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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
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・第百五十四話 『フラッド・パニッシャー』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


 異世界からこんばんは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、最初に断っておく。

 兄貴は別に狙っていない。

 本人の意思では無いにしろ、色々と思うところはあるんだ。

 毎度毎度、王城へGO!主に「のりこめー!」的ノリで・・・とか。

 それも大抵夜ですよね?つまり夜襲?賊ですか?・・・とか。

 障害は殴って壊す、ドア、扉、門、開け方知らないんですか?・・・とか。

 まさに「破壊王」さながら、むしろ野党の類じゃないかorz

 美祈!君ならわかってくれるよな・・・おれは平和的にだな・・・。

 「でも、自分で借り物って言った船で、体当たりしたよね?」

 おいアフィナ!お前にだけは言われたくないぞ!

 とりあえずお前は、この国の大工さんたちに謝れ!あと放火した家に住んでた人たちにも!

 え?魔方陣の結界だぁ?

 そりゃあ・・・殴って壊すだろ?



 ■



 辺りに夜の帳が迫っている。

 海中の都市でそんな感覚、ちょっと不思議だがそういうもんだと勝手に納得しておく。

 自分の属性が闇だからかなんなのか、やたらと夜に鋭敏になった気がする。

 だがもはやおれの行動と、夜が絡むことに意識を割くのはやめよう。

 それは良くないことだ・・・主におれの精神衛生上。


 王城を縦に二分する滝、その滝つぼを望める位置まで辿り着く。

 本当に『群体レギオン』が切り札だったのか・・・?と思わせるような、散発的抵抗を蹴散らしつつだ。

 実際、おれはほとんど何もしていなかった。

 目の端に掛かる敵勢は、イアネメリラが無造作に放つ魔力塊が、オーゾルの全方位に散らばる圧縮された水の刃が、シルキーが角から繰り出す雷が、まともな身動き一つさせないまま打ち倒していたからだ。

 もちろん伏兵も居たんだろうが・・・それらは全て、フェアラートがカードに変えた。

 アフィナ?聞くな・・・感じろ。

 ヒントは斜線を背負った後ろ姿だ。

 まぁ、ご想像の通りだとだけ言っておく。


 それはさておき。  


 「なるほどな・・・。確かにフェアラートの言った通りだ。」


 そこは明らかに異質な空気を放っていた。

 遥か高み、天上から打ち付けるような滂沱の落水。

 その滝面に紫に光る魔方陣。

 これじゃあ「私、ここに居ますよ!」って叫んでいるようなもの。

 余りにもあからさまな結界に、おれは再度マドカの正気を疑った。

 フェアラートがおれのすぐ脇、影から姿を現し一つ頷く。

 

 「主様、やはりここ以外で違和感を感じた場所は、みな浄化されていました。」

 

 「ふむ・・・。」


 相槌を打ちつつ考える。

 見る感じ、目の前の魔方陣は単純な結界としか思えない。

 『残響エコー』で増幅された、リューネの浄化『神曲』を耐え切れるのだから、結構な硬度はあるんだろう。

 押し通るにはそれなりの力、主に魔力の類でその防御力を上回る必要がある。

 しかし、言ってしまえばそれだけ。

 複数人で直接攻撃魔法を叩き込めば・・・或いは『朱のハンズ・オブ・ヴァーミリオン』辺りをかけて、「なんちゃって発剄」でもすれば、きっとイケる気がする。


 だからこそ懸念が拭えない。

 ここまで追い詰められて、ちょっと硬いだけの壁に身を隠すだろうか。

 

 (あのマドカが・・・?)


 思い浮かぶのは「罠」と言う言葉。

 それも当然あり得るのだろうが・・・どうも釈然としない。

 

 (考えても答えが出ない・・・か。)


 とりあえず、普通に殴ってみようかな?

 そんな思考に囚われる。

 イアネメリラが音も無くおれの後ろ斜め上、定位置に移動し問いかけてきた。


 「ますたぁ?魔力かなり使えば、普通に解除できると思うけど・・・する~?」


 イアネメリラなら、力押しの必要すら無いらしい。

 いや、かなり魔力は使うって言ったから力押しは力押しなんだろうが。

 でも彼女、「普通に」って言いましたよ。

 ええい、英雄な堕天使は化け物か!?

 待ってくれ、違うんだメリラさん。

 本気で化け物なんて思ってないよ・・・ちょっと秋広のウイルスが顔を出しただけでね?

 だからにっこり笑顔で、背中に「ゴゴゴ」を背負うのを辞めようか。

 まずおれの心を読むのを辞めようか。

 なんでうちの女性陣は、おれの心を読むんですかね?


 おれが、自身の守護者である美貌の堕天使から受ける攻撃、笑顔の圧力に身を竦ませていると、滝つぼに変化が起きた。

 最初はコポコポと小さな気泡。

 そして、滝つぼから水が噴き上がる。

 噴き上がった水流は中空で静止し、まるで台座のように固定された。

 その上に人影が二つ並び立つ。

 いや、並び座る。

 水流の台座に仲良く女の子座りで鎮座するのは・・・。

 鮮やかな緑の髪とマリンブルーの瞳、淡い緑光を放つ魚体の下半身、半人半魚の美少女と美幼女。

 歳の離れた姉妹のようにも見えるその二人は、この国の元王女と現女王だ。


 「殿下!」「お兄様ー!」


 二人はおれの姿を見止め、一斉に声を上げた。


 

 ■



 「お前ら・・・どうして?」


 二人は国の外側から、街の浄化に勤しんでいたはずなのだが。

 そんなおれの考えを察したのか、リューネが満面の笑みを浮かべ、水の台座からこちらへ向かってダイブした。

 慌てて受け止め、首元に縋りつく彼女の真意を確かめる。

 

 「やっと追いつけましたわ!お兄様?浄化できていないのは、もうここだけなんですの!それと、オーディア様の神殿に入られるなら、人魚の力が必要ですのよ?」


 (まじか・・・マドカ涙目だな。)


 おれの腕の中、悪戯っぽく微笑む幼女。

 目覚めた時抱いてたからとは言え、ずいぶんと懐かれたもんだ。

 これが刷り込みか?

 ・・・とぼけるのはやめよう。

 その行動は幼女然としていながら、明確にこの後の事を示唆していた。

 つまり、「自分も連れて行け。」と・・・。


 (しかしな・・・いくら浄化の力がすごくても、まだ八歳の幼女だ。)


 それがあったればこそ、あえて後方支援に回し、その護衛にヴィリスを付けた。

 二人とも意味はわかっていると思っていたんだが。

 おれが否の言葉を発する前に、女王な幼女は目を伏せ語る。


 「わたくしは逃げることしかできませんでしたわ。今だって・・・純粋な戦闘力で言ったら皆様の足元にも及びません。連れて行って頂いても足手まといでしょう。でも、事が終わるまで安全な場所で隠れているのは、違うと思うのです。」


 彼女はおれの意図も、案じる気持ちもはっきり理解していた。

 その上での行動だった。


 「殿下、それに・・・決着はこの国の者が、着けなければいけません。」


 次いで言葉を発したヴィリスは、いつものお豆腐メンタルの片鱗も感じさせない、真摯な眼差しを向けて来ていた。

 イアネメリラが万感の思いを込め、ボソリと呟く。


 「ますたぁ・・・。」


 (この世界の住人は強いな・・・。)


 戦闘力のことじゃないぞ・・・その生き様だ。

 マドカ、お前わかってるか?

 これが若干八歳の幼女、この国の女王が見せる覚悟だぞ?


 「お兄様はカードも、魔力も残してくださいまし。この結界はわたくしたちが!」


 賢いリューネはわかっていたんだろう。

 或いはヴィリスから聞いていたのか。

 いっそ凶悪とすら言えるようなおれの力、その大元が手札次第であること。

 そして諸悪の根源、『略奪者プランダー』のマドカと決戦前に、その手札を減らすことの危険性。


 おれは黙って頷き、リューネを優しく水辺へ返す。

 するりと水中に潜った彼女は、一瞬でヴィリスの隣に移動すると、「オーゾル、手伝って下さいまし!」と、この国の忠臣に声をかけた。

 成り行きを呆然と見守っていたおっさんは、すぐにその表情を改めいつもの調子を取り戻す。


 「Yes!ロリータ!No!タッチ!」


 おい!その返事はどうかと思うぞ!

 台無しにもほどがある。


 ヴィリスが三叉槍トライデントを振り、空中に魔法文字を描く。

 リューネが凛と、その美声を響き渡らせ、魔法文字に力を与える。

 オーゾルは胸の前で手を合わせ、意識を集中させていた。

 ゆっくりと閉じた掌を開いていく。


 「いやはや、ローレン様が居れば一瞬なんですがな?」


 ぐぬぬ・・・と言った表情、そんなことを呟きながら魔力を練り上げ、掌の間に水の塊・・・塊は徐々に一本の長剣に変化する。


 オーゾルの動きを確認していたヴィリスが、魔法文字を魔方陣に向けて解き放った。

 緑の輝きを灯す魔法文字が、滝面に広がる紫の魔方陣の端から接触。

 拮抗すらしない。

 触れた先から蝕むように、要となる主要な部分からドンドン光を消していく。

 もはや完全に流麗な長剣と化した水塊、その剣を正眼に構えたオーゾル。

 ゆっくりと振りかぶり、頭上でピタリと止める。

 ちょっとでも魔法の素養があるなら、誰が見てもわかる。

 高濃度の魔力がオーゾルの身体から立ち昇っていく。


 「セイ殿!例え結界を破っても、この滝がある以上損耗は必須なのですぞ!しかし・・・リューネ様とヴィリス様、そしてこのオーゾルが居れば!」


 そこまで一気に言い切って、オーゾルの携えた剣へ魔力が集束する。

 集束された魔力が、リューネの歌声で更に強化され輝いた。


 「行きますぞ!奥義『フラッド・パニッシャー』!」


 その一撃は、まさに奥義と言うに相応しい。

 膨大な量の青と緑に輝く魔力光が、紫の魔方陣をあっさりと断ち切り霧散させる。

 それだけじゃない。

 魔方陣を砕いた剣閃は、そのまま滝にぶち当たり、その流れを逆行するように上空へ向けて切り裂いて行く。

 滝が・・・真っ二つだった。

 どことなくヴィリスの専属魔法『海閃』に似ているが、それとはまた違う技だな。


 「殿下!今です!」


 ヴィリスの叫びに目をやれば、滝の裏側に明らかに人工物だとわかる、石造りの回廊が口を開けていた。

 回廊へ向け、走り出したおれたちの足元を掬う水流。

 その流れに絡み取られ、抗う間も無く運ばれる。

 全員が無事着地。

 いや、若干一名・・・盛大にお尻から着地してる奴が居るが。

 聞くな・・・感じろ。



 ■



 先へ進む。

 そこは不思議な場所だった。

 ちょうど運河のように、回廊の真ん中を水路が走る。

 おれたちと並走するように泳ぐ二人の人魚を見れば、その水路の用途が自ずと理解できた。


 いつのまにか、おれの影と同化していたフェアラート。

 「主様、居ます。」と短く耳打ちし、また影の中へ姿を隠す。


 所謂神様サイズ。

 全高3mを下らない荘厳な扉の前、そいつは座って待っていた。

 白いローブに陰気なドクロ面。

 仮面の奥からでもわかる、はっきりとした憎悪の眼差し。

 そして・・・そいつが座っているのもドクロの上。

 但し巨大、1mはあるだろう巨大な頭蓋は宙に浮き、本来瞳が収まるべき穴には、無数の蛇が蠢いていた。


 「なぜ貴様がここに居るんだ『悪魔デビル』!カスロの船は潰したはず・・・いや、それは良い。どこまでも邪魔な偽善者よ・・・頼むから消えてくれ!」


 吐き捨てるように、どこか懇願するように叫ぶ男。

 認識していればわかる。

 確かに『地球』の知人、『デス』のマドカだ。


 (なるほどね・・・こいつは、カスロでおれたちを撒けたと思ってた訳だ。)


 これまで奴が晒した不可解な行動、多少なりとも合致する。

 

 「貴様には・・・貴様には、関係無いだろう『悪魔デビル』!」

 

 仲間たちが誰一人言葉を発しない中、一人の男が絶叫する。

 おれはため息一つ、腰だめに拳を構え宣言した。


 「関係無くねーんだよ、円谷翔太つぶらやしょうた・・・いいや、『デス』のマドカって言った方が良いか?」





ここまでお読み頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。


※次回決戦(予定)!!!

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