・番外編 ある農夫の悩み事
いつもお読み頂きありがとうございます。
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本日二本目。
SS第三弾です。
シャングリラからこんにちはだべ。
おら獣人種土竜族の農夫、名前はグーテンシュタット・モルモーリア・ラッフェンバッハ。
ハハハ、長いと思っただべ?
一応これは意味のある名前でな、名前、氏族、苗字になってるんだ。
どうも、おらの数代前に土竜族の族長様がおったらしくってや、その名残を未だに受け継いでるらしいんだわ。
ま、農夫にはあんまり関係無いけども。
いいだいいだ、覚えられなくって当たり前だべ。
気にしなくていいだ、おらの名前聞いた衆は、みんなそういう顔するでな。
気安く「ぐっさん」とでも呼んでくんろ。
最近はおらも、そう名乗るようにしてるだ。
それはついこないだまで一緒に旅した友人?仲間?だべかな・・・。
人族の少女が付けてくれたあだ名だ。
■
おらは安堵で倒れこんだだ。
「腹・・・減っただ・・・。」
そう呟き、あとは一言も、指先一つも動かねえだ。
おらの村で起きたとんでもない凶事、それを受けて着の身着のままシャングリラの王城まで移動した。
簡単では・・・無かっただよ。
この国で獣人は立場が悪い、道中盗賊に何度も襲われただ。
だども、あの娘が別れ際に渡してくれたカードのおかげで九死に一生、やっとの思いでここまで辿り着くことができたんだ。
自分でもばかなことさしとると思う。
あんなちょっとだけ、それもおらが助けただなんておこがましい。
ほいでも、もしかしたらあの娘なら、「おらと村さ、救ってくれるかもしんね。」その淡い希望だけで、シャングリラの王城までやってきただ。
でもそこで限界。
おらは情けなくも、空腹で動けなくなってしまっただ。
傷が無いのは救いだ・・・ウララのおかげだども、んでも身体や服に付いた汚れは隠せない。
城門の前で蹲る汚い獣人・・・天使族至上主義のこの国からしたら、間違いなく汚物だべさ。
おらの命運も尽きたと思ったその時、少し不機嫌そうな男の声と、可愛らしい子供の声が聞こえてきただ。
「おい、そんな所で死ぬな。」
「お腹が空いてるみたいですよ?」
朦朧とした頭で見上げれば、やたら目つきの鋭い人族の青年と、兎耳をピコピコ動かす兎族の少年。
なぜか二人揃ってお揃いのエプロン(花柄)をしているだ。
兎族の少年が言った「お腹が空いている。」の言葉に、人族の青年が「む?」と反応して席をはずす。
ほどなくして戻ってきた青年の手には、湯気を出す木製のお椀と、おむすびが二つ握られていただ。
青年は無言でそれを差し出す。
(くれるんだべか?)
ノロノロとして動かない頭で思考する。
(いや、もしかしたら目の前で落すのかも・・・。)
そんな風に考えてしまうほど、この国の獣人迫害は深刻だべ。
でも・・・隣にいる兎族の少年が、しきりに頷いてるとこ見たら・・・大丈夫なんだべか?
青年はおらが倒れているから受け取れないとでも思ったか、少年にお椀とおむすびを預け、優しくおらを起こしてくれただ。
「も・・・もふもふじゃないか・・・。」
青年が何か呟いたが、今はそれどころじゃないべ。
おらは兎族の少年からお椀とおむすびを受け取り、お椀を覗き驚く。
(なんだべ、これ?)
茶色っぽい液体の中に、人参や大根、たまねぎやゴボウなんかの根菜類、そして薄切りにされた豚肉が山盛りだ。
こんなもの食ったことねえだ。
泥水・・・?だども・・・薫る芳香はかぐわしく、食欲を・・・縮こまった胃袋をダイレクトに刺激する。
ニコニコと頷く少年に後押しされ、おらはその野菜汁に息を吹きかけ、恐る恐る啜った。
(う・・・うますぎるべー!?)
生まれて初めて、食事にありついた時のような感動。
汁に染み出した肉の旨味と、野菜の甘味が五臓六腑に染み渡る。
おらは滂沱の涙を流しながら、野菜汁とおむすびを貪っただ。
「兄ちゃんありがとな?おら・・・こんな美味い野菜汁食ったの初めてだよ!」
人心地付いたおらがそう言うと、鋭い目つきで怖いと思った青年は、「そうか。」と短く・・・しかし破顔する。
それを聞いた兎族の少年が、まるで自分が褒められたかのように、ひどく誇らし気に言うだ。
「おじさん、それは野菜汁じゃなくてトン汁と言う料理なんです!セイ様の料理はおいしいでしょう!?」
おらは「ああ、本当に美味かっただ。」と答えながら、ハタと気付いた。
(セイ・・・?)
道中あの娘から何度も聞いた名だべ。
もしかして・・・あの娘の、ウララの幼馴染!?
おらが確かめようと声を発する前、その懐かしい声が響いた。
「ぐっさん!?なんでこんなとこに居るのよ!?」
■
ウララの声に青年と少年は同時に反応する。
「「ぐっさん!?」」
慌てて駆け寄ってくるウララと、同じく慌てて右往左往する青年と少年。
「ラビト!お湯と布を用意させて!セイ!ぐっさんを!」
ラビトと呼ばれた少年が「はい!」と元気にお返事、城内へ駆け込んでいく。
セイはおらを抱え上げ、同じく城内へ歩き出す。
おら結構重いはずなんだども、まるで気にした素振りも無いだ。
ウララはセイの横、おらの様子を見ながら歩き、いつのまにかあの力、『魔導書』を展開させていた。
『大回復』
ウララの涼やかな声と共に、おらの身体に広がる温かいぬくもり。
いつかも感じたことのある、優しい魔法だ。
「大丈夫だとは思うけど・・・一応安静にさせましょう。」
「わかった。」
そんな二人の会話を聞きつつ、おらの意識は暗転した。
ほどなくして・・・。
「気が付いた?」
おらを気遣う優しい声音に目が覚めると・・・そこにはウララとセイ、エルフの女性が一人と・・・。
(まさか・・・!?)
『裁く者』・・・いや、今は『裁断王』マルキスト様と言う、この国に住まう者なら知らないはずの無いビッグネーム。
まぁ今おらに気安く話しかけてくれているウララも、もはや天上の存在・・・『正義の女神』様なんだども。
混乱するおらに、セイとマルキスト様が揃って頭を下げる。
「ぐっさん・・・ウララを助けてくれたんだってな?ありがとう。」
「私からも感謝するよ。貴殿の助力が無ければ、我々がウララ様と出会えることも無かっただろう。」
も・・・もったいないべ・・・。
それにウララ・・・良かっただな?
やっとこさ愛しいセイに会えたんだな。
おら、ふいに涙が零れただよ。
「ぐっさん!?まだどこか痛むの!」
慌てたウララに手を振り、おらは言う。
「いや、済まね・・・どこも痛くねえだ。ただ・・・ウララやっとセイさ会えたんだなと思って・・・ウララが心底ほ・・・。」
「まったあああああああああ!!!ストップ!ストップよ!ぐっさん!」
叫びおらを揺するウララ。
頭がガクンガクンするだ!
「ほ?ほってなんだ・・・?」
「あんたは気にしなくて良いのよ!」
「ウ、ウララ様!?相手は病人ですよ!?」
(なんだか・・・カオスだべ・・・。)
そう思いつつ、おらの意識は再度暗転した。
■
今度はすぐに目覚めたべ。
おらが目を覚ますとすぐに、「ごめんねぐっさん?」と目を伏せたウララが謝ってくる。
それに「いいだ、いいだ。」と苦笑いしながら身を起こす。
「それで・・・ぐっさんはどうしてここへ?」
セイの問いかけにハッとする。
「そうだ!おら、寝てる場合じゃなかっただよ!」
慌てるおらを「落ち着いてぐっさん。」と、ウララが優しく宥める。
少し落ち着いたおらは、現在の村の惨状を語り、なんとか助力してもらえないかと嘆願した。
「そう言う訳で、おらたちの村・・・畑が害虫でえらいことなんだ!」
そう・・・突如発生した体長50cmもあるイナゴの大群が、おらの村周辺を荒らしまわっている。
このままじゃ皆飢え死にだべ。
切実に訴えかけるおらに、ウララが何事か気付き問いかける。
「ぐっさんの村の畑って・・・確か・・・。」
そういえばウララには話したことあっただな。
「んだ。米作ってるだ。他にも野菜は作ってるども、主は米だ。」
「なんだとっ!?」
その回答に過剰な反応を返したのはセイだった。
突然大声で叫び、完全に目が据わっている。
なんだべ・・・怖くないと思ったけど・・・やっぱりちょっと怖いべ。
「ぐっさん、すぐに村へ行くぞ!カーシャ、『ゲート』を頼む!」
「「え!?」」
おらとカーシャって呼ばれたエルフの声がハモる。
そんなおらたちを全く意に介せず、セイは一人闘志を燃やしていた。
助けを求めるようにウララとマルキスト様を見れば・・・。
「ウララ様・・・セイ殿は・・・?」
「だめよマルキスト。ああなったら誰も・・・少なくともこの世界に居る人間じゃ止められないわ。」
二人揃って遠くを見ている。
訳もわからぬまま、突如ガシっと抱えられるおら。
そのまま王城の庭まで連れて行かれ、村をイメージするようにカーシャさんに言われただ。
カーシャさんが木で『ゲート』を作り出し、一瞬世界が暗転。
気が付くとそこは、おらの村だった。
うわー!相変わらずイナゴの群れが舞ってるべー!
セイが走り出しながら『魔導書』を展開、ウララが使った事の無い言葉さ唱える。
『砂漠の瞳を追われし者、血の涙を流す者、我と共に!』
セイの右手さ握られた、金色の箱が輝き蓋が開く。
おらの目には眩し過ぎる、まさしく金色の世界。
光が収まれば・・・そこには青い髪、糸によって塞がれた目、病的な程白い肌の隻腕の男が現れていた。
「マイロード、下命を・・・」
「ジェスキス!『絶滅』だ!対象はイ・ナ・ゴ!!!」
現われた男の口上を遮り、セイが叫ぶ。
「わ!わかりました!『絶滅』!」
少し戸惑いながら、それでも慌てて魔法を唱え始めるジェスキスと呼ばれた男。
(ジェス・・・キス?・・・『絶滅』!?)
20年前の大戦で名を馳せた英雄の登場に、おらの頭は真っ白だべ。
直後・・・昏い波動が辺りを舐める。
あんなにたくさん、それこそ絶望的に存在したイナゴの群れは、全て砂の塊に変わり消えていった。
(な・・・なんだか、どえらい事になったべ!)
金箱に帰っていく英雄と、やたらイイ笑顔のセイを見つめ、おらは身を竦ませた。
一緒に来たカーシャさんもドン引きだべ。
そこでセイの手元に舞い込んで来る一枚のカード。
カードを確認し、セイは天に向けて吼えた。
「腐れ『略奪者』が!ぶっ飛ばす!」
それは今までの・・・少なくともウララが語ったセイの姿とはかけ離れていて・・・。
ゆらぁりと振り向くその姿に戦慄すら感じるだ。
「時にぐっさん・・・。」
「な・・・何だべ?」
(な・・・なんでそんな低い声出すだ!?)
「おれは、お米が大好きだ。」
「あ、うん。作ってる方からしたら嬉しいだよ?」
そこでにっこり、握手を求めてくるセイ。
「この村の余剰分は、す・べ・て・おれが買う。」
その手を握り返しながら、告げられた言葉に声を失った。
まぁほんとに余剰分だけ、しかも破格で買ってくれたんだども・・・。
その迫力は半端じゃなかったとだけ言っとくだ。
■
一方その頃・・・。
『略奪者』ツツジの不思議な白い空間では・・・。
「おわっ!?」
突如驚愕の声を上げるツツジ。
「急にどうしたのよツツジ・・・?」
その声に驚き問いかけるホナミ。
ツツジは珍しく何だかバツが悪そうに、ポリポリと頬を掻く。
「・・・いやさぁ・・・。ハルの応援で、シャングリラの穀倉地帯に攻撃したじゃん?」
ホナミと言えばその言葉に少し逡巡。
「ああ・・・『イナゴの大群』?」
思い当たり舌に乗せれば、「そうそう!」と頷くツツジ。
「なんか・・・今、全滅した・・・。」
「全・・・滅・・・?」
それは異質な情報、そんなことができるカードじゃないんだが?
そして更に・・・。
「へふぅっ!?」
尋常ではない殺気を感じて、変な声が口から飛び出たツツジ。
ホナミはその様子を見て、今回ばかりは・・・そう思った。
「ツツジ・・・兵糧攻めは見直しましょう?」
「・・・うん。そうだね、俺が悪かった・・・。」
よほどの恐怖だったのか、珍しく・・・本当に珍しくツツジは素直に頷いたのだった。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
良ければご意見、ご感想お願いします。
※SSと言いながら下手したら本編より長いって言う。
ごめんなさい、作者のもふもふ魂が迸ってしまったのです。
次回は本編(他者視点ですが)に戻ります。