・第十六話 『神官王』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈はそろそろ帰宅した頃だろうか?
兄貴の帰宅は、まだしばらくかかりそうだ。
こっちの世界に少しヤボ用ができてしまったけど、多少の寄り道、美祈なら許してくれるよな?
無事に帰宅したら、また美祈の作ったクッキーでも食べながら、コーヒーが飲みたいな。
・・・待てよ?これはフラグか!?
■
おれはアフィナと共にゆっくりと、謁見の間に足を踏み入れる。
「『風の乙女』アフィナと・・・そちらの少年は何者かな?」
謁見の間に入ったところで、奥から穏やかな声がかかった。
ストレートの長い白髪に若木で出来た冠を被り、厳かな雰囲気の緑の神官服を着て、木の枝を携え玉座にゆったりと座る、緑色の瞳のエルフ男性。
おれの記憶と寸分違わぬ、『神官王』クリフォードの姿だった。
そこは玉座の間と思えるが、少々一般的な様相と違う。
中央に、とても人族が座るとは思えない巨大な玉座があり、その左右に小さめの玉座が一つずつ。
『神官王』クリフォードが座っているのは、向かって左側の玉座だった。
彼の脇には、数人の妖精族が控えている。
老年に見えるエルフ、二人の羽根妖精、重鎧を着たドワーフと、ハープを持った妙齢の女性だ。
(おそらくあの老エルフが、アフィナの祖父なんだろう。)
カードゲームの『リ・アルカナ』に登場してなかったことを考えると、思ったより小物なんじゃないか?
この考え方は危険かもしれないが・・・
その苦虫を百匹同時に噛み潰したような顔をする老エルフと、二人の羽根妖精、鎧ドワーフに見覚えは無い。
おれが知ってる『リ・アルカナ』だと、所謂ネームレベル、固有名詞を冠しているのは『神官王』クリフォードと、ハープを持った女性『歌姫』セリシアだけだ。
どちらも攻撃職じゃないことを考え、おれも少しだけ緊張を解く。
しかし王の間にしては警備が貧相だな。
まぁ油断は禁物だが。
てっきりアフィナの祖父にくっついていると思われた、謎の『占い師』の存在も見えないしな。
「・・・アフィナ、貴様・・・どこまでわしの顔に泥を塗る・・・。」
老エルフの、歯軋りまで聞こえそうな怒りの言葉に、アフィナがビクリと身を竦ませる。
おれはアフィナをかばうように前に立つ。
老エルフを手で制し、『神官王』クリフォードが再度尋ねてくる。
「この状況は、君たちが行ったことかね?・・・君とは以前どこかで会ったかな?」
訝しげな表情を浮かべたクリフォードに、おれは答える。
「いいや、初対面だ『神官王』。おれは九条聖、異世界から召喚された魔導師だ。」
「なるほど、異世界の魔導師殿か・・・私は『神官王』クリフォード。どうやら君は、私のことを良く知っているようだが・・・」
魔導師って名乗っても良いよな?やってることは完全に暗殺者っぽいけど・・・
おれの自己紹介を聞いた羽根妖精二人が、「ひじきー?」「かじきーだよー」とか言ってる。
ひじきは惜しい、あと一文字だ。
しかしなにゆえかじき・・・一本釣りされた覚えは無い。
アフィナのしじみと言い、なぜおれを海産物にしたがる?
「・・・ふむ。」と頷くクリフォードに、おれは「セイで良い。」と言ってから、現状とおれがここに来た訳を説明する。
話の内容に、一様に驚くクリフォードとその側近たち。
その時だった。
「王よ!しょせん忌み子の連れてきた輩です。騙されてはいけません!」
今までどこに隠れていたのか、見るからに怪しい紫のローブを頭から被った人物が、玉座の陰から現れる。
なるほど、こいつが『占い師』か。
(あまりにも怪しすぎるだろう・・・お前ら、何考えてんだ?)
クリフォードとその側近たちの、考えの無さに眩暈がしてくる。
まぁ、ある意味予想通りだ。
「魔導書」
おれは即座に『魔導書』を展開する。
突然おれの周りに産まれた五枚のカードに、慌てて身構える大臣や鎧ドワーフ。
「ほら、正体を現しましたぞ!」とか叫んでる、紫ローブは無視しよう。
おれには考えがある。
いきなり国のトップに、自分の存在を認めさせようと思ってるんだ、当然そのくらいの備えはしているさ。
灰色のカードを一枚タップして、星型の紋章三つに変える。
おれの動きを邪魔しようとでも言うのか、紫ローブが怪しい光弾を手から撃ちだしてきたが、それをハープから流れ出た、目に見える音符がかき消した。
「セリシア殿、なにを!」
「少し黙りなさい、彼に敵意は感じられません。」
紫ローブの妨害を阻止した『歌姫』は、おれの方に一度頷く。
おーけー、期待に応えようじゃないか。
おれは光りだした二枚の(・・・)カードを選択し、召喚の理を紡ぐ。
『言葉の精霊統べる者、古の物語受け継ぐ者、我と共に!』
謁見の間が、金箱から漏れ出した光で金色に染まる。
クリフォードや側近たちは、額に手をかざし目をかばっている
羽根妖精が「目が、目がーーー」と、言いながらくるくる回っている。
おい、なぜそのネタを知っている・・・
光が収まって現れた人物を見て、おれ以外の謁見の間に居たメンバーが、ことごとく言葉を失う。
おれは現れた人物に、後ろ手でカードを一枚渡し一歩下がる。
「主殿も、なかなか人が悪い。兄上・・・久しぶりだね。」
そんなことを言いながら現れたその人物は、黒髪に緑の瞳、黒い神官服を着て、聖書のような分厚い本を脇に抱えたエルフ族の男性。
おれが召喚した男は、『古の語り部』サーデイン・L・フローリア。
『リ・アルカナ』の設定が、この世界で通用するなら・・・50年以上前、『暗黒都市グランバード』に亡命した、『神官王』クリフォード・R・フローリアの実弟、つまり『精霊王国フローリア』の王弟に当たるはずの男である。
衝撃からいち早く立ち直ったのは、クリフォードだ。
さすがは王だな。
「サーデイン・・・本物なのか?生きていてくれたのか!」
思わず玉座から立ち上がり、おれたちの方へ駆け寄ろうとしたクリフォードを、サーデインは優しく手で制しふるふると首を振る。
「兄上、残念ながら私は20年前のあの時死んだよ、今は主殿、『悪魔』のセイ様の従者として、この場に姿を現しただけにすぎないよ。」
おいいい、サーデインさん何言っちゃってるのー?
察しが良いのは良いけど、『悪魔』とか従者とかは、言わない方が良いと思うんです、ハイ。
ほらー、謁見の間がなんか風吹いてますよー?
それはともかく、予想通り二人は兄弟なんだ、話を進めないと・・・。
「なるほど、『略奪者』か・・・。」
目を瞑り、サーデインの語る言葉を黙って聴いていたクリフォードが、ほぅっと息を漏らす。
側近たちの表情は、半信半疑って感じか。
だがそれはいい、要はクリフォードが信じてくれれば、おれの目的は果たされる。
「『神官王』、おれの事情と目的は理解してくれたか?」
「本音を言えば、にわかには信じがたい。だが君の言うことも、私の弟サーデインが言っていることも、とても嘘には思えない・・・。」
そう言って、黙考に戻ってしまうクリフォード。
それを見ながら苦笑するサーデインが、
「兄上は相変わらずだね。考えを巡らすよりも、目の前の現実を認めなよ。」
と、少し呆れ気味に促す。
「・・・そうは言ってもだなサーデイン、これは・・・この世界の危機なのだろう?簡単に何かを決めるわけには・・・」
答えるクリフォードも苦笑混じりなとこを見ると、何度も繰り返されたようなやり取りなんだろうな。
そんなクリフォードにセリシアがゆっくり近づくと、「クリフ様、神に・・・」と呟く。
その言葉にクリフォードは一度大きく頷くと、
「そうだな、『悪魔』のセイよ、我が国の神『自由神』セリーヌ様にも話したい。構わないか?」
と、聞いてくる。
「・・・『生贄』が無いなら良いぞ。」
おれが老エルフを睨みつけながら答えると、大臣はばつが悪そうに視線をずらす。
一応、自分の孫を生贄にしようとしたことに後ろめたさはあるのか?
アフィナが、おれの法衣の裾をぎゅっと握った感覚があった。
まぁ、この国の神様呼ぶのにおれの許可はいらないと思うが、それが王なりの誠意ってことかね。
しかし・・・『悪魔』の二つ名が、この世界でも広まったらどうしよう・・・。
「安心してくれ、『自由神』セリーヌ様を呼ぶのに生贄は要らぬ。私の祈りと、セリシアのハープがあればだがね。」
ふむ、それはカードゲームには無かった設定だな。
なんにせよ生贄が無いのなら構わん。
おれの答えを聞いたセリシアがハープを奏で始め、クリフォードが木の枝に力を集め、目の前へと浮かべる。
二つの小さな玉座の間にある、大きな玉座の上へ力が収束していく。
その時だった。
おれの予想通り、意図的にか空気と化していた紫ローブが動いた。
いつのまに詠唱していたのか、何本もの魔力の槍を中空へ生み出す。
そしてその槍をおれたちも含め、謁見の間に居る全員に撃ちだした。
息を飲み、驚愕と絶望の表情を浮かべる者たちの中で、欠片も焦っていない者は二人。
おれとサーデインだ。
サーデインは、紫ローブと謁見の間に居るメンバーの間に、何でも無いことのように移動すると、
おれが事前に(・・・)渡していた魔法を発動する。
「『制約』、禁ずるは攻撃魔法。」
サーデインが唱えた魔法の発動とともに、緑色の波紋が謁見の間に広がり、紫ローブが生み出した魔力の槍は虚空へと消える。
サーデインが使った魔法は、彼の専属呪文である『制約』。
一定のエリア内で、彼が禁じた一種類の事象を打ち消す魔法だ。
この魔法、くせが強すぎて使い方が難しい。
なぜなら一度発動すると、一定のエリア内でかなりの時間、一つの事象を阻害するからだ。
そう、該当する事象なら敵も味方も関係なく。
だが、今回は僥倖だった。
目に見えてうろたえる紫ローブに、おれは残酷に告げる。
「正体を現したのはそっちだったな?もうこの空間で攻撃魔法は使えないぞ?」
お前みたいな怪しい奴、ほっとく訳無いだろう?
さぁ、異端審問でも始めようか?
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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