・第百五十三話 『群体(レギオン)』
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異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、いっそ感慨深い物があるよ。
兄貴もこんな所で、『地球』の悪癖と遭遇するとは思わなかった。
それはよくあること、お約束とも言われる行い。
追い詰められた悪役、特に戦隊物ヒーローの幹部とかがやるアレだ。
「怪人Aがヒーローに倒されちゃったー!」
「どうする!?そうだ巨大化だ!」
恐ろしいまでの短絡思考と、謎の悪者パワーが合わさって、怪人Aは見る間に巨大化する。
だがそれは逆にヒーローたちの思う壺なんだ。
正義の怒りで合体を果たしたスーパーロボットが、五人・・・または六人がかりの無慈悲な一撃で敵を粉砕。
悪の幹部は「ムッキー!」で、大団円。
最近の流行としては、エンディングでダンスを踊っちゃうって奴。
微妙に脱線したが・・・要はそんなお話。
■
目の前で徐々に姿を定めていく巨塊。
その一つ一つがうぞうぞと蠢いているのを見れば、それがアンデットたちの塊であると理解できるだろう。
ただし、その数が異常。
優に100では効かない・・・それこそ積み上げられた死体の山が、自ら動き出しているような光景に、アフィナが表情を青ざめさせる。
まぁ見ていて気持ちの良いものじゃないしな。
「主様!」「ますたぁ!」
盟友たちが揃って警戒の声を上げ、馬体のシルキーやオーゾルも身体を強張らせる。
「セイ!これは一体何が起きてるの!?」
アフィナが叫ぶのも無理は無い。
おれの様子を伺った彼女は、視線の先で平然としていたおれに疑問をぶつけてくる。
焦りも同様も無いのは当たり前だ。
見た瞬間にその魔法名が浮かんだし、マドカなら使ってもおかしくない。
「まぁ・・・『群体』だな。」
おれは確信を持って告げた。
その魔法名を聞き、大いに得心する盟友二人。
対照的に、他のメンバーは小首を傾げた。
「レギ・・・オン?ですかな?」
反芻したのはオーゾル。
油断無く死体の山をねめつけながら、端目におれを見る。
その顔は雄弁に説明を求めていた。
やっぱりこの世界には無い魔法なのか・・・。
「んー、簡単に説明すると・・・同種族を纏めて、一体の巨大な個体を産み出す魔法ってとこか。」
まさに戦隊物ヒーローに出てくる悪の幹部が行うソレ。
どちらかというと某国民的コンシューマーゲームに出てくる、キングなスライムとかに近いかもしれない。
そのサイズや能力は、素体になった種族の特性と数を色濃く受け継ぐのだが・・・。
実に100体を越える素材から産み出される巨体は、おそらく常軌を逸した物になるだろう。
「しかしセイ殿・・・同種族とは言いますが、あそこには人族やリザードマンなどの獣人、人魚はおろか魔物の類まで見受けられますぞ?」
ああ、そういう風に考えてしまうのか。
普段から体現的に、種族ってものに触れ合っているこの世界の住人。
なればこその考えなんだろうが、この魔法はもっと解釈が大雑把だ。
むしろ今の状況からしてこじつけって行っても良い。
おれはオーゾルの誤解を解く。
「オーゾル、あれは全部アンデットだ。」
「なっ!」
絶句したオーゾルが目を見開く。
理解すれば自ずと伴う懸念、それはつまり・・・。
「セイ殿!あの量のアンデットが合体したら、どれほどの脅威に!?」
「んー、まぁ30mくらいにはなるんじゃないか?」
淡々と告げた推測に、再度言葉を失うオーゾルに代わり、今度はアフィナが噛み付いてくる。
「セイ!?なんでそんなに落ち着いてるの!阻止できないの!?」
おれはそんな二人を「まぁ落ち着け。」と宥め、合体が終わるまでは傍観することを告げる。
正確には傍観では無いのだが、カード一枚で事足りる。
むしろこのタイミングで『群体』とか、マドカの正気を疑わざるおえない。
本気でこんな物で、足止めできるとでも思ったのだろうか。
おれがヒーローの変身を見守る悪役よろしく、大人しく合体完了を待っているとでも?
ぶっちゃけ放置で進んでも良いのだが、死体の脇を駆け抜けるのもなんだか気分が悪いし、後ろから追いかけられるのも趣味じゃない。
おれは『魔導書』を展開、三枚のカードから一枚を選択。
静かにその魔法を発動した。
■
『追放』
魔法名を聞いた途端、フェアラートが微かに眉を顰め、イアネメリラが「うわぁ、えげつない~。」と妙に嬉しそうに呟く。
他のメンバーは初耳の魔法だったのだろう。
どうやらこの魔法も『地球』独自の物らしい。
一様に顔を見合わせ、次いでおれの顔色を伺う。
おれが唱えた魔法名と共に、『群体』で合体しつつある巨大アンデットの下に、その巨体をまるまる覆い尽くす魔法陣が形成される。
淡い紫の光を放つその魔方陣は、すぐに大地に溶け込んだ。
それだけ・・・。
目立ったことは何一つ起こらない。
「何を・・・されたのですかな?」
「まぁ見てろ。」
徐々にその異容を形どるアンデットの群れ。
おそらくは巨大な人型、30m級のオーガのような物になるんじゃないか?
そんなことを思わせるその巨体に、アフィナとシルキーも不安気な視線を向けてくる。
(意外と信用無いのか?)
だとしたら結構傷つくぞ。
もう対処は終わってるんだが・・・。
あんたたち見なさい!フェアラートとイアネメリラの落ち着き払った・・・と言うか、いっそ敵を哀れむかのような視線を。
待つこと数秒、途中から一気に形状を整えた『群体』は、見守るおれたちに向けて動き出し、立ち上がろうと足を大地に踏ん張った。
瞬間、先ほどと同じサイズの魔方陣が現れ、赤く発光する。
今まで確かな足場を形成していた地面が、『群体』が足を着いた瞬間に、底も見えない縦穴に変わり・・・。
そして巨体は、一歩も踏み出せることなく・・・落ちた。
敵を飲み込んだ無慈悲な虚穴は、何事も無かったかのように元の地面に戻っていく。
全てはトラップ魔法、『追放』の効果。
本来なら設置型で、対象を追い込む必要のあるそれが、目の前で合体中などという馬鹿げた隙を晒してくれたおかげで、人型を取ると同時に発動した。
むしろバラバラで向かわせて来られた方が、よっぽどだるかった。
ある意味土葬・・・いや、時空の穴にぶっとばす魔法だから時空葬?
そこで思い至る。
(やっべ!これカード回収できないんじゃ・・・。)
この世界の住人であった哀れなアンデットたち。
問答無用で時空の穴に落っことしたが、せめてカードを回収・・・引いては『カードの女神』の作る輪廻の輪に戻してやるべきだった。
それに気付き一瞬の後悔と、即座に諦念を覚える。
(まぁ・・・やっちまったもんは仕方ねーか・・・。)
しかしその憂いを払拭するように、先ほど『追放』を発動した地面から、無数のカードが浮かび上がり、おれの眼前に集まってくる。
どうやらおれが倒したという形に認識されているらしい。
おれは黙って右掌をかざす。
問題無く手に収まるカードを、全て『図書館』へと収納する。
いやー、良かった。(遠い目
そんな光景を見ていた面々、一様に渋面を作っていた。
いかにも何か言いたそうな表情に、おれも憮然とする。
「身も蓋も・・・。」
「・・・うん、いくら敵でもこれはひどいと思うな?」
「・・・ブルルン。」
オーゾルにアフィナ、果ては『一角馬』モードのシルキーまでもが苦言を呈す。
シルキーは馬?語だからわからないけどな。
どうせ碌な事は言ってない。
やめろシルキー、睨むな!心を読むな!
イアネメリラとフェアラートはどこ吹く風。
一連の騒動は無かったことにするらしい。
「知るか。相手の都合に合わせてやる必要がどこにある?」
おれはため息混じり吐き捨てた。
そして状況を再確認。
王城までの道は、一気に開けていた。
今や『汚染』で汚された滝すらも、完全にその様相を変えている。
元を見たことが無いからなんとも言えないが、おそらくはこれが正常な色なんだろうと言う、清廉な水色。
上空を仰ぎ見れば、結界も淡い緑・・・人魚たちの鱗から零れる燐光と同色のそれになっていた。
少々納得がいかない。
『群体』・・・確かにそれなりに強力な一手なんだろう。
少なくとも相手が空気を読んで、真向勝負をしてくれるのならばだが。
しかし、あんなのがマドカの切り札だったのだろうか?
漠然とした違和感、まだなにかしらの転機はあるはずだ。
おれは仲間たちを見回し、「行くぞ。」と一言。
王城を二つに分かつ滝を見据え、走り出す。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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※お腹空きましたー!
帰って来て食事も取らずに執筆がんばった作者に、どなたか愛の手をー!
あ!やめて!石を投げないでください!
ちょっと短めでした、サーセンorz