・第百四十六話 『人魚』
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※セイ視点です。
異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈・・・マドカじゃないが、保険って大事だな。
あの時の兄貴、自分で褒めてやりたいと思う。
転移門とやらが使えない今、遠慮なんかしてたら詰んでたぞ?
「転ばぬ先の杖」「備えあれば憂い無し」、日本の諺って本当に的を射てるんだなぁって思う。
そう、おれは船を三隻『カード化』して「借りて」来てたんだ。
大事なことだからもう一度言っておこう。
あくまでもこの船は借り物です。
返す「つもり」はあります。
「借り物で体当たりする人はセイだけだと思う・・・。」
アフィナ、うるさいよ?
確かに一隻目は粉々に大破したけども・・・この船の運命も保障できないけども・・・。
■
借り物の客船、諸君らが愛してくれた一隻目の船は大破した!
なぜだっ!?
あの船・・・いや!彼は勇敢に戦い、敵方の『幽霊船』へ痛撃を与え、その一生に幕を降ろしたんだ。
彼のおかげで、おれたちは今ここに居る。
おれたちはこの悲しみも、怒りも忘れてはならない!
そして彼の遺志は、この二代目によって受け継がれ、きっとおれたちをヴェリオンまで送り届けてくれるだろう。
思わず握り拳。
無意識の罪悪感なのだろうか・・・。
普段は使わないようなセリフが口から飛び出す。
そんなおれを見つめ、「珍しくいっぱい話したと思ったら・・・。」なんて呟いたアフィナが、突然暴言を吐いた。
「借り物って自分で言っておきながらだよ?平気で体当たり敢行するのってボクは、セイくらいだと思うな。」
「うん。セイさん、迷い無く「突っ込め!」って言ってた・・・。」
アフィナとシルキーが、揃ってジト目を送ってくる。
おかしい・・・。
おれの熱い演説、どうやら女には難しかったようだな。
いや、イアネメリラはウンウン頷いてるけどさ。
彼女の場合は、基本おれの言うこと全肯定だからなー。
待て、落ち着け・・・おれは何か変な事を口走ったんじゃないか?
脳内の秋広が満面の笑みで、サムズアップしている気がするぞ。
おい・・・オーゾル、なぜ目を逸らす?
お前はこっち側だろうが?
まぁバカな話は置いといて・・・現状を確認しておこう。
あの後おれたちは、残り二隻『カード化』していた船と物資を分配し、お互いの目標の為に竜兵と別れた。
竜兵はカスロ方面へ、『永続化』の魔方陣を破壊するため。
おれは当初の予定通り、『王都アクアマリン』を目指している。
正確な距離はわからないがおっさん二人曰く、おれたちの進行速度なら、どちらも約一日ってことで間違いないようだ。
どうやら双方の目的地がほぼ同距離にあるらしいし、船を三隻確保してなかったら詰んでたな。
あの時のおれグッジョブだ。
それはともかく。
出発してから約半日、あれ以来敵の目立った動きも無い。
マドカだって『妨害』の発動は確認しているはずだし、何があってもおかしくないと警戒を強めていたんだが・・・。
もしかしたら『妨害』の発動は、アリアムエイダに『幽霊船』が倒されただけの物、と思っているのかもしれない。
船の周り、ヴィリスが張った水泡の結界へ、目線を向けていたオーゾルが、おれへと向き直り告げる。
「セイ殿、おそらくあと二刻ほどで、外周の結界に差し掛かると思われますぞ。」
「周りも見通せない海中で良くわかるな?」
「まぁこの辺りまで来れば、このオーゾルの庭と言っても過言ではありませんからな!」
実際問題視界は悪い。
しかも完全な海中、目印になりそうなものなんて無いんだ。
おれの疑問の言葉に、特別気を悪くしたような素振りも見せず、むしろニカッとした笑みを浮かべるオーゾル。
(そんなもんかね・・・?)
なんて思いながらヴィリスを伺うと、彼女も小さく首肯した。
彼の国の盟友二人がそう言うなら間違いないんだろう。
「ところで・・・。」
言いかけて一瞬躊躇う。
それはヴィリスの存在を思ってしまったから。
しかし彼女は、そんなおれの気持ちの機微をあっさりと見破ってしまう。
「殿下、己のことは気にせず・・・。」
促される言葉。
まぁ仕方ないよな。
自分の使役する盟友とは、ある程度気持ちが通じ合ってしまう。
難しい指示とかなら言葉の必要もあるが、一瞬強く思い浮かんだ感情なんかはダイレクトだ。
しかもこの距離。
おれが何を思い、逡巡したかも筒抜けだったんだろう。
■
まぁいずれは、はっきりしておかないといけないことだった。
本来ならローレン、オーゾルと出会った時に、詰めておかなきゃいけない話だったんだろう。
あの時はあの時でゴタゴタしてたからなぁ・・・。
忘れてたってのもあるが。
だが、ここまで先送りにしたのは、やっぱりヴィリスを呼んだせいもあるかな。
言葉が途切れ、ヴィリスが促した事で全員がおれに注目していた。
船は自動航行中らしいし、さくっと話を進めるかね。
ヴィリスとイアネメリラは、もう内容わかっているが。
「オーゾル。今ヴェリオンを統治してるのは誰なんだ?」
ヴィリスはあくまでも、この国の王族であったと言うだけ。
その継承権は第一位だったらしいが、出奔している上に既に故人。
現在は当然、他の誰かが王位を継いでいるんだろう。
じゃあ現在の王様?女王様?は誰なのか。
救援行動の是非は元より、クリフォードから親書も預かっている関係上、おれたちはこの国のトップと連絡を取らなきゃいけないはずなのだが、そんな基本的なことをおれはまだ知らなかったんだ。
一応の予測、(カードゲームの知識)はあるんだがな。
それとて現実の世界で確証が持てる物じゃない。
現にシャングリラのカル・・・なんとか君の事は知らなかった訳だし。
おれの質問にオーゾルを始め、アフィナやシルキーもハッとした表情になる。
(おい、マジか・・・?)
これ全員忘れてただろ?
おれは覚えてたぞ!
・・・嘘です、今思い出しました。
「セイ殿!申し訳ない!すっかりお伝えするのを忘れておりましたぞ!」
デカい声で叫び、土下座せんばかりの勢いで頭を下げるオーゾル。
ああ、うん。忘れてたんだね・・・。
しきりに恐縮するオーゾルを宥め、質問に答えてもらう。
いや、おれもついさっきまで忘れてたからさ。
ただね、なんとなくいやな予感だけはするんだよな?
たぶんそれは、「『回帰』のパーツを持って移動してる。」って言う神様の言葉だ。
オーゾルは恐縮の姿勢を崩さないまま、少々もったいつけたように、どこか誇らしげに現国主の名を告げる。
「『深海都市ヴェリオン』の現国王・・・いえ、現女王様は『歌鮮姫』リューネ様ですぞ!」
なぜかドヤ顔のオーゾル。
なんとなくだが・・・その名を聞いてわかった気がする。
(しかし・・・そうきたか・・・。)
おれは頭痛を禁じえなかった。
よりにもよって・・・そっちの予想は当たって欲しくなかった。
称号も名前も知っている。
確かに『地球』のカードゲーム、『リ・アルカナ』に存在していた盟友だ。
渋い顔をするおれに女性陣は困惑顔だった。
まぁ前情報が無ければわからないよなぁ。
せめて・・・カードゲームの情報通りで無い事を祈る!
おそらく無駄だろうが。
「なぁオーゾル・・・リューネは今いくつだ?」
「む?セイ殿はリューネ様をご存知ですかな?さすがですな・・・。」
なにがさすがなのかさっぱりわからないが、今はそれどころじゃない。
聞きたくは無いが、確かめない訳にも行かない。
「それで・・・いくつなんだ?」
再度問いかけるおれに、オーゾルは満面の笑みで答えた。
「リューネ様は・・・御歳八歳にあらせられます!」
ですよねーーーーーーーーー。
カードゲームのテキスト通りだよ、チクショウ。
「は、はっさい・・・?」
呟いたヴィリスが顔色を無くす。
他の面々も何とも言えない表情になった。
いや、カードゲームの時、ヴェリオンの王候補は二人居たはずなんだ。
もう一人は確か・・・二十代の人族男性だったはず。
だけどヴェリオンがカードゲームの情報を踏襲してるなら、ここは・・・人魚族がトップに君臨する、云わば女系国家なんだ。
もちろん『レイベース帝国』の人族至上主義とか、『天空の聖域シャングリラ』みたいな天使族優位の国ではない。
それはローレンが人族なのに高位の貴族であることや、王位継承権持ちの人族が存在していることでも伺える。
多種族に対して概ね穏やか、融和性に優れた国とも言える。
元来人魚は、女しか生まれないからってこともあるのだろう。
ただし、王位継承権を持つ人魚は別格だ。
海中という環境で最も強い種族と言っても過言じゃない彼女たちは、この国にとって正に玉石。
たとえ他に王として相応しい人材が居たとしても、象徴的な意味でも人魚=女王の図式が公然と行われる国なんだ。
それがまさか現実世界でも同様で、しかも人魚だからって八歳の少女を女王にしてるなんて、想像するだけで頭痛がするだろ?
おれたちが悶々とする中、オーゾルだけがやたらイイ笑顔。
「リューネ様は・・・それはもう、お美しい方ですぞ!」
ああ、そうだね。
カードでもすげー美少女で描かれていたよ。
というか八歳は、幼女じゃねーのかとも思う。
「美しいって・・・まだ八歳なんだよね・・・?」
うん、アフィナが恍惚とした表情のオーゾルにドン引きだ。
「ハッハッハ!アフィナ殿!八歳は立派な淑女ですぞ?」
(うわぁ・・・。)
幼女でもレディーとして扱う・・・紳士っぽく聞こえるけど、お前の場合前に「変態」が付いてないか?
肯定されたら怖いから言わないけども。
決してそこを掘り下げたりはしないけども!
「いいかお前ら・・・絶対だ!」
主語を含まないおれの言葉に、女性陣は揃って頷いた。
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