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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
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・第百五十七話 『死(デス)』後編

 「ますたぁ!」


 イアネメリラの叫びが、どこかぼんやりと聞こえる。

 絶対不可避・・・そんなタイミングで突き出されたフェアラートの凶刃は、正確におれの命を刈り取るために振るわれた。

 以前にも見た、むしろついさっきこちらが、敵の首魁マドカへ向けて振るった一撃。

 おれは全く驚かない。

 ヒントはすでにもらっていたからだ。

 マドカはフェアラートを見た時言っていた。

 「お前か・・・。」と。

 いくら『地球』のカードゲームで知識があったにせよ、まるで既知の間柄のようなセリフ。

 どう考えてもこれはおかしいだろう?


 瞬間の閃き、即座に回避率強化魔法『ミラージュ』の破棄効果を使用する。

 強化を解除することによって、一時的に全ての攻撃を中和するそれだ。

 おれの目の前に広がる闇色のマントが、フェアラートの双剣を翻弄、無効化した。

 効果時間が残っててくれて良かったぜ。

 おれに刃が届かなかったことを確認し、フェアラートが距離を取ろうと跳び退る。


 「カオス!」


 「あいよ、旦那♪」


 緊迫した場面に相応しくない明るい声、カオスが両手を広げ不可視の糸・・・『傀儡』を発動する。

 跳び退った中空、不自然にガクンと身体を弾かせるフェアラート。

 その表情は底冷えする不敵なもの。

 フェアラートが全身に力を込め、カオスの拘束から逃れようとする。

 元より完全な拘束、意識の剥奪など狙えない。

 相手は英雄級、カオスの特技スキルと相性が悪すぎる。

 カオスの全身がぷるぷると震え、「んっくく!」と呻き声を漏らす。

 語尾に♪を付ける余裕すら無いようだ。


 だが時間稼ぎは十分。

 おれが一気に距離を詰めフェアラートの襟首を捕まえるのと、カオスの糸が全て破られるのはほとんど同時。

 本当にギリギリ、もうちょっと遅かったら『影化』されていた。

 破られた糸をカオスが再度張りなおし、フェアラートの身体を縛り、イアネメリラがフェアラートに、魔力塊を撃ち込もうとするのを必死にやめさせる。


 「ますたぁ!どうして!?」


 「違和感がある!確認するまで待て!」


 不服そうなイアネメリラが渋々了承。


 「殿下!」「お兄様!?」「セイ殿!」「フェアラートさん!なんで!?」

 異変に気付いた仲間たちも口々に叫び、援護に駆けつけようとこちらに注意を向けるが、おれはそれを止めた。


 「お前らは目の前に集中しろ!」


 そう、カオスの奮闘で数こそかなり減らしているが、親玉の『餓蛇髑髏ハングリースカル』はもちろん、眷属の『蛇頭スネークヘッド』も未だ健在。

 おれやイアネメリラが手を離せない今、仲間たちにはそっちのケアをしてもらわねばならない。

 あれほど激昂したマドカが大人しいのも気になるが、おれも今は目の前のこと。

 つまりフェアラートの心変わりを突き止めなければ。


 「ますたぁ、何が違和感なの?」


 油断無く、彼女らしくない鋭い目つきでフェアラートを睨みつけるイアネメリラ。


 「・・・おれには、今のフェアラートが素だとは思えない。むしろこいつの本来の姿は、さっきまでの・・・おれたちの側に居た時の姿なはずなんだ。」


 おれの言葉に目を見開くイアネメリラとカオス。


 「ますたぁ・・・。」「旦那・・・それは・・・。」


 口々に言いよどむ二人の盟友」(ユニット)。

 『開放リベレイション』の効果で動き出したフェアラート、きっとマドカの使役する盟友ユニットだったのだろう。

 あの時は違うと思った、確かにアンティルールだと。

 しかし思い返せば、こいつはアンティルールにのっとっていない。

 彼はおれに倒された訳ではなく、自身の特技スキルによる『自爆』。

 その上おれがフェアラートのカードを手に入れたのは、あくまで人伝て・・・サリカから渡されただけだ。

 そこまで理解して、普通なら答えは一つ。

 「最初から、おれの盟友ユニットになっていなかった。」と。


 だが・・・と思う。

 全然納得がいかなかった。

 わかってるよ、甘い考えって言いたいんだろう?

 もしくはおれの願望?一度仲間になった盟友ユニットに悪い奴が居ないとでも・・・。

 

 否、それは確信だ。

 こいつは、フェアラートは違う。

 フェアラートのカードテキストにはしっかりと書いてあった。

 それは能力アビリティ特技スキルの表記なんかじゃない、彼自身の背景。

 【『砂漠の瞳』に所属する、誇り高き暗殺者。その戦果は、『砂漠の瞳』の長である『金色こんじきの瞳』リザイアに、「一騎当千に値する。」とまで言わしめた。しかし、彼は金では動かない・・・彼が動くのはあくまで義の為、情の為。故にフェアラートは、非戦闘員や民間人を決して狙わない。】

 

 このテキスト、そしておれの召喚に応じた時、心に伝わってきた感情の奔流。

 アフィナにお礼を言われた時、柄にも無く照れていた横顔。

 全てが符合して、どうしようもない違和感になっていた。



 ■



 おれに捕まれ、カオスに縛られたままのフェアラートに、魔力の揺らぎを感じ取る。

 チリリと首筋に悪寒。 

 いつもの危険察知で周囲を一瞬見渡しても、仲間たちとマドカはこう着状態。

 すぐにどうこうなる雰囲気じゃない。


 (何だ・・・?『自爆』か!)


 おれが気付くよりも早く、イアネメリラが問答無用、『忘却』を発動した。

 遅延は数秒、迷ってる暇は無い。


 「フェアラート!戻って来い!」


 叫ぶ・・・ただただ「届け!」と願い。

 フェアラートの濁っていた虹彩が、一瞬焦点を合わせ小さく、本当に小さく「主・・・様・・・。」と呟く。

 眉根を寄せ、ひどく辛そうに、それでも『自爆』を踏みとどまったのがわかった。

 確信に真実味が加わる。

 

 (やはり・・・フェアラートは苦しんでいる!)


 己が本意と違う、それこそ『略奪者プランダー』の悪意とでも言うべき支配に、彼は必死で抵抗している。

 フェアラートが掠れた声を搾り出す。


 「主・・・様!こ・・・殺して・・・!自分を・・・殺し・・・てくださ・・・い!もう・・・抑えられ・・・ないんです!・・・蟲がっ・・・!」


 つぅーっとその瞳から一筋涙が零れ、「自分を殺せ。」と彼は言う。

 誇り高き暗殺者のはず・・・英雄のはずの彼がするには、余りにも悲しい決断と懇願。

 そのやり取りで、イアネメリラとカオスも完全に事態を飲み込んだ。

 二人の期待と祈りを込めた視線が、等しくおれを貫く。

 盟友ユニットが、仲間が闘っていて、見捨てられるのか?


 (否・・・断じて否だ!)


 絶対に看過出来ない、していい訳が無い。

 頭の中、フェアラートが必死で訴えた情報と、手札のことが渦巻いていた。

 彼は今確かに言った・・・「蟲が」と。

 その言葉が意味することは、『地球』のカード知識にヒットする。

 間違いなく『獅子身中バグズ・イン・ライオン』の魔法だろう。

 罠魔法の一種であるそれは、付与されたカードを相手の『魔導書グリモア』へ、強制的に贈り付ける。

 本来なら使えない弱体デバフが強力な盟友ユニットや、呪われた装備などを押し付けるのが目的だ。

 優秀な盟友ユニットであるフェアラートにかけられていた理由も、なぜ強制的に『魔導書グリモア』に封入されなかったのかもわからないが、今は考えないことにする。

 そう、大事なのは打開策。


 思い当たったくだらない罠と、カオスを召喚する際・・・オニキスの追加効果で引いた一枚。

 引いた時はいまいちわからなかった。

 何を意味しているのか・・・どのタイミングで使うのか。

 だがきっと、おれのドローに無意味な物なんて無い。

 『鉛喰メタリックイーターい』が現われた時は、「ここか?」とも思ったりしたが・・・違った!

 これが、このタイミングこそが重要だったんだ。


 (また「デビルドロー」って言われるな・・・。)


 こんな状況でも思わず微苦笑が浮かぶ。

 幼馴染の・・・降りかかる障害を全て、細腕に似合わぬ鈍器で粉砕する真っ直ぐな少女。

 きっと今もおれや竜兵のため、フローリアで一人奮起しているであろうウララ。

 アイツに習っておれも、自分の仲間くらい余裕で救ってやるさ。


 「ますたぁ・・・。」「旦那・・・。」


 「任せろ。」


 突然苦笑いしたおれに、不安そうな声をかける二人の盟友ユニットを安心させるため、ことさらにはっきりと告げる。

 

 「主・・・様!が・・・あああああああ!こ・・・!殺してっ!」


 額に大量の汗を浮かべ、口角から泡を噴きながら、それでも自身を押さえつけ、必死に身悶えるフェアラート。

 あくまでも「自分を殺せ。」と願う男に一言。


 「フェアラート、ちょっと痛いぞ?我慢しろよ!」


 フェアラートが一瞬、ほんの一瞬だけ呆けた表情になるのを端目に、おれは『魔導書グリモア』を展開した。

 迷わず一枚を選択し、その場で即発動する。


 『内部破壊インターナルクラッシュ


 魔法名を宣言すれば、おれの左腕・・・フェアラートの襟首を掴んだ指先に、闇色の魔力光が集まってくる。

 集まった魔力光がおれの手を経由して、フェアラートの身体へ潜り込んでいく。

 直後・・・彼の身体から、ボゴンッ!ドゴンッ!っと、およそ人体が奏でてはいけない音が響き、おれの手に掴まれたまま前後に激しく揺さぶられる。


 「ぐっ!があ・・・あああ!!!」


 叫ぶフェアラート。

 

 (済まんな、こんな方法しかない。だがおそらく・・・。)


 ごぷりっと嫌な音を漏らし、フェアラートが体内から異物を吐き出した。

 現れたのは蟲・・・!

 そうとしか形容のしようが無い、どこか百足を髣髴とさせるような体長1mほどもある蟲。

 フェアラートを縛っていた悪意の化身、『獅子身中バグズ・イン・ライオン』の正体は、体外に放出されると同時、光の粒子を撒き散らし虚空へ消える。

 

 おれが使った闇属性魔法『内部破壊インターナルクラッシュ』、本来の用途は『魔導兵器』に乗り込む搭乗員本人や、強固な鎧に身を包む敵、或いは核を内包する異界の盟友ユニットなど・・・所謂、外が硬くて中が脆い相手に使う代物。

 きっと「人体に向けて使用してはいけません。」って書いてある気がする。

 だがそれを、独自の解釈で今回使わせてもらった。

 「蟲」が「体内」に居るなら、そいつだけを狙えるはずだ・・・と。

 むしろそうでなければ、おれがあのタイミングでこのカードを引いた意味が無い。

 そして狙いは的中。

 

 完全に自我を取り戻したフェアラートは、片膝を地に突き臣下の礼。


 「主様・・・二度も貴方に剣を向け・・・!」


 「構わん。働きで返せ。」


 呟くように、されど慟哭するように、言いかける言葉を途中でぶった切り、あえて突き放す。

 こいつの性格上、きっと優しい言葉なんて求めちゃいない。

 そんなの・・・この短い付き合いだってわかるぜ?


 フェアラートは眩しそうにおれの顔を見上げ一つ頷くと、今までで一番はっきりと宣言した。


 「この命に代えても!」


 そして彼は、静かにおれの横に並び立つ。

 イアネメリラが斜め後ろ中空に控え、カオスがくるくると回る。

 他の面々が、『蛇頭スネークヘッド』を屠りながらもほっと一息。


 ヴィリスに目配せを送ると、彼女はしっかり頷いた。

 それは事前に打ち合わせたことが成った合図。

 奴ら『略奪者プランダー』の、最も悪質な点「不利になったら転移で逃げる。」を、彼女の海魔法結界が封じたということ。


 (あいつは気付いているか?)


 不気味なドクロ面の男、表情は読めないままだが・・・。

 おれは奴を見据え、呼気を整える。

 さぁマドカ・・・お前の悪あがきは、しっかりとぶち破ったぞ。

 そろそろOshiokiの時間だな。





いつもお読み頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。


※前の方を読み返していてビックリ!

()の中って、いつのまにかルビになってたんですね!

読みやすいかも!ってのと共に、魔法名に付くルビがすげー厨二wヤダーw

左手人差し指に40kgの鉄塊を落下させた作者近況でしたorz

セイと違って右利きで良かった!


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