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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
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・第百五十六話 『死(デス)』中編

 アフィナが拳大の火球を一度に数個産み出す。

 テンプレマスターも今回はちゃんと威力を押さえ、その分精度を上げているようだ。

 火球はいつも通り明後日の方へ飛ぶことも無く、ちゃんと敵に当たっている。

 家屋を倒壊させたような派手さは無い。

 しかし火力は十分にあるようで、火球の当たった者はその場で炎に包まれた。

 やればできるんじゃないか・・・ぜひ毎回、同じスタンスでお願いしたい。


 その傍らでは、ヴィリスとシルキーが連携していた。

 水路から引き出した水流で床を濡らし、その床に向けてシルキーが雷を放つ。

 水面を雷が奔り、床に足をつけている『蛇頭スネークヘッド』の身体を蹂躙する。

 身体から白煙を上げ、完全に事切れた魔物たちがどうっと崩れ落ちる。


 そして、オーゾルが作り出した水刃を、リューネの歌が強化する。

 いや、むしろオーゾル自身を強化しているようにも見える。

 もしかすると王族と貴族、この国の重鎮同士ゆえに通じ合う力のような物があるのかもしれない。

 おかっぱ頭のおっさんが、産み出した五本の水刃と共に駆け抜ける。

 敵とのすれ違い様に両手を一閃。

 彼が走り抜けた後ろには、全身を輪切りにされた『蛇頭スネークヘッド』の骸が残るのみ。

 倒された眷属たちはカードに変わらない。

 光の粒子は撒き散らしているものの、それだけだ。

 おそらくあれは盟友ユニットと言うより、トークンか何かの扱いなんだろう。

 所謂カードゲーム時代、おはじきやビーズなんかで表示されていた類のそれ。


 物思いにふけったのは理由がある。

 現状なおも続くオーゾル無双。

 なんと言うか、おれの使う空手もどきとはまた違った打撃系体術(なんとなくキックボクシング系?)をメインに、水刃と水球を手足の先から生み出し攻撃。

 自分が攻撃されるときは一瞬で足元の水溜りへ逃げる。

 カードゲームのテキストではわからなかった、経験と実戦に裏打ちされた、実在の生きている人物の強さって感じだ。

 おっさん・・・普通に強いんだよな・・・。

 でも変態なんだよな。

 

 「実に笑止ですな!リューネ様の加護を受けたこのオーゾル!正に万夫不当!」


 それは自分で言っちゃ意味無いぞ?

 おれは調子づくおっさんへ、一言釘を刺しておく。

 なんか・・・とんでもないポカやらかしそうだからな。


 「噛まれるなよ?死ぬぞ。」


 「なんですとっ!?」


 そう、英雄級である『餓蛇髑髏ハングリースカル』は別物として、士官級の『蛇頭スネークヘッド』は確かに弱い。

 雑魚と言って問題ないだろう。

 しかしそんな者をあのマドカが使うわけ無いだろ?

 『蛇頭スネークヘッド』の牙には致死性の毒がある。

 まぁそうでなくても、あんなもんに噛まれるのはいやだろう。

 おれの言葉に、仲間たち全員が警戒を顕わにした。


 (いや、遅いからな?)


 至って順調・・・そう見える。

 だが、敵の数は全く減っていない。

 むしろ産み出される『蛇頭スネークヘッド』の数が、仲間たちの猛攻を凌駕している。

 カードゲームの時代なら、眷属の無限生成などできる訳も無かった。

 しかしこれは現実、おそらくマドカの魔力が続く限り、延々とこれを繰り返すつもりなんだろう。


 (もしくは・・・何かを待っている?)


 事実、眷属の群れを盾に距離を取るマドカにも、全く焦りの色は見られない。

 おれと話していた時とは打って変わり静かに、そして憎悪を込めてこちらを睨みつけている。

 宙に浮かぶ『餓蛇髑髏ハングリースカル』が、閉じ合わされていた口元を開き、仄暗い口腔をこちらに向ける。

 その中に光る紫紺の魔法文字。


 (やべぇ!あれ、何回も撃てるのか!)


 つい先ほど見たばかり、明らかに食らっちゃいけない類のビームが、すでに充填完了している。

 ほとんどのメンバーが眷属の動向に夢中。

 意識の端にはもちろん、首魁であるマドカを置いてはいるんだろうが・・・。


 「お前ら!避けろっ!」


 おれの叫びはギリギリだった。

 魔法文字が連なり円環を作り出し、イアネメリラが慌てて『忘却』をかける。

 ほんの数瞬、しかし生を拾う数瞬のおかげで、一斉に飛びのく仲間たち。

 直後、紫紺の光線が先ほどの大口径じゃない、拡散した幾条もの光になって迸った。


 (くそっ!無駄に器用な真似を!)


 心の中で盛大に悪態をつきながら、サイドステップで光線を避ける。 


 (アフィナの次はこいつかっ!)


 自分で呼び出したは良いが少しだけ・・・いや、だいぶ後悔した。

 身体能力が一般人以下、カオスがしっかり逃げ遅れだ。

 襟首を掴み、引き寄せる。

 おまっ!なんで抱きつく!?


 カオスを引き剥がしながら仲間たちの安否を確認。

 なんとか全員無事だ。

 直撃コースだったアフィナやシルキーも、咄嗟に張った障壁のおかげで無傷。

 防ぐと同時に相殺していた所を見ると、ビームの威力自体は弱まっているんだろう。

 そうでないと困る。

 拡散もできて威力そのままとか、どんだけ厄介だ。 


 「・・・鬱陶しい・・・。さすがは『悪魔デビル』の関係者どもだな・・・。」


 未だ無傷のおれたちを見やり、マドカは小さく呟いた。

 悪かったな・・・そう簡単にやられちゃやらねぇよ?



 ■



 しかし、少しずつ押され始めた。

 正直おれとしては、一気に駆け抜けたい・・・もしくはイアネメリラと空中から、直接マドカの所へ行きたいのだが、溢れる眷属の群れがそれを許さない。

 さすがにあの群れを突っ切るのはしんどい。

 それは空中も然り。

 盟友ユニットの頭上に乗っているマドカと違い、イアネメリラに抱えられての飛行では、当然身体の自由が利かない。

 奴の下に辿り着くまで、それを黙って見守ってくれている訳も無いだろう。


 一つ打開策は残っている。

 マドカが気付いていなければ良いのだが。

 それは転機・・・に思えた。


 再度眷属生成を続けるマドカの背後、完全に死角と不意を突き現れるのは、闇を纏うスキンヘッドの男。

 奴は気付いていない。

 最高のタイミング、むしろマドカのことを注視していた、おれとイアネメリラくらいしか認識できなかったんじゃないか?

 それくらい彼は、全員の意識からはずれていた。

 あえて行動に指示を出さず、その力・・・暗殺者としてのそれを、遺憾なく発揮させる算段。

 フェアラートがマドカへ、静かに双剣を振り下ろす。

 致命の一撃が入る!・・・はずだった。


 カインッ!


 「なにっ!?」


 思わずおれの口から飛び出す驚愕の声。

 それは肉を切る音では決して無い。

 云わば硬質の板、鉄板を叩いた時のような音。

 フェアラートがマドカに振り下ろした双剣は、奴の下・・・『餓蛇髑髏ハングリースカル』の頭頂部から現れた、鈍色の流動体に受け止められていた。

 

 『餓蛇髑髏ハングリースカル』の能力アビリティじゃない。

 あれは『鉛喰い(メタリックイーター)』・・・異界の指導者級盟友ユニットだ。

 『隠密』と使役者への『自動防御』を持つ盟友ユニット

 ゆっくりとマドカが振り向き、「・・・お前か・・・。」と呟く。

 

 (まずいっ!)


 この後に待っていることは一つ。

 名前の通り、金属だろうが何でも食べるそいつが行うそれは、『捕食』だ。


 「フェアラート!引け!」


 おれの指示と、鈍色の流動体が爆発するように広がるのは同時。

 『鉛喰い(メタリックイーター)』が、フェアラートに覆いかぶさる。

 だが奇襲が失敗した瞬間、フェアラートは影に溶け込んだ。

 そして彼は、おれの影から現れる。


 「主様、申し訳ありません。」


 「いや、お前のせいじゃない。」


 マドカのスタイル道り、本人にもしっかり保険がかけられていた。

 むしろ奴のことを知るおれが想像して然るべき、最高だったはずの奇襲が無為に終わる。

 仕切りなおしだ・・・。


 「おい、お前もそろそろ働け!」


 おれの周りをくるくると回っているだけの道化師。

 クラウンキャップに包まれた後頭部を軽く小突く。


 「はいはーい♪わかってますよぉ、旦那!」


 カオスはおれを振り返りウインク一つ、両手を振るいそこから不可視の糸が放たれる。

 『傀儡』が発動、すぐさま十体『蛇頭スネークヘッド』の身体がビクリと弛緩する。

 そして味方である筈の魔物に襲い掛かった。


 「旦那♪無限に生成されると思ってたでしょ?」


 突然そんなことを言い出すカオス。


 「・・・違うのか?」


 おれは、くるくる回る不思議なダンスを踊り続けるカオスのことを、見つめながら問いかけた。 

 カオスは「うん!違うよぉ♪」と、きゅっと片足を前に出し、おどけた仕草で『蛇頭スネークヘッド』を操り、同族を屠り続けさせる。

  

 「前にもこういうのと闘った事あるんだぁ♪それでね・・・魔力を探ってたの!」


 カオスが操る『蛇頭スネークヘッド』、そいつが倒した個体が突然爆発する。

 連鎖するように他の奴らまで巻き込んでだ。


 「見ろ!蛇がゴミのようだ!」


 ビシィと人差し指を突きつけ、ドヤ顔のカオス。

 仲間たちも唖然としている。

 それもそうだろう。

 先ほどまで無限に沸き続けるかに思えた眷属たちが、そこかしこで誘爆していく。

 おれは目線でからくりを説明するよう促した。

 鷹揚に頷いたカオスが、「ではでは~♪」と一声、再度ダンスを踊りながら語る。 


 「旦那!この手の奴ってさ、大抵リーダー的なのが居るの。そこを突ければ見ての通り♪」


 (そうなのか・・・。)


 全く違いなんかわからなかったが。

 本人がそう言うならそうなんだろう。

 やるなカオス、変態って思っててごめんな?

 おい・・・なぜおれの法衣に頭を突っ込もうとする!

 やっぱり変態じゃねーか!


 おれがカオスを引き剥がそうと苦戦中、回廊に絶叫が響き渡った。


 「ああああああああああああ!!!心底面倒くせぇーーーーー!!!お前もう死ねよ!いや、頼むから死んでくれ!どうやったら死んでくれるんだ!!?」


 それはマドカ。

 今までで一番感情の発露、いやむしろ爆発だった。

 全員がマドカに注目する中、奴は展開していた『魔導書グリモア』を一枚選択する。

 そして声量そのまま、魔法を解き放つ。


 『開放リベレイション!!!』


 回廊を青い光が通り抜けた。

 攻撃魔法ではない。

 しかし、「あり?」と声を上げるカオス。

 操っていた『蛇頭スネークヘッド』と、自身の手を何度もグーパーして、その視線を彷徨わせる。

 

 「『傀儡』がはずれちゃった?」


 それこそがマドカの使った魔法の効果だった。

 『開放リベレイション』の効果とは・・・エリア内全てのコントロールを、そのオーナーへと戻す。

 つまり、カオスの特技スキル『傀儡』は、完全に打ち消されてしまったのだ。


 そして・・・。

 首筋にチリリといやな気配。

 振り向けば隣に居たフェアラートが、初めて遭遇した時の様な残酷な笑みを浮かべ、おれへ向けて双剣を突き出して来る所だった。






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