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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
172/266

・番外編 ある農夫の悩み事

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


本日二本目。

SS第三弾です。


 シャングリラからこんにちはだべ。

 おら獣人種土竜族の農夫、名前はグーテンシュタット・モルモーリア・ラッフェンバッハ。

 ハハハ、長いと思っただべ?

 一応これは意味のある名前でな、名前、氏族、苗字になってるんだ。

 どうも、おらの数代前に土竜族の族長様がおったらしくってや、その名残を未だに受け継いでるらしいんだわ。

 ま、農夫にはあんまり関係無いけども。

 いいだいいだ、覚えられなくって当たり前だべ。

 気にしなくていいだ、おらの名前聞いた衆は、みんなそういう顔するでな。

 気安く「ぐっさん」とでも呼んでくんろ。

 最近はおらも、そう名乗るようにしてるだ。

 それはついこないだまで一緒に旅した友人?仲間?だべかな・・・。

 人族の少女が付けてくれたあだ名だ。



 ■



 おらは安堵で倒れこんだだ。

 

 「腹・・・減っただ・・・。」


 そう呟き、あとは一言も、指先一つも動かねえだ。

 おらの村で起きたとんでもない凶事、それを受けて着の身着のままシャングリラの王城まで移動した。

 簡単では・・・無かっただよ。

 この国で獣人は立場が悪い、道中盗賊に何度も襲われただ。

 だども、あの娘が別れ際に渡してくれたカードのおかげで九死に一生、やっとの思いでここまで辿り着くことができたんだ。


 自分でもばかなことさしとると思う。

 あんなちょっとだけ、それもおらが助けただなんておこがましい。

 ほいでも、もしかしたらあの娘なら、「おらと村さ、救ってくれるかもしんね。」その淡い希望だけで、シャングリラの王城までやってきただ。

 でもそこで限界。

 おらは情けなくも、空腹で動けなくなってしまっただ。

 

 傷が無いのは救いだ・・・ウララのおかげだども、んでも身体や服に付いた汚れは隠せない。

 城門の前で蹲る汚い獣人・・・天使族至上主義のこの国からしたら、間違いなく汚物だべさ。

 おらの命運も尽きたと思ったその時、少し不機嫌そうな男の声と、可愛らしい子供の声が聞こえてきただ。


 「おい、そんな所で死ぬな。」


 「お腹が空いてるみたいですよ?」


 朦朧とした頭で見上げれば、やたら目つきの鋭い人族の青年と、兎耳をピコピコ動かす兎族の少年。

 なぜか二人揃ってお揃いのエプロン(花柄)をしているだ。

 兎族の少年が言った「お腹が空いている。」の言葉に、人族の青年が「む?」と反応して席をはずす。

 ほどなくして戻ってきた青年の手には、湯気を出す木製のお椀と、おむすびが二つ握られていただ。

 青年は無言でそれを差し出す。


 (くれるんだべか?)


 ノロノロとして動かない頭で思考する。

 

 (いや、もしかしたら目の前で落すのかも・・・。)


 そんな風に考えてしまうほど、この国の獣人迫害は深刻だべ。

 でも・・・隣にいる兎族の少年が、しきりに頷いてるとこ見たら・・・大丈夫なんだべか?

 青年はおらが倒れているから受け取れないとでも思ったか、少年にお椀とおむすびを預け、優しくおらを起こしてくれただ。


 「も・・・もふもふじゃないか・・・。」


 青年が何か呟いたが、今はそれどころじゃないべ。

 おらは兎族の少年からお椀とおむすびを受け取り、お椀を覗き驚く。


 (なんだべ、これ?)


 茶色っぽい液体の中に、人参や大根、たまねぎやゴボウなんかの根菜類、そして薄切りにされた豚肉が山盛りだ。

 こんなもの食ったことねえだ。

 泥水・・・?だども・・・薫る芳香はかぐわしく、食欲を・・・縮こまった胃袋をダイレクトに刺激する。

 ニコニコと頷く少年に後押しされ、おらはその野菜汁に息を吹きかけ、恐る恐る啜った。


 (う・・・うますぎるべー!?)


 生まれて初めて、食事にありついた時のような感動。

 汁に染み出した肉の旨味と、野菜の甘味が五臓六腑に染み渡る。

 おらは滂沱の涙を流しながら、野菜汁とおむすびを貪っただ。


 「兄ちゃんありがとな?おら・・・こんな美味い野菜汁食ったの初めてだよ!」


 人心地付いたおらがそう言うと、鋭い目つきで怖いと思った青年は、「そうか。」と短く・・・しかし破顔する。

 それを聞いた兎族の少年が、まるで自分が褒められたかのように、ひどく誇らし気に言うだ。

 

 「おじさん、それは野菜汁じゃなくてトン汁と言う料理なんです!セイ様の料理はおいしいでしょう!?」


 おらは「ああ、本当に美味かっただ。」と答えながら、ハタと気付いた。


 (セイ・・・?)


 道中あの娘から何度も聞いた名だべ。

 もしかして・・・あの娘の、ウララの幼馴染!?

 おらが確かめようと声を発する前、その懐かしい声が響いた。


 「ぐっさん!?なんでこんなとこに居るのよ!?」



 ■



 ウララの声に青年と少年は同時に反応する。


 「「ぐっさん!?」」


 慌てて駆け寄ってくるウララと、同じく慌てて右往左往する青年と少年。

 

 「ラビト!お湯と布を用意させて!セイ!ぐっさんを!」


 ラビトと呼ばれた少年が「はい!」と元気にお返事、城内へ駆け込んでいく。

 セイはおらを抱え上げ、同じく城内へ歩き出す。

 おら結構重いはずなんだども、まるで気にした素振りも無いだ。

 ウララはセイの横、おらの様子を見ながら歩き、いつのまにかあの力、『魔導書グリモア』を展開させていた。

 

 『大回復メジャーヒール


 ウララの涼やかな声と共に、おらの身体に広がる温かいぬくもり。

 いつかも感じたことのある、優しい魔法だ。


 「大丈夫だとは思うけど・・・一応安静にさせましょう。」


 「わかった。」


 そんな二人の会話を聞きつつ、おらの意識は暗転した。

 

 ほどなくして・・・。 


 「気が付いた?」


 おらを気遣う優しい声音に目が覚めると・・・そこにはウララとセイ、エルフの女性が一人と・・・。


 (まさか・・・!?)

 

 『裁く者』・・・いや、今は『裁断王』マルキスト様と言う、この国に住まう者なら知らないはずの無いビッグネーム。

 まぁ今おらに気安く話しかけてくれているウララも、もはや天上の存在・・・『正義の女神』様なんだども。

 混乱するおらに、セイとマルキスト様が揃って頭を下げる。


 「ぐっさん・・・ウララを助けてくれたんだってな?ありがとう。」


 「私からも感謝するよ。貴殿の助力が無ければ、我々がウララ様と出会えることも無かっただろう。」


 も・・・もったいないべ・・・。

 それにウララ・・・良かっただな?

 やっとこさ愛しいセイに会えたんだな。

 おら、ふいに涙が零れただよ。

 

 「ぐっさん!?まだどこか痛むの!」


 慌てたウララに手を振り、おらは言う。


 「いや、済まね・・・どこも痛くねえだ。ただ・・・ウララやっとセイさ会えたんだなと思って・・・ウララが心底ほ・・・。」


 「まったあああああああああ!!!ストップ!ストップよ!ぐっさん!」


 叫びおらを揺するウララ。

 頭がガクンガクンするだ!


 「ほ?ほってなんだ・・・?」


 「あんたは気にしなくて良いのよ!」


 「ウ、ウララ様!?相手は病人ですよ!?」


 (なんだか・・・カオスだべ・・・。)


 そう思いつつ、おらの意識は再度暗転した。



 ■



 今度はすぐに目覚めたべ。

 おらが目を覚ますとすぐに、「ごめんねぐっさん?」と目を伏せたウララが謝ってくる。

 それに「いいだ、いいだ。」と苦笑いしながら身を起こす。


 「それで・・・ぐっさんはどうしてここへ?」


 セイの問いかけにハッとする。


 「そうだ!おら、寝てる場合じゃなかっただよ!」


 慌てるおらを「落ち着いてぐっさん。」と、ウララが優しく宥める。

 少し落ち着いたおらは、現在の村の惨状を語り、なんとか助力してもらえないかと嘆願した。


 「そう言う訳で、おらたちの村・・・畑が害虫でえらいことなんだ!」


 そう・・・突如発生した体長50cmもあるイナゴの大群が、おらの村周辺を荒らしまわっている。

 このままじゃ皆飢え死にだべ。

 切実に訴えかけるおらに、ウララが何事か気付き問いかける。


 「ぐっさんの村の畑って・・・確か・・・。」

 

 そういえばウララには話したことあっただな。


 「んだ。米作ってるだ。他にも野菜は作ってるども、主は米だ。」


 「なんだとっ!?」


 その回答に過剰な反応を返したのはセイだった。

 突然大声で叫び、完全に目が据わっている。

 なんだべ・・・怖くないと思ったけど・・・やっぱりちょっと怖いべ。


 「ぐっさん、すぐに村へ行くぞ!カーシャ、『ゲート』を頼む!」


 「「え!?」」


 おらとカーシャって呼ばれたエルフの声がハモる。

 そんなおらたちを全く意に介せず、セイは一人闘志を燃やしていた。

 助けを求めるようにウララとマルキスト様を見れば・・・。


 「ウララ様・・・セイ殿は・・・?」


 「だめよマルキスト。ああなったら誰も・・・少なくともこの世界に居る人間じゃ止められないわ。」


 二人揃って遠くを見ている。

 訳もわからぬまま、突如ガシっと抱えられるおら。

 そのまま王城の庭まで連れて行かれ、村をイメージするようにカーシャさんに言われただ。

 カーシャさんが木で『ゲート』を作り出し、一瞬世界が暗転。

 気が付くとそこは、おらの村だった。

 うわー!相変わらずイナゴの群れが舞ってるべー!


 セイが走り出しながら『魔導書グリモア』を展開、ウララが使った事の無い言葉さ唱える。

 

 『砂漠の瞳を追われし者、血の涙を流す者、我と共に!』


 セイの右手さ握られた、金色の箱が輝き蓋が開く。

 おらの目には眩し過ぎる、まさしく金色の世界。

 光が収まれば・・・そこには青い髪、糸によって塞がれた目、病的な程白い肌の隻腕の男が現れていた。


 「マイロード、下命を・・・」


 「ジェスキス!『絶滅』だ!対象はイ・ナ・ゴ!!!」


 現われた男の口上を遮り、セイが叫ぶ。

 

 「わ!わかりました!『絶滅』!」


 少し戸惑いながら、それでも慌てて魔法を唱え始めるジェスキスと呼ばれた男。


 (ジェス・・・キス?・・・『絶滅』!?)


 20年前の大戦で名を馳せた英雄の登場に、おらの頭は真っ白だべ。

 直後・・・昏い波動が辺りを舐める。

 あんなにたくさん、それこそ絶望的に存在したイナゴの群れは、全て砂の塊に変わり消えていった。


 (な・・・なんだか、どえらい事になったべ!)


 金箱に帰っていく英雄と、やたらイイ笑顔のセイを見つめ、おらは身を竦ませた。

 一緒に来たカーシャさんもドン引きだべ。

 そこでセイの手元に舞い込んで来る一枚のカード。

 カードを確認し、セイは天に向けて吼えた。


 「腐れ『略奪者プランダー』が!ぶっ飛ばす!」


 それは今までの・・・少なくともウララが語ったセイの姿とはかけ離れていて・・・。

 ゆらぁりと振り向くその姿に戦慄すら感じるだ。


 「時にぐっさん・・・。」


 「な・・・何だべ?」


 (な・・・なんでそんな低い声出すだ!?)


 「おれは、お米が大好きだ。」


 「あ、うん。作ってる方からしたら嬉しいだよ?」


 そこでにっこり、握手を求めてくるセイ。


 「この村の余剰分は、す・べ・て・おれが買う。」


 その手を握り返しながら、告げられた言葉に声を失った。

 まぁほんとに余剰分だけ、しかも破格で買ってくれたんだども・・・。

 その迫力は半端じゃなかったとだけ言っとくだ。



 ■



 一方その頃・・・。

 『略奪者プランダー』ツツジの不思議な白い空間では・・・。


 「おわっ!?」


 突如驚愕の声を上げるツツジ。


 「急にどうしたのよツツジ・・・?」


 その声に驚き問いかけるホナミ。

 ツツジは珍しく何だかバツが悪そうに、ポリポリと頬を掻く。


 「・・・いやさぁ・・・。ハルの応援で、シャングリラの穀倉地帯に攻撃したじゃん?」


 ホナミと言えばその言葉に少し逡巡。

 

 「ああ・・・『イナゴの大群キングローカスト』?」


 思い当たり舌に乗せれば、「そうそう!」と頷くツツジ。


 「なんか・・・今、全滅した・・・。」


 「全・・・滅・・・?」


 それは異質な情報、そんなことができるカードじゃないんだが?

 そして更に・・・。


 「へふぅっ!?」


 尋常ではない殺気を感じて、変な声が口から飛び出たツツジ。

 ホナミはその様子を見て、今回ばかりは・・・そう思った。


 「ツツジ・・・兵糧攻めは見直しましょう?」


 「・・・うん。そうだね、俺が悪かった・・・。」


 よほどの恐怖だったのか、珍しく・・・本当に珍しくツツジは素直に頷いたのだった。

 




ここまでお読み頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。


※SSと言いながら下手したら本編より長いって言う。

ごめんなさい、作者のもふもふ魂が迸ってしまったのです。

次回は本編(他者視点ですが)に戻ります。

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