・第百六十一話 『事後』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、今回のことで良くわかった。
兄貴にはまだまだ覚悟が足りない。
そして注意力と学習能力も。
さすがにショックが大きすぎる。
思わずヴィリスばりのネガティブゾーンに突入しそうだ。
いや・・・自分のことを魚類だ、ウミウシだと言ったりはしないが・・・。
それでもなぁ・・・帝国とやり合った時も、シャングリラ、リーンドルでもそうだった。
なんと言うか、ツメが甘い。
最終的には勢いな所があったとは言え、十分な対策をして挑んだはずの今回も、終わってみれば主犯のマドカをあっさりと殺され、その上ハルには逃げられた。
しかも『回帰』のパーツまで、おみやげに付けてだ。
そしてマドカがカードに変わったことも、重く頭に圧し掛かる。
はぁ・・・悔やんでも仕方ないとは言え、これはちょっと落ち込むな。
■
(くそっ!おれは何度・・・同じ事を繰り返す!?)
油断する間など無かったはずだ。
それでも「片時も気を抜かなかったか?」そう問いかけられれば・・・。
答えは否。
マドカの言葉を聞き、手ごたえを感じた直後の襲撃。
まさに奴らの常套手段・・・何度も陥ってきた悔恨の時だ。
おれや仲間たちが気を抜いた瞬間、やっと目の前に降りた手がかりも、手にしていた希望もいともあっさり掌から零れ落ちた。
落ち込むおれよりも先に、仲間たちが動き出していた。
「主様申し訳ありません・・・捕捉できませんでした。」
「殿下、先ほどの輩、すでに海にはおりません。」
影から現われたフェアラートが、水路から情報を得ていたヴィリスが、口々に報告をくれる。
その報告から思うことは一つ。
(だろうな・・・。)
ハルがさっき使ったのは『レイベース帝国』の魔道具『帰還の氷』。
おそらくハルは、すでに帝国の地を踏んでいるだろう。
あの効果を見るのは今日で二度目、実際に見てなくとも聞いたことがあるのを含めると三度目だ。
一度目はロカさんに追い詰められた帝国の偵察兵が、二度目はキルアと自身を逃がすためにツツジが・・・。
そう、ツツジが使っていたにも関わらず、その存在を意識の外へ置いてしまった。
明らかなおれのミス。
そしてマドカの身に起きた現象。
「死んだ者がカードに変わる?そんな世界はありえない!」そう叫んだマドカ本人が、おれの目の前でカードに変わった。
これは一体なんなんだ?
あいつは『死』のマドカ。
おれと同じく『地球』から転移してきた異世界の人間。
そこに疑う余地など無い。
事実本人もそう言っていたし、おれの記憶通りの姿だった。
そして・・・その現象を予め知っていたかのように、迷わずカードを掴んで去っていったハル。
(訳が・・・わからない!)
堂々巡りな思考、思わず神殿の床を殴りつける。
ガッ!と音を立て、しかし傷つくことも無い石畳。
「セイ・・・。」
「セイさん・・・。」
今までずっと大人しかったアフィナとシルキーが、気遣わし気におれの側へ来る。
いかんな・・・守るべき相手にまで気を遣わせている。
「セイ・・・ヴィリス様の結界は・・・?」
未だ張り続けられる転移封じ、海魔法の結界の気配にアフィナは訝しむ。
現に先ほどマドカが、転移できないことを自己申告していたからなおさらだ。
そう・・・そこからすでにおれは、奴らの後手に回っていた。
「ヴィリスの張った結界ってのは、能力や特技を防ぐ物だった。『帰還の氷』は魔道具・・・『謎の道具』だからな。」
端的に語った言葉、それが意味する事実に二人はハッと息を飲む。
「殿下・・・。」と言いかけたヴィリスを、「お前のせいじゃない。」と断言し二の句を告がせない。
そりゃそうだ・・・ヴィリスが気に病む必要など無い。
これはおれのミスなんだから。
しかし、彼女の表情も暗い。
むしろネガティブモードに入っていないのが不思議なくらいだ。
何かに思い当たったアフィナがポツリと呟く。
「もしかして・・・『妨害』の効果が続いてたら・・・。」
そうだな・・・『帰還の氷』は使えなかっただろう。
おれたちは敵の手助けをしてしまった道化とも言える。
しかし・・・。
「結果論だ。・・・竜兵には言うなよ?」
おれは全員を見回し言い含める。
全くその気が無かったにせよ、己の行いが敵の逃亡を助けたと知って、気の良い弟分が責任を感じないはずがない。
事情を知らないオーディアとリューネは別として、他の面々はあの屈託無く笑う竜兵の顔を思い出したんだろう。
皆神妙な顔つきでしっかりと頷いた。
「とりあえず・・・聞きたいことはたくさんある。良いな?」
「勿論です。貴方の望むままに・・・。」
改めて正対し、搾り出すように告げれば、オーディアは神々しくも儚な気な微笑をたたえ、静かに答えた。
■
半日が過ぎ・・・。
オーディアと情報交換を行いながら、事後処理に勤しんだ。
マドカが倒れたからか、はたまたオーディアが張り巡らせた結界からか、街はすっかり元の様相・・・美しい古都の風情を取り戻す。
もちろん破壊の跡は生々しく残っているが・・・。
それでもオーディアがしばらく顕現し続けられると言うことで、多少なりか復興は進むだろう。
それと・・・思いの外、生存者が多かった。
オーディアの『加護』の下、再度歌われたリューネの浄化の歌に反応し、各家の地下室から・・・或いは水路に隠された避難路から、続々と住人たちが姿を見せる。
彼、彼女らの話を聞くに、この国が襲われていると聞いた直後が、襲撃のピークだったようで・・・どうもおれたちが『鈴音の街』リーンドルで、マドカやホナミと闘った後、ゾンビたちの動きが変わったらしい。
それまでは動く物、それこそ目に付く物全てに襲い掛かってきたそうだが、一時を境にまるで生者のように振る舞いだし、住人たちを襲わなくなったとのこと。
おれたちを騙す演技のためだったのか、それともマドカが最後に見せた一片の迷いのせいだったのか。
今となっては確かめようも無い。
わかった所で何の意味も無いことだが・・・それでもおれは・・・あいつが悩んでいたと思いたい。
それから一つの朗報。
リューネの兄である人族の王子はだめだったが、父親・・・つまりは国王が生きていた。
母親はこの件の前に無くなっていて、すでにリューネに王位を譲っていて、今は宰相の地位に居たらしい。
少なくともこんな悲しいできごとを、未だ八歳の少女に丸投げしなくて済みそうだ。
抱き合い涙する父娘を見つめ心から安堵した。
それから数刻。
王城にて案内された豪華すぎる客間で休憩。
すでにカオスとフェアラートは『魔導書』に帰した。
素直なフェアラートと違い、常にブレないカオスとは当然、一悶着どころか二・・・三悶着ほどあった訳だが。
頼む・・・そっとしておいて欲しい。
むしろ傍目にも落ち込んでいるはずのおれにセクハラとか・・・ある意味では感心する。
ん?ああ・・・イアネメリラさんがぶっとばしたぞ?
半殺し・・・じゃないな・・・八割殺しくらいだった。
ヴィリスはおれの指示の下、リューネやその父親に付き添い雑務に追われ、イアネメリラはおれから片時も離れようとしない。
アフィナとシルキーもかなりお疲れ。
今はベッドの上、二人静かに寝息を立てている。
静かなそしてどこか物悲しい空気が、突如響いたけたたましい足音に破られる。
ズダダダダダッ!
ビクリと肩を震わせ、起きかけた二人の美少女は、続く叫びを聞いて安堵したかのように眠りに落ちた。
それは聞きなれた懐かしい叫び。
「アニキーーーー!!」
竜兵が合流、相当な無茶をして移動してきたらしい。
到着直後、『海龍』アリアムエイダ・・・神に次ぐ力持つと言われ、船乗りの守り神として奉られる彼女が、如何に分体とは言え人型のまま、しどけない姿でソファーに崩れ落ちたのを見れば、押して知るべきと言える。
竜兵もこちらに着いた時、魔力はすっからかん。
いつもにこやかなバイアですら、少々引きつった笑みになっていたくらいだ。
竜兵・・・一体何をした?
まぁ異世界でずいぶんと頼れる弟分に成長した彼も、その根底に「アニキ大好きっ子」があるからなぁ・・・。
作戦とは言え二手に別れ、かつ明らかにこちらが大変そうだったんだ。
きっとその小さな身体で必要以上、全開のハッスルをしたのだろう。
竜兵が落ち着くのを待って、お互いに銀板を操作。
「ドラゴンホットライン」で呼び出すのはウララとクリフォードだ。
事後処理に移る前、最低限の連絡は入れていたが、二度手間になるし絶対長くなる。
そう判断したおれは、竜兵が合流後ゆっくり話すことを確約し、渋る二人を納得させた。
疲れていたのもある。
「・・・そんな事が・・・。」
「そう・・・まぁ仕方ないんじゃない?」
「そっか・・・マドカは・・・。」
三者三様、言葉を詰まらせながら答えるクリフォード、ウララ、竜兵。
一言呟いたきり口をへの字に噤み、静かに考えを巡らせる竜兵。
おれは結局、ある程度ことの顛末を隠さずに話した。
マドカがカード化したことも含めてだ。
『妨害』がどうたら~の点はそれとなく濁したが。
「とりあえずセイ。疲れている所済まないが、オーディア様、女王リューネ殿、宰相サビール殿を交えて今後の方針を探ろう。」
「わかった。」
ヴェリオン関係者との会議を望むクリフォードに、おれは素直に応じた。
耳に残るマドカの叫び、その痛みを抱えながら・・・。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
良ければご意見、ご感想お願いします。
※すっきりしないままですが第三章に目処がつきました。
あとはセイ視点の話し合い模様と、他勢力の動向?
それからSSですね!
作者の料理成分ともふもふ成分・・・それと妹成分がかなり不足していますので!
第三章完全に閉幕時、再度人物紹介を載せたいと思ってます。
ちょっと何時間かかるのかぞっとしますがー!
それではまた^^