・第百四十八話 『偵察』
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異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、テンプレには油断も隙も無い。
兄貴がたとえ目を逸らしたとしても、振り返ればいつもアイツはそこに居る。
「やぁ呼んだ?」
満面の笑みで、おれの肩に手をかけるテンプレさん。
違うんだ・・・呼んでないんだ・・・。
だけどなんでそこに居るんだよぉぉぉぉ!?
意味がわからないか・・・ごめんな。
男版残念と神々の悪戯に弄ばれる悲しい男の叫びだよ。
だれか、おれを、助けてくれ。
英語で言ったらヘルプミーだ。
いやほんと頼むよ、わりとすぐに。
■
オーゾルとフェアラートが王都に潜入して、約半日が経過した。
現状、街に目立った動きは無い。
それは紫色に染まる結界も、泥川へと変貌した滝も・・・そして、街を行き交う住人もだ。
おれたちは街を一望できる岩礁に船を隠し、見張りを交代で回しながらも束の間の休息を得ていた。
竜兵も目的地に着いていそうなのだが、未だ『謎の道具』が復旧していない所を見ると、あっちでも手こずっているのかもしれない。
守護する魔物が居るって言ってたしな。
体育座りで毛布を被り、膝に顎を乗せたアフィナがポツリと呟く。
「本当に・・・大丈夫なの?」
潜入した二人の安否、それとも突如盟友として現れたフェアラートの存在。
それはどちらの意味なのか。
彼女の感覚からすれば、おそらくは後者だろう。
アフィナはおれがフェアラートの凶刃にかかり、そこに付与された毒で生死の境を彷徨った時、一番近くでそれを見ていたのだから。
いや、むしろその時おれを救ったのは彼女だった。
「お前もさっき見てただろ?」
「それはそうだけど・・・。」
おれはすでに感情にも蹴りをつけ、むしろ今では確信すらしているが、どうにも彼女にはいまいち釈然としない物があるようだ。
おれや竜兵、ウララの能力である『魔導書』の力。
そこにある程度の理解はあるのだろうが、やはりこの世界にとって異質な力であるそれは、無条件で納得を得られる物ではないのかもしれない。
頭ではわかっていても心が戸惑う。
往々にしてあることだ。
まぁ女は感情の生き物とも言うしな。
使役されたフェアラートは、『涙の塔』で起こした騒動を平身低頭、まさに土下座せんばかりの勢いで謝り、その場でおれに絶対の忠誠を誓った。
おれは顔を上げさせ、彼の目を見て確信する。
そこにあったのは明確な意志と誇り。
『略奪者』に操られていたときの憤りと苦悩。
暗殺者という職業なれど・・・いや、だからこそかもしれないプライド。
「アイツはもう大丈夫だ。『自爆』も使わないって約束してただろう?」
そう、フェアラートはおれの命令を確かに受け入れた。
オーゾルと連携して偵察を行うこと、極力戦闘は避けること、そしておれの許可無く『自爆』を発動しないこと。
まぁおれが自分の使役する盟友に、『自爆』なんて許す訳無いからもう死にアビになってるんだが。
それはいい。
おれとの会話を続けても、アフィナの不安は拭えていない。
「だけどセイ・・・死にかけたんだよ?」
こればっかりは堂々巡り、おそらくずっと平行線のままだろう。
船の外周、水泡の結界周辺を回遊していたヴィリスが声を上げる
「殿下、戻ってきました!」
目を凝らせば王都からこちらへ、海中を進む闇を内包した水球。
(・・・すごいな。)
思わず感嘆。
オーゾルの水属性系『隠密』と、それより更に上位であるフェアラートの『影化』を組み合わせて使っているんだろう。
身内だから把握できるのだろう、認識阻害バリバリの移動手段だ。
思えばフェアラートを『涙の塔』で発見できた時は、イアネメリラがその力を減退させてやっとだったんだ。
あとはおれの第六感とも言うべき危険察知。
この状態の彼が敵方に把握されるとか言うなら、おれたちは本当に手も足も出ないような敵と戦っていることになる。
その水球はそれほどに見事な出来栄えだった。
「来たか!」
おれは勢い良く立ち上がり、偵察から戻ってきた二人を出迎える。
直径1mほどの水球は、船の周りにある水泡をスルリと潜りぬけ、甲板上にパシャリと弾け水溜りを作った。
水溜りから予想通り、オーゾルとフェアラートが姿を現した。
■
休ませていたシルキーも合流し適当な木箱に座る。
イアネメリラもいつのまにか定位置・・・おれの背中にふわふわと浮かんでいた。
『図書館』から作り置きのお茶を配り、めいめいが落ち着くのを待って声をかける。
「どうだ?」
なにが、とは聞かない。
揃って渋面になる二人。
彼らは連携は取っていたが、その行動は別れていたはずだ。
単純に主目的の相違のため。
どちらも目的ではあるが、おれの主目的はどちらかと言うと、フェアラートに命じた事柄の方が固い。
オーゾルは王族、特に『歌鮮姫』リューネの捜索。
フェアラートはマドカを中心に、奴の盟友も含め不穏分子の炙り出し。
(どっちもとは・・・もしかすると、予想が当たってるかもしれないな。)
一つの情報を思い出し、そんなことを考える。
「報告してくれ。」
おれの言葉に、「では、自分から・・・。」とフェアラートが状況を語る。
「敵の首魁『死』のマドカ、その所在は確認できませんでした。一応怪しい場所はあったのですが、少々厄介なタイプの結界が張られており、こちらの存在が露見する恐れがあったので踏み込みませんでした。あと・・・不穏分子ですが・・・。」
「そこからはこのオーゾルが。」
フェアラートの言葉をオーゾルが引き継ぐ。
「こちらもリューネ様のお姿を確認することはできませんでしたぞ。ただ、不穏分子と言う点では・・・正直もはや城は絶望的でしょう。目の付く範囲は全てゾンビでしたぞ・・・。」
「・・・それは、リューネじゃない方の王位継承者もってことか?」
おれの問いに、静かに首肯を返すオーゾル。
「主様、正確には町人もかなり・・・。」
補足するフェアラートの言に背筋が寒くなる。
仲間たちも表情が暗い。
うん、最悪だな。
状況は想定していたよりずっと悪かった。
アリアムエイダが打ち漏らしたゾンビが繁殖したのか、それともマドカが何かをやらかしたのか。
理由は不明だが『災害』もいいとこだろう?
「なりふり構ってられないってことか・・・。」
実際マドカにとってはそうなのだろう。
あまりにもあからさまな手段だった。
「せめてリューネ様がご健在なら・・・。」
苦々しげに呟くオーゾル。
ここに来てその名前、たかが八歳の人魚一人で何ができるのか。
今は「Yes!ロリータ、No!タッチ」の時間じゃないんだぞ?
おれの視線に気付いたのか、オーゾルはその理由を説明する。
「リューネ様の歌には浄化の力がありますぞ。それこそ声の届く範囲なら、軒並み聖域に変えてしまう程の強力な・・・。」
(ウララの鎮魂歌みたいなものか?)
って・・・。
「おい!なんでそれを先に言わないっ!?」
「え?いや聞かれませんでしたので・・・それにリューネ様を見つけてからと・・・。」
「あほかっ!?」
こいつマジか!
それを先に聞いておけば行動も変わった。
ぶっちゃけ無為に半日潰した可能性まで出てくる。
いや、確かに偵察は必要だったんだが、必要だったんだが釈然としない!
これはアレだ。
最近鳴りを潜めたアフィナさん以来、久々に頭痛で頭が痛くなるタイプの残念さんだぞ。
おろおろとするオーゾルに、生暖かい視線を送る仲間たち。
だがおれは確信に近い予感があった。
それをオーゾルに確認する。
「オーゾル、この国に秘匿魔法と言うか、王族が代々伝える、使い道のわからない魔法カードがあるんじゃないか?」
「な!なぜその事をセイ殿が!?」
驚愕に目を見開くオーゾル。
ああわかったよ、その表情だけで十分だ。
くそ・・・これでこっちもなりふり構っていられなくなったぞ。
たぶんバレる。
いや、絶対バレるんだが・・・これしか無いんだろ?
それは最初から聞いていた情報と、今聞いた情報が完全に繋がった瞬間だった。
そう、『精霊王国フローリア』の守護神『自由神』セリーヌが、神託と言う形でもたらした情報だ。
つまり・・・『回帰』のパーツは『深海都市ヴェリオン』国内を移動し続けているらしい。誰かが運んでいるようだ。
そしてこの国の王族に伝わる、用途のわからない秘匿魔法。
行方のわからない若干八歳、人魚の王女。
「メリラ、支えてくれ!正直どんだけデカいかわからん!」
「え?どうしたの、ますたぁ?」
戸惑う仲間たちを尻目に、おれは『魔導書』を展開。
前回のこともある、身体強化魔法『幻歩』を発動。
(これで踏ん張れるかっ!?)
三枚でレーザービームだったんだ。
四枚になったらメガな粒子砲くらいになってるかもしれない。
おれは『図書館』から『回帰』のパーツ、四枚がスタックされたそれを取り出した。
ビカァァァァァァ!!!
直後、弾ける閃光。
(やっぱりぃぃぃぃぃぃ!!!)
おれは心の中で叫んだ。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
良ければご意見、ご感想お願いします。
※明日から里帰り致します。
でっかいどーほっかいどーです。
帰るだけで半日かかるorz
一応ノートPCは持っていくつもりですが、書く暇があるかしらん?
なんせ年に一度のことなので・・・(仕事の都合的にも金銭的にも
そんな訳でGW中休載することをお許しくだされー><
再開は5/6を予定しておりますががが、「たぶん、おそらく、きっと」を付けておきますねw
因みに作者5/2が誕生日だったりします。(聞いてないって?そんなバカな!?
プレゼントはブクマと評価と感想が嬉しいです^^
ごめんなさい、調子乗りましたorz
読んで頂けるだけで嬉しいです、マジです!
見捨てないでー(ノノ)




