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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
157/266

・第百五十話 『歌鮮姫』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


 異世界からおはよう。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、何かしらの悪意を感じるよ。

 兄貴の交渉相手、またもや幼女とは・・・。

 『カードの女神』と言い、『闇の乙女』と言い、この世界は幼女に重役をやらせる癖でもあるんだろうか?

 いや、交渉といっても大したことする訳じゃないんだがな。

 「オレ、オマエタチ、タスケル。インディアン、ウソ、ツカナイ。」的な。

 これで事足りるはずなんだ。

 すまん、わかってる。

 おれはインディアンでもないし、カタコトになる必要もない。

 ちょっと逃避したくなっただけじゃないか・・・。

 おそらく、たぶん、きっと・・・秋広の呪いなんだ。

 おい、せめてこの世界の貴族王族で話を付けろよ!

 なんで全部おれに丸投げなんだ?



 ■



 珊瑚礁へと墜落したエイゾンビが、切断された両翼の傷口から暗闇を撒き散らす。

 その闇を媒介に、フェアラートが更に転移。

 闇から突き出た二本の刃が、巨体をただの肉塊へと変える。

 その度に噴き出す体液というか、おそらくは瘴気のようなものが、フェアラートに吸い込まれるように収束していく。

 そして彼の掌に集まった闇は、最初から無かった物の如く忽然と消失する。

 砕けた珊瑚礁に確かな存在の証を残しつつ、仮初めの命で動いていた哀れな骸は、いつのまにか一枚のカードに転じていた。

 エイ型の魔物ゾンビを容易く葬り、現れたカードを掴んだかと思うと、甲板に出来た影の中に姿を現すスキンヘッドの暗殺者。

 まさにその動きは『影人』・・・奴の称号通りな所作だった。

  

 「フェアラート、ご苦労。」


 怯えを孕むアフィナの視線を背中に受けつつ、なればこそ少々尊大に彼を労う。

 おれの盟友ユニットになったからには、そんな考えも雰囲気として伝わってしまうのだろうが。

 フェアラートは、「いえ。」と短く答え丁寧に一礼。

 おれの側まで歩み寄り、恭しく手にしたカードを差し出す。

 

 「『イビルマンタ』か・・・そのままだな。」


 カードを確認し、思わず呟く。

 どうやらゾンビではなかったらしい。

 おれの記憶には無かったが、これも異界の盟友ユニットだった。

 テキストを見ると、どうにも厄介な能力アビリティを持っているらしく、今回フェアラートが居てくれなければ問題が悪化したかもしれない。


 それは盟友ユニット型『汚染プルート』のような物だった。

 案の定、エイが撒き散らしていた暗闇は生者に良くない物のようで、倒された後も周囲を異界化してしまうらしい。

 いかにもマドカが使いそうな盟友ユニットだ。

 カードを『図書館ライブラリ』に収納しつつ、そんな闇の中を出入りしていたフェアラートは大丈夫なのか?と、気になり聞いてみる。


 「フェアラート、身体は大丈夫か?」 


 「はい、問題ありません。」


 間髪入れず答えるフェアラート。

 本人がそう言うなら平気なんだろう。


 次いで海中、ヴィリスが何かを抱え上げて戻ってくる。

 何かと言ってもわかってはいるんだが・・・。

 彼女が抱えてきたのは見るからに幼い人魚。

 まったく身動きする気配が無いところを見ると、気でも失っているのだろうか?

 最悪の事態だけは回避できたと思うんだが・・・。

 その容姿はまだはっきりとは見えないが、状況的にもあれが『歌鮮姫』リューネで間違い無いはずだ。


 水泡まで到達したヴィリスが、「イアネメリラ様、お願いします。」と声をかけてくる。


 「はぁ~い。」


 おれの斜め後ろ中空で待機していたイアネメリラが、ヴィリスの意図を汲み重力制御の魔法を発動した。

 水泡からゆっくりと甲板へ、幼い人魚が降りてくる。

 ヴィリス同様、鮮やかな緑の髪を肩口程で切りそろえ、小さな桜色の唇とやたら長い睫毛を持つ相貌を、きゅっと引き締めている。

 確かに美形、十年もすれば男を魅了して止まないであろう、美貌の片鱗が見て取れた。

 幼女はヴィリスとは違い「ホタテビキニ」では無く、白いタンクトップのような服を着ている。

 

 (ああ・・・間違いないな・・・。)


 完全に『地球』のカードゲームで見た姿と一致する。

 彼女の姿を見止めたオーゾルが、「お・・・おおお・・・リューネ様・・・。」なんて呟き、若干ハァハァしながら吸い寄せられるように歩み寄っていく。

 リューネに手を伸ばし、その身体を受け止めようとするおっさん。

 その目に怪しい光(偏見)を見て取ったおれは、止むおえず代わりに受け止めることにした。


 いや・・・偏見じゃないかもしれない。

 アフィナとシルキーがおっさんをがっちり捕まえている。

 彼女達も潜在的犯罪者の存在に気付いたらしい。

 まぁ二人とも覗きの被害者だしな。


 (軽いな・・・。)


 重力制御のせいだけでもないだろう。

 年齢八歳と考えれば当然かもしれない。

 そんな感想を抱くおれの腕の中へ、幼女は淡い燐光を放ちながらふわりと着地した。



 ■



 ヴィリスは今、船を『王都アクアマリン』へ向け転進させている。

 もちろん行きとは違い、人に負荷をかけない程度の速度だ。

 フェアラートは自ら立候補での周辺警戒中。

 まだまだ何かありそうだしな。

 それは奴にも何となく感じているところがあるらしい。


 甲板上ではアフィナがリューネへ回復魔法をかけ、気を失っている幼女へと無闇に近寄ろうとするおっさんを、イアネメリラとシルキーが視線で牽制している。

 自国の王女だからな・・・変態で無ければ別段おかしな行動には見えないんだが・・・変態だからな・・・。


 そして幼女はなぜかおれの腕の中で熟睡中。

 うん、どういう状況だコレ?

 いや、なんか降ろそうとしたら女性陣からすこぶる反対されてな・・・。

 床に毛布でも敷けば良いんじゃないか?と思ったんだが、そういう問題でも無いらしい。

 どういう問題だよ・・・?


 「んっ・・・んぅ・・・。」


 短い呻きと共に、幼女の長い睫毛がふるふると揺れる。

 少しずつ瞼が持ち上がり、これまたヴィリスそっくりなマリンブルーの瞳が開かれていく。

 完全に開いた目がおれを見据え、未だ意識が定まらないのだろう、こてんと音がしそうな勢いで首が傾げられる。


 「目が覚めたか?」


 努めて優しく、ずっと一人で逃げ続けていただろう幼女へ声をかけた。

 幼女はまじまじとおれを見詰め、突如得心したかのように言葉を発する。


 「・・・王子・・・様!」


 仲間たちが一斉に、「ぶふーっ!」と噴き出す。

 おれは今、明らかな渋面になっているはず。

 努めて優しくが持続不可能である。


 「・・・違う。」


 なにがどうしてそうなった?

 理解は及ばないがとりあえず否定しておく。

 幼女はおれの言葉など聞いていないのか、腕の中でワタワタと暴れ始め、確かに歌が巧いのであろう美声で騒ぎ出す。


 「ああ!わたくしの祈りが通じましたのね!オーディア様感謝致します!絶対の窮地に現れ、わたくしを颯爽と助けて下さったのがこんな素敵な殿方だなんて!きっとアレですわ!記憶にはございませんが、キ・・・キスで起こされたのですよね!?古来よりそうですわ・・・眠り姫を起こすのは王子様のキスって決まっていますもの!その先は決まっています。そう、けっ・・・結婚ですわ!でもでもわたくし・・・まだ八つですのよ!?気が早いですわ・・・いいえ、早すぎます!・・・ですが母上は12歳で結婚したと言いますし・・・あと四年、そうですわね。あと四年、お待ち頂ければ良いのですわ!これが・・・わたくしの運命ですのね!?」


 口を挟む暇も無い・・・ただただ、勘違いがすげぇ・・・。

 窮地を颯爽と助けたのはヴィリスだし、起こしたのはアフィナの回復魔法だ。

 この世界の八歳ってこんなにマセてんのか?

 それに・・・なんか色んな童話が混ざっている気がするぞ。

 人魚姫とか、白雪姫とかな。

 ひとしきり悶絶(おれの腕の中で)した後、急にキリっとした表情を見せるリューネ。


 「と言うわけで、式は四年後にお願いしますわ!それまでは婚約者と言う事で!」


 いや、何が「と言うわけで」だよ?

 おれは盛大に嘆息した。



 ■



 状況を説明することしばし。

 やっと納得したような幼女と、床に手を突きがっくりと項垂れるオーゾル。

 なんでお前がそんなに落ち込んでるんだよ・・・。

 不吉な呟きが聞こえてくる。


 「リュ・・・リューネ様が嫁に・・・。このオーゾルは・・・どうすれば?いや、真の漢はYes!ロリータ、No!タッチですぞ。それにセイ殿ならリューネ様をきっと幸せに・・・。ですが、リューネ様はまだ八歳、まさかセイ殿も・・・漢なのですかな?同好の志なのですかな?」


 おい、結婚なんてする訳ないだろ!

 それとおれを勝手に同志にするな、そっちは秋広のテリトリーだ!

 

 え?幼女?

 現在進行形でおれの腕の中、ずっと上目遣いで見つめてきますが何か?

 まて!通報はやめろ!おれは無実だ!

 仲間たちの生暖かい眼差しが不快だぞ。

 元はと言えばお前らが、抱いとけって言うからおかしくなったんだろうが?

 どうしてこうなった。


 それはともかくだ。

 情報の擦り合わせと、これからの行動を決めないとな。(逃避


 「では・・・皆様は我が国の窮地に、フローリアから援軍に来てくださったんですのね?」


 「ああ・・・と言っても、こっちの都合もあるんだがな。」


 おれの返しにリューネは全員を見回し、「・・・そうですわね。何かご事情がありそうな方々が集まっておられますもの・・・。」と呟く。

 若干八歳とはいえ、なかなかに聡明らしい。

 

 「王都は・・・アクアマリンはどうなっていますの?」


 「王都か・・・。」


 質問に答えが詰まる。

 だが、聡明な彼女はそれだけで察したらしい。

 さっと表情を曇らせ、「絶望的ですのね・・・。」と一人ごちる。


 「・・・とりあえず今、おれの仲間が結界の修繕に向かっている。おれたちはその間に街を取り戻さなきゃいけない。リューネ・・・お前の歌が鍵になるだろうが・・・できるか?」


 竜兵の安否にも気持ちを馳せながら、八歳の幼女に頼らざる得ない状況を憂うしかない。

 そんなおれの様子に気付き、そっと小さな掌を重ねてくるリューネ。


 「もちろんですわ。わたくしが必ず街を浄化してごらんにいれます!ただ・・・その後は、お力をお貸し下さいまし・・・。」


 発した言葉は十にも満たない幼女とは考えられないほど力強く、為政者の威厳をしっかりと含んでいた。

 だが、彼女の最後に続けた助力を願う言葉、その時にはっきりと気付く。

 リューネの手は小さく震えていた。


 (当たり前だよな・・・。リューネは父母も、頼れる者も皆失っているはずだ。)


 おれは仲間たち一人一人を見回し、最後にリューネを見てしっかり頷きを返す。

 たくさんの言葉は要らない。

 たぶん彼女もそんな物は求めていない。

 おれは一言だけ、万感の思いを込めて彼女に告げる。


 「任せろ!」


 リューネの表情がパーッと明るくなる。

 それはまさしく歳相応の笑顔だった。

 突然がばっとおれの首元に抱きつき、彼女はすぐに照れくさそうに身を離す。

 そしておれの腕からするり抜け出すと、計算された淑女のような上目遣いで言った。


 「あ!あの!わたくし・・・貴方様を・・・お兄様と呼んで良いですか!?」


 (お兄様か・・・。)


 『地球』でおれを待っているであろうめがみの事を脳裏に浮かべ、おれは自然と微笑んだ。


 「ああ、好きに呼べ。」


 「は、はい!お兄様!わたくしを・・・この国をお救い下さいませ!」


 この日おれに、二人目の妹ができた。





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