・番外編 ある女子高生の大誤算
こんにちは。
私の名前は井上若菜。
高校一年生の16歳、至ってふっつーの女子高生だよ。
特徴は黒髪のおさげと丸眼鏡?
よく図書委員みたいって言われるw
容姿はそれなりに整ってる方だと思うけど・・・全く自信は無い。
明るさだけが武器って感じ。
だってねぇ・・・私の友達にパンチ力高すぎる娘が二人も・・・。
■
「あ、わかなちゃん!クッキー焼いてきたんだ。一緒に食べよう?」
そう言って私に声をかけるのは、九条美祈、私はみきちゃんって呼んでる。
天然の栗毛をショートにして、身長は低めで童顔なのに、すごく女らしい(・・・・)スタイルをした美少女。
満面の笑みで私を手招き、自作のクッキーを見せている。
最近彼女は、女子力が53万を越えてると判明した。
「みきちゃん、だいぶ伸びましたわね・・・こんなのどうかしら?」
そう言ってみきちゃんの少し伸びた髪を、ショートポニーにしながら高そうなリボンを巻いているのは、天京院飛鳥、私はあすかちゃんって呼んでる。
見事に豪奢な金髪を立て巻きカールにした、いかにもお嬢様然としたモデル体系の美少女。
因みにモノホンのお嬢様、天京院財閥の令嬢だよ。
ちょっと世間知らずな所はあるけど、すごく真っ直ぐで真面目な娘。
そんな二人が今、私の一番仲の良い友達。
三人とも同じクラスだよ。
「あら可愛い。」
そう言って笑うあすかちゃんに、「えー?そうかなー?」なんて言いながら頬を染めるみきちゃん。
うん、本当に可愛い。
だけど彼女は、自分をそんなに可愛くないと思ってるんだよね。
普通ならイヤミ?とか思うレベルだけど、なんでかはわからないけど・・・本気っぽい。
みきちゃんが可愛くないなら、全国の同年代女子のほとんどは可愛くないことになるけど?
その時、別グループの友達から声がかかった。
「わかなー?ちょっと来てー。」
私は二人に、「ちょっとごめん。なんかあったみたい。」と声をかけ、その場を後にした。
すぐに戻らないと・・・あのクッキーは私のもの。
「どうしたのー?」とクラスメートの女子の下へ。
彼女は呆れ顔で私に言う。
「わかなー、あんた大変なことになってるよ?」
「え?なにが?」
心当たりの無いわたしに、彼女が差し出したスマホ。
その画面には目線こそ入っているものの、どう見ても・・・みきちゃん、あすかちゃん、わたし!?
三人がお弁当を広げて談笑している一幕。
これって・・・バレンタインの時?
一部始終が終わって、暗転する画面。
その後、まるで映画のスタッフロールのような物が流れる。
某市立高校一年生の超美少女三人組
○条美祈・・・茶髪ショート、トランジスタグラマー(死語?)、性格控えめ、女子力53万。
天○院飛鳥・・・金髪ドリル、モデル体型、性格真面目、世間知らずな財閥令嬢。
○上若菜・・・黒髪おさげに丸眼鏡、体型可も無く不可も無く、性格明るい、図書委員。
(ちょっ!?えぇ!?)
個人情報ですよね?
しかも私の情報・・・体型可も無く不可も無く・・・図書委員でもないし!
「あんたさー、あの二人が無自覚で心配だって言ってたじゃん?」
うん、言った。
だから私、あの娘たちと仲良くなって守ってあげようと・・・。
「完全にミイラ取りがミイラだよね?w・・・知ってる?あんたたち、アイドルになってるよ?」
「えええええええ!?」
■
放課後・・・。
校舎を出るとそこには人だかりができていた。
「なんだか今日は・・・ずいぶん人が多いね?」
「なにかあったのかしら?まぁ、みきちゃん、ワタクシたちには関係の無い事ですわ。」
「そうだね。」
そんな会話を交わす二人。
この娘たちの無自覚さには、ほとほと絶句するしかないよ・・・。
見ればわかるでしょ?
みんな、あなたたちを注目してるよね。
いや・・・これは盛大な自爆。
ええ、その中に私も含まれてますよね。
どうしてこうなった。
人垣がモーセの十戒よろしく真っ二つに割れ、その間を三人の男性が歩いてくる。
大学生くらいかな?
ピンクの鉢巻、ピンクのハッピ、黒ぶち眼鏡がキラリと光る。
ハッピには大きく三つのアルファベット「MAW」。
三人の男性はこちらをしっかりと認識し、真っ直ぐ向かってきた。
私は慌てて視線を逸らし、他の二人は頭にクエスチョンマークをいくつも浮かべている。
真ん中の男性が一歩前に出て、突然大きな声で語り始めた。
「我々は『MAW』親衛隊!会員ナンバー1,2,3号です!因みに某が1番で親衛隊長です!今日もお三方は素晴らしい美少女っぷりですね!」
「「はい?」」
みきちゃんとあすかちゃんの声が重なる。
私は絶句です。
ええ、彼らの姿を見たときにいやな予感はしたんですよ、チクショウ。
「あ、あの『MAW』って何ですか?」
みきちゃんイケナイ!まともに取り合ってはだめなのよ!
問われた男性は至極驚いた、でもそこはかとなく誇らしさを秘めたような不思議な表情で、横の二人と顔を見合わせる。
もういや・・・いやな予感しかしないよ!
「これは失礼しました!今からご説明致します・・・親衛隊ィィィィィ!!!」
「「「「はいっ!!!」」」」
男性の叫びに合わせて、ピンクの鉢巻にハッピ姿の連中が人垣から駆け寄ってくる。
「「ヒッ!」」と乾いた悲鳴を上げるみきちゃんとあすかちゃん。
うん、普通に怖いですよねー。
私?私は黄昏てますがなにか?
親衛隊と呼ばれた男達の中から三人、私たちに向かって同時に背を向ける。
その背中には「M」「A」「W」が一文字ずつ。
「まずは「M」!みきちゃん!」
そう言って背中の「M」とみきちゃんを指し示す親衛隊長。
そして親衛隊と呼ばれた連中が一斉に・・・「みきちゃーん!」と野太い声援を上げる。
「次に「A」!アスカ様!」
次は「A」とあすかちゃん。
もちろん「アスカ様ー!」の絶叫付き。
あすかちゃんの場合は女性の声も混じっているのはなんなのか・・・そしてあすかちゃんは様なんですね。
「最後に「W」!」
わかってますよ!
どうせ若菜のWなんですよね!
でも私の予想は、斜め上の発言で吹き飛ぶことになる。
「わかにゃーん!」
「「「「わかにゃーん!!!」」」」
「「「にゃん!?」」」
なにゆえ!?
自信満々絶叫する男達と、破壊力抜群の発言に声を上ずらせる私たち三人。
それを知ってか知らずか、男達は人文字で「MAW」を作っていた。
「我ら!「MAW」親衛隊!まうまうー!」
ここに女子高生アイドルグループ「MAW」が爆誕した。
「私は認めないいいいいいいいいいいいい!!!」
若菜・・・心の叫び。
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