・第百六十二話 『姉弟』
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この国の王女も、そして元国王である宰相も、おれたちの言葉を全て信じた。
刷り込み?のおかげか、おれに全幅の信頼を寄せるリューネは元より、未だ30台くらいにしか見えない彼女の父親、『深海王国』ヴェリオンの宰相サビール・T・ヴェリオンも同様に。
現在30台の父に八歳の娘、これは良い。
しかし前情報、リューネと初めて会った時に聞いた話が少々引っかかる。
リューネの母がサビールに嫁いだのが、12歳の時と言っていたような・・・。
その上リューネの兄である皇太子が20代だったはず。
どうやっても色々な計算が合わない。
なにがどうしてそうなった?
いや、深追いはやめるべきだ。
中世ヨーロッパとかに近い雰囲気のこの世界、『地球』の常識と差異があって当たり前。
それが王族や貴族ともなれば尚更だろう。
警鐘を鳴らす内心を押し殺し、その手を取ってしっかり握った。
竜兵もおれに習う。
益体も無いことを考えてしまったのには理由がある。
気を利かせたローレンが、帰り際に情報を集めていたからだ。
街ではマドカが魔法カードを使う所を、何度も目撃されていたらしい。
そしておれたちの行動も。
(全然気付かなかったな・・・。)
民意は今のところ落ち着いているらしいが・・・。
この国が受けた惨状を思えば、いくら他国の王からの紹介とは言え、襲撃者である『略奪者』と似たようなことをしていたおれたちを、内情を知らぬ民衆やサビール氏が受け入れられるのか。
しかし・・・おれたちが受けたのは予期せぬ歓待。
目の端に少々涙を滲ませながら、「良く来てくださった。」とおれや竜兵に握手を求めるサビール氏に戸惑うばかりだった。
多少なり緩和されている予想はあった。
そこに至るまで、リューネは言わずもがな、この国の貴族であるローレンやオーゾルの口添えがあったことは言うまでも無い。
一番の要因は『平穏の神』オーディアの後押しかとも思ったが、どうやらそれは違ったようで・・・。
サビール氏が何よりも全幅の信頼を置いたのは、おれの盟友『水の戦乙女』ヴィリスの存在だった。
「思い出しますな・・・ヴィリス様・・・姉上と最後にお話したのは20年以上前でしたか・・・。」
「その節は・・・不甲斐ない己を許してください・・・サビール。」
懐かしそうに目を細め、ヴィリスを姉上と呼んだサビール氏は、なんと・・・ヴィリスの実弟だった。
(つまりリューネはヴィリスの姪ってことか?)
確かに暴走癖はどこか通じるものがあったりするが・・・。
深くは語らず、お互い目線で言葉を交わす姉弟には、きっと数多の出来事があったのだろう。
その思い出の中にはたぶん、リューネの母親や兄のことも・・・。
意外と狭い世界、あちこちに広がる繋がりに驚く。
二人の気持ちを何となく慮りながら、おれは現在の状況を振り返る。
オーディアの神殿内で行われている会議。
噴水を中心にした円形の広間へ、大きな机とイスを持ち込み各陣営が揃い踏む。
まずは転移者組、おれと竜兵。
そして互いの盟友であるイアネメリラとヴィリスに、人化したバイアとアリアムエイダ。
ヴェリオンからは守護神であるオーディアを筆頭、女王リューネと宰相サビール氏、それにローレンとオーゾル。
「ドラゴンホットライン」越し、クリフォードやウララ、更にはマルキストまで加わって、一種異様とも言える面々が集い、情報のすり合わせ、今後の方針などを語らう。
その空気、おれたち転移者側に多少影あれど、少なくとも異世界組はかなり明るい。
まずは互いの無事を喜び・・・話は三国同盟もかくやと言う所まで盛り上がっていた。
情報も出尽くした頃。
なんとなく皆押し黙り、会話の波が途切れる。
(頃合か・・・。)
本来はサーデインにでも丸投げしたい所なんだが・・・残念、今は彼を引けていない。
つまりはそういうこと、ここはおれがやらなきゃいけないってことだ。
まぁ見落としがあったとしても、思慮深いクリフォードやマルキスト、それにバイアやアリアムエイダまで居るならなんとかなるだろう。
(いや・・・真摯に向き合うべきだな。)
そんな甘い考えに、「ゾンビ」の異様さに気付けなかったことを思い出し、腑抜ける気持ちを戒める。
おれは一つ嘆息し、卓に着く面々を見回す。
全員が注目したのを確認し、まとめに入ることを決めた。
「皆、お互いの状況はわかったと思う。一度整理して今後の方針を決めよう。」
黙って頷く彼らを見つめ、『図書館』から紙とペンを取り出した。
■
「この国の復興と守護は・・・どうにかなるんだな?」
おれの問いかけに頷くヴェリオンの守護神。
「女王たる人魚二人による神歌の影響で、今この地は限りなく神域に近いのです。私も力をセーブしながらであれば、かなり長期間 滞在できるでしょう。」
「私とオーゾルも一時帰国、復興に従事しよう。」
次いでローレンも声をあげ、オーゾルもそれに習う。
本来なら対外専門の彼らだが、その能力は総じて優秀、ちょっと・・・いやだいぶ変態だが問題無いか?
不安は残るが銀板越し、「我が国も最大限支援するつもりだ。」とクリフォード。
マルキストもそれに続くと明言・・・竜兵が新たに銀板を作って「ドラゴンホットライン」も置いていくようだし、三国同盟はほぼ確定。
(なんとかなるか。)
おれは一先ず、そう結論付ける。
戦闘は別として、政治や国営のことになると、おれたちができることは少ない。
「次は・・・おれたちのこと、三つあるがな。」
「アニキ、『回帰』のことと、あきやんのこと、それとマドカがカードに変わったことだね。」
竜兵の言葉に首肯を返す。
「『回帰』は何とか奪い返すしかないわね・・・まぁオーディアが、「破壊される心配は無い。」って言ったのが救いかしら?」
ウララの存外に明るい声に、鬱屈した気分が少し救われる。
あの時ハルの脅し、「割るで?」に屈したおれたちだが、その後オーディアに聞けば、そう簡単に破壊できる封印ではなかったらしい。
悔やまれるが知らなかった情報だ・・・タイミングが悪すぎた。
「あぁ・・・あと、セリーヌには情報の周知を徹底させてくれ。」
おれの苦々しい呟きに、「わかりました。向こうで会ったら必ず伝えます。」と返すオーディアは、きっと真面目な神様なんだろう。
当初自分が封印などしたせいだと、ひどく恐縮していたものだ。
まぁ今回の行き違いはうっかりセリーヌのせいだ。
あいつ神様のくせに・・・友好的な同僚?にも言ってないとか、副将軍のお供な食いしん坊かと・・・。
沸々こみ上げる怒りでセリーヌにオーラを送っていると、銀板から「セ、セイ!?我が国の守護神様だからな!?」と、慌てたクリフォードの声が響いてきたので思考を止める。
「秋広は・・・どうしたら良いと思う?」
情けないがあいつに関してどうして良いかわからない。
今どこにいるかも、何を考えているかもさっぱりだ。
だが早急に見つけなければいけないことはわかる。
半ば投げやり、されど切実な思いで相談するおれに、答えたのはウララだった。
「セイ?アタシ今回思ったことがあるのよ。」
一言前置き、「ああ。」と相槌で促せば・・・。
「『略奪者』と帝国がつるんでるのは間違いないわ。そして『略奪者』が居る限り、あたしたちはずっと後手に回る。だから帝国は即、完膚なきまでに潰さなきゃいけない。これは確定よ?」
ウララの中では確定らしい。
まぁ、案の定ウララが守るフローリアに攻めてきたらしいからな。
彼女の敵認定には十分すぎる理由だ。
(しかし秋広の話と帝国にどんな関連が?)
おれが疑問に思うこと、ウララも承知の上らしい。
「だからこそ、あっきーを捕まえなくちゃいけないわ。いいセイ?あたしたちは今三人。たった三人しか居ないのよ?あっきーが増えても四人って思うでしょうけど、残念なことにあいつは・・・あたしたちの中で一番頭がいいわ。」
つまりそういうことか。
帝国を潰すためにはどうあっても秋広の力が必要だと、そうウララは感じた訳だ。
竜兵もしきりに頷いているし、ウララの言に異論は無いようだ。
おれは、「わかった、秋広を優先しよう。」と賛同する。
「・・・次は、マドカがカードになった件だな。」
「アニキ・・・おいらたちも?」
竜兵の言いたいことはわかる。
だけどこれも、考えても答えが出るもんじゃないんだよな。
試しに殺されてみる訳にもいかねーし・・・。
しかし彼女はブレない、引かない。
ウララは「ま、可能性はあるわね。」と言った後、「要はやられなきゃ良いんでしょ?」と笑う。
男前過ぎるウララの反応に、悩むことがばからしくなったのか竜兵も笑った。
「或いは・・・。」
そこで今まで黙していたバイアが呟き、視線が集まる。
「『真賢者』ガウジ・エオなら・・・何か知っておるかものぅ・・・。」
「ガウジ・エオか・・・。」
それは不確かな推測。
バイアですら知らないことを、彼の半分しか生きていない(と言っても一万年らしいが)人物なら知っているかもしれないと言う。
その心は・・・。
「わしゃ二万年生きたと言っても、所詮ドラゴンの長老じゃからのぅ。しかし・・・何でもガウジ・エオは、『古の図書館』に八千年篭っていたと聞く。そこにはこの世界創生から、全ての記録が残っておるらしい。」
「賭ける価値は・・・あるか。」
正解かはわからないが、バイアが一目置く相手ならもしかしたら、と言う予感はある。
「バイア、ガウジ・エオに会った事は?もしかして居場所のアテがあるのか?」
「うむ・・・わしが彼と会ったのは『氷の大陸』メスティアじゃ・・・。」
(メス・・・ティア・・・?)
頭の痛い幼馴染の行方と、助言を求めたい相手の居場所がなぜか符合した。
まるで仕組まれたように出てくる情報に、背中がゾワリとする。
この状況・・・本当ならアルカ様にも顕現して欲しかった所だ、そう切に思う。
おれの想起した内容に察しがついたのか、オーディアはやんわりと首を振る。
「アルカ様は・・・顕現の条件が揃いませんでした。それと・・・戦の神や狂気の神、所謂武闘派の神々を牽制されておられます。」
顕現の条件はなんだったか・・・。
確か・・・神、神域、加護だっけか?
加護の派生が無いからだめなんだろうな。
なかなか難儀なもんだ。
そこまで考え、ふと思い当たる。
それはこの国で敵対者を倒す度、回収してきたカード。
カードが輪廻に戻れば彼女は力を取り戻す。
今おれたちができる唯一の支援かもしれない。
「リューネ、この国の犠牲者を輪廻に帰して良いか?」
問いかければハッとした表情、すぐに「是非お願いします!」の後押しを受け、おれは竜兵と共に回収していたカードを解き放つ。
カードは光の粒子を放ちながら、神殿を飛び出し消えていった。
それにしても『戦神』オーギュントと『狂気の女神』アギマイラか。
帝国の守護神であるオーギュントはまだしも、おれの使役する盟友たちとも縁深いアギマイラまで不穏な動き?
脱線し主神な幼女や、各国の神へと思いを馳せることしばし。
漠然とした不安ばかり募るが、期せずして行き先は決まっていた。
「アニキ・・・。」と呟く竜兵に、おれは静かに答える。
「竜兵、次は『氷の大陸』メスティアだ。」
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