・第百五十一話 『神曲』
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異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、世界は広いんだな。
兄貴も正直驚いたぞ。
物語なんかの設定だとそれも頷けるのだが、実際目の当たりにすると言葉も無いな。
おれは今まで、ウララより歌が巧い奴に会ったことが無かった。
しかしだ、本日若干八歳の女王様、彼女のリサイタルに度肝を抜かれたわけだ。
さすがは『歌鮮姫』、称号に「歌」って入ってるのは伊達じゃないってことか。
まさに甲乙付けがたし、専門家でもないおれにはどちらがどう優れているとはわからない。
もちろんそんな彼女の美声でも、あの日のウララの『鎮魂歌』のように、知らずに涙が溢れてくるって事は無かったんだが・・・。
そう考えると人魚に張り合う美声って、ウララが相当すごいのかもな。
二人の共通項は何だろうか?
まさかつるぺ・・・。
うおっ!?今信じられないほどの寒気が!
■
忘れては居ない。
いや、本当だ。
最近自分でも呆けてんじゃないか?って思うことはあるけど、さすがにそう何度もはな。
おれたち幼馴染の身の振り方にも関係する、今一番重要な案件だ。
「リューネ、『回帰』って魔法カードに心当たりは無いか?」
先ほどおれの妹になった、まだ幼い女王人魚に問いかける。
彼女はその大きな瞳、マリンブルーを驚愕の色に染め、おれの顔をまじまじと見つめた。
「お兄様・・・どこでその名をっ!?」
(やっぱり心当たりがあるのか・・・。)
おれはその魔法の効果、そしておれたちとの関わりをリューネに説明した。
彼女は小さく「・・・なるほど。」と呟くと、おもむろに自身のタンクトップのような服の胸に手を突っ込む。
おいオーゾル!覗き込もうとするな!
変態が過ぎるおっさんは、女性陣から総攻撃を受け甲板とキスをした。
「お兄様、これを・・・。」
リューネが差し出した手に握られた、直径10cmほど銀細工のペンダント。
シンプルだが雅な装飾に、ヴェリオンの紋章・・・連なる泡がはっきりと施されたそれは、どうやらロケットのような構造らしく、蓋を開くことで中が確認できるようだ。
おれは蓋を開け、その中身を確認させてもらう。
中には大きな真珠が一つ。
「これは?」
おれはてっきり、『回帰』のパーツが出てくるのだろうと思っていた。
首を捻るおれにリューネが語る。
「わたくしはそれが『回帰』だと聞いております。ただ・・・今はカードではなく、『平穏の神』オーディア様の御力で封印されているとか・・・なんでも世界に影響を及ぼす危険な魔法だと。確かにお兄様のお話を伺うと、とても重要な意味を持つ魔法に感じられますが・・・。」
(・・・封印?)
おいおい、神様同士で話が通じ合ってないのかよ?
セリーヌとオーディアは友好的な関係じゃなかったのかよ。
しかもクリフォードがセリーヌから受けた神託だと、まるでこの国に『回帰』のパーツがあるのを初めて知ったように語ってたが・・・もしかして作った本人?本神が忘れてんのか?
うっかりセリーヌの行動に、そこはかとない不安を覚えつつも、おれはリューネに確認する。
「リューネ、その封印は・・・お前が解けるのか?」
おれの質問を受け、彼女は切なそうに眉を顰めると、申し訳無さそうに頭を振った。
「お兄様ごめんなさい。その封印はオーディア様以外解けないかと・・・。」
デスヨネー。
そんなこったろうとは思ったけどさ。
「オーディアの神殿は・・・アクアマリンか?」
「はい。王城の滝の中にその神殿があります。」
うーん、なんとなく作為を感じるんだが。
まぁ悩んでも仕方ないな。
おれがペンダントを返そうとすると、リューネはにっこり微笑み受け取った後、中の真珠だけおれに渡してくる。
「いいのか?」
彼女はしっかりと頷き、「もちろんです!」と言った後、「ただ・・・。」と言葉を濁す。
「お兄様、気をつけて下さいまし。それは何だかとても危険な物に感じます。わたくしが気絶していたのもペンダントに突然、光線が飛んで来たからですのよ?おそらくはその魔法に反応した何かだと思いますの・・・。」
(いや・・・まて、それって・・・。)
仲間たちが視線を逸らす。
おれもこめかみに汗が伝うのを禁じえなかった。
「セイ殿!もしやそれはっ!?」
「君は少し黙ってようね~?」
叫ぶオーゾルを、イアネメリラが即座に鎮圧した。
「一体どうしたんですの?」
不安がるリューネに、「いや、なんでもないぞ?」と返し残るメンバーとアイコンタクト。
さっさと『回帰』が封印された真珠を『カード化』、『図書館』に収納する。
『カードの女神』の『加護』を目の当たりにし、そちらに気を逸らす王女な幼女にほっと胸を撫で下ろす。
そう、知らない方が幸せなことも世の中にはあるのだ。
■
おれたちは王都を一望できる岩礁まで戻ってきた。
眼下に望む、美しく異世界情緒溢れたであろう町並みは、朝方よりもより一層紫の世界にけぶっていた。
間違いなく『汚染』の効果が進行している。
最早一刻の余地も無さそうだ。
それに・・・未だ『妨害』の効果が切れていない所を見ると、竜兵も相当に苦戦しているのかもしれない。
頼れる弟分に万が一も無いとは思うが・・・正直心配だな。
「・・・そんな・・・!」
リューネが目を見開き、おれの法衣の裾をぎゅっと握る。
おれは彼女の頭をポンと一つ撫で、「できるか?」と優しく問いかけた。
リューネは決然とした表情でおれを見上げ、「はい!お兄様!」と返事を返す。
そして音も無く甲板を跳ね、海中へ身を躍らせる。
「魔導書」
(よし、引いてるな。)
おれの周りに浮かぶ、A4のコピー用紙サイズ、六枚のカード。
一枚を選択、強化魔法を発動する。
その魔法は『残響』。
ウララがコンサートの時に使用していた詠唱強化魔法だ。
おれも一枚だけ組み込んであり、それを当たり前のように引いてきている。
本来の効果は、効果時間中に唱えた魔法効果が1.5倍になるっていう代物なのだが、どうも歌に対してマイクのような効果を及ぼすらしい。
リューネの『特技』で街を浄化、『汚染』を払拭するなら、きっと役に立つはずだ。
おれの強化魔法を受け、リューネの喉元に小さな魔方陣が生まれる。
「これは・・・お兄様!」と一人ごち、目線でおれに感謝を送ってきた彼女に首肯を返す。
「リューネ、思いっきり歌え!メリラ、ヴィリス、フェアラート、絶対抵抗が来るぞ。リューネを守れ!」
おれの指示に「はい、お兄様!」と答える人魚な妹と、「「「了解!」」」と気を引き締める盟友たち。
リューネは目を閉じ両手を組み合わせると、厳かに歌い始めた。
震える声は清廉に、徐々にはっきりとした魔力を伴って。
内容はわからない。
おそらくはこの世界特有?もしくは人魚にだけ伝わる言葉のフレーズなんだろう。
その声が水を伝い、彼女の身体を中心に、淡いエメラルドの輝き。
周囲に無数の小さな魔方陣が生まれる。
「・・・綺麗な声・・・。」
「うん、ウララもすごかったけど・・・リューネちゃんも負けてないね。」
シルキーが思わず呟き、アフィナがそれに賛同する。
確かに・・・ウララに勝るとも劣らぬ美声だ。
むしろリューネが八歳なのにすごいと思うべきか、逆に創作物には良くある設定、「人魚の美声」に勝るとも劣らぬウララをすごいと思うべきか。
歌が最高潮の盛り上がりを見せ、リューネが目を開き宣言した。
『神曲』
確かな波動。
彼女の周りに浮かぶ無数の魔方陣から、エメラルドの光が爆発する。
幾条ものエメラルドの光線は、街を覆う紫の結界に一瞬阻まれ、その直後何事も無かったかのように結界を貫いていく。
そこからドンドン広がっていく神気に満ちた光。
せめぎ合う紫と緑は、どう見たって緑の方が強かった。
あえて言おう、「効果はバツグンだ!」。
当然相手も黙っていない。
街の中からわらわらと人影が集まり、こちらに敵意の視線を送ってきているようだ。
マドカにしちゃあ動きが遅いが、おそらくは『汚染』で手が離せなかったんだろう。
そんな切迫した時でもお前を守ってくれる奴は居ないんだな。
それが少しだけ可哀想だと思うぜ。
「お兄様!土地の浄化は任せてください!このまま押し切れます!」
リューネは自信に満ちた表情で、魔方陣から発する緑光を縦横に奔らせる。
任せることに全く不安は無い。
今も明らかに街は浄化されていっているからだ。
そしてつまり、こっちは任せて敵は頼むって事だな。
良いだろう、妹の期待には全力で答えるのが兄貴ってもんだ。
「わかった!ヴィリスはリューネを守れ。オーゾル行け、あそこだ!」
「了解!殿下、御武運を!」
これがイアネメリラだったら、「ますたぁと離れるのいや~」とかなんとか一悶着あるんだろうが、ヴィリスは素直におれたちを見送る。
ヴィリスにリューネの護衛を任せ、一路『王都アクアマリン』へ。
船着場へと降り立ったおれたちに、街路から見るからにゾンビーな皆さんがお出迎えだ。
「すごい数だな・・・。」
「ですが・・・雑魚ばかりですぞ?」
ため息混じりなおれの言葉に、イアネメリラもフェアラートも・・・果てはオーゾルやアフィナとシルキーも不安の色は見えなかった。
むしろその表情は義憤と決意に満ちている。
どうやら怒り心頭って感じだな。
全く・・・恐ろしい限りだ。
おそらく、この世界の住人たちに火が点いたのは『汚染』の効果だろう。
おれは思うぜマドカ?
この世界の住人をないがしろにしたツケ。
みんな生きてんだ、自分の世界を守る為には全力で抗うもんだぞ。
いや・・・あいつの場合は自分の盟友ですら信を置いていないんだったな。
言っちゃ悪いが多勢に無勢だ。
勘違いするなよ?無勢ってのはおれたちじゃない。
お前のことだよマドカ。
偽善者上等だよ・・・これがお前とおれの違いだ。
意思の無い操り人形、ゾンビの群れなんかで、この世界に生きる英雄や指導者、そしておれたちを止められると思ったら大間違いだぞ?
さすがに同郷のよしみで許してやれる範囲を超えている。
まぁおれが許しても、もうこの世界はお前を許さないだろうよ。
聞きたいことも色々あるが、それは一先ずぶん殴ってからだ。
首洗って待ってやがれっ!
ここまでお読み頂きありがとうございます。
良ければご意見、ご感想お願いします。
※ヴェリオン編やっとこさクライマックス目前です!
すごく長引いたのは・・・まぁひとえにセイ君以外のメンバーが暴れるからなんですけどね?
「やめて、そんなに好き勝手しないで!」
「プロット?なにそれおいしいの?」
「予定ってのは破るためにあんのよ!」
「ちょ、おま!待てよっ!?」
作者のせいじゃないんです、たぶん、おそらく、きっと。
予定ではあと数話で終わるはずなんです!
変わらぬご愛顧お願いしますorz