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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第三章 深海都市ヴェリオン編
150/266

・第百四十三話 『祈り(セイグレイス)』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


※続々ウララサイド&帝国サイドです。


 戦場に美姫が舞う。

 純白の『翼獅子グリフォン』から舞い降りた少女は見目麗しい。

 およそ血なまぐさい空間には場違いな容姿。

 いっそ整い過ぎていると言っても過言ではない。

 まだあどけなさを残していながら、あと数年で完成されるだろうことを疑う余地も無い、未成熟な乙女のみが発する色香。

 彼女が激しく動く度、身に纏うピンクのドレスが翻り、追従するようにふわりと舞うツインテール。

 その姿を見た者、少なくとも生ある者が抱く感情は一つであろう。

 ただただ・・・「美しい・・・」と。 


 しかし、その美少女が通り過ぎる先には、等しく滅びがある。

 踊るように、舞うように、彼女が駆け抜けるのは、帝国軍の『魔導兵器』が進軍する、まさにそのど真ん中だ。

 その美少女の名はウララ。

 戦場に降り立った残酷な女神。


 今回その華奢な外見からは、とても想像できない膂力で振り回される得物は、巨大な杭だった。

 丈は1m半、直径は50cmはあるだろう。

 片側にコの字型、持ち手と思われるパーツと鎖を付けられた、燐光を発する無骨な杭。

 彼女は、その自身の身長と同じサイズの杭を、まるで小枝のように振り回し、突き刺し、投げつける。

 型など無い、ただ無造作に振るわれる巨大な杭の暴威が、『レイベース帝国』の誇る『魔導兵器』の集団を、ただの鉄塊に変えていく。


 彼女が使用している武器が、そのような特殊な物であるのには理由がある。

 最早ウララの代名詞とも言える巨大ハンマー、『女神の鉄槌』。

 あえてそちらではなく、この杭を使っている理由。

 『聖杭』アトウンメント・・・「償い」と銘打たれたこの武器は、圧倒的に強力な『女神の鉄槌』に勝る効果が一つある。

 それが『機械殺し』・・・機械属性を持つ盟友ユニットを一撃で屠るというそれである。

 その杭の一投は、機械そのものである『魔導兵器』にとって・・・正しく致命の一撃。

 いとも容易くその存在を、カードへ変えて行くこととなっていた。


 当然『魔導兵器』とて反撃はしている。

 ドラゴン対策とは言え『砕竜』という兵装、円形の回転ノコギリであるそれは、見るからに軽装である少女に当たれば、簡単にその肉体を切り裂くであろうし、先ほどから森に放つ予定だった『火炎放射』も、ひっきりなしに浴びせかけている。

 何より『魔導兵器』の金属ボディが掠るだけで、普通の人間など紙切れに等しい。


 しかし・・・それが何一つ当たらないのだ。

 ウララは事前に強化魔法をかけ終えている。

 直感強化魔法『額力フォレドフォース』で底上げし、鋭敏な感覚で敵の行動を事前に察知する。

 そして運動強化魔法 『脚力アンクルフォース』によって、更に洗練された身のこなしで、『魔導兵器』の重たいが遅い攻撃を、易々と回避する。


 『火炎放射』がその身を舐める。

 されど彼女は怯まない。

 上空を追走する『獅子王』カーシュの放つ風刃が、彼女を守るように半円に展開した『天使兵』の張る魔力壁が、ウララを傷つけることを決して許さないから。

 それを理屈ではなく感覚でわかっている彼女は、ただ前に進む。


 攻撃の後には硬直が来る。

 それが『魔導兵器』の最大の弱点。

 動きが止まれば叩きつけられ、突き刺さる巨大な杭。

 数々の国家を蹂躙しつくした帝国のアイデンティティー。

 確かな性能に裏打ちされた、金属と魔導の最高傑作がブリキのおもちゃのようだった。

 

 「さっすが『聖杭』アトウンメント・・・『機械殺し』は伊達じゃないってね!」


 ウララは朗らかに笑う。

 駆逐された『魔導兵器』から立ち上る光の粒子が、彼女の美貌と相まって幻想的な絵画のようだった。

 夥しい枚数のカードが、空の向こうへ飛んで行く。

 

 「なるほどね・・・。『魔導兵器』は『略奪者プランダー』の盟友ユニットって訳でも無いのね。」


 アンティルールが発生しないことから、それは明らかだった。

 間違いなく輪廻の輪に戻り、『カードの女神』の力を取り戻す糧となっているのであろう。

 そのことを確認しながらも、ウララは『魔導兵器』を屠り続ける。

 彼女が戦場に降り立って実に数分。

 その間にカードに変えられた『魔導兵器』は、すでに四分の一・・・500体をゆうに越え、ウララの周辺には奇妙な空白が出来上がっていた。

 ウララを正面に、背後を守るかのように降り立つ『天使兵』20騎。

 巨体の影響を一切感じさせず、横に佇むように舞い降りるカーシュ。


 【側室よ。このまま狩り続けるのか?】


 カーシュの言葉通り、最早これは狩りである。

 「側室って言うな!」と抗議の声を上げながら、ウララは現状を把握する。

 『魔導兵器』の進軍はすっかり鈍った。

 後陣、クリフォードは森での防衛主体としても、マルキストが後詰めに入れば一気に押し込める。

 ならば次に自分に求められることは・・・。

 彼女の視線の先は敵軍本陣、アンデットの巣窟と思われるそこ。

 

 ウララは『聖杭』アトウンメントを大地に突き刺し、『魔導書グリモア』を展開する。

 眼前に浮かび上がるA4のコピー用紙サイズ、四枚のカード。

 ドロータイミングを過ぎて、手札が一枚増えている。

 思わずニヤリとしてしまう。

 まるでアイツ・・・セイの「デビルドロー」が乗り移ったようだ。


 (ここでこれを引くなんてね。)


 「派手な奴行くわよ?天使たちは合唱しなさい!」


 ウララが二枚のカードを選択しながら指示を出す。

 その言葉に20騎の『天使兵』は「「「「ハッ!!!」」」」っと敬礼を返し、一斉に翼を広げ詠唱を始める。

 一枚目の魔法が、ウララのカードから放たれた。

 

 『祈り(セイグレイス)』

 

 ウララの背中に一対の光る翼が生まれ、その身を空中に持ち上げる。

 その翼はドンドン巨大化していき、自軍の『天使兵』を優しく覆っていく。

 同様に浮き上がる兵たちの顔が、驚愕に包まれる。

 なぜなら・・・その翼に触れた瞬間、とんでもない力と高揚感が全身から湧き上がってきたからだ。


 『祈り(セイグレイス)』の効果は多重強化・・・光属性の自軍を二等級引き上げる。

 それにより最低でも仕官級、中には将軍級上位を含む『天使兵』たちは、最低でも指導者級、中には英雄級も含むという集団に昇華した。

 ただ強くなっただけではない・・・この魔法の恐ろしい所はもう一つある。 

 強化を受けた『天使兵』は、全員がそれを理解した。


 「もういっちょいくわよ!『閃光ブライトレイ』!」


 単純な攻撃魔法であるはずの『閃光』が、ウララ本人と20名の『天使兵』全員から同時に放たれた。

 『祈り(セイグレイス)』のもう一つの効果、意志の同調により一つの魔法が全員から発動する。

 天より大地に突き刺さる、明らかに本来の威力では無い強力な白光。

 都合21条にも及ぶ極光が、敵本陣を無差別に蹂躙した。



 ■



 白亜の城、帝国の『アークキャッスル』。

 その最奥、余人入りえぬ豪華な執務室に、二人の男が居た。

 ガシャン・・・

 取り落としたグラスが、音を立て砕ける。


 「ツ・・・ツツジ殿・・・それは事実・・・なのか?」


 言の葉が喉に絡みつく。

 驚愕の表情を取り繕うことさえできないその男。

 常に自信に満ち溢れ、並み居る猛者をその武力とカリスマで従えて来た王。

 『紅帝』カーマイン・G・レイベースは、彼の生涯で最大と言えるほど驚いていた。


 「ええ、残念ながら間違いありませんネー。これを見て下さいヨー。」


 奇怪な猿面の男、『略奪者プランダー』ツツジは、その手を軽く振るう。

 カーマインの眼前に現れる、タブレットの画面のような四角い板。

 そこには人族や妖精、天使や魔物によって蹴散らされる『魔導兵器』と、帝国兵の姿がまざまざと映し出された。


 「余は・・・余は!未だ時期尚早と言ったはずだぞ!?」


 耐え切れずカーマインが叫ぶ。

 ツツジはいつもの両掌を上に向け肩幅に開く・・・所謂「お手上げ」のポーズ。


 「一応は止めたんですけどネー。所詮私は『特設内政顧問』。武家の方たちを諌めることはできませんでしたヨー。ウーツ卿やブリット卿は、戦功を焦ったようですネー。」


 「無能がっ!」


 吐き捨てたカーマインの表情は、苦渋に満ち満ちていた。

 確かに両名聞き覚え、心当たりのある名前だ。

 優秀ではあるのだが、少々野心に過ぎる点を懸念していた者たち。

 そんな奴らが、現在備蓄中であった戦力を持ち出し、フローリア相手に独断専行。

 相手がシャングリラと同盟していたこともあり、見事に壊走・・・全滅したと言うのだ。

 しかも敵国の被害は皆無。

 一方的にこちら側が浪費しただけらしい。

 情報は完全に事後報告。

 カーマインはその件、何一つ知らされぬよう厳重な情報統制が敷かれていた。

 そしてツツジもそんな情報統制に阻まれ、今の今までカーマインに報告相談ができなかったと言う。

 ツツジの言には多少違和感を覚えるものの、それを問いただすことも躊躇われる。

 あくまで彼は協力者なのだから・・・。


 歴戦の英雄であり、戦の申し子であるカーマインは、前回の手痛い敗戦からしっかりと学び、その認識を改めていた。

 どうにも彼の国は、ただの小国ではない。

 今は兵力を蓄え全軍、全力を持って一気に叩き潰す。

 そう考え、ツツジから下法である『屍兵』を用立ててもらい、新型の『魔導兵器』を開発していた。

 対ドラゴン兵装『砕竜』や、森林除去用の『火炎放射』もそのためだった。

 それが数名の不心得者によって全滅・・・彼の怒りはいかほどか?

 握り締められ真っ白に色を変えた拳が、それを如実に体現していた。


 ツツジはなおも「お手上げ」のポーズを続けたまま、「ま、気持ちはわからなくも無いですけどネー?」と呟く。


 「なんだと・・・?」


 ギロリ、正しくそんな擬音が響きそうな視線を、ツツジへと向けるカーマイン。

 ツツジは、「そんなに怒らないでくださいヨー?」とわざとらしく慌てた素振りを返す。

 カーマインの怒りが収まらないのを見て取り、彼はその考えを語った。


 「いえね、ガイウス殿やキルア殿が歯も立たなかったフローリア。そこへ同数の兵を率いて出向き完勝。わかりやすい英雄でしょう?褒美も名声も思いのまま・・・まぁ、勝てれば、ですがネー。」


 「ばかがっ!」


 吐き捨てるも理解するカーマインは、頭痛を禁じえなかった。

 短絡にも程があると言う物だ。

 強者こそが正しいとされる帝国の矜持、それにこんな所で足を引っ張られることになろうとは。

 だが今回の全滅は、もっと深刻な問題を引き起こすかもしれない。

 少しだけ自制したカーマインは、はっきりとは伺えないツツジの面の奥、その瞳を見つめるように問いただす。


 「計画はどうなる?」


 その真面目な表情に、「誤魔化しは無用。」そんな圧力が込められているのを見て取ったツツジ。

 少し逡巡し答える。

 

 「単純計算で・・・三ヶ月は遅れますネー。保険がうまくいけばいいんですが・・・正直厳しいでしょうネー。」


 「そうか・・・。」


 カーマインは静かに呟き目を伏せた。


 「陛下・・・迷っている時間は更に減りましたヨー。このままだと確実に・・・。」


 「世界は壊れる・・・か。」


 途切れたツツジの言葉を繋ぎ、同時に頷き返す二人。

 その言を最初は信じなかったカーマインも、ツツジの起こす数々の御技により、今は何一つ疑っていない。

 実際にはツツジ・・・何一つ真実を告げては居ないのだが・・・神ならざる身、いや神さえも彼に欺かれている事を知りえるはずも無い。


 カーマインは考える。


 (いよいよ、なりふり構ってはいられないのでないか?)


 「ガキとジジイを呼び戻すか・・・。」


 帝国の最大戦力、奴らには少々権限を与えすぎた。

 今こそ帝国の為に働いてもらうしかない。

 その言葉を聞きツツジが「あ!」と何かを思い出す。

 

 「それなんですがねぇ・・・デューン殿下と剣聖殿・・・どうも『氷の大陸メスティア』に行ったみたいなんですよネー?」


 「なん・・・だと!?」


 さっぱり意味がわからないカーマインは、確かに響く頭痛と胃痛に悩まされることになった。

 そんなカーマインを横目で見ながら、ツツジは猿面の奥で酷薄な笑みを浮かべていた。


 (計画通り・・・)と。




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