
どっちにしろ、すげー寒いんだろうが・・・あのバカ(秋広)は何を考えてそんな所に・・・。
現状の目標は秋広の確保と、『真賢者』ガウジ・エオにコンタクトすること。
できれば双方穏便に、速やかにクリアしたいものなんだが。
今までの経験からしても・・・どう考えても、無理だよなぁ・・・はぁ。
■
国賓扱いの歓待と、まだまだ安定しない国内、働き手を大きく減らした王城の関係で、ずっと王城の客間に泊まっていたんだが・・・。
どの国に行っても王城に滞在することになるのはさすがに慣れた。
豪華な調度品と寝心地の良いベッド、それからなぜかおれの部屋に集まるアフィナやシルキー・・・そしてリューネもな。
滞在初日、「リューネが居ない」と大慌て、おれの滞在する客間まで足を運んだ、彼女の父にして宰相のサビール氏、その護衛で王国の貴族『水先案内人』オーゾル。
いつのまにかベッドに潜り込んでいたリューネに、おれは絶句した。
えーっと・・・君はこの国の女王じゃないのかな?
もちろん何もしていない、おれはロリコンじゃない。
と言うか疲れてて気付かなかった。
それでもこれはまずいだろう・・・相手は八歳と言え未婚の女性、しかもこの国の女王だ。
なんと言って弁明しようか、一瞬頭が真っ白になりかけたおれに、人族と人魚の父娘が爆弾を投げつけてきた。
「はっはっは!リューネはすっかりセイ殿が気に入ったようだな!」
「はい!お父様、リューネはお兄様のお嫁さんになります!」
「そうかそうか!これで我が国も安泰だね!」
おい、サビール氏?八歳の幼女をおれにどうしろと?
困惑するおれと、上目遣い「だめですか?」と見つめてくるリューネ。
アフィナとシルキーは顔を寄せ合い、何事かひそひそしているし、どうせ碌なことじゃないから何も言わないが。
そしてオーゾル・・・お前はなぜハンカチの端をかみ締めている・・・。
おれは・・・逃げた。
寝心地の良いベッドのせいかどうかはわからないが、この一週間の間に久々、美祈の夢も見ていた。
彼女は相変わらず『リ・アルカナ』をしているようで・・・。
今回は何かの大会にでも出ているようだった。
ちょっと見ない間にすごく強くなってたな。
ちょいちょい公式大会で上位に食い込むような連中とも戦っていたが、相手を全く寄せ付けず完勝。
そんな光景が繰り広げられていた。
夢の内容がどうも竜兵やウララとリンクしていたようで、同じ日同じ時間にそれを見た三人、揃って首を傾げた。
本当に美祈・・・一体何をしてるんだ?
ヴェリオンを『略奪者』の魔の手から救い、なんだかんだ王宮に引き止められること、早一週間。
もちろん復興を手伝ったり、あれこれと準備をしたりで忙しくはしてたんだが。
まぁ案の定と言うか、さすがと言うか・・・。
竜兵がまた部屋に篭ってるななどと思っていたら、王城に転移装置を作り出していた。
アリアムエイダの神殿を中心に、ヴェリオン、フローリア、シャングリラ・・・竜兵が「ドラゴンネットワーク」を配置した三国を繋ぐ「ドラゴンシルクロード」とな。
まじで製作チートがやばいぞ?
本人曰く・・・。
「エイダ姉の神殿にあった転移装置を参考に、ドラゴンたちにお願いしたらなんか出来た!」
らしいのだが・・・。
竜兵の盟友であるバイアやアリアムエイダもドン引きしてたから、どう考えても「なんか出来た!」で済ませていい物じゃないだろう。
確か神代級とか言ってたし・・・竜兵自重ェ。
おかげでフローリアからエルフの文官団や、ドワーフの騎士団、おまけにウララやクリフォードまでが増援に来た。
マルキストも書類整理から逃げるために来たがったらしいのだが、アーライザとカーデム老人が全力で引きとめたそうな。
フローリアに攻めて来た帝国を撃退する際にも一悶着あったらしいし、どうもマルキストは座り作業が苦手なんだとか。
それでもあのマルキストを止めるなんて、アーライザやカーデム老人に可能なのかと思ったが、現場に居たウララが、「あれは・・・怖い・・・。」って言うくらいだからな。
相当な修羅場だったこと、想像に難くない。
助かったは助かったが大騒ぎになったぞ。
そしてお前ら、おれに料理させすぎだろ!?
カツ丼500人前は、揚げてるだけで吐きそうになりますorz
ウララとクリフォードの襲来は、これが目当てだったとしか思えない。
それはともかく。
目的地は決まっているし、相応の目処も立った。
さすがにそろそろお暇しないとな。
おれたちはしばし世話になったヴェリオンの王城に別れを告げ、港へ向けて歩き出す。
■
改装・・・いや、改造?正確には魔改造を施された潜水艇のブリッジ、おれはどこか遠くを見つめていた。
どうしてこうなった?
竜兵が張り切って改修を行った元王家御用達の潜水艇。
今は完全に兵器である。
「アニキー!操縦桿の右側、赤いボタンが魚雷で~、青いのが爆雷ね!あと、操縦桿を手前に引っ張って反転させると・・・なんとっ!」
おれの横、船体の最終確認をしていた竜兵。
どんなサプライズがあるのか、おれの顔色を伺いワクワクを隠そうともしない。
(これは聞かないといけないんだろうな・・・。)
竜兵ともしばしの別れ。
彼はおれたちを送り出した後、各国の転移装置や結界の調整、並びに秋広捕獲後の帝国戦へ向け、三国を往復しながら準備する予定だ。
そんな竜兵がおれの旅の安全を図るため、ヴェリオン王家の潜水艇を譲り受けて魔改造を施していた。
神代の転移装置を二日でリメイクした竜兵が、「おれのため」と言いながら倍の四日をかけて作り出した代物。
いやな予感しかしないが、おれは付き合うことにする。
「なんと?」
竜兵は一つ頷き、実際に操縦桿を操作する。
ウィーン・・・ガコ、ガシュン!
操舵室から見える外面、船の舳先に当たる部分が、およそファンタジーらしからぬ音を立て変形。
「・・・・・・。」
「ドリルですっ!」
サムズアップにウィンクの竜兵と、途方に暮れるおれ。
なぜドリルだし・・・。
「これで大型の魔物も一撃!あ!あと、この緑のボタンで陸地仕様になるからね?」
ウィーン・・・ガコ、ガシュン!
うん・・・キャタピラだな・・・。
どう見ても特撮物に出てきそうな変貌を遂げた船。
乗り込んだメンバーも、外で見送りに来ていた人々も、完全に言葉を失った。
竜兵はおれを何と戦わせるつもりで居るのか。
それはともかく。
現在この船に乗っているのは六名。
おれと竜兵、ウララの転移者組。
異世界組でアフィナとシルキー。
この二人はお留守番を断固拒否した。
ぶっちゃけおれと盟友だけの方が自由が利くのだが、「「ボク(私)たちが居ないと、セイ(さん)は無茶するじゃない!」」と声を合わせて反論される。
完璧なハモリでびびったわ。
一体いつ練習していたのか、なんともご苦労なことである。
そしてアリアムエイダの分体。
竜兵とウララはここでお別れ、秋広捜索には付いてこない。
ウララも残していくのは、まぁ念のためだな。
一回追い返したとは言え、帝国が諦めたとも思えないし。
それから・・・宰相サビール氏以下、ローレンやオーゾルにも伏して請われ、ヴィリスをこの国にしばらく置いていくことになった。
その都合上、アリアムエイダが海上まで連れて行ってくれることに。
もちろんもしもの時のため、ヴィリスには『脱出』のカードを渡してある。
イアネメリラは今回維持しなかった。
ヴェリオンではずっと出ずっぱりだったしな。
それとアレだ・・・おれの誇る二大変態盟友。
いや全く持って誇りたくは無いんだが・・・。
『女盗賊頭』エデュッサと『愚者の王』カオス、豹柄エロメイドとガチホモ男の娘の再教育をお願いしている。
ちょっとおいたが過ぎたからな。
あいつらの長に当たる『砂漠の瞳』の指導者、『金色の瞳』リザイアの協力も仰ぐように言ってあるから、おそらくは十二分にOshiokiされることだろう。
一通り機体の説明を受け、一度甲板へ。
竜兵とウララも連れ立って港へ降りていく。
おれ、アフィナ、シルキー、そしてアリアムエイダを見送るため、港には主だった顔が揃っていた。
「殿下!お気をつけて!」
「お兄様!あと四年・・・四年だけお待ちくださいっ!」
「セイ君!またいつでもヴェリオンに来たまえ!次回は私の邸宅で、貴族の紅茶をご馳走しよう!その時はイアネメリラ様も是非っ!」
「セイ殿!いくら貴方が英雄でも・・・このオーゾル!例の件では負けませんぞ!」
「セイ殿・・・いや、未来の息子殿!早く孫の顔を見せて欲しい!」
順にヴィリス、リューネ、おっさん三人組み(ローレン、オーゾル、サビール氏)である。
まともなのはヴィリスだけでした。
豆腐メンタルとか言ってごめんよ。
リューネ?おれは12歳の少女とは結婚しませんよ?
ローレンはイアネメリラのとこが気合入りすぎだし、オーゾルに至っては何の件かわからねぇよ。
サビール氏はもっとひどい・・・いつのまにか息子になってる。
なんとも言えない気分になるおれに、ウララが声をかけてきた。
「セイ、あのバカ(あっきー)は、首に縄付けてでも連れて来なさい!・・・それと、あんまり無茶するんじゃないわよ・・・。」
ウララの声は後半に行くほど小さくなり、良く聞こえなかった。
おれが「なんだって?」と聞き返しても、「なんでもないわよ!バカ!」と怒られるばかり。
なぜ怒っているのか・・・げせぬ。
そして最後に竜兵。
「アニキ!あきやんを見つけたら連絡してね!それと・・・おいらたちも『回帰』のこととか調べてみるよ!」
その言葉に首肯を返した所で、アリアムエイダが「そろそろ良いかの?」と全員を見回す。
おれたちは最後に「またな!」と別れを告げ、船内へと移動した。
そしてアリアムエイダが水の力を使い、船体を徐々に浮かばせる。
勢い良く動き出した船の窓から、いつまでもこちらへ手を振る幼馴染たちとヴェリオンの人々が、少しずつ遠く小さくなっていった。
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できるだけ更新続けますので、どうぞ変わらぬご贔屓を~><