表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
158/266

・第百五十一話 『神曲』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


 異世界からこんにちは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、世界は広いんだな。

 兄貴も正直驚いたぞ。

 物語なんかの設定だとそれも頷けるのだが、実際目の当たりにすると言葉も無いな。

 おれは今まで、ウララより歌が巧い奴に会ったことが無かった。

 しかしだ、本日若干八歳の女王様、彼女のリサイタルに度肝を抜かれたわけだ。

 さすがは『歌鮮姫』、称号に「歌」って入ってるのは伊達じゃないってことか。

 まさに甲乙付けがたし、専門家でもないおれにはどちらがどう優れているとはわからない。

 もちろんそんな彼女の美声でも、あの日のウララの『鎮魂歌』のように、知らずに涙が溢れてくるって事は無かったんだが・・・。

 そう考えると人魚に張り合う美声って、ウララが相当すごいのかもな。

 二人の共通項は何だろうか?

 まさかつるぺ・・・。

 うおっ!?今信じられないほどの寒気が!



 ■



 忘れては居ない。

 いや、本当だ。

 最近自分でも呆けてんじゃないか?って思うことはあるけど、さすがにそう何度もはな。

 おれたち幼馴染の身の振り方にも関係する、今一番重要な案件だ。 


 「リューネ、『回帰』って魔法カードに心当たりは無いか?」


 先ほどおれの妹になった、まだ幼い女王人魚に問いかける。

 彼女はその大きな瞳、マリンブルーを驚愕の色に染め、おれの顔をまじまじと見つめた。


 「お兄様・・・どこでその名をっ!?」


 (やっぱり心当たりがあるのか・・・。)


 おれはその魔法の効果、そしておれたちとの関わりをリューネに説明した。

 彼女は小さく「・・・なるほど。」と呟くと、おもむろに自身のタンクトップのような服の胸に手を突っ込む。

 おいオーゾル!覗き込もうとするな!

 変態が過ぎるおっさんは、女性陣から総攻撃を受け甲板とキスをした。


 「お兄様、これを・・・。」


 リューネが差し出した手に握られた、直径10cmほど銀細工のペンダント。

 シンプルだが雅な装飾に、ヴェリオンの紋章クレスト・・・連なる泡がはっきりと施されたそれは、どうやらロケットのような構造らしく、蓋を開くことで中が確認できるようだ。

 おれは蓋を開け、その中身を確認させてもらう。

 中には大きな真珠が一つ。


 「これは?」


 おれはてっきり、『回帰』のパーツが出てくるのだろうと思っていた。

 首を捻るおれにリューネが語る。


 「わたくしはそれが『回帰』だと聞いております。ただ・・・今はカードではなく、『平穏の神』オーディア様の御力で封印されているとか・・・なんでも世界に影響を及ぼす危険な魔法だと。確かにお兄様のお話を伺うと、とても重要な意味を持つ魔法に感じられますが・・・。」


 (・・・封印?)


 おいおい、神様同士で話が通じ合ってないのかよ?

 セリーヌとオーディアは友好的な関係じゃなかったのかよ。

 しかもクリフォードがセリーヌから受けた神託だと、まるでこの国に『回帰』のパーツがあるのを初めて知ったように語ってたが・・・もしかして作った本人?本神が忘れてんのか?

 うっかりセリーヌの行動に、そこはかとない不安を覚えつつも、おれはリューネに確認する。


 「リューネ、その封印は・・・お前が解けるのか?」


 おれの質問を受け、彼女は切なそうに眉を顰めると、申し訳無さそうに頭を振った。


 「お兄様ごめんなさい。その封印はオーディア様以外解けないかと・・・。」


 デスヨネー。

 そんなこったろうとは思ったけどさ。

 

 「オーディアの神殿は・・・アクアマリンか?」


 「はい。王城の滝の中にその神殿があります。」


 うーん、なんとなく作為を感じるんだが。

 まぁ悩んでも仕方ないな。

 おれがペンダントを返そうとすると、リューネはにっこり微笑み受け取った後、中の真珠だけおれに渡してくる。


 「いいのか?」


 彼女はしっかりと頷き、「もちろんです!」と言った後、「ただ・・・。」と言葉を濁す。


 「お兄様、気をつけて下さいまし。それは何だかとても危険な物に感じます。わたくしが気絶していたのもペンダントに突然、光線が飛んで来たからですのよ?おそらくはその魔法に反応した何かだと思いますの・・・。」


 (いや・・・まて、それって・・・。)


 仲間たちが視線を逸らす。

 おれもこめかみに汗が伝うのを禁じえなかった。


 「セイ殿!もしやそれはっ!?」


 「君は少し黙ってようね~?」


 叫ぶオーゾルを、イアネメリラが即座に鎮圧した。


 「一体どうしたんですの?」


 不安がるリューネに、「いや、なんでもないぞ?」と返し残るメンバーとアイコンタクト。

 さっさと『回帰』が封印された真珠を『カード化』、『図書館ライブラリ』に収納する。

 『カードの女神』の『加護』を目の当たりにし、そちらに気を逸らす王女な幼女にほっと胸を撫で下ろす。

 そう、知らない方が幸せなことも世の中にはあるのだ。



 ■



 おれたちは王都を一望できる岩礁まで戻ってきた。

 眼下に望む、美しく異世界情緒溢れたであろう町並みは、朝方よりもより一層紫の世界にけぶっていた。

 間違いなく『汚染プルート』の効果が進行している。

 最早一刻の余地も無さそうだ。


 それに・・・未だ『妨害チャフ』の効果が切れていない所を見ると、竜兵も相当に苦戦しているのかもしれない。

 頼れる弟分に万が一も無いとは思うが・・・正直心配だな。


 「・・・そんな・・・!」


 リューネが目を見開き、おれの法衣の裾をぎゅっと握る。

 おれは彼女の頭をポンと一つ撫で、「できるか?」と優しく問いかけた。

 リューネは決然とした表情でおれを見上げ、「はい!お兄様!」と返事を返す。

 そして音も無く甲板を跳ね、海中へ身を躍らせる。


 「魔導書グリモア


 (よし、引いてるな。)


 おれの周りに浮かぶ、A4のコピー用紙サイズ、六枚のカード。

 一枚を選択、強化魔法を発動する。

 その魔法は『残響エコー』。

 ウララがコンサートの時に使用していた詠唱強化魔法だ。

 おれも一枚だけ組み込んであり、それを当たり前のように引いてきている。


 本来の効果は、効果時間中に唱えた魔法効果が1.5倍になるっていう代物なのだが、どうも歌に対してマイクのような効果を及ぼすらしい。

 リューネの『特技スキル』で街を浄化、『汚染プルート』を払拭するなら、きっと役に立つはずだ。 

 おれの強化魔法を受け、リューネの喉元に小さな魔方陣が生まれる。

 「これは・・・お兄様!」と一人ごち、目線でおれに感謝を送ってきた彼女に首肯を返す。


 「リューネ、思いっきり歌え!メリラ、ヴィリス、フェアラート、絶対抵抗が来るぞ。リューネを守れ!」


 おれの指示に「はい、お兄様!」と答える人魚な妹と、「「「了解!」」」と気を引き締める盟友ユニットたち。


 リューネは目を閉じ両手を組み合わせると、厳かに歌い始めた。

 震える声は清廉に、徐々にはっきりとした魔力を伴って。

 内容はわからない。

 おそらくはこの世界特有?もしくは人魚にだけ伝わる言葉のフレーズなんだろう。

 その声が水を伝い、彼女の身体を中心に、淡いエメラルドの輝き。

 周囲に無数の小さな魔方陣が生まれる。


 「・・・綺麗な声・・・。」


 「うん、ウララもすごかったけど・・・リューネちゃんも負けてないね。」


 シルキーが思わず呟き、アフィナがそれに賛同する。

 確かに・・・ウララに勝るとも劣らぬ美声だ。

 むしろリューネが八歳なのにすごいと思うべきか、逆に創作物には良くある設定、「人魚の美声」に勝るとも劣らぬウララをすごいと思うべきか。


 歌が最高潮の盛り上がりを見せ、リューネが目を開き宣言した。


 『神曲』


 確かな波動。

 彼女の周りに浮かぶ無数の魔方陣から、エメラルドの光が爆発する。

 幾条ものエメラルドの光線は、街を覆う紫の結界に一瞬阻まれ、その直後何事も無かったかのように結界を貫いていく。

 そこからドンドン広がっていく神気に満ちた光。

 せめぎ合う紫と緑は、どう見たって緑の方が強かった。

 あえて言おう、「効果はバツグンだ!」。


 当然相手も黙っていない。

 街の中からわらわらと人影が集まり、こちらに敵意の視線を送ってきているようだ。

 マドカにしちゃあ動きが遅いが、おそらくは『汚染プルート』で手が離せなかったんだろう。

 そんな切迫した時でもお前を守ってくれる奴は居ないんだな。

 それが少しだけ可哀想だと思うぜ。


 「お兄様!土地の浄化は任せてください!このまま押し切れます!」


 リューネは自信に満ちた表情で、魔方陣から発する緑光を縦横に奔らせる。

 任せることに全く不安は無い。

 今も明らかに街は浄化されていっているからだ。

 そしてつまり、こっちは任せて敵は頼むって事だな。

 良いだろう、妹の期待には全力で答えるのが兄貴ってもんだ。


 「わかった!ヴィリスはリューネを守れ。オーゾル行け、あそこだ!」


 「了解!殿下、御武運を!」


 これがイアネメリラだったら、「ますたぁと離れるのいや~」とかなんとか一悶着あるんだろうが、ヴィリスは素直におれたちを見送る。

 ヴィリスにリューネの護衛を任せ、一路『王都アクアマリン』へ。

 船着場へと降り立ったおれたちに、街路から見るからにゾンビーな皆さんがお出迎えだ。


 「すごい数だな・・・。」


 「ですが・・・雑魚ばかりですぞ?」


 ため息混じりなおれの言葉に、イアネメリラもフェアラートも・・・果てはオーゾルやアフィナとシルキーも不安の色は見えなかった。

 むしろその表情は義憤と決意に満ちている。

 どうやら怒り心頭って感じだな。

 全く・・・恐ろしい限りだ。

 おそらく、この世界の住人たちに火が点いたのは『汚染プルート』の効果だろう。


 おれは思うぜマドカ?

 この世界の住人をないがしろにしたツケ。

 みんな生きてんだ、自分の世界を守る為には全力で抗うもんだぞ。

 いや・・・あいつの場合は自分の盟友ユニットですら信を置いていないんだったな。

 言っちゃ悪いが多勢に無勢だ。

 勘違いするなよ?無勢ってのはおれたちじゃない。

 お前のことだよマドカ。

 偽善者上等だよ・・・これがお前とおれの違いだ。

 意思の無い操り人形、ゾンビの群れなんかで、この世界に生きる英雄や指導者、そしておれたちを止められると思ったら大間違いだぞ?

 さすがに同郷のよしみで許してやれる範囲を超えている。

 まぁおれが許しても、もうこの世界はお前を許さないだろうよ。

 聞きたいことも色々あるが、それは一先ずぶん殴ってからだ。

 首洗って待ってやがれっ!





ここまでお読み頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。


※ヴェリオン編やっとこさクライマックス目前です!

すごく長引いたのは・・・まぁひとえにセイ君以外のメンバーが暴れるからなんですけどね?

「やめて、そんなに好き勝手しないで!」

「プロット?なにそれおいしいの?」

「予定ってのは破るためにあんのよ!」

「ちょ、おま!待てよっ!?」

作者のせいじゃないんです、たぶん、おそらく、きっと。

予定ではあと数話で終わるはずなんです!

変わらぬご愛顧お願いしますorz

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ