・第百四十五話 『灰雪の道』
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※三人称視点、ある人物の動向です。
タイトルでバレちゃうかなー!?
PS 昨日は夜勤・・・夜勤ドゥーエだったんです!
サボりじゃないんすよホント。
その世界は概ね一色だった。
色は白・・・見渡す限り、右も左も、上も下も白・・・。
しかし全てが、と言うわけでもない。
あくまでも概ねだ。
違う色と言えば、陰影の濃いグレーであったり、淡すぎるゆえにほぼ透明に近い青も見受けられた。
だがそれらで多少の色付きがあれど、この世界へ万人が抱く感想は一つだろう。
「なんとも寂しい」と・・・。
つまり、この世界には雪と氷しか存在していなかった。
ここは、人跡未踏の氷雪地帯『氷の大陸メスティア』の最南端、人族『最後の港町ミブ』から徒歩で約二日ほどの場所。
通称『灰雪の道』と呼ばれる雪原である。
そう、道と銘打たれているのにも関わらず雪原。
理由は単純、誰も歩かないからだ。
せいぜい北方系の魔物しか住むことも出来ず、当然誰一人整備する者など居ない。
一応更なる奥地へ達すれば、寒さに強い獣人種海豹族や白熊族などの集落もあったりする。
その後も血のように赤い雪が降る谷『紅雪の谷』や、常に吹雪を伴った竜巻が発生する山『試練の渦』を越えた先には、雪人族氷人族が治める国家『メスティア共和国』があったりもするのだが・・・。
その存在を認知している物は余りにも少ない。
それは彼らが外の世界に興味を示さない比較的排他主義な事も原因の一つだし、元よりその過酷過ぎる環境が余計な事を考える隙を与えない、物理的な壁となって存在していたからだ。
おかげで20年前の大戦にも巻き込まれることは無かったが、むしろ戦中国よりも生存が困難な世界で生きている彼らが、真に幸いかどうかは別の話だ。
さて・・・『氷の大陸メスティア』の概要はわかっていただけただろうか?
単純に一つ前提を置きたいのだ。
それは・・・少なくとも人族がちょろちょろするような場所ではない。と言うこと。
しかし・・・現在猛吹雪の中、『灰雪の道』を進む人影があった。
その人影は四つ・・・。
「ふぁ・・・ふぁ・・・ぶぁっくしょーい!?」
内の一人、妙に背の高い細身の人物が盛大なくしゃみをした。
くしゃみと共にズリ落ちた眼鏡を、クイっと中指で持ち上げニヤリと笑う青年。
「また美女が僕の噂をしてるようだね・・・。」
連れと思わしき三人の人物は、「また始まったか・・・。」と言わんばかりの表情。
どうやら何度も見てきた光景らしい。
そんな彼らを意に関せず、ふっと息を漏らす彼の言。
実は正解である。
ちょうどその時、フローリア滞在中のウララと、ヴェリオンへ移動中のセイが、奇しくも同時に考えていた。
そう・・・「あのバカ(秋広)(あっきー)」と。
胸にクレータ・・・いや、胸が少々控えめとは言え、ウララは超ド級の美少女であるからして、彼の予想は半分当たっていたのだ。
そしてその事が何を意味するか?
勘の良い読者の皆様ならすでに心当たりがあるだろう。
彼こそがセイの幼馴染で四人目の転移者、川浜秋広、通称『運命の輪』の秋広である。
まぁ現在は「タウンハンター」などと名乗っていたりするのだが・・・。
「なんなのよ?別に寒いんじゃ無いのでしょう?こないだから・・・風邪でも引いたの?」
呆れ半分、心配半分、そんな表情で秋広に話しかける女性。
彼女は美しく、そしてグラマーな獣人だった。
金と赤が交じり合ったような不思議な色の長髪に、同色の毛を生やした獣耳が頭頂部に。
同じくお尻から尻尾が生えている。
それは見るからに柔らかそうな、ふわっふわの狐耳と狐尻尾だった。
たとえ彼女本人が十分な美人であることを差し引いても、全国のもふもふスキー2000万人が決して放ってはおけない存在。
タウンハンターの情報に付随し、何度も出てくる「狐の女」・・・それは彼女のこと。
『略奪者』の狐面の女、『節制』のホナミとは無関係だった。
「ふふっ、寒くは無いし、風邪でも無いよ?だってデイジー、君が温調の魔法をかけてくれているだろう。」
「それは・・・そうだけどさ・・・。」
デイジーと呼ばれた女性は、いまいち納得できない体で首を傾げる。
確かに温調魔法・・・狐族に古来より伝わるそれにより自分の周囲、旅の連れ合い全員くらいは適温に保たれているはず。
ゆえに彼らは雪原の中で、これと言った防寒具も身につけていないのだが。
しかし秋広は何度もくしゃみを繰り返していた。
それがデイジーには心配だったりもする。
言葉と態度こそはっきりとは示せないが、自分の恩人でもある秋広の一助になりたいと考えているから・・・。
そんな彼女を見つめる秋広の眼差しは優しい。
もとい、生暖かい。
(ああ、うん。コレあれだな・・・ウララと同じ匂いがするw)
十年来の幼馴染、ウララとセイのことを思い出し、あの鈍感な一つ年下のイケメンの行動を真似てみる秋広。
デイジーを安心させるように、ポンポンと頭を二回撫でた。
直後全身を強張らせ、頬を真っ赤に染めるデイジー。
いやではないらしく、じっとしてプルプル肩を震わせる。
尻尾の揺れ幅もMAX、誰が見ても喜んでいないとは言えないだろう。
(でいじーたんは僕の嫁)
それは色々と台無しである。
少しデレリとしてしまった口角を必死に隠し、思わず言いかけたセリフも飲み込んで、ひたすら平静を装う、秋広こと「タウンハンター」。
(まさか僕がこっち側に来る日が来ようとはね!異世界さいこー!)
秋広は異世界『リ・アルカナ』を満喫していた。
■
そんなピンク空間に一石が投じられる。
「・・・シュウ?いつまでイチャイチャしてるんですか?それにこの道?道なのかこれ・・・本当に合ってるんです?」
言葉遣いこそ丁寧なのだが、「今なら砂糖を吐ける。」そう明確に表情で語る、燃えるような赤髪の少年。
年の頃は15,6歳・・・秋広のイメージからすれば、丁度幼馴染の一人、竜兵と同年代に見える。
しかし将来明らかに優男、イッケメーン間違い無しであろう少年が、身に纏う闘気、覇気のような物は馬鹿げていた。
知らず知らず人を従えてしまうカリスマのような物。
「うん、ディー君。間違ってはいない・・・と思うよ・・・ただちょっと誤算はあったけどねぇ・・・。」
だが「シュウ」と呼ばれた秋広は、それに全く動じることなく答えた。
少々頼りな気ではあったが。
秋広にディー君と呼ばれた少年は、「やはりそうなんですね?」と小さく肩を落す。
誤算と言うのは、今この雪原に居ること。
しかも徒歩でだ。
本来は『最後の港町ミブ』で十分な準備をし、移動用の騎乗魔獣などを手配してから出発する予定だったのだが・・・。
少年にもわかっている。
それが秋広のせいでは無かったこと。
逆に『氷の大陸メスティア』で活動していた秋広と出会えたことは、最大の幸運と言っても過言では無かった。
メスティアに目的があった少年と連れの老人は、なぜか船を出したがらない船乗りたちに、ほとほと困り果てていた。
そこで運良く手配できた船が、気合の入った漁師の船ではなく、気合の入った海賊の船だったなんて、まさに物語の世界の話だろう。
ミブに向かっていないのに気付いた秋広が、海賊たちを制圧し方向転換をさせようとした。
それは良かったのだが、旅の連れ・・・少年にとっては師匠に当たる老人が興奮し、その有り余る力で持って奥義を放った。
あえなく沈没する船。
ほうほうの体で着の身着のまま最寄の岸に飛んだ結果、絶賛雪原遭難中である。
海に落ちなかっただけでも僥倖なのだ。
それはともかく。
原因を思い出し、三人の視線が老人へと集まる。
彼らの視線の先には立派な白いカイゼル髭で、やたらガタイの良い老人。
非常識なサイズの両手剣をその背に背負う。
老人は悪びれるでもなく肩を竦める。
「あれは不幸な事故じゃった。若者が、いつまでも過去を振り返るでないわ!」
「リオル老は、少し反省しようか?」
「うむ!正直すまんかった!」
にっこり笑顔の秋広に、「リオル老」と呼ばれた老人は素直に謝った。
皆を促し、歩き始める秋広。
一応の方角はわかっている。
ずっと雪原に居るわけにもいかないし、結局歩くしかないのだ。
秋広は歩きながら二人の容姿をチラ見して、再度なんとも言えない鈍痛を感じる。
(これって・・・どう考えても『皇太子』デューンと『剣聖』デュオル老なんだよね。帝国の最高戦力がなんでこんなとこに?)
それは道案内を探す彼らに、カスロの冒険者ギルドで初めて話しかけられた時にも考えたこと。
「デュ・・・ディークです。こちらのご老体はデ・・・リオル老。なんとかメスティアの道案内をお願いできないだろうか?」
ギルドで依頼の報酬を受け取っていた時、どこからか「タウンハンター」こと秋広が、メスティアで活動していた。という情報を得てやってきた二人。
(ふぁぁ・・・見るからに怪しいのキター!)
秋広は素直にそう思った。
明らかに偽名、しかも『リ・アルカナ』の知識を持つ秋広は、すぐに彼らの正体に気付く。
それが更に混乱を運ぶことになった。
伝え聞く情報で、現在『レイベース帝国』は戦争真っ只中。
その国の最高戦力が、二人揃ってメスティアに行きたいのだと言う。
逡巡する秋広の腕を、デュオル老ががしっとホールド。
直前まで受付嬢と話していたデイジーはやっと気が付くが、デュオルの放つ迫力に押され、おろおろするばかりだった。
「リオルじゃ。タウンハンター殿は凄腕のハンターとも聞く。報酬ははずむゆえ、なんとか都合を付けては貰えぬか?」
併設された酒場の隅っこまで、半ば以上強引に連れて行かれ、提示された報酬は前金で大金貨500枚。
実に日本円にして約500万円・・・達成時には追加で500枚だと言う。
今日倒して来た牛型魔物の買取額が金貨二枚なことを考えても、これは驚くほど破格の依頼と言えた。
しかも案内を頼まれた場所は、秋広自身縁のある場所だったのだ。
結局押し通される形で道案内を引き受けてしまった。
(まぁ情報が少なすぎるよね。それにもし、彼らが良からぬ事を考えてたとしても・・・相手がアレだからなぁ・・・。)
そんな事を考えていた秋広を、デュオル老が手で制した。
「何かおるのぅ!」
声がでかい。
気付いていると宣言しているような物である。
そのくせ音も立てずに背中の剣を構える老人。
デューンもそれに気付き構え、デイジーは自然な動きで秋広の横に移動する。
雪原が突然盛り上がり、もうもうとした雪煙を振り撒く。
「クアァァァァァ!!!」
雪煙の中から現れる巨体。
それは、透き通った水晶のようなボディのドラゴン。
「『吹雪竜帝』かっ!」
雪原の覇者。
竜帝の名を冠した強力無比な個体だ。
メンバーに緊張が走る中、秋広だけは無造作にそのドラゴンに歩み寄っていく。
「あき!?」「シュウ!どうしたんですか!?」「タウンハンター殿!正気か!」
三者三様、デイジー、デューン、デュオル老が秋広を案じる。
しかし秋広は、おもむろに『吹雪竜帝』の横まで歩み寄り、その身体にポンポンと触れた。
「ああ、大丈夫。この子『真賢者』ガウジ・エオのペットね?」
「な、なんだってー!?」
突如告げられた探し人の名と、その人物が飼っていると言われたペットの存在に、真っ赤な髪のイッケメーンこと、『皇太子』デューンは絶叫した。
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※秋広視点でしたー!
次回はセイ視点(予定)です。