・第百五十二話 『突然の死(サドンデス)』
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実に大型の港。
おれたちが降り立った船着場と言うには少々物々しすぎるその場所へ、あちらこちらから結集しつつあるゾンビーな皆さん。
別にこの街の全てが飲み込まれた訳でも無いのだろうが、パッと見まともな生物が見受けられないのはどうしたもんか。
正常な人たち、生き残りは一体どこに隠れているのだろう?
願わくば隠れ、逃げおおせて欲しい物だ。
おれたちの認識以上に事態は切迫しているのかもしれない。
おれには浄化の力なんて無いし、障害を排除した後はリューネに任せるしかない。
いや、その頃になればもしかしたら竜兵も合流してくれるかもな。
そうすれば『聖水竜帝』だって居るし、バイアやアリアムエイダがその知恵を絞ってくれるはず。
楽観的かもしれないが、そのためにもおれの行動が鍵になる。
つまりは敵・・・引いてはその首魁であるマドカの排除だ。
「フェアラート、マドカが潜んでいそうなのは王城か?」
「そうです主様。それもおそらくは滝奥、『平穏の神』オーディアの神殿の方でしょう。」
(まぁ・・・そうだろうな。)
当然予測していたことだ。
『汚染』を効果的に使うためにも、この街に一番影響が大きいであろう滝に、なにかしら細工をしていただろうことは想像に難くない。
誰しも考えうること、その上でフェアラートが侵入を戸惑う要因があったとするなら、それは暗に答えを自分で晒しているような物だ。
あの冷静・・・と言うか、保険マニアなマドカらしくもない初歩的なミス。
違うか・・・そう考えさせて罠をしかけてるって可能性も・・・。
よそう、これ以上は堂々巡りだ。
油断は出来ないが、あいつの企みは悉く潰されているはず。
こちら以上に余裕が無いってことも十分にありえるんだ。
結局おれができるのは、王城=乗り込む、ボス=殴る。
この二つって寸法で・・・。
どこの国に行っても、毎度王城乗り込めーとか・・・自分でも正直どうかとは思うんだけどな。
話が平和的に推移しないのだから仕方ない。
おれのせいじゃない、たぶん、おそらく、きっと。
まぁ目的もはっきりしているし、なるようになるだろう。
それはともかく。
まずは目の前の有象無象をどうするかだ。
大層な数には見えるが、正直こんなの敵じゃないぞ。
おれの盟友である二人の英雄、イアネメリラとフェアラートはもちろんのこと、仲間たち・・・この世界の住人で称号持ちなメンバーも準備とやる気は万端。
おれとしてはむしろ、意思持たぬ骸たちを哀れむことしかできない。
真っ先に船から下りたおれに続き、仲間たちが順に続く。
不意打ちでもすればいいものを、ヒーローの変身を待つ戦闘員よろしく、律儀におれたちを遠巻きに囲むだけだ。
「ますたぁ、指示を~。」
背後から戦場には似つかわしくない、美貌の堕天使が甘ったるい声を上げる。
「目標は王城、纏まって進むぞ。おれが正面、オーゾルが左、アフィナとシルキーで右だ。」
「このオーゾルにお任せあれですぞ!」「わかった!」「はい!」
まずはこの世界の住人達へ、オーゾルはまだしもアフィナ、シルキーをバラバラにするのは危険に思えた。
今までもずいぶん長いこと一緒に居たんだ。
二人揃ってなら、ある程度なんとかなるだろう。
最悪おれがフォローすればいい。
「メリラは中央から全員のフォロー、フェアラートは遊撃だ。障害は蹴散らす!」
「「了解!」」
次いでイアネメリラとフェアラート。
振り返りもせずに告げた命令に、盟友から了承の返事が返ってくる。
フェアラートには枷をはめない方が良い。
そう思って出した指示だが、アフィナは未だ彼に信が置けないのか、探るような視線をおれに向けてきた。
思ったより根が深いようだ。
フェアラートも良くやってくれているとは思うが、こればっかりは最初の印象が最悪すぎたな。
だが、今は彼女の感情に構っている場合じゃない。
おれは気付かぬ振りをしつつ、『魔導書』を展開した。
目の前に浮かび上がる、A4のコピー用紙サイズ、五枚のカード。
一枚のカードを選択、回避率強化魔法『朧』を発動。
おれの背中から闇色のマントがはためき、その全体像がぶれる。
さっと敵影を確認。
おれたちがすでに動き出していると言うのに、未だ目立った動きは無い。
きっと、「ある一定域よりも接近する者を攻撃せよ。」とかって、単純な命令しか受けていないのだろう。
これが意思持たぬ人形、アンデットの限界か。
(いや、待てよ・・・。)
カスロでは会話するアンデットも居たんだよな?
ってことは、ここに居るのは盟友じゃなく、あくまでも『死屍累々(コープスフェスティバル)』の副産物・・・。
そこに思い至り、一石投じてみることにする。
「全員、合図したら跳べ!」
更に一枚を選択。
おれは魔法カードをイアネメリラに渡す。
普段なら魔法名だけで即時発動するそれを、テキストに書き添えられた正確な詠唱でもって強化する堕天使。
その手に構えたカードが赤く発光するのを見て、おれは叫んだ。
「跳べっ!」
■
中空に浮かぶイアネメリラ以外、おれを含めた仲間たちが全員ジャンプするのと、彼女が魔法を放つのは同時。
「『熱波』の召喚!」
一瞬にして光の粒子に転じたカードが、逆巻く炎の波を生み出し、舗装された石畳を滑るように舐めた。
仮初めの命で動く哀れな骸の群れが、一瞬で炎に包まれる。
『熱波』・・・地面に足を付けている者を、敵味方問わず炎に包む攻撃魔法。
魔法使いの特性も持つイアネメリラが唱えたことで、本来なら上級魔法のそれが、古代級の凶暴性を持って襲い掛かった。
腐肉の焼ける不快な匂いを辺りに広げ、人型が訳もわからず崩れていく。
おれの言葉を理解できている者が相手に居れば、結果はこうはならなかっただろう。
効果はエリアだ。
フィールドよりも狭い以上、瞬間的な効果は重畳だが恒久の物じゃない。
現に奥からおかわりの姿も垣間見える。
おれたちは即座に走り出す。
飛び上がった姿勢から一瞬で本来の姿、『一角馬』へと転じたシルキーが、ご挨拶代わりとでも言うように『浄化の雷』を放つ。
奥から迫りつつあった死兵が雷に貫かれ、その個体を中心に雷が四散。
周囲のゾンビを巻き込みながら、光の粒子に転じていく。
「ますたぁ、斜め右が少し手薄みたい~。」
イアネメリラは少し高めに飛び敵陣を見回すと、包囲が薄い箇所を報告する。
「わかった、全員さっき言った陣形で進むぞ!」
おれの言葉を聞き、フェアラートが影に潜り込む。
他のメンバーはそれぞれの攻撃手段を構えながら、おれを一番先頭に据えた三角形の陣形で侵攻を始めた。
アフィナが今まで見せたことも無いようなサイズの火球を作り出し、前方へ向けて繰り出す。
どうも風属性でブーストでもかけているような?
(カオスに『傀儡』されてた時に、なんかコツでも掴んだのか?)
『愚者の王』カオス・・・度し難い変態だがたまには役に立つこともあるようだ。
むしろ火属性ならプレズントから影響を受けるべきだろう?
いや待て、放火魔二世とかマジで笑えない。
おれが自身の盟友の事で、益体も無いことを考えている間に火球が着弾。
キュドッ!ゴバァ!
職人が丹精込めて作ったであろう精巧な石畳と街壁を、容易く粉砕・・・瓦礫へと変える。
「あやっ!?」
アフィナが素っ頓狂な声を出す。
それもそのはず。
火球の着弾点には敵影無し・・・ただの破壊活動である。
「ぬおっ!?アフィナ殿!あまり街を破壊してくださるなっ!」
オーゾルが慌てて水球を放ち消火、おれもジト目を向けざるおえない。
「つ、次ははずさないからっ!」などと叫び、アフィナが放った大型火球が、またもや敵には当たらず家屋を燃やす。
一瞬でも感心したおれがばかだった。
残念は魔法の狙いははずしても、テンプレとフラグをはずさない。
そんな事を走りながらだ。
当然警戒していても気が緩んでしまう。
よせば良いのに、「汚名挽回!」と勇んだアフィナが突出する。
(汚名は返上するものだ、挽回するのは名誉だぞ?)
すぐに呼び戻すべきだった。
ゾンビばかりだと思っていた間に忍び寄る、蜂の一刺し。
それは一番弱そうな所を狙っていた。
「アフィナ!」
「え?」
警告はすでに手遅れ、ポカンとした表情になるハーフエルフの少女に、三本の短剣が迫っていた。
最初の『熱波』をどうやってか回避し、虎視眈々とタイミングを計っていた凶刃。
それは三人の『暗殺者』の投じた一擲だった。
イアネメリラが咄嗟に障壁を張るが、方向が悪い・・・一本しか防げない。
おれも手を伸ばすが叩き落せたのは一つ。
ただの短剣ならまだ良い。
竜兵が作ったブレスレットで弾けてしまうはずだから。
だが、悪いことに防げなかった一本だけ、明らかに様相が違う。
『謎の道具』の効果は未だ復旧していないのだから、おそらくはなにがしかの魔法がかかっている物のはずだ。
そしてその魔法をかけたのはマドカだろう。
闇を纏った短剣の柄頭にぎょろりとした一つ目。
(間違いない!『突然の死』だ!)
かすり傷で盟友を即死させるその魔法に、効果を知っているおれは元より、誰もが悪い未来を想像させられる。
アフィナ本人も避ければ良いのに、なぜかぎゅっと目を瞑ってしまう。
しかし・・・事故も、悲劇も起きなかった。
ギンッ!
アフィナの影から突如現われたスキンヘッドの男が、その手に握る双剣を振るい、あっさりと短剣を弾き落とす。
思わず仲間たちから、ほぅっと息が漏れる。
いつまでも痛みが来ないことを不審に思ったか、アフィナがゆっくりと目を開き、状況を把握して絶句する。
「フェアラート、良くやってくれた。」
おれの謝辞に対しても、その男は「いえ。」と短く答えるのみ。
「少し先行します。」と断り、またもや影に潜るフェアラート。
その直後に隠れていた『暗殺者』三人が、カードになっておれの掌に収まった。
周囲を掃討し、フェアラートが待つ少し開けた場所へ。
アフィナが彼に駆け寄り、ぺこりーっとお辞儀した。
「フェアラートさん、ありがとう!ごめんなさい、ボク誤解してたみたい!」
少し単純すぎるとは思うがな。
相変わらず、「いえ。」と答えるフェアラートの頬が、少しだけ赤いのは照れなのかね。
黙ってりゃアフィナは美少女だしな・・・まぁ良いんじゃないか?
「主様!」
突然フェアラートが叫ぶ。
彼が睨みつける先を見れば、うぞうぞと蠢くちょっとした小山が盛り上がっている所だった。
(なぁるほど・・・そう来たか!)
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※個人的にフェアラート回のつもりです。
作者、美少女も好きですが、おっさんも大好きです!
いえ、そっちの趣味じゃありません。
本当です!