・第百四十四話 『永続化(リフレイン)』
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※セイ視点です。
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、どうやらウララの方も色々あったらしいぞ?
兄貴は未だ知る由も無いのだが・・・。
それというのもあれだ。
全部アイツ、マドカが悪い。
『地球』でバトルしてた時からそうだったが、『死』なんて大層な称号持ちのくせに、まぁネチネチネチネチとこすっからい。
マドカのプレイスタイルは保険、これに尽きるな。
使役する盟友には必ず、何がしかの保険がかけてある。
『魔力暴走』で自分の『魔眼』を爆破した時にも思ったが、アイツにとって盟友は友じゃない。
あくまでも駒・・・そんな感情が透けて見える。
盟友を共に歩む者と見るおれのスタイルとは、決して相容れる事は無いだろう。
そうだよ・・・『地球』で偽善者って言葉をプレゼントしてくれたのはアイツだった。
陰険なのはその顔だけで十分だろ?
いや、待てよ・・・むしろそのこすっからさが、『死』って称号になったのか?
■
イアネメリラに「ますたぁ、三時間経ったよ?」と優しく肩を揺り起こされる。
霞む頭、ぼやけた視界で状況を確認。
毒状態は何とか治まったと言えるだろう。
おれたちが『妨害』の効果によって、行動と情報を制限されてから、約三時間が経過していた。
今はめいめいで休憩中だったりする。
それぞれ消耗しているからな・・・。
特にアフィナとシルキーはかなりお疲れだ。
おれが『図書館』から出した毛布に身を包み、座り込んでじっとしている。
かく言うおれも、さっきまでは横になっていたんだが・・・。
バイアやヴィリス、おっさん二人が周辺警戒を買ってでてくれたおかげだ。
おれが起きた事で状況が動くと感じ取ったのか、バイアとローレンが合流する。
体調を気にする二人に、片手を上げ問題ないことを伝えておく。
ヴィリスとオーゾルは、引き続き周辺警戒に当たるようだ。
『聖水竜帝』の背に座る竜兵が、銀板を操作しては首を振り、神殿を往復するアリアムエイダが肩を落し深いため息を吐く。
(だめか・・・。)
未だドラゴンホットラインは元より、神殿の結界装置、転移門も復旧していない。
本来の魔法効果ならば約三時間、それが効果終了、一つの目安。
もちろん中には『制約』のような長時間効果を発する物もあるが、幸いにして『妨害』はそれには該当しない・・・はずだった。
「アニキ、言いたくは無いけど・・・さすがはマドカだよ。」
苦々しく呟く竜兵におれも、「そうだな・・・。」と相槌を打つ。
一度発動した魔法効果が時間通り消えない理由に、おれたちは簡単に思い当たる。
お互い理解していることを、確認のためあえて口に出す。
「『永続化』がかかってるんだろうな。」
それしか考えられない。
おれと竜兵は揃って肺の中の息を吐き出した。
『永続化』・・・その名の通り、時間制限のある効果を永久化する魔法。
おそらくは『妨害』の効果発生をトリガーとして、事前に仕込んであった物。
所謂、盟友の破壊を起点とした三連コンボなのだろう。
おれたちはそいつに、まんまと引っかかった訳だ。
余りにも用意周到、そのウザったさにある種感嘆する。
それはともかく。
竜兵がおれを見つめ、「どうする?」と目で訴えかけてきた。
「ここで立ち止まる訳にもいかないからな・・・動くしか無いだろう。」
「だよね・・・。」
答える竜兵もわかってはいるのだろう。
この国に、マドカがちょっかいをかけているのは間違いない。
もしかするとホナミも?
リーンドル以来彼女の目撃情報は無いが・・・いや、「タウンハンター」氏と行動を共にしている可能性はあるんだったな。
もうあのバカ(秋広)は再会時、必ず正座させると決めた。
それもともかく。
相変わらず目的が不透明なんだが、今はそれを解明する手立ても無し。
しかしろくでもない考えだろう事は容易に想像できるし、『回帰』のパーツ回収の件もある。
結局おれたちの行動に、選択肢など無いのだ。
それは決定事項、しかし当然ながら問題がある。
「結界がまともに動いてないんだもんなぁ。こうなると・・・ヴェリオンの救援のために、何をしたら良いのか・・・国自体にはすでにマドカが入ってるっぽいし・・・急ぎたいんだけど転移門も動かないし・・・うぅ~ん、いやらしいなぁ・・・。」
問題を再確認するように、竜兵が言葉を紡ぐ。
まったくもって同意見だな。
(せめて『妨害』を解除できれば・・・でも、待てよ?)
『地球』の知識、思い当たる一つの可能性。
本来なら時間制限で消える魔法効果を、永続化させた時の現象。
「竜兵・・・『永続化』なら、どっかに魔方陣があるんじゃないか?」
「あ!・・・アニキ!魔方陣を壊せば・・・。」
一度発生した魔法効果は、その効果が消えるまでなんらかのエフェクトを生じる場合がある。
強化魔法だったら魔法文字の円環であったり、『魔王の左腕』のような手甲・・・装甲のような物もあった。
一概に全ての魔法に当てはまる訳でもないのだが・・・『永続化』の場合、赤い魔方陣になって現れるはずだった。
当然その魔方陣を破壊すれば効果を消せるため、トラップ魔法の使用者が隠蔽するのが常だ。
■
「だけど・・・当然隠されてるだろうな。」
「・・・だよね。」
敵も味方も考える事は同じ。
ゴールの見えない話に、おれと竜兵は改めてうんざりする。
それまでおれたちの話を黙って聞いていたローレンが、なまず髭を弄りながら口を開いた。
「セイ君、竜兵君、その魔方陣と言うのはどんな物なんだね?」
「ん?・・・ああ、直径1mくらいの赤い魔方陣だな。」
おれの返答に「ふむ。」と頷いたローレンは、おもむろに口に指を咥えると・・・指笛を鳴らそうとしたように見えた。
しかしその指笛は音を発しない。
何を始めたのかわからないおれたちが、彼をただじっと見つめていると・・・。
ローレンは何度か頷いた後、「見つけたぞ?」と言い放った。
「「は?」」
おれと竜兵の驚きの声が、見事なほどハモる。
「いや、だから、見つけたぞ?」
改めて言い直すローレン。
再度告げられた言葉が頭に伝わって来ても、おれたちはポカーンのままだ。
バイアやアリアムエイダ、イアネメリラはおれたちとローレンの顔を、何度も見比べ首を捻る。
確かにこの世界の住人にはわからないかもしれないな。
ただ・・・竜兵もおれと同じ気持ちだろう、どうにも意味がわからない。
二人の共通認識として出てくるイメージはこうだ。
(あのマドカが隠蔽した魔方陣をそんな簡単に?)
おれたちの動揺をよそにローレンは、「やれやれ、その顔は信じていないな?」などと呟きながら「お手上げ」のポーズ。
そしてこれ見よがしに茶髪天パをふぁさ!と、かき上げる。
「私は貴族だからな!」
いや、意味がわからん。
自信満々なローレンに対し竜兵が、「マジか!貴族すげー!」と目をキラキラさせる。
待て竜兵、それは罠だ!
ローレンはニヤリと笑い、そのからくりを解説した。
「まぁそれは冗談として・・・私は一度話さなかったかな?海洋生物と会話ができると。」
「「・・・あ!」」
またしてもハモるおれと竜兵。
「海の同胞が教えてくれたよ。この『アリポスの谷』の外、『港町カスロ』方面にその魔方陣が存在するとね。」
(それは朗報だ・・・しかし、逆方向か。)
「おっちゃん、それはどのくらい離れてるの?」
竜兵も同じ事を考えている。
このパターンは、経験上余りよろしくない。
ローレンはまたも鳴らない指笛を使用、ふんふんと何度か頷く。
「ふむ・・・それなりの速度で進んでも・・・約一日はかかるだろうとの事だ。」
(遠いな・・・。)
現状その一日がもったいない。
一日遅れれば、状況が悪化することはあっても好転することは無いだろう。
なおも何かを聞いていたようなローレンが、さっと眉を顰めた。
「それに・・・当然なんだろうな。守護する魔物が召喚されているようだ。同胞が一人死んだよ・・・。」
ちゃんと防人も残しているらしい。
竜兵はおれへ向き直り、「アニキ!」と一言、いつもの眼差しを向ける。
言いたいことはわかる。
アイコンタクト、言葉が要らないほどの時間を共に過ごした弟分。
その気持ちを汲んで、おれはあえて言葉に変える。
「わかった。竜兵は『永続化』の破壊を頼む。おれは、ヴェリオンに乗り込む。」
竜兵はしっかりと頷いた。
■
二手に別れないといけないおれたちは、メンバーの組み合わせを考える。
そうは言ってもお互いの盟友ははずせない。
要はローレンとオーゾル、それにアフィナとシルキーの四人。
この世界の住人たちをどうするのかだ。
アフィナとシルキーは毛布に包まったまま、じっとおれのことを見つめている。
その瞳は「絶対付いていく!」と雄弁に語っていた。
(まぁ仕方ないな・・・。)
その答えは予想道りだ。
ローレンは、「竜兵君の方は正確な方向把握が必要だろう。私が行くよ。」と言う。
それに同意なおれのメンバーには、自然とオーゾルが収まる事になった。
方針が決まった所でアリアムエイダが声をかけてくる。
「妾もお竜ちゃんに同行したいのじゃが・・・。結界がのぅ・・・。」
そう、アリアムエイダは神殿の結界装置が沈黙してから、自身の『特技』によって別種の結界を維持していた。
カスロの船を反転させていた類のアレだ。
ゆえに竜兵に同行はできない。と、思ったのだが・・・。
「ルルゥオン!」
突如岩の塊が唸り声を上げた。
おれたちを守るように大人しく鎮座していた『大王海亀』。
その巨体が沈黙を破る。
「「なるほど・・・。」」
言葉がわかるのだろう、ローレンとアリアムエイダが異口同音だ。
二人を見つめるおれたちに、アリアムエイダが説明した。
「この子が妾の結界を一部補助すると言うておる。さすがに妾本体は動けぬが、分体・・・そうさのぅ、三割程の力であれば同行できそうじゃ。」
それは心強いかもしれない。
竜兵もその鳶色の瞳を輝かせる。
そんな竜兵に、バイアが思案顔で声をかけた。
「お竜ちゃん、エイダのカードは持っておらんのか?」
「ん?エイダ姉・・・あるよ?」
極度のドラゴンスキー。
そんな彼が、アリアムエイダなんてビッグネームを漏らす訳が無い。
竜兵が『魔導書』の控え(サイド)から、『海龍』アリアムエイダのカードを出した。
「これは・・・!」
目を見開いたアリアムエイダが、そのカードに触れる。
盟友を召喚するときの光、金色の輝きがアリアムエイダとカードを繋ぐ。
全員がその光景に釘付けになる。
「な、何が・・・!?」
誰が発っしたかはわからない呟き。
ほぅっと息を漏らしたアリアムエイダが静かに答えた。
「なぜかわからぬが、妾の分体がカードに吸い込まれおった・・・。ただ何となくそうしなければいけない、それが正しいと思えたのじゃ・・・。」
このカード、『リ・アルカナ』ってのは・・・一体何なんだ?
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