表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
168/266

・第百六十一話 『事後』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


 異世界からこんばんは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、今回のことで良くわかった。

 兄貴にはまだまだ覚悟が足りない。

 そして注意力と学習能力も。

 さすがにショックが大きすぎる。

 思わずヴィリスばりのネガティブゾーンに突入しそうだ。

 いや・・・自分のことを魚類だ、ウミウシだと言ったりはしないが・・・。

 それでもなぁ・・・帝国とやり合った時も、シャングリラ、リーンドルでもそうだった。

 なんと言うか、ツメが甘い。

 最終的には勢いな所があったとは言え、十分な対策をして挑んだはずの今回も、終わってみれば主犯のマドカをあっさりと殺され、その上ハルには逃げられた。

 しかも『回帰』のパーツまで、おみやげに付けてだ。

 そしてマドカがカードに変わったことも、重く頭に圧し掛かる。

 はぁ・・・悔やんでも仕方ないとは言え、これはちょっと落ち込むな。



 ■



 (くそっ!おれは何度・・・同じ事を繰り返す!?)


 油断する間など無かったはずだ。

 それでも「片時も気を抜かなかったか?」そう問いかけられれば・・・。

 答えは否。

 マドカの言葉を聞き、手ごたえを感じた直後の襲撃。

 まさに奴らの常套手段・・・何度も陥ってきた悔恨の時だ。

 

 おれや仲間たちが気を抜いた瞬間、やっと目の前に降りた手がかりも、手にしていた希望もいともあっさり掌から零れ落ちた。

 落ち込むおれよりも先に、仲間たちが動き出していた。


 「主様申し訳ありません・・・捕捉できませんでした。」


 「殿下、先ほどの輩、すでに海にはおりません。」


 影から現われたフェアラートが、水路から情報を得ていたヴィリスが、口々に報告をくれる。

 その報告から思うことは一つ。


 (だろうな・・・。)


 ハルがさっき使ったのは『レイベース帝国』の魔道具『帰還の氷』。

 おそらくハルは、すでに帝国の地を踏んでいるだろう。

 あの効果を見るのは今日で二度目、実際に見てなくとも聞いたことがあるのを含めると三度目だ。

 一度目はロカさんに追い詰められた帝国の偵察兵が、二度目はキルアと自身を逃がすためにツツジが・・・。

 そう、ツツジが使っていたにも関わらず、その存在を意識の外へ置いてしまった。

 明らかなおれのミス。


 そしてマドカの身に起きた現象。

 「死んだ者がカードに変わる?そんな世界はありえない!」そう叫んだマドカ本人が、おれの目の前でカードに変わった。

 これは一体なんなんだ?

 あいつは『デス』のマドカ。

 おれと同じく『地球』から転移してきた異世界の人間。

 そこに疑う余地など無い。

 事実本人もそう言っていたし、おれの記憶通りの姿だった。

 そして・・・その現象を予め知っていたかのように、迷わずカードを掴んで去っていったハル。


 (訳が・・・わからない!)


 堂々巡りな思考、思わず神殿の床を殴りつける。

 ガッ!と音を立て、しかし傷つくことも無い石畳。


 「セイ・・・。」


 「セイさん・・・。」


 今までずっと大人しかったアフィナとシルキーが、気遣わし気におれの側へ来る。

 いかんな・・・守るべき相手にまで気を遣わせている。 


 「セイ・・・ヴィリス様の結界は・・・?」


 未だ張り続けられる転移封じ、海魔法の結界の気配にアフィナは訝しむ。

 現に先ほどマドカが、転移できないことを自己申告していたからなおさらだ。

 そう・・・そこからすでにおれは、奴らの後手に回っていた。

 

 「ヴィリスの張った結界ってのは、能力アビリティ特技スキルを防ぐ物だった。『帰還の氷』は魔道具・・・『ミステリア道具グッズ』だからな。」


 端的に語った言葉、それが意味する事実に二人はハッと息を飲む。

 「殿下・・・。」と言いかけたヴィリスを、「お前のせいじゃない。」と断言し二の句を告がせない。

 そりゃそうだ・・・ヴィリスが気に病む必要など無い。

 これはおれのミスなんだから。

 しかし、彼女の表情も暗い。

 むしろネガティブモードに入っていないのが不思議なくらいだ。

 何かに思い当たったアフィナがポツリと呟く。 


 「もしかして・・・『妨害チャフ』の効果が続いてたら・・・。」


 そうだな・・・『帰還の氷』は使えなかっただろう。

 おれたちは敵の手助けをしてしまった道化とも言える。

 しかし・・・。


 「結果論だ。・・・竜兵には言うなよ?」


 おれは全員を見回し言い含める。

 全くその気が無かったにせよ、己の行いが敵の逃亡を助けたと知って、気の良い弟分が責任を感じないはずがない。

 事情を知らないオーディアとリューネは別として、他の面々はあの屈託無く笑う竜兵の顔を思い出したんだろう。

 皆神妙な顔つきでしっかりと頷いた。


 「とりあえず・・・聞きたいことはたくさんある。良いな?」


 「勿論です。貴方の望むままに・・・。」


 改めて正対し、搾り出すように告げれば、オーディアは神々しくも儚な気な微笑をたたえ、静かに答えた。



 ■



 半日が過ぎ・・・。

 オーディアと情報交換を行いながら、事後処理に勤しんだ。

 マドカが倒れたからか、はたまたオーディアが張り巡らせた結界からか、街はすっかり元の様相・・・美しい古都の風情を取り戻す。

 もちろん破壊の跡は生々しく残っているが・・・。

 それでもオーディアがしばらく顕現し続けられると言うことで、多少なりか復興は進むだろう。


 それと・・・思いの外、生存者が多かった。

 オーディアの『加護』の下、再度歌われたリューネの浄化の歌に反応し、各家の地下室から・・・或いは水路に隠された避難路から、続々と住人たちが姿を見せる。

 彼、彼女らの話を聞くに、この国が襲われていると聞いた直後が、襲撃のピークだったようで・・・どうもおれたちが『鈴音の街』リーンドルで、マドカやホナミと闘った後、ゾンビたちの動きが変わったらしい。

 それまでは動く物、それこそ目に付く物全てに襲い掛かってきたそうだが、一時を境にまるで生者のように振る舞いだし、住人たちを襲わなくなったとのこと。

 おれたちを騙す演技のためだったのか、それともマドカが最後に見せた一片の迷いのせいだったのか。

 今となっては確かめようも無い。

 わかった所で何の意味も無いことだが・・・それでもおれは・・・あいつが悩んでいたと思いたい。


 それから一つの朗報。

 リューネの兄である人族の王子はだめだったが、父親・・・つまりは国王が生きていた。

 母親はこの件の前に無くなっていて、すでにリューネに王位を譲っていて、今は宰相の地位に居たらしい。

 少なくともこんな悲しいできごとを、未だ八歳の少女に丸投げしなくて済みそうだ。

 抱き合い涙する父娘を見つめ心から安堵した。


 それから数刻。

 王城にて案内された豪華すぎる客間で休憩。

 すでにカオスとフェアラートは『魔導書グリモア』に帰した。

 素直なフェアラートと違い、常にブレないカオスとは当然、一悶着どころか二・・・三悶着ほどあった訳だが。

 頼む・・・そっとしておいて欲しい。

 むしろ傍目にも落ち込んでいるはずのおれにセクハラとか・・・ある意味では感心する。

 ん?ああ・・・イアネメリラさんがぶっとばしたぞ?

 半殺し・・・じゃないな・・・八割殺しくらいだった。 


 ヴィリスはおれの指示の下、リューネやその父親に付き添い雑務に追われ、イアネメリラはおれから片時も離れようとしない。

 アフィナとシルキーもかなりお疲れ。

 今はベッドの上、二人静かに寝息を立てている。


 静かなそしてどこか物悲しい空気が、突如響いたけたたましい足音に破られる。

 ズダダダダダッ!

 ビクリと肩を震わせ、起きかけた二人の美少女は、続く叫びを聞いて安堵したかのように眠りに落ちた。

 それは聞きなれた懐かしい叫び。


 「アニキーーーー!!」


 竜兵が合流、相当な無茶をして移動してきたらしい。

 到着直後、『海龍』アリアムエイダ・・・神に次ぐ力持つと言われ、船乗りの守り神として奉られる彼女が、如何に分体とは言え人型のまま、しどけない姿でソファーに崩れ落ちたのを見れば、押して知るべきと言える。

 竜兵もこちらに着いた時、魔力はすっからかん。

 いつもにこやかなバイアですら、少々引きつった笑みになっていたくらいだ。

 竜兵・・・一体何をした?

 まぁ異世界でずいぶんと頼れる弟分に成長した彼も、その根底に「アニキ大好きっ子」があるからなぁ・・・。

 作戦とは言え二手に別れ、かつ明らかにこちらが大変そうだったんだ。

 きっとその小さな身体で必要以上、全開のハッスルをしたのだろう。


 竜兵が落ち着くのを待って、お互いに銀板を操作。

 「ドラゴンホットライン」で呼び出すのはウララとクリフォードだ。

 事後処理に移る前、最低限の連絡は入れていたが、二度手間になるし絶対長くなる。

 そう判断したおれは、竜兵が合流後ゆっくり話すことを確約し、渋る二人を納得させた。

 疲れていたのもある。

 

 「・・・そんな事が・・・。」


 「そう・・・まぁ仕方ないんじゃない?」


 「そっか・・・マドカは・・・。」


 三者三様、言葉を詰まらせながら答えるクリフォード、ウララ、竜兵。

 一言呟いたきり口をへの字に噤み、静かに考えを巡らせる竜兵。

 

 おれは結局、ある程度ことの顛末を隠さずに話した。

 マドカがカード化したことも含めてだ。

 『妨害チャフ』がどうたら~の点はそれとなく濁したが。


 「とりあえずセイ。疲れている所済まないが、オーディア様、女王リューネ殿、宰相サビール殿を交えて今後の方針を探ろう。」


 「わかった。」


 ヴェリオン関係者との会議を望むクリフォードに、おれは素直に応じた。

 耳に残るマドカの叫び、その痛みを抱えながら・・・。





ここまでお読み頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。


※すっきりしないままですが第三章に目処がつきました。

あとはセイ視点の話し合い模様と、他勢力の動向?

それからSSですね!

作者の料理成分ともふもふ成分・・・それと妹成分がかなり不足していますので!

第三章完全に閉幕時、再度人物紹介を載せたいと思ってます。

ちょっと何時間かかるのかぞっとしますがー!

それではまた^^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ