・第百五十四話 『フラッド・パニッシャー』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、最初に断っておく。
兄貴は別に狙っていない。
本人の意思では無いにしろ、色々と思うところはあるんだ。
毎度毎度、王城へGO!主に「のりこめー!」的ノリで・・・とか。
それも大抵夜ですよね?つまり夜襲?賊ですか?・・・とか。
障害は殴って壊す、ドア、扉、門、開け方知らないんですか?・・・とか。
まさに「破壊王」さながら、むしろ野党の類じゃないかorz
美祈!君ならわかってくれるよな・・・おれは平和的にだな・・・。
「でも、自分で借り物って言った船で、体当たりしたよね?」
おいアフィナ!お前にだけは言われたくないぞ!
とりあえずお前は、この国の大工さんたちに謝れ!あと放火した家に住んでた人たちにも!
え?魔方陣の結界だぁ?
そりゃあ・・・殴って壊すだろ?
■
辺りに夜の帳が迫っている。
海中の都市でそんな感覚、ちょっと不思議だがそういうもんだと勝手に納得しておく。
自分の属性が闇だからかなんなのか、やたらと夜に鋭敏になった気がする。
だがもはやおれの行動と、夜が絡むことに意識を割くのはやめよう。
それは良くないことだ・・・主におれの精神衛生上。
王城を縦に二分する滝、その滝つぼを望める位置まで辿り着く。
本当に『群体』が切り札だったのか・・・?と思わせるような、散発的抵抗を蹴散らしつつだ。
実際、おれはほとんど何もしていなかった。
目の端に掛かる敵勢は、イアネメリラが無造作に放つ魔力塊が、オーゾルの全方位に散らばる圧縮された水の刃が、シルキーが角から繰り出す雷が、まともな身動き一つさせないまま打ち倒していたからだ。
もちろん伏兵も居たんだろうが・・・それらは全て、フェアラートがカードに変えた。
アフィナ?聞くな・・・感じろ。
ヒントは斜線を背負った後ろ姿だ。
まぁ、ご想像の通りだとだけ言っておく。
それはさておき。
「なるほどな・・・。確かにフェアラートの言った通りだ。」
そこは明らかに異質な空気を放っていた。
遥か高み、天上から打ち付けるような滂沱の落水。
その滝面に紫に光る魔方陣。
これじゃあ「私、ここに居ますよ!」って叫んでいるようなもの。
余りにもあからさまな結界に、おれは再度マドカの正気を疑った。
フェアラートがおれのすぐ脇、影から姿を現し一つ頷く。
「主様、やはりここ以外で違和感を感じた場所は、みな浄化されていました。」
「ふむ・・・。」
相槌を打ちつつ考える。
見る感じ、目の前の魔方陣は単純な結界としか思えない。
『残響』で増幅された、リューネの浄化『神曲』を耐え切れるのだから、結構な硬度はあるんだろう。
押し通るにはそれなりの力、主に魔力の類でその防御力を上回る必要がある。
しかし、言ってしまえばそれだけ。
複数人で直接攻撃魔法を叩き込めば・・・或いは『朱の掌』辺りをかけて、「なんちゃって発剄」でもすれば、きっとイケる気がする。
だからこそ懸念が拭えない。
ここまで追い詰められて、ちょっと硬いだけの壁に身を隠すだろうか。
(あのマドカが・・・?)
思い浮かぶのは「罠」と言う言葉。
それも当然あり得るのだろうが・・・どうも釈然としない。
(考えても答えが出ない・・・か。)
とりあえず、普通に殴ってみようかな?
そんな思考に囚われる。
イアネメリラが音も無くおれの後ろ斜め上、定位置に移動し問いかけてきた。
「ますたぁ?魔力かなり使えば、普通に解除できると思うけど・・・する~?」
イアネメリラなら、力押しの必要すら無いらしい。
いや、かなり魔力は使うって言ったから力押しは力押しなんだろうが。
でも彼女、「普通に」って言いましたよ。
ええい、英雄な堕天使は化け物か!?
待ってくれ、違うんだメリラさん。
本気で化け物なんて思ってないよ・・・ちょっと秋広のウイルスが顔を出しただけでね?
だからにっこり笑顔で、背中に「ゴゴゴ」を背負うのを辞めようか。
まずおれの心を読むのを辞めようか。
なんでうちの女性陣は、おれの心を読むんですかね?
おれが、自身の守護者である美貌の堕天使から受ける攻撃、笑顔の圧力に身を竦ませていると、滝つぼに変化が起きた。
最初はコポコポと小さな気泡。
そして、滝つぼから水が噴き上がる。
噴き上がった水流は中空で静止し、まるで台座のように固定された。
その上に人影が二つ並び立つ。
いや、並び座る。
水流の台座に仲良く女の子座りで鎮座するのは・・・。
鮮やかな緑の髪とマリンブルーの瞳、淡い緑光を放つ魚体の下半身、半人半魚の美少女と美幼女。
歳の離れた姉妹のようにも見えるその二人は、この国の元王女と現女王だ。
「殿下!」「お兄様ー!」
二人はおれの姿を見止め、一斉に声を上げた。
■
「お前ら・・・どうして?」
二人は国の外側から、街の浄化に勤しんでいたはずなのだが。
そんなおれの考えを察したのか、リューネが満面の笑みを浮かべ、水の台座からこちらへ向かってダイブした。
慌てて受け止め、首元に縋りつく彼女の真意を確かめる。
「やっと追いつけましたわ!お兄様?浄化できていないのは、もうここだけなんですの!それと、オーディア様の神殿に入られるなら、人魚の力が必要ですのよ?」
(まじか・・・マドカ涙目だな。)
おれの腕の中、悪戯っぽく微笑む幼女。
目覚めた時抱いてたからとは言え、ずいぶんと懐かれたもんだ。
これが刷り込みか?
・・・とぼけるのはやめよう。
その行動は幼女然としていながら、明確にこの後の事を示唆していた。
つまり、「自分も連れて行け。」と・・・。
(しかしな・・・いくら浄化の力がすごくても、まだ八歳の幼女だ。)
それがあったればこそ、あえて後方支援に回し、その護衛にヴィリスを付けた。
二人とも意味はわかっていると思っていたんだが。
おれが否の言葉を発する前に、女王な幼女は目を伏せ語る。
「わたくしは逃げることしかできませんでしたわ。今だって・・・純粋な戦闘力で言ったら皆様の足元にも及びません。連れて行って頂いても足手まといでしょう。でも、事が終わるまで安全な場所で隠れているのは、違うと思うのです。」
彼女はおれの意図も、案じる気持ちもはっきり理解していた。
その上での行動だった。
「殿下、それに・・・決着はこの国の者が、着けなければいけません。」
次いで言葉を発したヴィリスは、いつものお豆腐メンタルの片鱗も感じさせない、真摯な眼差しを向けて来ていた。
イアネメリラが万感の思いを込め、ボソリと呟く。
「ますたぁ・・・。」
(この世界の住人は強いな・・・。)
戦闘力のことじゃないぞ・・・その生き様だ。
マドカ、お前わかってるか?
これが若干八歳の幼女、この国の女王が見せる覚悟だぞ?
「お兄様はカードも、魔力も残してくださいまし。この結界はわたくしたちが!」
賢いリューネはわかっていたんだろう。
或いはヴィリスから聞いていたのか。
いっそ凶悪とすら言えるようなおれの力、その大元が手札次第であること。
そして諸悪の根源、『略奪者』のマドカと決戦前に、その手札を減らすことの危険性。
おれは黙って頷き、リューネを優しく水辺へ返す。
するりと水中に潜った彼女は、一瞬でヴィリスの隣に移動すると、「オーゾル、手伝って下さいまし!」と、この国の忠臣に声をかけた。
成り行きを呆然と見守っていたおっさんは、すぐにその表情を改めいつもの調子を取り戻す。
「Yes!ロリータ!No!タッチ!」
おい!その返事はどうかと思うぞ!
台無しにもほどがある。
ヴィリスが三叉槍を振り、空中に魔法文字を描く。
リューネが凛と、その美声を響き渡らせ、魔法文字に力を与える。
オーゾルは胸の前で手を合わせ、意識を集中させていた。
ゆっくりと閉じた掌を開いていく。
「いやはや、ローレン様が居れば一瞬なんですがな?」
ぐぬぬ・・・と言った表情、そんなことを呟きながら魔力を練り上げ、掌の間に水の塊・・・塊は徐々に一本の長剣に変化する。
オーゾルの動きを確認していたヴィリスが、魔法文字を魔方陣に向けて解き放った。
緑の輝きを灯す魔法文字が、滝面に広がる紫の魔方陣の端から接触。
拮抗すらしない。
触れた先から蝕むように、要となる主要な部分からドンドン光を消していく。
もはや完全に流麗な長剣と化した水塊、その剣を正眼に構えたオーゾル。
ゆっくりと振りかぶり、頭上でピタリと止める。
ちょっとでも魔法の素養があるなら、誰が見てもわかる。
高濃度の魔力がオーゾルの身体から立ち昇っていく。
「セイ殿!例え結界を破っても、この滝がある以上損耗は必須なのですぞ!しかし・・・リューネ様とヴィリス様、そしてこのオーゾルが居れば!」
そこまで一気に言い切って、オーゾルの携えた剣へ魔力が集束する。
集束された魔力が、リューネの歌声で更に強化され輝いた。
「行きますぞ!奥義『フラッド・パニッシャー』!」
その一撃は、まさに奥義と言うに相応しい。
膨大な量の青と緑に輝く魔力光が、紫の魔方陣をあっさりと断ち切り霧散させる。
それだけじゃない。
魔方陣を砕いた剣閃は、そのまま滝にぶち当たり、その流れを逆行するように上空へ向けて切り裂いて行く。
滝が・・・真っ二つだった。
どことなくヴィリスの専属魔法『海閃』に似ているが、それとはまた違う技だな。
「殿下!今です!」
ヴィリスの叫びに目をやれば、滝の裏側に明らかに人工物だとわかる、石造りの回廊が口を開けていた。
回廊へ向け、走り出したおれたちの足元を掬う水流。
その流れに絡み取られ、抗う間も無く運ばれる。
全員が無事着地。
いや、若干一名・・・盛大にお尻から着地してる奴が居るが。
聞くな・・・感じろ。
■
先へ進む。
そこは不思議な場所だった。
ちょうど運河のように、回廊の真ん中を水路が走る。
おれたちと並走するように泳ぐ二人の人魚を見れば、その水路の用途が自ずと理解できた。
いつのまにか、おれの影と同化していたフェアラート。
「主様、居ます。」と短く耳打ちし、また影の中へ姿を隠す。
所謂神様サイズ。
全高3mを下らない荘厳な扉の前、そいつは座って待っていた。
白いローブに陰気なドクロ面。
仮面の奥からでもわかる、はっきりとした憎悪の眼差し。
そして・・・そいつが座っているのもドクロの上。
但し巨大、1mはあるだろう巨大な頭蓋は宙に浮き、本来瞳が収まるべき穴には、無数の蛇が蠢いていた。
「なぜ貴様がここに居るんだ『悪魔』!カスロの船は潰したはず・・・いや、それは良い。どこまでも邪魔な偽善者よ・・・頼むから消えてくれ!」
吐き捨てるように、どこか懇願するように叫ぶ男。
認識していればわかる。
確かに『地球』の知人、『死』のマドカだ。
(なるほどね・・・こいつは、カスロでおれたちを撒けたと思ってた訳だ。)
これまで奴が晒した不可解な行動、多少なりとも合致する。
「貴様には・・・貴様には、関係無いだろう『悪魔』!」
仲間たちが誰一人言葉を発しない中、一人の男が絶叫する。
おれはため息一つ、腰だめに拳を構え宣言した。
「関係無くねーんだよ、円谷翔太・・・いいや、『死』のマドカって言った方が良いか?」
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※次回決戦(予定)!!!