・第百四十九話 『エイ』
お久しぶりです!
無事でっかいどーから戻ってまいりました!
今日からまた「ほぼ」←(ここ重要)毎日更新を再開します。
いつもお読み頂きありがとうございます。
異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、今日は新たな決心をしました。
兄貴、正直お冠です。
どうしたの?一体何に?って思うよな。
神様の所業ですよ。
アイツ・・・うっかりさんのくせに、なんて面倒くさいことを・・・。
いやむしろ、うっかりさんだからこんなことするのか?
そう、今まで使うのを躊躇っていた『回帰』のレーダー(と言う名のビーム兵器)のことですよ。
三枚集めた時点で、おれを弾き飛ばす勢いのレーザーが出たんだ。
当然四枚なら、威力も上がるんだろうと思ったよ。
方向を示唆する為に、英雄二人と身体強化魔法をかけた魔導師が必死って、どんな威力だゴルァ!?
喧嘩売ってるのか?売ってるんだな?
よぅしセリーヌ、歯ぁ食いしばれ!
■
「くうっ!まじか!」
予測も覚悟も済ませていたが、それはおれの予想を更に上回っていた。
(部品を探すという目的に対して、どう考えても過剰だろう?)
この魔法を作ったはずの神、『自由神』セリーヌへ呪詛を送っても現状が良くなるわけじゃないが、今度会ったら一言言ってやろうとおれは心に誓う。
そんなおれの気持ちをあざ笑うように、輝き迸る閃光。
仲間たちからも「きゃー!」だの「ぬおお!?」だのといった悲鳴が上がった。
余りの威力に弾き飛ばされそうになり、ズリズリと甲板を滑るおれを、「ますたぁ!」「主様!」と叫んだイアネメリラとフェアラートが必死で支える。
二人の盟友に支えられ、自らかけた身体強化魔法で耐えること数秒。
やたらと長く感じる、その実一瞬だった魔力の猛威は、一条の帯になって船上に伸び上がる。
シャングリラで見た三枚相当のそれと、明らかに一回り以上大きくなったレーザービームが海中を突き抜けていった。
岩陰から町の様子を確認する。
大騒ぎになっているかと思ったが、見るからに派手な魔力の光に気付く者も、騒いでいる者も誰も見受けられない。
これはかなり重傷・・・フェアラートとオーゾル、二人のもたらした情報が予期せず裏付けられた形だった。
「・・・行け!ヴィリス!」
おれは遠ざかる光の帯を見据え、人魚の王女に命令する。
せっかくの目印を見失うわけにはいかない。
それにこんだけ派手なことをして、まったく反応しない街の住人はともかく、マドカ本人が見逃してくれる訳も無いだろう。
あの先にはきっと、おれたちの探し物が揃っている。
最もレーザーからの被害を受けなかったヴィリスは、「はい!殿下!」と小気味良く返事を返し、岩礁に安置していた船を海中へと浮かび上がらせた。
「皆さん、身体を固定してください!」
ヴィリスの言葉に仲間たちが慌てて捕まる場所を探し、各々ある程度身の置きようを整えたのを確認した彼女は、船を包む水泡ごと一気に加速する。
(これ時速何キロだ?いや、船だからノットとかなのか?)
とりあえず尋常じゃないGだろうことは想像に難くない。
おれはイアネメリラが重力制御で守ってくれているから良いが・・・。
アフィナとシルキーは、その表情が完全に恐怖に引きつっている。
オーゾルは・・・甲板に水溜りを作って、その中に半身を埋めることで事無きを得ているようだ。
フェアラートもだな。
完全に闇と同化している。
「アフィナ、風の魔法で何とかできないのか?」
重力と風じゃ勝手は違うかもしれないが、やらないよりはマシだろう。
「あ!そっか!」
おれの言葉に目から鱗の表情。
自分の得意属性すら見失うとか・・・。
最近ナリを潜めたとか思っていたが、彼女の残念は健在だ。
懐剣を握りながらアフィナが何事か詠唱する。
その身体から淡い緑色の光を放ち、ゆらりと空気が揺れるような感触。
アフィナとシルキーの表情が和らぐ。
「なんとかなったか・・・。」
「・・・先に言っといてくれたら・・・。」
「セイさん・・・ひどいよ・・・。」
半眼になるアフィナとシルキーから目を逸らす。
おれは悪くない・・・たぶん、おそらく、きっと。
こんな仕様にしてある『回帰』・・・引いては作成者のセリーヌが悪い。
大体にしてレーダーたるべき目印が、使用者をぶっとばす上に自分から去っていくとかどういう了見なのか。
セリーヌを小一時間問い詰めたい気分だ。
いや、決めた!もう正座させよう。
半身を水溜りに沈めたまま、音も無くオーゾルが近付いてくる。
「セイ殿!今のは一体?」
おれはオーゾルに、『回帰』とそれにまつわるアレコレ(レーダーとかレーザーとか)と、先ほど正座が確定したフローリアの神様のことも含めて説明した。
そしておそらく、『回帰』のパーツを持って逃げ回っているのが、『歌鮮姫』リューネだろうことも。
■
時間にしたら10分くらい?
『王都アクアマリン』からそうは遠く無い珊瑚礁に辿り着く。
もちろんそれは、ヴィリスが乗員の安全と快適性を無視してたたき出したコースレコードによっての、「そうは遠く無い」になるのだが。
おれたちはやっと重力制御や風魔法の結界、水や闇への一体化と言った状態を解き、一人海中を漂うヴィリスを伺う。
彼女は、珊瑚礁の一点を見つめているように見えた。
おれたちは途中で見失ってしまったのだが、どうもヴィリスには先ほどのレーザーがずっと見えていた・・・正確には感知できていたらしかった。
それがこの場所で止まったと言うことは・・・。
「ヴィリス、どうした?」
船の周りを回遊しながら、目を凝らしている様子のヴィリス。
その彼女がハッとした表情になり、珊瑚礁の奥、一点を指し示す。
「殿下!あそこです!」
おれを含め、仲間たちが一斉にその指示する先を注視する。
そこでは珊瑚礁の一角、ちょうど窪地になっている場所を、執拗に攻撃しているように見える巨大なエイ型の魔物。
広げた両翼が4mはありそうだ。
何度も体当たりを繰り返し、その身が鋭く尖った珊瑚に傷つけられるのも厭わない。
実際肉片が飛び散り、一部骨が見えている箇所すらあった。
野生の生物ってのは、それが魔物であろうと当たり前に自衛の意識を持っている。
どう見ても普通じゃない。
それが無いのは、なんらかの事由で正気を失っている場合か、「生きていないか」だ。
おれたちの探し物とリンクするように現れた魔物。
この場合・・・十中八九後者。
「まずいっ!ヴィリス、行け!」
「了解!」
おれの命を受けた彼女の行動は早かった。
海中で一気に身を翻し、エイ型の魔物へ向けて疾泳する。
おれは「このオーゾルも!」と叫び、海中に躍り出ようとするオーゾルを押しとどめ、船の移動を優先させた。
先の話で理解しているであろう、この先に自国の女王が居て、なおかつ現在進行形の窮地だ。
歯噛みするオーゾルの気持ちもわからんでもないが、今このおっさんにまで動かれると、おれたちが移動できん。
オーゾルも必死で急いでいるのだろうが、ヴィリスのそれとは比べるべくも無い移動速度で、現場へと進んでいく船。
おれたちは珊瑚礁の戦いに目を凝らす。
おそらく間一髪なんだろう。
ヴィリスが海中で振るった三叉槍から、爆発的な流れが巻き起こり、エイ型の魔物はきりもみしながら引き剥がされる。
しかしその爆発的な海流で体勢を崩したのも束の間。
エイ型の魔物はすぐに流れを掴み、ヴィリスの存在を排除すべく動き出す。
ヴィリスは珊瑚礁の窪地を背後に背負い、三叉槍を携えて徹底抗戦の構え。
一筋縄ではいかない・・・そんな気配が双方から見て取れた。
エイゾンビなはずなのに、やたら知能が回る雰囲気。
もしかしたらただのゾンビではなく、ネームレベルのそれなのかもしれない。
『地球』のカードゲームで見かけた覚えも無いし、安易に盟友だろうと決めてかかるのも危険な感じはするんだが。
先に動いたのはエイだ。
おそらくヴィリスの産み出す海流を警戒しているのだろう。
明らかに距離を取った頭上を、大きな円を描きゆっくりと回り始める。
その姿はまるで、猛禽類が得物を狙うときのようだった。
ヴィリスはエイから目を離さずに居るが、どうも後ろの窪地の様子が気になって仕方ないらしい。
間違いなく守るべき存在、現女王のリューネが居るんだろう。
エイは周回しながら少しずつ崩れていく。
そして崩れた肉片が、瘴気の塊とでも言うような悪意満ち満ちた濃い闇を広げていく。
「あれは・・・まずいな。」
ヴィリスは塊を海流で押し流し、エイ本体の牙や尾の毒針、体当たり攻撃も三叉槍で器用に捌いている。
ヴィリスだけならどうとでもなるのだろう。
しかし今の彼女は、後ろに守るべき弱者を抱えていた。
おれたちが参戦するには、もう少し時間が要る。
「主様、自分が・・・。」
背後から少々陰鬱な声がかかる。
「フェアラート・・・行けるのか?」
彼の能力はまだ不明な点がある。
『地球』のカードゲーム時代と違い、この世界には独自のルールや法則もあるからだ。
おれの問いに「問題ありません。」と答えた暗殺者は、一瞬で闇の中へと潜り込み、気付いたときにはエイの産み出した闇の中に居た。
フェアラートが闇ごと移動する。
たぶん『影化』の応用なんだろうが、暗殺者にとって都合良過ぎる能力じゃなかろうか・・・。
あれが敵だったと思うと、心底寒気がする。
そして無造作に突き出された双剣が、完全に不意を突かれたエイの巨大な両翼を、いとも容易く切り裂く。
如何にアンデットとは言え、両翼をもがれたら泳げない。
エイゾンビは苦しげな声を上げることも無く、静かに珊瑚礁へ墜落する。
「・・・やっぱりあの人・・・ボク怖い・・・。」
甲板では、アフィナの小さな呟きだけが響いた。
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休載中もブクマ増えてて、嬉しさのあまり気絶しかけました!
正確には昨日しました!(寝落ち的な意味で