・第百五十八話 『握り潰し(スクイード)』
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再々度、空飛ぶ髑髏が口を開ける。
案の定その口の中、いっぱいに広がる紫紺の魔法文字。
そして放たれる、幾条にも拡散された光線。
今回は仲間たち全員が、その動きにある程度以上の注意を払っていた。
つまり無意味、余裕を持ってあっさりと避ける。
一部ギリギリの奴らも居たが・・・まぁ、お察し下さい。
いや、意味ならあった。
もちろんマドカの狙いってことじゃない。
手元で産み出した水球を、磨かれた鏡面のような形状に変化させたオーゾルが、どういう原理か『餓蛇髑髏』の『魔怨砲』を弾き返した。
「貴族リフレクター!」
(おいおい・・・どんなチートだ?)
おれも思わず反応に困る。
色々規格外なおっさんだが、器用にも程があるぞ?
それはまるで神話のよう。
メデューサが放った石化の視線を、鏡の盾で跳ね返したと言うペルセウスのように、発動者に向けて・・・違うな、その搭乗者マドカへ向けて死の光線が奔る。
「なんっ・・・だとっ!?」
これにはさすがのマドカも驚愕、らしくない叫びを上げた。
着弾間際、『自動防御』が発動した『鉛喰い』が奴の身代わり、その流動体な身体をマドカの前面に張り巡らせ、光線を弾く。
「キュルオォォォォ!!!」
回廊に響き渡る苦鳴の咆哮。
物理的なものならきっと、どうと言うことも無かったのだろう。
流動する金属の身体持つ『鉛喰い』は現に先ほど、フェアラートが振るった双剣の一撃をあっさりと受け止めていた。
しかし、紫紺の光線が『鉛喰い』の鈍色の身体へ突き刺さり、当たった場所から消し飛ばす。
光の粒子を撒き散らし消えていく鈍色のスライムと、すぐにも貫通しそうな攻撃に慌てて、『餓蛇髑髏』の頭上から飛び降りるマドカ。
『鉛喰い』がカードに転じたのは、一瞬後だ。
どうやらお得意の保険、今回はかけていなかった模様。
その光景を確認したマドカが吐き捨てる。
「くそっ!役立たずが・・・。」
(・・・それは違うだろ?)
見た目が某国民的コンシューマーゲームに出てくるアレ、はぐれなスライムっぽいとは言え、あくまでもその身に宿す能力『自動防御』の特性だったとは言え、彼の盟友は間違いなくマドカの命を救っている。
実際問題、跳ね返された光線に驚愕していた奴が、『鉛喰い』の献身無しに、あの攻撃を避けれたとは思えない。
しかしそれっきり興味を失ったとでも言うように、マドカはこちらを睨みつけ、未だ中空に浮かぶカードに見向きもしなかった。
おれは逆にそれが気になってしまう。
なぜあのカードは浮いたまま・・・。
(もしかして・・・。)
そう思い右手を前へ。
掌に飛び込んでくる『鉛喰い』のカード。
どうやら予想は的中。
おれの仲間であるオーゾルが、それも敵の攻撃を跳ね返した物だったにせよ、アンティルールが発動した。
(これは一体、どういうことなんだろうな?)
できそうだからやってみた・・・違うな、おれはきっとこの盟友に同情したんだ。
もう捨て駒のように使われないように、献身を「役立たず」なんて言葉で穢させないように、そう思って広げた掌に、答えるように収まったカード。
おれは『図書館』を展開、カードを収納した。
その光景、マドカは何が起きたのか、意味がわからなかったらしい。
『餓蛇髑髏』の頭上・・・先ほどまで『鉛喰い』のカードがあった場所と、おれの方を何度も見比べていた。
「ばかなっ!?貴様・・・『悪魔』!何をした!俺はまだ負けていない!なぜそのカードが・・・!」
(答える義理・・・あるか?)
「・・・さぁな。」
おれは両手を肩幅、所謂「お手上げ」のポーズ。
ことさら大袈裟に、ため息までプレゼントしてやる。
しかしこれではっきりした。
『略奪者』は・・・少なくともマドカは、『カードの女神』アールカナディアのことも知らないし、下手するとアンティルールの詳細さえわかっていない。
それが意味することは何だろう?
この世界の住人が、死ぬとカードに変わり輪廻に戻るのは既知のことだ。
きっとそれは奴らも知っている。
そうでなくちゃ、各地で虐殺を行い、カードを集め続けている意味がわからない。
『図書館』を見たのは初めてだろう。
アルカ様はたぶんおれたち以外にこの力を授けていない。
しかしアンティルールだ。
知って居ないとおかしい、実際知っているはず。
なぜならついさっき、フェアラートを使った罠をしかけてきているのだから。
にも関わらずだ。
こうまで動揺するのは・・・そうか。
奴はこう言った「まだ負けていない。」と。
確かにそう、アンティルールが発動するのは勝敗が決してから。
それが『地球』のカードゲームなら・・・。
だがここは現実、むしろおれたちこそが異物。
さっきの現象は、この世界に適応したルールなんだ。
■
おれの態度を見て、まともに答えるつもりが無い、或いは自分をバカにしている。そう思い至ったのだろう。
マドカはより一層憎悪の視線を強めると、黙って『魔導書』を展開、二枚の手札から一枚を選択する。
カードから生まれた金属の棒を奴が掴むと、その上部から薄氷にも似た怜悧な刃が生えた。
その形状は大鎌。
金属製の柄の長さは約1.5m、刃渡りは70cmくらいかね。
内側に刀身、相手の身体の一部・・・ありていに言ってしまえば、首を引っ掛けて切り落とす事を目的に作られた武器。
おれの使う『魔王の左腕』召喚で現われる手甲程じゃないにせよ、なかなか禍々しいオーラを放つその大鎌。
当然見覚えがあった。
『支配者の鎌』マッサカー・・・「虐殺」と銘打たれたその鎌は、当然特殊な効果を宿している。
その効果は、魔法カード『突然の死』と同様、刃で傷ついた者を即死させると言う物だ。
おれは仲間たちに、「あれに触れるなよ?」と注意を促しつつも、正直拍子抜けしていた。
(もしかしてあいつ・・・自分でやった『妨害』の効果に気付いてないのか?)
もし『妨害』を破壊できたなら、竜兵から連絡が来ないのはおかしい。
そう思ったのも束の間、回廊に「ドラゴンホットライン」の呼び出し音が鳴り響く。
ガォォーン!ガォォーン!ガォォーン!
マドカを見据えながらも銀板を操作、すぐに飛び込んでくる弟分の元気な声。
「アニキごめん!少し手こずったけど、『妨害』は壊したよ!」
(そういうことか・・・。)
マドカは『妨害』が破壊された事を把握して、『謎の道具』を引っ張り出した訳だ。
銀板越し、竜兵に「ご苦労さん、今忙しいから後でな。」と声をかけ、通話を切った。
律儀におれと竜兵の会話を待っていたマドカは、「なるほど・・・『力』のせいか・・・。」と呟く。
(さぁどうする?)
・・・まだ完全にではないが、マドカはほぼほぼ詰んでいる。
もちろんアイツが武器で・・・今のように、マッサカーで戦っているのを見たことはあるが、その腕前は大した物では無い。
普段から自身の身体能力で闘っている魔導師、特におれやウララ、竜兵なんかに比べると、その実力は数段落ちる程度の物。
カオス・・・は危ないが、油断さえしなければアフィナでも余裕で避けれるだろう。
元より盟友にかけた保険や、環境変化の魔法、罠魔法等で闘うスタイルのマドカ。
それが武器を振り回す際、苦し紛れのやけっぱちに思えてしまう。
気になるとすれば、あと一枚残された奴の手札だが、余程のことでもない限りおれの残った一枚で対処可能。
最大の問題はおれのバトルスタイルが無手ってことかもしれないな。
さすがに掠ったら即死って武器を、素手で受け止めるのはどうなんだろう?
まぁ避ければ良いんだが。
■
考えながらも身構える。
奴にだって残された時間は少ないはず。
最悪・・・転移で逃げれば良いとでも思ってるのだろうが、それは対処済み。
敵の、『餓蛇髑髏』の攻撃を避けた、或いは防いだ仲間たちが、今もなお眷属の『蛇頭』を減らし続けていた。
マドカが降りたせいなのか、どうやら供給は打ち止め、新たな個体は追加されない。
アフィナの火球が、シルキーの雷が、そしてオーゾルの水刃が眷属を屠る。
刻一刻と破滅は近付いていた。
すぐには殴りかかってこない・・・そう思ったが、予想は外れる。
マドカは、その場から動くことなく『魔導書』のカードを一枚選択、即座に発動する。
『鏡像』
発動された魔法効果によって、おれを含む仲間たち全員の前に現われる、色の無いマドカ。
そして大鎌を振り上げたマドカは、勢い良く大鎌を振り下ろす。
現われた鏡像全員が、マドカ同様大鎌を振り上げ、そして振り下ろした。
『鏡像』とは・・・自身を、或いは盟友一体を対象に、その鏡像を作り出す魔法だ。
その鏡像はワンアクション、映し出された本体と同じ行動をする。
ワンアクションではあるが、鏡像の能力は本体と同等。
そして今、マドカが振るう大鎌は、一撃死を招く『支配者の鎌』マッサカーだ。
それが同時に全員へ、当然避けられない者も居るだろうとの判断か。
単純だからこそ強力。
(だが・・・!)
おれは手札の一枚で即応する。
『握り潰し』
魔法名と共に、光の粒子に変わったカードと、広げた左掌をぎゅっと握りこむ。
その効果は、余りにも単純。
発動された魔法を一つ、問答無用で破棄すると言うもの。
おれの『魔導書』内、闇魔法の中でも特に数少ない『対抗魔法』。
対象は当然『鏡像』。
掌を握った瞬間、全ての鏡像が粉々に砕け散った。
被害は皆無。
そこにはただ、光の粒子になって空気に溶けていく鏡像だった物。
状況を把握してか、マドカが再度吐き捨てた。
「忌々しい・・・強制敗北イベントか・・・。」
絶句。
そしておれは奴に哀れみすら感じた。
(まだそんなことを・・・。)
さっきまでの光景、おれや盟友、他の仲間たちとのやり取りを見ても、それが現実とは理解できない。
或いは理解しているのだとしても認めない。
そんな空気をぶった切り、青白ストライプの道化が笑う。
「つっかまえたぁ♪」
ビクリと震えるマドカは、大鎌を振り下ろした姿のまま固まった。
誰しもが意識の外、いや・・・当然『鏡像』の標的にはなっていたのだろうが、どうやらカオスはおれが何とかすると信じ切り、その間に『傀儡』の糸をマドカに忍ばせていたらしい。
なるほど・・・勝利へのルートは見えた。
「なにっ!?」
そして更に動揺するマドカ。
「なぜだ!なぜ転移できん!?」
勝てないことを悟り、逃げようとしたその行動も封じられる。
そして奴の、残酷な運命は続く。
おれの影に潜り込んだフェアラートが、一瞬にしてマドカの影へと移動する。
一閃・・・正確には二閃。
彼が振るう双剣が、マドカの両腕に襲い掛かる。
迸る血飛沫。
切断まではいっていないが、相当な深手だろう。
おそらく持ち上げることすらままならない。
「があああああ!!」
「いやん!はずれちゃったぁ♪」
マドカが発する獣のような叫びと、カオスが発する完全に場違いな明るい声。
気合で『傀儡』の拘束を解いたのか、はたまたフェアラートの一撃が原因か、マドカは『餓蛇髑髏』の背後へ跳びすさぶ。
「やれえええええええええええ!!」
マドカが絶叫し、髑髏が口を開く。
口腔内に集まる紫紺の魔法文字。
なんとかの一つ覚え、もはやそんなもので覆る状況じゃないぞ?
「行くぞメリラ!」
「了解!」
おれはイアネメリラと共に疾駆する。
(ギリで間に合うっ!)
『魔怨砲』の発動直前、その前面におれたちは辿り着き、イアネメリラが『忘却』を発動。
遅延した数瞬を使い、おれは髑髏の顎を拳でかち上げた。
結果?聞くまでも無いだろ?
良い子は皆覚えておこう、 「ビームは急に止まらない。」
キンキンキン!ゴドバァ!
十分に溜め込まれた魔力の奔流が、閉じられた口腔内で爆発する。
紫紺の光条を幾本も溢れさせ、『餓蛇髑髏』は爆発した。
光の粒子と共に、カードへ転じるその盟友を回収し、使役した魔導師に肉薄する。
「『悪魔』!貴様ぁ!!!」
両腕を庇いながらも逃げようと足掻くマドカ。
おれは奴の鳩尾に、問答無用左拳を叩き込む。
「うるせぇ!黙って寝てろ!」
「ガッハァ!」
この国を死者の巣窟に変えた『略奪者』。
『死』のマドカは、乾いた呼気を漏らし、ドサリ・・・と崩れ落ちた。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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※ちょっと更新遅れました。
決着シーンに少し迷っていた物で・・・
これからもご愛顧お願いしますorz