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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
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・番外編 ある少年のお兄ちゃん


 こんにちは、はじめまして。

 僕の名前はラビトって言います。

 獣人種兎族の子供、今はたぶん五歳だと思います。

 物心ついたときには『天空の聖域シャングリラ』の獣人種収監施設に居たので、実際の年齢やお父さんお母さんがどんな人かはわからないんです。

 五歳にしてはずいぶんしっかり話せるんだなって?

 あはは、良く言われます。

 答えは簡単です。

 そうしないとひどくぶたれたので・・・。

 あっ!心配しないで下さい。

 僕、今はとても幸せ・・・すごく優しくしてもらっています!

 それと言うのも、僕が流行り病で路地裏に倒れ、生死の境を彷徨っていたときに出会った女神様。

 異世界の魔導師、『正義ジャスティス』のウララ様のおかげなのです。

 普段はとても優しくって、そしてとんでもない美女なウララ様。

 でも決して弱々しい方ではありません。

 自分の信念に反することには全力で立ち向かい、その小さな身体からは想像も付かないような力で切り開く。

 そしてこの世界の主神、『カードの女神』アールカナディア様にも神認定された、すっごい方なんです。

 そんな彼女が・・・現在その秀麗な眦をキリキリと吊り上げ、激しく怒ってらっしゃいました・・・。

 ちょっと・・・ちびりそうです・・・。



 ■



 「だぁかぁらぁ!なんでラビトの苗字をアンタが決めるのよ!」


 「黙れ。兎族だからラビトなどと名付けた奴には任せられん。大体にしてお前は、今まで苗字に気付きもしなかっただろうが。」


 「うるっさいわね!ぶっとばすわよ!?」


 ウララ様が怒鳴りつけている相手。

 それはウララ様と同郷の魔導師、『悪魔デビル』のセイ様です。

 セイ様はその意志が強そうな藍色の瞳を、半眼にしてウララ様を睨みつけておられました。

 そこにはこの件で一歩も引かないという、確かな覚悟を感じられるように思います。

 僕はお二人の間をうろうろとするしかできません。

 そこにエエプロン姿で黒髪のエルフ様と、同様にエプロン姿の銀髪の天使様が割り込みます。


 「まぁまぁ、ウララさん。ここは主殿に・・・。」


 「そうよウララ様。セイさんなら間違いないわ?」


 『いにしえの語り部』サーデイン様と、『銀髪の天女』サラ様です。

 なぜかお二人にはウララ様の評価が低い。

 と言うより、セイ様の評価が高いんでしょうか?

 僕はラビトって名前気に入ってるんですが・・・。


 明らかに状況が不利と見えたのでしょう。

 ウララ様は悔しそうに、「くっ!」っと漏らすと、すごく良いことを思いついた、そんな顔をなさいました。


 「じゃんけんよ!勝った方がラビトの苗字を決めるのよ!」

 

 「ふん・・・良いだろう。おれに勝てる訳が無いことを思い知らせてやる!」


 正直僕には良くわかりません。

 なぜお二人が、こうも僕の苗字で争うのか。

 むしろ苗字なんて貴族様か王族様で無いと持たない、分不相応な物だと思うんです。


 「「じゃーんけーん!ぽん!」」


 ですが、そんな僕の気持ちは置き去りに、お二人は信じられない熱気を持ってじゃんけんを始められました。



 ■



 「ラビト・・・今日から君は、ラビト・クジョウだ。良いね?」


 「はい!セイ様、ありがとうございます!」


 床に手をついてがっくり項垂れるウララ様を尻目に、セイ様はとても良い笑顔で僕の頭とウサ耳を撫でてくれています。

 サーデイン様とサラ様も柔らかく微笑んでいます。

 

 「クジョウって言うのはおれの苗字だ。今日から君はおれの弟ってこと。」


 とても驚きましたが、つまりはそういうことらしいのです。

 お二人の側付きとしてこの国に居る間、余計なちょっかいが入らないようにとの配慮なんですって。

 迫害を受けやすい獣人種とは言え、さすがにおれの弟に手出しはしないだろ?とは、セイ様の言。

 恐れ多いことですー。


 「くぅ・・・そこまで考えて無かったわ・・・。」


 立ち直ったウララ様が悔しそうに呟かれました。

 そして再度セイ様を睨みつけると、人差し指を眼前に突きつけ叫びます。 


 「それはそうと・・・。早くカレーライスを作りなさいよ!」


 やっといつものウララ様に戻ったようです。

 突きつけられたその指を握り、ぱきっと痛めつけながらセイ様が苦笑します。


 「人様に指差さない。」


 「ぎゃー!セイのばかー!」


 涙目で指を押さえるウララ様の絶叫を華麗にスルー。

 セイ様はすぐに厨房へ向けて歩き出しました。

 そうです、セイ様はみんなの為に料理を作っている途中なのでした。

 ウララ様は心配ですが、僕もセイ様を追いかけます。


 「セイ様ー!僕も手伝いますー!」


 「よしラビト君、良い子だ。行くぞサーデイン、サラ。」


 にっこり笑顔のセイ様に、僕たちは続きます。

 そして僕は、この日初めて異世界の食べ物「カレーライス」を食べました。

 ずっと不貞腐れていたウララ様も、四杯目のおかわりをする頃にはすっかりご機嫌になっていたのです。

 あの身体でどこに入っていくのか不思議・・・。

 あ、僕も三杯おかわりしちゃいました。






いつもお読み下さりありがとうございます^^

活動報告に載せていたSSです。

現在執筆中のSSが書きあがったら、今日二回目の更新をするかもしれません。

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